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霧の彼方 須賀敦子  若松 英輔  2021.2.13.

  2021.2.13.  霧の彼方 須賀敦子   著者 若松 英輔 批評家、随筆家。 1968 年新潟県生まれ。慶應義塾大学文学部仏文科卒業。 2007 年『越知保夫とその時代  ── 求道の文学』で第 14 回三田文学新人賞を受賞。 16 年『叡知の詩学 小林秀雄と井筒俊彦』で第 2 回西脇順三郎学術賞を受賞。 18 年『詩集 見えない涙』で第 33 回詩歌文学館賞を受賞。同年『小林秀雄 美しい花』で第 16 回角川財団学芸賞を受賞、 19 年に第 16 回蓮如賞を受賞。他の著書に『井筒俊彦 ── 叡知の哲学』『霊性の哲学』『イエス伝』『詩集 愛について』などがある   発行日            2020.6.30.  第 1 刷発行 発行所            集英社   初出 『すばる』  2016 年 11 月号~ 2017 年 9 月号、 2017 年 11 月号~ 2018 年 10 月号、 2018 年 12 月号~ 2019 年 1 月号     第1章         書かれなかった言葉 作品を読む前からこの作者とは深い交わりになると感じることがあるが、須賀敦子の場合がそれで、 07 年新人賞受賞して最初に書いたのが編集長の提案だった須賀敦子論。それまで名前は耳にしたが、著書さえ持っていない フランスの哲学者ガブリエル・マルセル (1889 ~ 1973) は、「我々カトリックは、と言う時私たちは「普遍 ( カトリック ) 」の埒外にある」と言ったが、須賀が考えるカトリックはマルセルが語る「カトリック」と著しく響き合う。彼女もマルセルを読んでいるし、後に大きな影響を受けるキリスト教思想家のエマニュエル・ムーニエ (1905 ~ 50) と同時代人でその思潮の中枢にいた 須賀が日本に向けて作成した石版刷りの小冊子『どんぐりのたわごと』の第 1 号には、「ことばや頭で祈れなくとも、生きることによって祈れる。愛したいとねがって生きることそれ自体がりっぱな祈りなのだ。主とひとつになること、主を受け入れることによって、主がわれわれのうちにきて祈ってくださるということを、あまりにも信用しなさすぎるのではないか」と、尊敬する師の言葉を引用している。祈りは、人から神にささげられるだけではない。むしろ