文豪たちの大喧嘩 谷沢永一 2016.12.16.
2016.12.16. 文豪たちの大喧嘩 ―― 鷗外・逍遥・樗牛 著者 谷沢永一 Wikipedia 参照 発行日 2003.5.30 発行 2004.12.10. 3 刷 発行所 新潮社 序 論争の人間味 我国の文壇や学界で華々しい論争が起こることは稀だし、文藝の領域でも寂しい 本書が取り上げるのは 11 件の論争。論争を通じての作家論であり、人物論であり文壇論 1. 鷗外にだけは気をつけよ 内田魯庵が皮肉一杯に警告した言葉。内田が血気盛んな頃匿名で書いた『文学者となる法』 (94 年刊 ) は、文学史風景についての辛辣でマトを射た生態学の系譜に、近代期では最初にして恐らく第 1 級の範例となった本で、尾崎紅葉率いる硯友社一派から決定的に忌避される原因となった 人生最大の楽しみは、炒り豆を噛んで古今の英雄を罵ること、荻生徂徠に言われるまでもなく自明だが、特に文人相軽ンズの伝統は古今に不変、毒舌の興奮は文壇の応酬を主導する 鷗外芝廼園 ( しばのその ) の水掛論争 ⇒ 内田が警告した対象となる事件で、鷗外は日本一の物識りで、名もない大阪の山田芝廼園という作家を退治するのにも 20 余頁を無駄にしたほどの大家だと皮肉り、空振りに終わった局地戦ではあったが、論争化鷗外の真骨頂を期せずして浮かび上がらせた典型として、わざと例証に引き出した 鷗外が芝廼園批評を載せたのは『しがらみ草紙』で、 50 頁のうち 17 頁を割く 鷗外は、いつも拠るべき雑誌を持つことにご執心で、逆に身近に起こった雑誌の刺激につられて執筆活動に拍車がかかるという傾きがあり、その気質的ともみられる雑誌根拠地志向の、最初の旗揚げが『しがらみ草紙』だった 『しがらみ草紙』は鷗外の自家用とも言える自...