欲望の錬金術  Rory Sutherland  2021.9.12.

 

2021.9.12. 欲望の錬金術 伝説の広告人が明かす不合理のマーケティング

Alchemy ~ The Dark Art and Curious Science of Creating Magic in Brands, Busuness and Life           2019

 

著者 Rory Sutherland 世界的広告会社オグルヴィUKの副会長。『スペクテーター』誌のコラムニスト。広告やメディア、マーケティング・コミュニケーション業界の専門機関である英国広告代理店協会の前会長。出演したテッドトークは650万回以上再生されている。ロンドン在住

 

訳者 金井真弓 翻訳家、大学非常勤講師

 

発行日           2021.4.29. 発行

発行所           東洋経済新報社

 

 

l  ローリーが考える錬金術の法則

1.    よいアイディアの逆も、またよいアイディア

2.    平均的な人間向けのデザインはするな

3.    誰もがロジカルなら、ロジカルであることは役に立たない

4.    注意の質は経験の質に影響を与える

5.    花は広告予算がある雑草に過ぎない

6.    ロジックの難点は魔法を全滅させること

7.    観測に耐えられる見事な推測は科学である。幸運な偶然も科学だ

8.    誰もやらないからこそ、直感に反する物事を試そう

9.    合理性に基づいた問題解決は、1本のクラブだけでゴルフをするようなもの

10. あえてささいなことにこだわれ

11. もしもロジカルは答えが存在したなら、すでに見つかっていただろう

 

l  プロローグ――ひどくまずいのにコカ・コーラに匹敵するほどになった飲み物

コカ・コーラに対抗するために、高価でまずく小さな缶入りのソフトドリンクのブランドを立ち上げ成功したのがレッドブル。発祥地のタイからまだ輸出もされないうちに、世界中の消費者の反応を調査機関が調べたという噂が広まり、調査機関は、これほど悪い反応を示された製品を初めてみたという

 

l  ロジカルでない解決策の様々な事例

本書におけるシンプルな前提は、現代の世の中は不合理なものに尻込みする傾向があるが、合理的でないものがこの上なく強力な場合もあるということ

平凡でいかにも無邪気なロジックを捨てさえすれば、不合理な解決策はいくらでも見つかる。今日の人々の意思決定に最も幅を利かせているモデルは短絡的なロジックを重視し、魔法を軽視する

ロジックや確実性を求めれば、プラス面と同時にマイナス面もあることを忘れてはならない。科学的に見える方法を優先するあまり、もっと非合理的でもっと魔法的な解決策が考慮されていないかもしれない

バタフライ効果とは、非常に小さなことが様々な要因を引き起こして次第に大きな現象へ変化すること――あるウェブサイトが支払いの手続きの選択肢を1つ追加した結果、売り上げが急激に伸びたり、ファストフード店が値上げをしたら売り上げが伸びたとか

非論理的なものでもうまくいく例がある

議論に勝つためにロジックを用いるのが普通は最前の方法だが、人生で成功したければ、ロジックが必ずしも有益とは限らない

人生には魔法の余地があるべきだということを思い出させたい。心の中にいる錬金術師を発見する

 

l  はじめに――かくれた動機を解読する

郵便で災害支援の寄付を募る際、封書を高級感のある縦型にしたら寄付が増えた

人の心を動かすのはロジックだけではなく、心理(サイコ)ロジカルが重要な役割を果たす

人間の行動の裏には理由が2つある場合が多い ⇒ ロジカルな理由と本当の理由

広告とマーケティングの仕事は、金銭を得るため、ブランドを築き、ビジネスの問題を解決すること

現代の消費主義は、人間の不思議さからなるガラパゴス。ビジネスや政治の世界での変わり者や奇抜な人々にとって広告代理店は数少ない安全な場所

表面的な意味から隠れた意味を解きほぐすことが、人間の行動を理解するために欠かせない方法 ⇒ 暗号クロスワードの質問”Does perhaps rush around”は、表面的な意味(行動する、恐らく走り回るもの)では答えは分からない。”does”は名詞で”doe(鹿や兎の雌)”の複数形、”rush”も名詞で”reed(アシやヨシ)”のこと、”around”は反対の方向へとの意なので、”reed”を反対から読めば”deer”となる

愚かな間違いを防ぐためには、少しだけ馬鹿になることを学ぼう

物事が実際よりもロジカルだというふりをしたがる傾向は後を絶たない

 

l  心理(サイコ)ロジックへの案内

この本は一種の挑発となることを意図している。読者に決断する方法を教えるものであるのと同時に、こうした決断が合理性と見做されるものと異なる理由についても語る

人が決断する方法を、ロジック合理性と区別して、心理(サイコ)ロジックという

最適であるようにデザインされたものではなく、有益となるように進化したもので、ロジックによって優秀な数学者が生まれるが、心理(サイコ)ロジックによって人間は生き残った。この別のロジックは、無意識のうちに働くことが多く、自分が認識しているよりも遥かに強力で広範囲にわたる

意味をなす

マルクス主義       ↑           科学

|     車  飛行機

失敗  ←―――――――――――|――――――――――――→  成功

アイデンティティ     |  自転車   行動経済学

ポリティックス     ↓  プラシーボ  レッドブル

奇妙に思われる

本書のタイトル錬金術は、経済学者が何を間違っていたのかを知る科学

錬金術師になるための秘訣は、不変的な法則を理解することにあるのではなく、こういった法則が当てはまらないところに存在する多くの例に気づくことにある。狭いロジックにではなく、そんなロジックをいつ、どうやって捨てればいいかを知るという重要なスキルにある

 

l  ロジックをはねつけるもの

ブレグジットもトランプ現象も、高学歴過ぎる助言者たちの愚かで極端にロジカルな行動のせいで失敗したと言える

データに頼りたいという欲求のせいで、モデルの外に存在する重要な事実を見落としてしまう。ブラックスワン的な出来事(滅多に起こらないが、起こると壊滅的被害を与える)によって完璧なモデルもカオスとなる

ノーベル賞の行動科学者曰く、「一般的に、アメリカ政府はたまに経済学者から助言を受ける法律形によって動かされている。法律家に手助けすることに関心がある、その他の人々を採用する必要なないとされている」

ロジックを広げすぎる危険には注意が必要で、論理的根拠のない解決策も多い

あなたが予測通りの人なら、人々はあなたをハッキングする方法を身につけるだろう

 

l  現実は思うほどロジカルではない

マルクス主義が問題なのは、あまりに筋が通り過ぎていること

 

l  技術官僚(テクノクラート)的なエリートの危険

物事を後付けで説明するポスト合理化は評論家の常套手段で、同じように未来の予測も出来るという推測の罠を避けられない

科学の探究には異なる2つの形がある。効果的なものは何かという発見と、なぜ効果的なのかについての説明や理解の2つは全く異なるもの

進化とは、予測できるものもできないものもある世界で、生き残れるものを発見する偶然のプロセスであり、その理由は関係ない

 

l  ばかばかしい(ナンセンス)ことと、理解不能(ノン・センス)なこと

広告業界で最も重要な発見は、「キュートな動物が呼び物の広告は、そうでない広告よりも成功する」

行動経済学は、人間の行動のばかばかしい面、そして理解不能な面に関する研究

人間の行動があまりにも不合理なのは、ばかばかしいからではなく、理解不能だから

 

l  よいアイディアの逆も、またよいアイディア

経済理論は人間行動の普遍的な法則を作り出すための、最も野心過剰な試み

標準的な経済でのロジカルと思われる信念に、人々の行動が真っ向から逆行することは珍しくない。正反対の2つの方法がどちらも効果的である場合が多い。小売業者の成功するカテゴリーは、価格帯の最上位に位置する業者と最下位に位置する業者

ダイソンの掃除機もスターバックスも、高価なものを求める声などなかったところに、消費者の購買行動にいくらかの興奮を加えたことが成功に導く

 

l  人間の行動は背景がすべて

人間という存在はかなり矛盾している。自分のいる状況や場所によって認識や判断はすっかり変わりうる。人間にとって世界の認識は背景に影響されている

ロジカルな問題と心理(サイコ)ロジカルな問題が併存、両者の使い分けが必要

 

l  4つのS

人間が明らかに非論理的な方法で行動するように進化した理由は4

Signalling                  シグナリング

Subconscious Hacking  潜在意識のハッキング

Satisfaction               満足化

Psychophysics           心理物理学

 

l  GPS機能を無視すべき理由

GPSという無線ナビゲーション・システムはロジックの傑作だが、心理ロジック的には間抜けなもの

従来の合理的な考えと一致する方法で人がいつも行動するとは限らない理由は、人は自分で思っている以上のことを知っているから

人の心には理性では理解できない理由がある(パスカル)

市場調査の問題は、人々は自分が何を感じているかを考えていないこと、何を考えているかを言わないこと、そして言う通りの行動をとらないこと。つまり、人は自分の真の動機を自覚していないし、知ったとしても自分の利益にならない

人々はビジネスの成功を、言葉にされない無意識の欲望によるものと見做すより、優れたテクノロジーやよりよいサプライチェーンのマネジメントのお陰と見做す方が遥かにしっくりくると感じる

 

第1章       ロジックの乱用

195080年代の英国や米国では、食品に関し楽しさより便利さを考慮されることが多くなり、未来予測では食事は手軽な錠剤の形で栄養がとれるものに代わるとされ、食品業界の仕事は栄養素をできるだけ効率の良い形で提供することだとされた

30年前のアメリカでは一握りの州がチーズの生産の中心となり、黄色とオレンジの2種類しかなく、どちらも美味しくなかった。最近のクラフトビールの大改革前のアメリカでは、ビールの種類や品質が悲惨だったが、ビール醸造が素晴らしく多様で非効率的なものになってから、アメリカは旅行者にとってビールを飲むのに最悪の国から最高の国になった

食品は目覚ましいほど非効率的になっている

物事を本当に進歩させられるのは、狭量なロジックを捨てて心理ロジックの価値を認識する時で、一旦無意識の動機の存在に対して正直になれば様々な解決策の可能性が広がる

 

1.1       市場調査と経済理論という割れたレンズで見た世界

市場調査も経済理論も、人間の動機の全体像を提供すると思われてきたが、市場調査では人は自分の動機を内省的に見ようとしないので真実は現れず、経済理論でも人はこんな行動をとるはずだと信じ込んでいる理論で表面的な概念に集中しているだけで、人間の動機の狭量であまりにも合理主義的な見解を前提としている

空調修理の予約を午前午後かではなく1時間単位でとりたいとの顧客要望に対し、訪問30分前に携帯で連絡する形にしたら顧客の不満は解消 ⇒ 顧客の本音は、確実な時間を期待するより、来るかこないかの心配を無くすことだった

航空会社の遅延告知にしても、ただ「遅延」とするより具体的に何分と記された方が顧客の不安解消になる

 

1.2       問題解決の邪魔をするステータスの問題

犯罪多発地域で店が夜に窓を覆う金属製のシャッターを備えたせいで犯罪が却って増加したのに対し、店のシャッターに「ディズニー風の」目の大きな幼児の顔を描いたところ犯罪が急減したという。金属製シャッターでは無法地帯を暗に伝えているようなもの

18世紀半ばの英国で、正確な経度の測定に賞金が懸けられた。独学の時計職人が挑戦していくつもの驚くべき発見を成し遂げ、海洋クロノメーターの発明に繋がり航海術に革命が起きたが、天文学的方法による測定を期待していた有識者による経度委員会は、一介の時計職人による結論を認めず賞金授与を拒否

1948年まで、ライト兄弟のライトフライヤー号はスミソニアン博物館ではなくロンドンの科学博物館に展示されていたのも、オハイオの自転車屋たちがノースカロライナ州のアウターバンクスで空気より重い有人の装置を飛ばしてから何年もの間、アメリカ政府は彼等の業績を認めようとせず、政府の援助しているプログラムが最初に飛行に成功したと主張していた

1847年、イグナーツ・センメルヴェイスは、医師が手を消毒することによって出産によって生じる致命的な疾患だった産褥熱の発生率を抑制できると証明したが、支配的な派閥の思い込みにそぐわなかったために相手にされず、精神科病棟で殺された

ジェンナーも、天然痘の種痘法発見後、人痘接種法から利益を受けていた多くの人の説得に残りの人生を費やした

電子タバコの発明への反応についても同様のことが言えるのでは ⇒ 発癌性物質なしで喫煙の感覚を再現する優れものだが、規制機関による拒否反応の裏には「喫煙は恥」というモデルがあり、この装置の発明者が医療関係者ではなくビジネスマンだったということも原因

「何かを人に理解させるのは難しい。その人の給料が、それを理解しないことにかかっている場合には」

 

1.3       心理学やデザイン思考によるイノベーション

ムーンショットとは、信じられないほど野心的なイノベーションのこと

人類の文明における大きな前進は、緩やかな進歩よりも大変革から生じる

心理的ムーンショットを提唱 ⇒ 今後50年で最大の発展はテクノロジーの進歩からではなく、心理学やデザイン思考から生まれるかもしれない

ウーバーマップは、タクシーの待ち時間を減らすのではなく、待っている時間の不確実性を減らすことによって、待っているときのイライラを無くすことに成功

広告キャンペーンやラベルのデザインといった些細な事柄が売り上げに影響しそうだと認める人は多いが、同様の無意識の動機が医療の利用や老後の貯蓄方法の選択に決定的な影響を与えると認める人は少ない

コークやぺプシが好まれる理由についての議論はするが、大学に行く理由や医師の予約を取りたがる理由について議論する人はいない。それは、答えが合理的で分かり切ったものと信じられているから

 

1.4       「真の理由」を探ることで、無意識の動機が明らかになる

広告代理店はばかげた質問をしたり、間抜けな提案をしたりしても受け入れられる文化を築いているだけでかなり貴重な存在。人はなぜ電気ドリルを買うのかとの質問の合理的な答えは穴を開けるためだが、心理ロジックではその場で買ってから穴を開けるものを探す

合理的な行動の裏にはもっと多くの動機が潜んでいる ⇒ 医師に診てもらうのは治療のためというより、安心感を求めているからで、人々の行動を変えたいなら「真の理由」を理解しなければならない

 

1.5       人が歯を磨く真の理由

歯の健康維持という合理的な理由の裏に、人それぞれの様々な動機が隠されている

なぜほぼすべての歯磨き粉はミント味なのか

デンタルフロスには歯の健康上のメリットが何もないが、それでも使われるのはなぜか

ストライプ柄の歯磨き粉が好まれるのはなぜか ⇒ いかにも3種類の機能があるかのように見せかける

一般的に、人々は製品に打ち出されている視覚的で余分な手間に強く影響される

 

1.6       合理的な行動を導く非合理的な動機

理性は教えられなければならないものだが、本能は遺伝的なもので、重要なのは、なぜそんな行動をするかを知ることではなく、どのように行動するかだ

イスラム教では戒律によって豚を食べず、代わりに鶏を食べる。非合理的な理由だが、鶏の方がいい合理的なメリットもたくさんある。死者の埋葬にしても早くアラーの下に返そうと早く埋葬することが求められるが、死体の腐乱から起こる様々な弊害を回避できている

合理的な行動を促そうとする場合は、合理的な議論に拘らないことが必要

リステリンの最初の広告の謳い文句は、「ブライドメイドになることは度々あるのに、花嫁にはなれない」であり、歯磨き粉のコルゲートは「自信がある感じ」

消費者の行動や、それを操ろうとする広告会社の試みは、巨大な社会的実験であり、人々の真の動機を暴くための大きな力となる

 

1.7       質問の仕方を変えることで欲しい答えを導く

最高級レストランで利益をよく上げるのは水で、「ガス入り」か「ガス抜き」かと聞かれれば、「ただの水道水でいい」とは答えにくい

どんな言葉で質問するかということ自体が情報

 

1.8       「視点を変えることはIQ80点分の価値がある」

より多くの情報やデータ、より高い処理能力やよりよいコミュニケーションを獲得すると、複数の方法で物事を見る能力が失われかねない。テクノロジーは問題を減らすどころか、それを解決するために必要な自由を制限する

理由というものは、解決策を評価するために貴重なツールで、解決策の正当性を主張するには不可欠だが、解決策を見つけるのが得意なわけではない

不出来な数学が集団的狂気に通じた典型例が1999年イギリスの揺りかご死事件。2人の幼児が1年に続けて揺りかごで死亡したのを、確率的に自然死する可能性が極小であることから冤罪とされたもの

ロシアンルーレットで10人に対し、1回やれば1000万ポンド出すと言えば2,3人は乗ってくるかもしれないが、1人に10回やれば1億ポンド出すといっても誰も乗ってこない

 

1.9       実生活では10x11x10と同じではない

たった1つの異常値が現実を途方もなく歪めてしまう ⇒ ビル・ゲイツが1人入るだけで、その集団全員の富のレベルが急上昇する

アマゾンは、47人に1個の商品を売るための巨大なビジネスになれるが、1人に47の商品を売ることはできない。アマゾンの成長の限界がここにある

 

1.10    社員の採用における間違った数学

10人の同僚に、10の職務にそれぞれ適した人を採用してと頼むと、各自が見つけられ中で最高の人間を採用しようとするが、1人に10人の採用を頼んだ場合は本能的に多様な人間を選ぶ。人は1人を選ぶ場合には適合性を求めるのに対して、10人を選ぶ場合には相補性を求める

公平性と多様性との間には避けられない矛盾がある ⇒ 公平性の名のもとに誰にとっても理想的な基準を採用すれば、似たような人材ばかり採用することになるのが落ち

上司が貶しているものが得意になるようにすれば容易にキャリアを築ける ⇒ 体制に順応する才能よりも、補完的な才能の方が遥かに価値がある

 

1.11    「平均的な人間」に注目してはならない

コックピットを設計するのに、平均的な人間の体格に合わせようとしても、平均的な人間の体をしているのは極めて稀

イノベーションは極端な値の下で起きる。風変わりな消費者は、普通の消費者よりもイノベーションを促す。従来型の市場調査は、代表性という誤った考えに取りつかれたせいで、優れたアイディアを生み出すよりも駄目にしてきた

 

1.12    計測できないものは管理できない

ビジネスは測定基準を好み、「計測できるものは管理できる」とするが、逆に「計測できないものは管理できない」のも真実

測定基準に伴う大きな問題は、多様性が破壊されること

 

1.13    バイアスに対するバイアス

人間の心理の中で人種的偏見の力は比較的弱い

性別や民族に対する割当制度を、偏見への取り組みの方法として用いることには懐疑的

性差別や人種差別が、それまで想定されていた理由のみから生じるのではない ⇒ 最終選考に残った複数の中に女性が1人しかいない時、彼女が採用されるチャンスはないが、女性が2人以上のときは劇的に変化する。だが、候補者の女性が増えるごとに女性の採用率が増えるわけではない。人種の違いによる採用率もほぼ同じ結果が出た

 

1.14    人は自分で思うほど合理的に選択していない

決定プロセスにおけるdecoy effect(おとり効果) ⇒ 2つの選択肢の間で迷っていた消費者の選択が、両者の中間の第3の商品を提示されると、明確に変化する傾向がある

『エコノミスト』の年間購読予約の場合、web版だけだと年59ドル、印刷版+webだと125ドル。そこへ印刷版だけだと125ドルと提示すると、2者選択の場合は2/3が安価なweb版だけに行くが、第3の選択を提示したことで印刷版+web8割以上選択される

 

1.15    同じ事実でも異なる価値を持ちうる

誰もが同様にロジカルなら、ロジカルになっても得にはならない

何が重要で何が重要でないかを測る統一された基準はない。自分がそれをどう思うか次第で、何に注意を払うか、どのようにそれを捉えるかが必ず意思決定に影響を与える

 

1.16    成功が科学的に導かれることは稀である

論理の力はしばしば誤用される

大発見は、科学的な方法に拘るより、運と実験と本能的な当て推量が一緒になったものから生まれることが多い

直感反したものを試みるべき――誰もそうしようとしないから

 

1.17    ポスト合理化の弊害

新しい解決策を探すうえで、データや合理的な判断よりも、無意識の本能や運、シンプルな無作為の実験が遥かに大きな役割を果たす

 

1.18    ロジカルな主張が力を持たない理由

所有するデータの量が増えるほど、偽りの、ご都合主義の物語の後押しするものを一層見つけやすくなる

 

1.19    なぜ、効率性が常によい結果をもたらすわけではないのか

 

ビジネスやテクノロジー、政府はより効率的になろうと絶えず努力してきたが、人々が本当に効率性を好んでいるかは誰も確認していない

「ドアマンの誤謬」とは、ドアマンの役割を「ドアを開けること」と定義し、彼の役目を廃止して自動ドアを取り付けると、彼の他の機能である保安などが無視される

 

第2章       心理(サイコ)ロジックの応用

2.1       心理学の魔法

無から何かを作り出すことはできないという考えを科学に植え付けられたため、人々は絶望的なほど誤った方向へ導かれた。物理学の狭い領域では真実だが、心理学では通用しない

経済学者も、どんなものも創造されたり破壊されたりしないという考えを押し付け、「タダでもらえるものなどない」と断言したが、魔法はちゃんと存在しているし作り出せる

人はものの価値を評価するのではなく、ものの意味を評価する ⇒ あるものが何かを決定するのは物理学の法則だが、それが何を意味するかを決定するのは心理学の法則

魔法を信じていると公言する人はいないし、魔法を提供するという人を信用する人もいない

輸送量の増大と移動時間の短縮のために大都市間に新たな高速鉄道を巨額の費用を投じて建設するという。大半の乗客は前売り券を買って、遅れないように余裕をもって駅に向かうが、せっかく早く着いても前の列車には空席があっても乗れない。そこで、空席があれば僅かなプレミアムで乗れるようなアプリを開発すれば、かなりの人の待ち時間は短縮され、結果として移動時間の短縮につながる

 

2.2       ものの価値はもの自体ではなく、人の心の中にある

ものの価値は2通りの方法で創造できる。物事自体を変えるか、それが何なのかについての考え方を変えるかいずれか

真に成功しているビジネスのほぼすべては、合理的な理由から人気があるのだというふりをしても、成功の大半は心理的な魔法のトリックを偶然に発見したことによる

中世の錬金術師は、本当に鉛を黄金に変えようとして失敗したが、やるべきなのは人間の心理を操作することだった。鉛を黄金と同様に貴重だと思わせればよかった

 

2.3       鉄とじゃがいもを黄金に変える――プロイセン王国からの教訓

1813年、プロイセン王女マリアンネは対仏戦の戦費調達のため貴族の女性に黄金の装飾品を鉄のレプリカと交換して欲しいと訴えた。レプリカには、「黄金を差し出して鉄を得た」と刻印、パーティーの席ではそれをつけるのが習慣となったばかりか、優れた愛国的ステータスの証明となる。貴金属の意味付けに成功した錬金術の好例

18世紀の領主フリードリヒ2世も、飢饉への危機対応としてパンの代用品にじゃがいもを考えたが、外来品のまずいものを食べたがらない農民に対し、王室専用の食べ物としての希少性を密かに広めさせることで農民の関心を集めることに成功(希少性の基本原則)

 

2.4       名前を変えただけで売り上げが伸びる

「意味論の錬金術」 ⇒

最高級のレストランで「チリアンシーバス」が提供されるが、元は「パタゴニアントゥースフィッシュ」といいバスの仲間でもない

海産物の再ブランド化 ⇒ ウニもかつては売春婦の卵と呼ばれていたし、コーンウォール沖で獲れるイワシも塩漬けにしてヨーロッパ中に送られていたが、冷凍技術の出現で需要が壊滅、地中海のおしゃれなサーディンを模して「コーニッシュ・サーディン」として再ブランド化したところ爆発的な需要を喚起したばかりか、EUの原産地名称保護制度の認定まで獲得

レストランでは、何の説明もない料理より、詳しい説明が書かれた料理の方が27%も売り上げが多いというし、イタリア語のように民族的な料理名にすればより本物と評価される

広告も同じように機能 ⇒ 広告の有効性のかなりの部分は、ある経験をよりよいものに変えるために、その経験の好ましい面に注意を向けさせる力から導き出される

メニューに写真を載せると、客が払おうとする金額にかなり制限がかかるのは、写真を掲載するという慣習が大衆向けレストランと強く結びつくからかもしれない

 

2.5       人々の行動を操作するテクニック

技術職のキャリアが女性にとって魅力的でない状況を改善するために、大学の講座の名前を魅力的なものに変えたり、社会にとって有益なものをもたらすための意味付けを提供

「指名運転手DD(代行に近い)」の発明は、社会にとって有益なものをもたらすための意味論と命名法を賢く利用したもの。友人を無事に送り届けるためにしらふでいるよう任命された人の意で、ハリウッドの積極的支援で広まった意図的に作られた言葉。スカンジナビアで生まれ、カナダのハイラム・ウォーカー蒸留酒製造所が、もっと責任をもって酒を飲むようにとこの言葉を採用、さらにハーバード・アルコール・プロジェクトの指示によってアメリカに計画的に持ち込まれた。酒を勧められても飲めない理由を簡単に説明でき、行動のために作られた言葉が、それについての規範を暗黙のうちに生み出した

名前を創造しよう。そうすれば何等かの規範を創造したことになる ⇒ 「ダウンサイジング」も経済的必要性から生まれた妥協と推測されかねないが、身の丈に合わせた最適化と考えれば良識ある行動が可能になる

 

2.6       外来種を美味しい食材に変えたすばらしいアイディア

1992年のハリケーン・アンドリューはアメリカ史上最悪といわれ、特に環境への最大の影響は、フロリダ南部の水族館のタンク破壊で、大量の外来種の魚が捕食性の魚が生息していないメキシコ湾とカリブ海に流出したこと ⇒ アジアに生息するミノカサゴは地元種の魚を大量に捕食し、漁業に大打撃を与えサンゴ礁の生態系も破壊。そこで考えたのが人の食料にすることで、外側の毒を除去すれば中身は美味。カトリック教会の協力も得て原産の魚が復活

 

2.7       人間の脳に適したデザイン

ものを人間の手に合った形にデザインするのはどんどん進化して、障碍者のためのデザインが健常者にも歓迎されたりするように、自然淘汰のようなプロセスによって、大部分のものには進化がもたらした人間の好みや本能に合った形や機能が備わる

進化した人間の脳とうまく働くように世界が形作られることは一般に受け入れられていない

年金制度を考えるときに、人間の心理を考慮する人はいないように、心理学がビジネスや政策決定に奇妙なほど影響を与えていないのはなぜか――うまくいくかいかないかは別として、心理学は目を瞠らせるほどの違いを生むはずなのに

 

2.8       イノベーションの多くは何かを取り除くことで生まれる

経済学のロジックは、より多いことがよりよいと提案するが、心理ロジックは、より少ないことがより多いことになると信じている

盛田の天才が発揮されたのはウォークマン。70歳の井深が飛行機の中でオペラを聴く小型の装置が欲しいと言ったのがきっかけだが、開発者はわずかのコストを上乗せしただけで録音機能を搭載来たのに対し、盛田は拒否。可能な利用方法を減らして1つに絞ったことで人間の行動を変革する可能性を持った製品を生み出した。マクドナルドが店からナイフやフォークを排除したことでハンバーガーをどう食べるべきかを明らかにしたのと同じで、技術的なデザイン用語では「アフォーダンス」と呼び、あるものがどのように使われる可能性があるかを決定する基本的な性質のこと。アフォーダンスがうまく働けば、一見して使用法がわかる

機能の追加は多用途にはするが、アフォーダンスの明確性は減り、使用する楽しさが少なくなり、購入を正当化することがより難しくなる

1つの働きしかないものは、多くのことができると主張するものよりも優れていると、人間は自然に推測する

あるものに何かを付け加えるよりも、何かを取り除いたことによって重要なイノベーションが生まれることは驚くほど多い ⇒ グーグルは検索ページに広がる無関係なたわごとのないヤフーであり、ツイッターの存在理由は投稿の文字数を理不尽に制限することから生まれた

ビジネスの意思決定を動かす最も強力な力は、責められたくないとか解雇されたくないという思いで、非難されないようにするための最高の保険は、あらゆる決定の場面で従来型のロジックを用いること

企業間取引で最強のマーケティング方法は、自社製品が優秀だと説明することではなく、手に入る代替品で間に合わせた人に恐怖心を植え付けたり、不確かさや疑念を覚えさせたりすること(FUD=fear, uncertainty, doubt)。いい決断をしたいという願いと、解雇や非難をされたくないという欲求は一見すると似たような動機に見えるが、決して同じではなく、時には全く異なる

 

第3章       シグナリングの驚くべき魔力

3.1       黒塗りタクシーはなぜ信頼できるのか

シグナリングとは、責任感や意図を信頼されるように伝えるためのもので、信頼や信用を呼び起こすことができる。信頼性を伝えたりよい評判を築いたりするためにはある程度の効率性を犠牲にしなければならない場合が多い

ロンドンで安心してタクシーに乗れるのは黒塗りのタクシーだからで、4年間の苛酷な入門プログラムである「ナレッジ試験」をパスした人だけが運転する。ナビ技術の発展で「ナレッジ試験」が不要だと感じている人は多いが、試験はシグナルとして遥かに多くの価値を持っている

集団としての信頼の基準の維持に膨大なエネルギーが費消されているのは、中世のギルドと同じで、責任を持った関与を確約する仕組みは、一旦あることに大変な資源を投入したらそれを無にしようとすることはあり得ないという事実を利用している

信用を支える3つの大きなメカニズム――互恵性(互いに相手に利益や恩恵を与え合うこと)と評判、プリコミットメント(成し遂げたいことを宣言すること)のシグナリング

ナビの価値は「ナレッジ試験」の一部に過ぎず、この試験の価値の大半はシグナリングとして利用できること

 

3.2       ゲーム理論が実生活では適用しない理由

ロジカルな文脈では筋が通らないものでも、突然完全に筋が通ることがある。そういったもの自体について考えるのではなく、それがどんな意味を持つのかを考えた場合だ

婚約指輪は、ものとしては少しも実用的な役割を果たさないが、結婚が長続きすると信じた、あるいはそれを意図した男性による高額な掛け金だということを暗示する

 

3.3       常連客に向けたシグナル

常連客を想定することによってビジネスが正直な態度を保つが、さらに自社のビジネスモデルは常連客を頼りにしていると示すことがそのビジネスの正直さのシグナルにもなる

正直で互いにとって有益な関係を保つ理由は、常連になってくれる見込みがあるからに他ならない ⇒ 常連なってくれる見込みを「継続確率」という

費用をかけて顧客のために問題を解決することは、将来の関係性に力を注いでいるというシグナリングの優れた方法であり、短期的な利益の最大化に焦点を当てていると顧客からあまり信頼されなくなる

客が製品を購入して決済した後も、その品に失望していないことを確かめるために時間を惜しまない会社は、決済した途端に客に興味を失う会社よりも信頼できて、まともである可能性が高い

 

3.4       シグナリングが費用のかかるものであるべき理由

「コストリー・シグナリング理論」 ⇒ あるものが伝える意味や意義は、それを伝えるものの費用に正比例する。お金をかけるほど伝えられるものは大きい。料金後納の封筒で送られてきた物より、フェデックスで送られた封筒のほうが重要なものが入っていると思われる

 

3.5       合理性を追求すると水のように無味無臭なものとなる

聖アウグスティヌスはキリスト教について、「不条理なるがゆえにわれ信ず」といった

ありふれた日常の「騒音」よりも、普通とは違う意外な、予想外の刺激やシグナルの方に注目するように人が進化したため、自分の種の仲間に確実に意味を伝えたいと思ったら、表面上は「ばかげた」行動をとる必要が生じた ⇒ 水は「何の味もしない」から、異物が混入した時のように普段と違うごく些細なことでも人は気づける

人間の近くもこれと同じ方法でもっと広く修正されている ⇒ 常識から外れたものに気づき、意義や意味をそこにつける

狭くて経済的な合理性を追求すると、モノに溢れてはいるが、意味が欠けた世界が生まれる

 

3.6       コストリー・シグナリングとしての創造性

シグナリングにコストをかける代わりに創造性を発揮してもいい。ただ、何かコスト(苦痛や努力や才能、場合によってはお金)のかかるものがなければ、ただの騒音(ノイズ)に過ぎないし、効果は費やしたコストに正比例する

騒音に過ぎないチープトークよりも価値があるものを生み出せるのは、狭量で短期的な自己利益という姿勢から外れた場合だけ

 

3.7       効率の悪い行動によって伝えられること

賑やかな通りにあるカフェが何代か潰れた後、洒落たテーブルと椅子を表に並べたのがよかったのかようやく安定してオープンするようになった。放っておいたら持ち去られそうなので毎日閉店後は格納したため、外に出ていれば開店していることは明白。ただ「open」と書いたサインを出すよりコストも毎日出し入れする労力もかかるがユーザーには信頼感を与える

人は無意識に推測を広げていくので、椅子の出し入れに労力を割くなら、少なくともまずいコーヒーを出す可能性はなさそうだと思い、それを買って確かめるだろう

シグナリングはやり過ぎても効果はない。出し入れする椅子が高価なら、高級店だと思って敬遠されるかもしれない。スーパーでも、店で売る商品の価格がどう感じられるかは、実際の価格ではなく、その店が備えている贅沢さの程度なのだ

 

3.8       蜂も花という「広告」を活用している

花が狙う客は蜂や、そのほか受粉するのを助けてくれるほかの昆虫や鳥などで、それらを惹きつけるために「広告とブランディング」を用いている。独特の香りや花弁は花蜜があるという信頼できる印として働く。花は広告予算のある雑草に過ぎない

広告に多額の予算がかけられていることが、ある製品の優秀さを証明するわけではないが、宣伝のために資源を費やしてもいいほど、将来的にその製品が人気になるという自信を広告主が持ってることを証明している。それがうまくいくためには、製品自体に安定した独特のアイデンティティが必要で、製品を他社に真似される(「詐称通用」と呼び、生物学では「ベイツ型擬態」として知られる)ことから作り手を守る法律も必要

 

3.9       コストリー・シグナリングとしてのイモムシの警告色

動物はつがいになりそうな異性への性的な宣伝という目的以外にも目立つ色彩などの奇妙な特徴を発達させている。「警告色」は、ある動物を食べたり襲ったりしない方がいいという、捕食者への警告として働く。あるイモムシたちは不快な味や臭いによって守られている

 

3.10    性淘汰がもたらす必要な無駄

人生はより優れた効率性だけを追求するものではなく、贅沢や見栄を追う余地もあるということを、なぜ人間は受け容れたがらないのか? 確かに、コストリー・シグナリングは経済的な非効率性に繋がるが、同時に、この非効率性は信頼性や献身といった価値ある社会的な資質も作る

 

3.11    アイデンティティとそれによる差別化

アイデンティティとそれによる差別化がないと、ある種の花がさらに多くの花蜜を蜂に与えても利益はない

ブランドというものは、資本主義を機能させるために不可欠なのか?

 

3.12    ブランドによる差別化はなぜマーケットが機能するために不可欠なのか

品質の保証がなければ、そもそもマーケットが機能するのに十分な信用が存在しない。優れたアイディアでも優良品と粗悪品が混在していて見分けがつかなければ、消費者の支持は得られない

経済学者は、宣伝を嫌悪する傾向にあり、ほとんどその効用を理解しない

 

第4章       自分自身の潜在意識をハッキングする

4.1       偽薬(プラシーボ)の効き目

あなた自身の行動を変えるためにも、遠回しな方法を使うことが必要な場合もある

プラシーボは直接的な医療効果はないが、同毒療法(ホメオパシー)のように人の心理に及ぼす効果は、場合によっては医療効果と同じくらい重要かもしれない

既知の、ロジカルはメカニズムによって働くものでなくても、人はそれを採用したくないとは必ずしも思わない。我々は1世紀もの間なぜ効くのかと一切考えずに痛みを和らげるためにアスピリンを用いてきた

 

4.2       安心感を与えられるようにアスピリンが高価であるべき理由

薬理学的には同じ活性成分を同量含有した鎮痛剤にファンシーな名前を付けて、基本となるブランドの薬より高い値段で売られているものを、消費者庁が告発した事例があったが、科学的な事実としては正確に違いないが、心理学的には間違っている

プラシーボ効果を理解することは、無意識の様々な影響について理解するための第1歩として好都合。我々が無意識のプロセスに影響を与えるために、明らかに不合理な方法で行動する理由を説明している

進化は理性よりも頼りになる感情を選ぶ

同様に、人は体の大部分の機能を自分で直接コントロールできないという事実を受け入れている。完全に妥当な進化上の理由から、こういった機能の制御は意識に影響を及ぼさない

 

4.3       直接コントロールできない人間の行動や感情を、いかにして「ハッキング」するか

人間の体の自動的なシステムは直接コントロールできないが、遠回しに「ハッキング」することはできる

プラシーボ効果や錬金術と関連したものが胡散臭いと思われがちなのは、無意識の感情的なメカニズムまたは生理的なメカニズムへの遠回しなハッキングが理由

 

4.4       人は自分の意思で行動していると考えたがる

人間の意識は、これまで行ってきたあらゆる活動を意図的に選んだという幻想を守ろうと必死になっている。ほとんどの場合はなされた決断に気づきさえしない

 

4.5       「自己プラシーボ」が自らを操る

人の免疫系は自分で思っているよりも遥かに過酷な環境にも適応するように調整されている

自分で自分の行動に暗示をかけている ⇒ 自己プラシーボ

 

4.6       行動の裏にある隠れた目的――なぜ、人は服や花やヨットを買うのか

人間の行動を評価する上での重要な教訓の1つは、その行動の本当の目的を考慮するまでは、ある行動が不合理だと中傷してはならないということ

毎日の交通の手段としてフェラーリを買うことはどう見ても不合理だが、媚薬としてまたは仕事のライバルに恥をかかせる手段としてなら、平凡な車よりけた違いに優れている

人々は、自分が求めているものを知らないばかりか、自分が買うものを好きな理由さえも知らない。人が本当は何を求めているのか(「顕示選好」)を見つける唯一の方法は、様々な状況で彼らが実際に何に金を払っているのかを見ること

イノベーションとしてのウーバーに興味をそそられるのは、それが現れるまで誰もそんなものを求めなかった。ウーバーの成功は2つの巧妙な心理的ハッキングにある。最も強力なのは、乗車している間に一切の金銭取引が行われない事実で、ウーバーを利用することが商取引というより一種のサービスのように感じられる

エレベーターについた「閉」のボタンはプラシーボのボタンでも、誰かの気分をよくするという唯一の役割を果たす。罪のない嘘だろう

横断歩道でも待つべき秒数をデジタル表示すると、もっと多くの人がちゃんと待つようになって、事故も激減する ⇒ 哺乳類の脳にコントロールや確実性を強く好む性質があるから

 

4.7       自信というプラシーボの市場

プラシーボを用いてハッキングしたくなる感情として考えられるのは、自分自身に自信を与えたいという欲求と、他人に信頼感を与えたいという欲求

若い女性がパーティーの前に何時間もかけて化粧するのは、自信というプラシーボを自分に投与すること

 

4.8       効果的なプラシーボは何によって生じるのか?

効果的なプラシーボとなるには、何等かの努力が注がれたか、希少性があるか、費用が掛かるに違いないということ

 

4.9       レッドブルのプラシーボ

レッドブルは商業的に成功したプラシーボの好例であり、優れたプラシーボの様々な特徴を備えている ⇒ 高額で奇妙な味がして、「摂取の制限」がある。発売開始当初、活性成分のタウリンがもうすぐ法律で禁じられるという噂が繰り返し語られていたこともプラスに作用。小さな缶入りという点が特に効果的

人の気分を変える物質を売ることで存在している5つの巨大な業界(アルコール、コーヒー、紅茶、タバコ、娯楽)にプラシーボ業界も加えるべきかもしれない。大量消費主義の大部分が同様のことを達成するために設計されている。人々がお互いに自分を印象付けることを求めているか、自分を自分に印象付けることを求めているかのいずれかで、ほぼすべてのものが気分を変える物質といえる

 

4.10    全く筋の通らないものが潜在意識のハッキングを可能にすることが多いのはなぜか

自分自身への、あるいは他人へのシグナリングには、ロジカルな点から見れば筋が通らない行動が常に伴うが、必要なものなのかもしれない

ロジカルで狭義の物事は何の情報も伝えない

 

第5章       単純化し、合理化し、効率化することの危険

5.1       大失敗するよりも「まあまあいい」意思決定の方がいい理由

現代の教育のシステムは、完全に確実という状況会で意思決定を行う方法を人々に教えることに大半の時間を費やしているが、社会に出た途端我々が下さねばならない決断のほとんどは何かしら欠けたものがある状況で行わなければならない

同時に発車した2台の車が1台は真北に向かって時速30㎞、もう1台は西に向かって時速40㎞で進むと両者が100㎞離れるのは何時間後かという問題は、奇跡的に一定のスピードで走れば2時間後ということになるが、実生活でそういう状況はまず起こらない。変数がほとんどなく人工的に単純化された「狭い状況」の問題で明白な正解も1つだけしかない。空港にある時間につくためにどの道を通るのかという問題は「広い状況」の問題で、一見簡単に見えるが、曖昧な答えや複数の正解が可能。にも拘らず人の心理は、最初の問題は難しく、後の問題はよく考えれば複雑な要因が絡み合った複雑な問題にも拘らず簡単だと思われがち。人間の脳は「広い状況」の問題を解決できるように進化したことが暗示される

問題が起こるのは「狭い」考え方を用いて、「広い」問題を解決しようとするとき

ケインズも、「正確に間違うよりも、漠然と正しくありたい」と述べ、暗示された進化を肯定

安価なコンピュータの力を利用することに伴うリスクは、複雑な問題における数字で表現できる単純な部分だけをコンピュータが取り上げ、高度な数学的正確さで問題を解決し、問題全体を解決したと思い込ませるところにある

人は自分を科学的に見せようとして、数学的に正確な答えをやみくもに崇拝する――そして確実性という幻を切望するが、人間の能力は漠然とした正しさの中に存在している

ある人が何をしようとしているのか本当にわかるまでは、その行動を不合理と呼んではいけない――なけなしの金で中古車を買う場合、無意識に考えるのは、「どの車を、どこで買うべきか?」ではなく、「本当に安く車を売ってくれると信じられる人が見つけられるだろうか?」で、一番いい車を買おうとするのではなく、ひどい車を買うリスクを避けようとする

花に引き寄せられる蜂のように、正直な意図を発している信頼できるシグナルに人は引かれ、そのシグナルが見つかったところで取引することを選ぶ

 

5.2       合理的な解決策に安易に満足することの危険

ビッグデータは確実性を約束するが、それはたいていの場合狭い知識の領域に関する膨大な量の情報を提供しているだけ――スーパーは顧客が買う商品を全て知っているかもしれないが、なぜその店で買うのか理由までは分かっていない

利益のみを追求し、利潤追求の姿勢が顧客満足度や信頼や長期的な関係性に与える影響を考慮しない企業は、短期的には成功しても、長期的には危険性が高い

あるものを1つの面だけで最適化したら、別の所で弱点ができる――非現実的な世界における完全な解決策を見つけようとするより、現実の世界での満足できそうな解決策を見つける方が間違いなくていい

 

5.3       ブランド品に高い金を出すことが悪くない理由

ブランドの名前が、最高の品質を保証するものではないが、一般的に悪くはないという信頼できる指標にはなる――売り手が失う立場にある評判という資本が多ければ多いほど、彼等の品質管理に信頼がおける(ブランドを傷つけないよう管理を厳格にする)

ロジカルな世界では95%の支持率を持つ売り手は、100%の支持率を持つ売り手が提示した価格よりも10%安い値で完全にうまく売れることになるが、現実は支持率が97%でも100%の満足度を得ている実績ある売り手と同じ商品を半値で売るのがやっと

人は意思決定する時、平均的な期待値だけを見ているのではなく、可能な分散を最小限にしようと努力もしている――マクドナルドは、平均的な品質では低いかもしれないが、品質の分散度も低く、常に期待通りのものが入手できる

現実の世界は、信頼できるデータが限られ、時間的にも計算能力にも限界がある以上、経験則が他の方法よりマシといえる

 

5.4       経済則の力

2009年の「ハドソン川の奇跡」も、グライダーのパイロットとしての経験則が判断の決め手になり、機体は失ったが人命の救助には成功

車を選ぶのも家を買うのも、結婚相手も経験則によって選んでいる――ある解決策が計算できるものだったとしても、経験則の方が簡単で迅速、人間の知覚の機能とうまく繋がっている

満足化が必要な世界では、経験則はしばしば簡単な選択肢であるだけでなく、最高の選択肢

 

5.5       先が読めないからこそスポーツはおもしろい

他の人に人気がある商品を買ったり、他人と似たような行動を取ったり、流行を取り入れたりするソーシャル・コピーイングも、無難な行動のとり方であり、確信が持てない状況で意思決定する時にリスクを減らす信頼できる戦略は、常識的なロジックでは尋ねるべきではないと思われる、訊きにくい質問に言い換えること――「私はどんな車を買うべきか?」と尋ねるのではなく、「車を売ってくれる信頼できそうな人は誰か?」と尋ねる

消費者行動の明らかな矛盾の多くは、確率が1%の悪夢のような経験が、5%の利益を得られる99%のチャンスを小さく見せてしまう

 

5.6       保身のための意思決定

悪い結果となった場合でも、選択の意思決定者の責任が問われないよう無意識のうちに行われる意思決定のことを「保身的意思決定」と呼ぶ――ニューヨークへ飛ぶのに、JFKを選択した場合とニューアークを選択した場合とでは、後者には筋の通った言い訳が必要になり、さらに、何かの手違いが起こった場合、前者なら航空会社の責任が問われることになるが、後者だと選択した者の失敗と見做される

経営コンサルタントがとても裕福なのはこの点をうまくやれるからという以外に理由はない

 

第6章       知覚される世界と現実の世界

6.1       人間の知恵はそれほど客観的ではない

知覚に関するものが完璧に客観的なことはない――同じ時間でも置かれた状況次第で異なって感じられるように、人間の脳にとって時間の知覚は融通性のあるもの

 

6.2       人間の知恵に合わせて最適化する

テレビやコンピュータ画面に映るすべての色は赤青緑の3つの光の組み合わせで生み出されるもので、黄色は赤と緑の混合から生まれた色で光のスペクトルにも存在するが、紫は光スペクトルの中にも存在しない人の頭の中にだけ存在する色

マーモセットの雌は3色を認識するが、雄は2色しか見えない ⇒ テレビは、何を見せているかではなく、我々がどう見るかに基づいて設計されている。人間が知覚できないものなら、客観的な現実で変化を作り出そうと努力しても意味がない。紫色のように、実際に存在しないものが人間には見えることを覚えておくべき

 

6.3       現実と知覚は異なる2つの言語のようなもの

経済学は、人間の行動を物理学の現象のように形成できるという前提で取り組む学問分野だが、人間の行動のあらゆる面での現実と知覚は異なる2つの言語のようなもので、それぞれがもう一方の言語に翻訳できない概念を持っているというのが事実

感情は人の心の中でだけ生まれる――苛立ちは生きている者だけに限定される知覚的概念なので、デザイナーの仕事は翻訳者の仕事のように、客観的な原材料を利用して、知覚的にも感情的にも正しい結果が導かれるようにすること

 

6.4       状況がすべて

翻訳の仕事は高いものにつく場合があり、ぞっとするほど大きな犠牲を伴う時もある

ポツダム宣言に対する日本側の回答は「沈黙」に由来する「黙殺」と表現されたが、国際的な通信社は世界に向けて「言及する価値なし」と見做したと伝えるのが適切だと判断した

日本語はかなり状況に依存する言語だが、どの言語でもその要素はあり、通訳者が伝えていることが、話者が意図したことだと思い込むのは大きな間違い

誤訳の最も有名な例は1977年、米大統領のカーターがワルシャワを訪問した時の空港到着時の短いスピーチで、カーターは「アメリカを放棄して二度と戻らない。ポーランド国民への愛情がとても強いので、彼等とセックスしたい」――通訳はロシア語を母語とし特に古いポーランド語に精通していたために、「不実な友人」と呼ぶ誤解を招きそうに似ている語のある両国語を混同させて誤解を生んでしまった。「奥さんは素晴らしいhostessだ」とお礼を言っても、「売春婦」と取られては逆効果

オランダ人はほぼ例外なく英語が堪能とされ、英国人同様に皮肉なユーモアのセンスも持っているとされるが、オランダ人の会話が驚くほど直接的になりがちなのに対して、イギリス英語は曖昧で頭がおかしくなりそうなほど遠回しに話されることがよくある――両者の話す英語の違いは、現実と知覚の関係をうまく譬えた隠喩で、伝えようとしているメッセージと、それに込められた意味との隔たりが大いに問題 ⇒ イギリス人が「最大の敬意をもって」というのは「お前はバカだよ」の意だが、外国人が理解するのは「彼は私の話を聞いている」となる

物理的なものの動きを決定するのはもの自体だが、生物の動きを決定するのはもの自体についての彼等の知覚に他ならない

著者はイギリス人でありながらいまだに、”very”を意味する”quite”と、”somewhat”を意味するquite”との差異を説明できない。アメリカ英語では”very/really”を意味する強意語だが、イギリス英語ではたまに強意語(”quite excellent”)としても用いられるが、たいていはただの装飾語(”quite interesting”)

ビッグデータの支持者は、「ビッグ」=「よいこと」とするが、データが増えたからといって決してよりよい決断やより倫理的、公正な決断を下すことに繋がるわけではない

知覚は行動に整然と位置付けられるかもしれないが、現実は知覚に整然と位置付けられはしない。さらに、すべてのビッグデータは、過去に由来することを忘れてはならない

 

6.5       知覚のハッキング

パルテノン宮殿を見るとほとんど真っ直ぐの線がないことに気づく。床は真ん中あたりで上方向にカーブしているし、神殿の両端は曲がっており、円柱は中央の辺りが膨らんでいる。これは完璧なものとして設計されていないからで、100mほど下から見て完璧だと見えるように設計されていて、古代ギリシャ人でさえも、心理物理学の原理を把握していた

自然は「知覚のハッキング」と呼ばれそうなものに多くの資源を費やしている

 

6.6       客観的になるべきときとそうでないときがある

物理化学では、理論的に証明が必要だが、人間科学ではこのような普遍主義を科学の特質だと信じ込んで、同様の方法を追求すると問題が起きる

プラシーボ効果のように、人間が知覚しているものが客観的事実よりも遥かに重要な場合が時々あるのを、単なる「知覚のハッキング」だとして無視してはならない

経済学や政治学では、客観的な現実を向上させることに割く時間を減らし、人間の知覚や感情や本能の研究にもっと時間をかける方が賢明

かつて20ドルで買ったワインが75ドルに高騰した状況下で、それを飲んで感じるワインの値段はいくらかとの質問の答えで、経済学では今の価値の75ドルということになるが、そう感じる人は20%だけ。実際の感覚は、既に20ドル払っているので0だと感じるのが30%、実際に払った金額の20ドルと感じるのが18%、儲かった分の55ドルだと感じるのが25

 

6.7       言葉によってビスケットの味はどう変わるか

言葉は料理の価格に影響するだけではなく、料理の味も変えられる

大手ビスケットメーカーが低脂肪製品に変えた途端売り上げが急減したという。ブラインドテイスティングでは味に変化はないとの結果だったが、健康指標に関することをパッケージに書いた途端、商品の味が悪くなったことを証明している

 

6.8       パッケージを変えることのリスクとジレンマ

人気の商品にごく些細な調整を加えたことを発表するだけで、売り上げが大きく変わることがあり、倫理的なジレンマと実際的なジレンマの間で揺れ動く――環境や健康に関連した言葉には特に注意が必要

人気の商品にごく些細な調整を加える場合にも、消費者は商品の成分の変化が発表されただけで味が変わったと感じるだろう。クラフト社が人工的な着色料を除き健康的な成分を導入した時も変化に対する同様の反応を懸念し、沈黙を続け、暫くたった後に「変わりましたかが、変わっていません」という見出しで材料の変化を発表するまで実質的な違いに誰も気付かなかった。固定客に味が変わったと想像させることもなく、以前よりも健康的なものに変わったものを食べていたことに突然気付いただけでなく、以前は人工着色料を嫌って避けていた見込客の獲得にも成功

 

6.9       焦点錯覚(フォーカシング・イリュージョン)の魔力

行動経済学で「フォーカシング・イリュージョン」と呼んでいるのは、人があるものに注意を惹きつけられている時間に比例してその人の思考や行動に多くの影響を与えること

マーケターはこの作用を利用して消費者を騙す

昔の広告業界の信条だった「独自の売りUSP」を持つこともフォーカシング・イリュージョンを引き出すが、その根拠が多少欠けていても、独自の特質を強調することで、競合商品を買った場合に買い手が感じそうな喪失感を増大させられる

キャンプ用品はフォーカシング・イリュージョンにとらわれている間に買うには最も危険なもの。店にいるときに思い浮かべる状況と実際に使う時の状況はまるで違うことが多い

マーケティングではフォーカシング・イリュージョンが起きな役割を果たすというが、ある意味進化に必要なもので、マーケターがフォーカシング・イリュージョンを「活用している」のではなく、マーケティングを必要なものにしているのが錯覚

 

6.10    バイアスや錯覚は生存に不可欠である

人間の知覚はほぼすべてが錯覚。注意を払うレベルを感情の状態に応じて変化させることも重要。夜の暗い通りを1人で歩く時は、昼間より足音に一層注意を引かれる

錯覚を理解し、人間の行動を歪ませそうな錯覚の役割を知ることは価値がある

火災報知機も、パンの焦げたのに反応する偽陽性なら苛立たしだけで済むが、炎が出ても鳴らない偽陰性なら結果は致命的

パリドリア現象 ⇒ 視覚や聴覚刺激から、普段からよく知ったパターンを本来そこに存在していないにも拘らず心に思い浮かべる現象

顔を認識するソフトが役に立つためには一定の代償を払わなければならない――絶対間違わないものとしようとするとちょっと角度が変わっただけではねられることになり感度が低すぎて役に立たない。不完全な形や不明瞭な形を扱う時は、ある程度のキャリブレーション(較正)が必要。ある程度のバイアスや錯覚は不可避

 

6.11    50ポンドで新車を手に入れる方法

車を買い替えようと思ったら1,2年まって、その間プロの洗車サービスで徹底的に磨く

 

6.12    心理物理学で環境に優しい洗剤を広める

環境に優しい洗剤が、効果が弱いと思われないためにはどうすればいいか

ゴルディロックス(松竹梅)効果 ⇒ 同様の種類で段階の異なる3つの選択肢がある場合、多くの人は平均的なものを選ぶ。ゴルディロックスは童話『三匹の熊』の主人公の少女の名前

 

6.13    イケア効果――手間がかかることによって価値が増す

1950年代、ゼネラル・ミルズがケーキミックスを発売、水を加えて混ぜ合わせオーブンに入れるだけと簡便さを謳い文句にしたら売れず、卵を加えるようにしただけで売り上げが急伸したのは、少しばかり余分な手間をかけることで女性の罪悪感が減ったため

人々からの価値の評価を高めるために消費者の努力を付け加えることを表す言葉が「イケア効果」 ⇒ イケアの家具を買って組み立てるために努力を払ってもらうことが商品に知覚価値を加えると信じた

 

6.14    考え方が行動を駆り立てるのではなく、行動が考え方を形作る

人間の脳は、ある程度までは無意識に、どんな決定にも交換条件があると推測する

車がより安価であれば、性能はより悪いだろうと推測される

正しい行動を取れと求めた上に、正しい理由のためにそうしろと求めるのは基準が高すぎる

テスラを買ったそもそもの理由に関係なく、自分の車が環境にいいと熱心に話す

重要なのは行動だけで、行動を起こすための理由ではない。理由は後からついてくる

 

第7章       錬金術師のテクニック

7.1       錬金術師は物事の見方を変えられる

飛行機がターミナルビルから離れて止まり、バスで移動させられそうになった時の機長のアナウンスは、「悪いニュースと良いニュースがある、悪いニュースはバスで移動すること。良いニュースはバスは入国審査場へ直行すること」。以降バスでの移動が厭にならなくなった

 

7.2       錬金術のレッスン その1――明確な交換条件に人は好感を持つ

人間の特徴の1つは、どんな状況でも別の状況が選べて悪い面を最小限にすることができるなら、自然といい面に注意を向けること――良いニュースと悪いニュースを同時に知らせる方が、1つの解釈しか与えない場合より遥かに幸せにさせられる

シカゴ大経済学部が新校舎に移転、研究室の割り振りの際、広さや僅かの違いを巡って相当な確執があったが、その解決策として提示されたのが、研究室と学部の駐車スペースの両方に好ましさの順に番号をつけ、くじ引きで割り振る。最高の部屋を割り当てられる人は最悪の駐車スペースを割り振られる。最高の結果になった人はくじの役割を一層重要だと考える

これは無作為に集まった人の間で不平等な資源を分配する最高の方法で、貴重な心理的な洞察をもたらす――よいものプラス悪いもの、悪いものプラスよいもの、平均的なものプラス平均的なもののどれを提供されても、誰もが平等に満足しているようだ

明確な交換条件は好感を持たれる。よいニュースと悪いニュースが入った言葉はとりわけ説得力がある。取引を成立させるときに否定的側面を認めると、奇妙なほど説得力が増す

製品の欠点を明確に言われると、人は否定的側面をいつまでも案じるのをやめて、その問題を重く見なくなり、交換条件を受け入れられるようになる

格安航空券が費用に含まれていないサービスを明確に述べて成功しているのは、低価格を強調する代わりにその対価としての交換条件を明確に示し、それらが顧客に喜んで受け入れられるものだから。本当と思えないほど素晴らしいものは大抵信用されない

 

7.3       すっぱいブドウと甘いレモン――後悔を最小にする心理トリック

人間の心理に関する単純な真実を明らかにしたイソップの寓話で有名なのは、キツネとブドウの物語。高い枝からっ下がった見事なブドウを取ろうとジャンプするが何度やっても失敗した結果、キツネは「酸っぱいブドウを取るために苦労しても仕方ない」と諦める。自分の手が届かないものを軽蔑して貶すふりをする人が多いという教訓。甘いレモンはその肯定的な例

機会を与えられれば、人の脳は後悔の感情を減らそうとして最善を尽くす。そうするためには妥当な代替品が必要――交通違反の罰則金にしても、罰則金が道路整備に使われるとか、役立つものに使われるのがわかれば少しは腹立たしさから解放されるかもしれない

 

7.4       錬金術のレッスン その2――税金や年金の支払いを魅力的なものにする方法

税金のように、公共サービスへの対価の支払いだとわかっていても、払った金と得られるものとの繋がりが曖昧だと、支払う税金について肯定的な話ができない

政府の問題点の1つは、一般的に目的税を嫌うこと

民間団体が篤志家に何かのお返しをすることで寄付集めに成功しているケースは、払っているものについて幸せを感じられるような物語作りの機会が与えられるから

通常の年金制度は、加入と同時に保険料負担分だけ可処分所得が減少するが、新プランでは契約後の昇給の際にのみ昇給分の(例えば)20%を払うため、すぐに可処分所得は減らないばかりか、結果的には多くの保険料を支払っているが加入者は倍増したという

人間は群れを作る種が、決して不合理ではなく、大参事を避けるのに役立つ経験則

年金積み立てをもっと魅力的にするためにこの群れの心理を利用する

 

7.5       錬金術のレッスン その3――同じ概念を別の表現で捉え直す

表面に奇数か偶数を書き裏面を青か緑に塗った4枚のカードのうち、2枚は表面、2枚は裏面を向けて並べられる。偶数は青だという仮説を確認するためにはどのカードをめくったらいいかという問題。正解は緑のカード。裏面が偶数ならルールは成り立たない(1966年考案の「ウェイソン選択課題」と呼ばれる)

同じ問題を社会関係についての言葉で提示されると正答率は高くなる。アルコールを飲んでいるなら21歳以上とするルールで、表面には1922、裏面にはビールか清涼飲料水を書く問題は、数字のケースと同様の問題を異なった方法で表現しただけ

月額17ドルの衛星放送量を高くて嫌がる年寄りに、新聞の12ドルに対し衛星放送料は150セントだと言ったら納得して払ったのも、同じ17ドルが合理的に見えたから

 

7.6       錬金術のレッスン その4――人は選択肢があることを好む

人は精神的な負担がないならば、選択肢そのものを好む傾向がある

1990年代初め、民営化したBritish Telecomが僅かの追加費用で電話の転送や通話中着信が表示されるサービスを売り込もうとした際、顧客からの申し込み方法としてフリーダイヤルと料金後納の郵送の2通りを提示。会社は電話会社なので郵送による申し込みを嫌ったが、電話申し込みに限定したオファーには2.9%、返信用封筒だけの場合は5%の申し込みが来たのに対し、両者を可能とした場合には7.9%の申し込みが来た

客観的には優れた仕事をしても、公共サービスや独占企業があまり評価されない理由の1つがこれで、自分で選べなかったときに何かを好きになることはあまりない

オンライン小売業者の配送業者を消費者が選べるようにしていないのは不可解

 

7.7       錬金術のレッスン その5――予測不可能なものになれ

大半のビジネスは型にはまったロジックに従って経営され、それを破るには正当な理由が必要だが、マーケティングは当てはまらず、ベストプラクティスなどあったためしがない

標準的な正説に従えば、差別化などありえなくなる

一般に認められたロジックから逸脱することはリスクを伴う――平凡なせいで首になるよりも、不合理なせいで首になる方があり得るし、多くの社会的環境や複雑な環境で完璧に予測可能なことは望めないが、人はロジックを闇雲に崇拝する傾向がある

 

7.8       錬金術のレッスン その6――ささいな違いが大きな変化をもたらす

3億ドルのボタン」として知られる無名の小売業者のウェブサイトでの成功物語 ⇒ ウェブでの買い物をしたあと目にする通常のログイン画面の代わりに、アカウントがないか分からない場合は「ゲストとして続行」のボタンを押すと、手続きを済ませた後に、「今後も簡潔に買い物したいお客様はアカウントを作成できます」としたら、途端に買い物を完結する客も増え、アカウント登録も急増、この変更だけでサイトの売り上げが年間3億ドルも増えたという

ロジカルに考えて、買い物をする前にアカウントの登録をさせようとしても、事前の登録には懐疑的な客が、買い物が終わった後だと喜んで登録の手続きをする

 

7.9       錬金術のレッスン その7――小さなものに注意を向けよ

最も重要な手掛かりは無関係なもののように見える場合が多く、人生のほとんどは些細なものを観察することによって一番よく理解できる

物理学者や経済学者の心理は、大きなデータを投入することによってのみ、大きな成果が得られると推測する。錬金術師の心理は、状況における最小の変化や最小の意味が、行動に計り知れないほど大きな影響を与えることを理解している

 

結論

l  ロジカルであることを少しやめてみる

経済学的なモデルには、絶望的なほど創造的な限界がある

ロジックには魔法を全滅させるという問題が伴う

デンマークのノーベル賞物理学者ボーアはアインシュタインに、「君は考えていない。ロジカルなだけだ」と言ったという

問題解決へのロジカルな方法は、「常套的な」従来の根拠を通じて得られたものだけになってしまう――本能や創造力や幸運がより多く含まれるもっと優れた、そして安価な解決策が犠牲になる場合も多い

これまでと異なった方法を取らなければ、幸運な偶然を享受できるチャンスは減る

ビジネスや政府内で意思決定をする人たちが最も重視しているのは、成功を収めることではなく、結果はどうであれ、自分の判断を正当化するための能力

 

l  合理性に基づいた問題解決は、1本のクラブだけでゴルフをするようなものだ

人工的な確実性を捨てようとして、人間の心理の不可思議な点について漠然と考えることを

創造的な方法

あなたは疎かものだと               あなたはまずまずの信用を得るが、

見なされ、仕事を失う     ↑  あなたのアイディアは始めからロジカ

|  ルだったかのように表される

失敗  ←―――――――――――|――――――――――――→  成功

あなたは単に不運だった  |  あなたは仕事を失わず、ボーナスを与え

と見做され、仕事を失う  ↓  られるか、昇進の対象となる

ことはない

ロジカルな方法

 

学べば、思考力は少なからず向上するが、そうしたからといって、必ずしも人生がもっと楽になるわけではない

大きな組織は、創造的な思考に見返りを与えるようにはできていない。最大のリスクが生まれるのは創造的な方法からなので、ロジカルに行動する方が無難に見える

 

l  仮説を捨てて自由になる時間を持とう

人間の脳は最も正確にというよりも、進化して適応する能力を向上させるために最もよく調整された方法で世界を認識している

自分の動機に気付かないことは、進化という点からすれば利益をもたらすかもしれない。進化が客観性よりも適応度を重視していることは紛れもない事実

錬金術の力を理解するためには、無意識の動機を表現するもっとうまい言葉が必要。錬金術とは、あなたがやらない何かのこと

毎日安心感を与えてくれる仮説を捨てること。一度に捨てるのは社会的にきまり悪い思いをするリスクがあるが、自由になる時間がなければ心の錬金術の実践は難しい

 

l  広告はなぜそれが伝える情報以上に説得力を持つのか

高いレベルの教育を受けているため、経済的決定や政治的決定をする資格が自分にあると信じている人々の大半の行動は公益のためだろうが、理性を崇めるせいで、狭い基準から外れた、人生を向上させるものを想像できない

テクノロジー企業は、効率性という口実の下に、広告業界とジャーナリズムの一部を破壊したが、彼等は広告の本質が効率性でないことを理解していない

効率的の名の下にデジタル広告全盛だが、デジタル広告が不思議なほど効果がないことがわかってきた

広告は明らかに、それが伝える情報以上の説得力を持っているのは、自動ドアがドアマンの代わりにならないことに似ている

目の前の広告を解読するために、人は社会的知性を用いる ⇒ 共産圏で、ある製品が宣伝されると、需要が減る場合が多かったのは、価値あるものはすべて供給不足だったので、宣伝しなければ売れないほど粗悪品だったと受け止められたから

人間の脳の大部分は、整然とした概念的な理論よりも乱雑な現実を考えるのに向くように設計されているが、一般的に脳のその部分を使うことは抑えられている。目の前に見えているものよりも、理論的な数学モデルのほうに信頼を置くのもより客観的に思われるため

 

l  無意識の動機に注目せよ

この100年ほどの間に人間の衛生状態が大きく進歩したのは、公衆衛生のレベルの向上と、清潔そうな外見を維持したいという衝動が高まった結果で、そこから人間の行動には重要な変化が生まれた

衛生面での行動に驚異的な変化を引き起こしたものは複雑だが、平均余命を伸ばそうとする意識的な努力に負けないくらい、ステータスを求める無意識の気持ちも原動力となった

石鹸は衛生上の効果よりも、使う人の魅力を高める力が理由で売られた。人を惹きつける商品にするために香りが付加された。香りは商品の合理的な価値に無関係だが、消費者の無意識に働きかける宣伝という目的を支えていた。無意識の動機を否定するなら石鹸に香りをつけ忘れている

 

l  よりよい世界を築くために

消費者市場は競合する多数の選択肢を提供することで、理論にはできない方法で人の無意識を方向付けている

ものの販売に携わってきた人々は、人間の言葉と行動の違いを本能的に把握している

消費者市場のようなメカニズムは、無意識の感情的な動機と、後付けの正当化との大きな隔たりを正直に認めなければ成り立たない。政治的な不一致もこれによってもっと簡単に解決される。石鹸に香りをつけることを学びさえすればいい

福祉へのアプローチとして、複数の福祉制度を1つの最低所得と取り換える”Universal Basic Income”の議論が流行しているが、本能的に富の再配分や福祉制度を嫌う右派の人達も、平等で無差別に支給されることには好意的――「石鹸に香りをつける」政治的な思考実験の一例で、本質を変えずに感じ方を変えることによって、無意識の感情的な傾向を合理的な行動に役立てている

人はあまりにも深くバイアスが根付いているので意思決定を変えることについては悲観的だが、行動科学を用いて他人の行動をもっとよく理解できるようにはなるかもしれない

本物の「なぜ」が、公式の「なぜ」とは異なる可能性を受け入れるとともに、進化がもたらした合理性が、経済学的な考え方の合理性とはまるで異なる可能性を受け入れて欲しい

ロジカルでありたいという衝動に僅かの間でも抵抗できて、その時間を錬金術の追求に捧げられたら、どんな発見があるだろうか

 

 

 

(短評)『欲望の錬金術』R・サザーランド著

2021619 日本経済新聞

『欲望の錬金術』R・サザーランド著

企業は顧客データの収集や分析に必死になっている。だが伝説の広告人、オグルヴィUKの副会長である著者は心理学や行動学を応用した「錬金術」こそ有益だと説く。ロジックのみで人は動かないからだ。

飲み物や黒塗りタクシーなど身近なサービスや商品の事例が豊富だ。データ重視の人はいささか反発を覚えるかもしれないが、データをすべて無視しろとは言っていない。ロジカルでありたいという衝動にわずかでも抵抗してみてはどうかと投げかける。

主張は実に明快だ。真の意味で顧客中心のビジネスにするためには人々の意見を無視すべきだ。ものの価値はもの自体ではなく人の心の中にある。一体どういうことなのか疑問に感じたら一読してみてはどうだろう。金井真弓訳。(東洋経済新報社・2640円)

 

 

(書評)『欲望の錬金術 伝説の広告人が明かす不合理のマーケティング』 

ローリー・サザーランド〈著〉

202165  朝日

 情報を「体験」する生き物が人間

 ルディというワイン通の青年は、偽造の高級ワインを作った。それはよく売れたが、やがて偽造がばれてしまった。味のせいではない。ラベルが偽物だとばれたのだ。著者はルディを一種の錬金術師だという。そして高級ワインを薬効のない偽薬のようなものだという。だが偽薬とて馬鹿にはできない。なんせ人間は高価な偽薬ほど効き目が出てしまう生き物なのだから。

 人間はワインを飲むときに、ただブドウ由来のアルコール飲料を、口に入れているだけではない。産地や製法、ブランドなど、様々な情報を脳で消化している。味だけではなく情報で、ワインを飲むという体験が変わる。これに限らず、広告を生業とする著者は、情報が人間に与える効果について語る。人間を理解するには、一見正しそうなロジックに惑わされず、心理(サイコ)ロジックを知る必要があるのだという。一見正しそうなロジックとは「製品の機能は多い方が便利だから、機能を増やそう」といったものだ。

 例えばかつてウォークマンの開発で、エンジニアは録音機能を付けようとしたが、盛田昭夫は禁じた。移動しながら音楽を聴く装置であることを、はっきりさせるためだ。機能を増やすと、それが何であるかの情報がブレてしまうのだ。

 本書には情報の設計に関する様々な逸話が収められており、多くの読者は目の覚めるような気付きを得るだろう。惜しむらくは経済学について誤った記述が時折あることだ。例えば著者は「3人が損をして、1人だけが3人の総損失以上に勝つ」賭けに乗ることを、経済学が支持するかのように書く。しかしリスク回避を扱う通常の経済学は、そのような支持はしない。

 評者は経済学者なので、そうした記述の本は通常人に勧めない。にも拘わらずここで広く紹介しているという事実は、すでに情報である。この情報から、この本に強い魅力があることを推察してもよいだろう。

 評・坂井豊貴(慶応大学教授・経済学)

     *

 『欲望の錬金術 伝説の広告人が明かす不合理のマーケティング』 ローリー・サザーランド〈著〉 金井真弓訳 東洋経済新報社 2640

     *

 Rory Sutherland 広告会社オグルヴィUKの副会長で、「スペクテーター」誌のコラムニスト。ロンドン在住。

 

 

HMV 書評

人の欲望や行動を掻き立てるのはロジックではない。非効率や無駄だ! 広告会社オグルヴィUKの副会長が明かす、究極の人間行動学!

・誰もが高くてまずいと思うレッドブルはなぜ人気なのか?

・ホテルのドアマンをクビにしてはいけない理由とは?

・なぜ広告キャンペーンにアヒルを使うべきなのか?

・商品名を変えるだけでなぜ売れ行きが変わるのか?

人は客観的な品質(味や価格、量)ではなく、シグナル(小さな青い缶)によって、意思決定をしている。製品ではなく、私たちの見方を変えることで、「錬金術」は人々の心の中に価値を生み出すのだ。ロジックやスプレッドシートが成功をもたらすことはないのである。

世界的な広告代理店であるオグルヴィの英国支店の副会長で、アメリカン・エクスプレスやマイクロソフトなど、さまざまな企業と30年以上にわたり仕事をしてきた著者が、最新の科学や多くのケーススタディ、心理学の知見をもとに、不可思議な人間の行動を読み解く!

広告やマーケティングの鍵となる、「心理(サイコ)ロジック」、「コストリー・シグナリング」、「焦点錯覚(フォーカシング・イリュージョン」、「アフォーダンス」「自己プラシーボ」「心理物理学」などの、重要な概念も余すところなく伝授!

ロジックのみではヒット商品は生み出せない。ヒットを生むには、心理学や行動学を応用した錬金術(マジック)が必要である。

巧みなブランディングは商品のヒットにつながるだけではなく、様々な社会政策の推進にも役立つ。人生やビジネスにおける多くの局面で参考になる、ものの見方を教えてくれる一冊だ。

現代社会において重きを置かれているロジカルシンキングやエンジニアリングとは別の視点を与えてくれる、マーケターだけではなく、仕事のアイデアを求めている全てのビジネスパーソン必読の書。

「ページをめくるごとにすばらしい知恵が得られる。必読の書だ」ーーロバート・B・チャルディーニ(『影響力の武器』『影響力の正体』の著者)

「行動経済学に関わる何百人もの人に会ってきたが、夕食で会話をしたいと思うのはローリー・サザーランドだ」ーーナシーム・ニコラス・タレブ(『ブラック・スワン』『反脆弱性』『まぐれ』の著者)

「必読書。とても気に入っている本だ。すばらしい洞察に満ちている」ーーマット・リドレー(『繁栄』『進化は万能である』『赤の女王』『やわらかな遺伝子』の著者)

掲載されていたものです)

コメント

このブログの人気の投稿

近代数寄者の茶会記  谷晃  2021.5.1.

新 東京いい店やれる店  ホイチョイ・プロダクションズ  2013.5.26.

自由学園物語  羽仁進  2021.5.21.