奇妙な国字  西井辰夫 2024.12.20.

 2024.12.20. 奇妙な国字

 

著者 西井辰夫 1931年東京生まれ。東大法卒。都市銀行に入行。主として国際関係業務を担当。同行役員、造船会社その他事業会社の役員を歴任。退職後、ことばの研究に従事。現在、日本語教育研究所客員研究員。著書に『酒を搾り袖を絞る――国字と国訓を考える』

 

発行日           2009.1.13. 第1刷発行

発行所           幻冬舎ルネッサンス

 

はじめに

和語(やまとことば)を話す一方でまだ文字を持っていなかった我々の祖先が、始めて(ママ)漢字という文字に接したのがいつ頃だったかは分からないが、漢語とそれを表記するための漢字が本格的に日本に流入し、日本人が積極的にそれを受容し利用するに及んで、和語は言語としての成長を殆ど止めてしまった

漢字が表現する抽象的概念や包括的な上位概念は、和語になかったもの。完結で論理的な表現ができ、他の漢字を組み合わせて新しく語彙を殆ど無尽蔵に広げられる漢字の特性は、和語の進化を必要と感じさせないもので、日本人は漢字・漢語を自分たちの文字・表現手段とした

発音の相違は、漢語が子音で終わるものに母音を付け、日本的漢字音を作って克服

仮名を発明して、漢語にない語尾変化や助詞を付加したり、返り点を考案し、漢文を日本語として読むための特殊な文体を作り上げたりして、日本語そのものに進化させ、今や日本語は「漢語と和語で構成され、表記は漢字と仮名を混用して行う」といえる

西洋文明流入の際には、膨大は新熟語が造出され、多くが中国に輸出され使われた

漢字を日本語で読む(訓読)ほか、日本語を適切に表現する漢字が見当たらないときは、漢字を本来の意味とは違う意味に使う「国訓」という工夫をした――「花が咲く」を中国では「花開」「花発」の表現しかなく、「開く」を「さく」と読んでもいいが、「花がひらく」という日本語もあるので混同するため、正確に「さく」と読むためには別の漢字を使うしかない。そこで、本来「笑う」の意の「咲」の字を使って「花さく」を「花咲く」と表現するようになった。これが国訓

漢字をやまとことばで訓み、違う意味の字を勝手に別な意味に使っても、まだ日本語の意味を表現できないときは、その意味を示す字を創出したが、それが国字。国字は日本語の意味を表すものとして日本で作られたので、基本的に訓、つまり和語での意味を表す読み方しかない。別な漢字と結びついて熟語を作る場合には、漢字の熟語と同じく音(オン)で表す熟語となるのが普通――「働く」という国字は、「実働」「労働」などの熟語に発展

例外的に、国字の中には音だけあって訓のない字がいくつかある。特定の熟語を作るためだけに使われる変わった漢字で、6つある

本書では、外国語としての漢字を日本人がどのように受容していったかを見た上で、国字の性格に迫ってみたい。国字を作る過程で、日本人の現代まで伝わる「ものの見方」あるいは感性などを読み取っていただければ幸い

 

第1章       日本人は漢字をどう受け入れてきたか

     漢字とはどういうものか

l  漢字には4つの種類がある

漢字は西暦100年頃、後漢の学者許慎(きょしん)が『説文解字(せつもんかいじ)』を書いて、基本的な漢字の構成に関し六書(りくしょ、6種類の構成法)を説いたのが始まりと推定され、理論的な基礎が出来上がった

「六書」のうち漢字構成に関わるのは4つ――象形、指示、会意、形声

残る2つは、字の応用、転用に関するもの

象形文字は、目に見える実体あるものを、絵画的に写し取る手法によって作られた字――「日」「月」「山」など。「女」は象形文字で「男」は違うなど、疑問も多い

指示文字は、目に見えない抽象的なことを記号的、象徴的に描く手法による字――「上」「下」「刀」(「は」を指し示す)

象形・指示によるものを「文」と称し、「文」の合成により新しい漢字が作られるときそれを「字」という。「文」と「字」を総称して「文字」

会意文字は、2つ以上の文を合成し、それぞれの文の意味を総合的に組み合わせ、新しい意味を持たせた字。字の音(オン)も新しいものとなる――「林」「森」「信(「言」は「誠」の意)

形声文字は、文と文を合成して1字とし、一方(音符という)は音(オン)を表し、一方(音符という)は意味を表した字――「清」(サンズイは水のような性質を表す音符で、「青」は「セイ」の音を表す音符)、「浦」はサンズイと「甫」の組み合わせで、それに草冠という草の意の音符を加えたのが「蒲」。何万といわれる漢字の89割が形声文字

l  なぜ漢字の読みはいくつもあるのか

漢字には、もともとの中国での読み方(発音)があり、日本で中国語音を受け入れた際に日本人の発音に修正したのが「漢字音」で、さらに漢字を和語で読んだもの()がある

揚子江南岸辺りの方言が5,6世紀ごろ日本に伝わり定着したのが呉音――「行(ぎょう)

長安辺りの方言が8世紀ごろ日本に伝わり定着したのが漢音――「行(こう)

(9601279)時代の後半、両者が融合して13世紀ごろから日本に流入したのが唐音(とうおん)――「行(あん)

漢籍など儒教関係書の漢語は漢音が用いられ、仏典はおおむね呉音

l  漢文を読むための工夫

漢字音で古代中国文を読んでも意味は分からないが、漢字文のまま和語()で訓み、それで文章全体を訓み下したのが「漢文訓読」――漢文の語順を示す「レ点」や、一・二や上・中・下などの符号(一括して「返り点」という)を文に左側に書き、送り仮名や語尾変化や助詞を右側に書き込む

同音異義・同訓異義も多数輩出

l  平仄とは

中国語は、音や声調の違いが微妙、それを日本語では差別できずに同じ音(オン)を当てる

声調は4種類あって(「平声」と「仄声」3種類)、漢詩では一定の規則に従って使い分けるが、「平仄」とはこの4種類の声調のこと

l  国訓という工夫

国訓には3種類

    原義とは無関係に、日本で字形から意味を決めたもの――「椿」(原義は霊木)、「掟」(原義は「張る」)

    原義の転用――「串」(原義は「つらぬく」)、「森」(原義は木が沢山茂っている様)

    原義を訓で捉え、大きく拡大・転用する――「調」(「音楽を奏でる」を拡大)、「儲」(原義の「蓄える」を拡大)

l  熟字訓について

「和語にいかに漢字を充てるか」を考えると、国訓に似ているが、個々の漢字を直接和語に結び付けるのではなく、漢字の訓や意味を借りて和語を漢語のような形で表記することがある。これを「熟字訓」といって、常用漢字表の付表に掲げている――「お父(とう)さん」「真()っ青(さお)」「雑魚(ざこ)」「一言居士」などで、各語に共通する性格すら見つけられない

1語の和語に複数の漢字を充てたものもある――「五月雨」「梅雨」「長閑」「昨日」「田舎」「時雨」「紅葉」など、生活に溶け込んだ言葉が多い

「当て字」は、字と読みとが対応するもの――「野暮」「矢鱈」「天晴れ」「目出度い(ママ)

l  和製熟語の創出

明治時代には夥しい数の熟語が作られた――西洋文物の日本語表示のためのものが多い

西周は、学術用語の日本語化に貢献したが、国語ローマ字化論者の先駆者で、「学術上の語は原字にて用得べし」とした

 

     国字について

l  国字とは

国字は、中国渡来の漢字では日本語を表記できないときに、日本で作られた感じ

典型は、複数の漢字を合成して意味を合わせる会意文字の手法による国字――「辻(しんにょうの道と十字路の合成)」「峠(山の上りと下りの分岐点)

l  奇妙な国字

国字総数は641(異体字を除く)。うち、訓がなく音のみで読まれているが15字。そのうち、特定の1つの漢字と結びついて熟語を作るためのみ使われているのが6

     燵――火燵(コタツ)

     繧――繧繝(ウンゲン、色の濃淡を組合わせた彩色法で「暈繝」とも書く、「繝」はあや、にしき模様)

     纐――纐纈(コウケツ/コウケチ、絞り染め、「纈」は絞り染めの布、かすみ目)

     金盡(1)――金盡(1)(ジントウ、神頭・磁頭とも、的矢の鏃(やじり)の一種)

     饂――饂飩(ウドン/ウンドン、饂の旁は温かいという意味の字)

     鱇――鮟鱇(アンコウ、日本で「あんがう」という魚を表すために音読みで魚偏の2字を使って作字)

金盡(1)筒は、室町時代の辞書に1例あるだけで、死滅した言葉

繧繝や饂飩は、熟語の下の字が漢語で上の字が国字ということは、漢語で表されたものが日本で変形発展して新たな製品が出来上がったことを示す

火燵と纐纈は、どちらも漢語と国字の合成熟語だが、字を一見しても意味をイメージできない。本書ではこの2字を取り上げる

音読みの、特殊な用途しかない国字が出来た謎を解くことが、国字の持つ意義を考え直す機会になるであろう

 

(コラム①) 同訓異義――耳で見る?

漢字が渡来した際、違った発音をする多数の漢字を1つの音(オン)にまとめた。同音異義の字が多いことは日本語の問題点の1つだが、同訓異義も漢文解釈上難しい問題を引き起こす――例として「見る」を取り上げる

歌舞伎のイヤホンガイドの宣伝文句は「耳で観る歌舞妓」とあり、言い得て妙

「みる」と訓む字は200ほどあるが、そのうち「目」が構成要素となっている字は、

目――見る、目をつけて見る――目撃、目送

看――手をかざして見る、見守る――看過、看破、看病

省――注意して詳しく見る――省察

他にも、相、眺、眼、督、視、覧、観。「みる」の意味を持つ漢字として展、監

常用漢字表は多くの熟語を許容しながら、「みる」の訓を許しているのは「見」のみ。一方で、「まみえる」(「会う」の謙譲語)の訓は与えないのは、漢文を読む時に困る

 

第2章       火燵の「燵」はどう作られたか

     火燵以前の話

l  火桶と火櫃

火燵の起源は、室町時代中期の禅家。置き火燵は江戸から

平安時代の火桶、火櫃(ひびつ)、炭櫃(すびつ)も火鉢――火桶は丸火鉢、火櫃は角火鉢か

l  炭櫃とは

囲炉裏か角火鉢

l  地火炉(ちひろ?)について

囲炉裏の類で、料理用の炉と考えられる

l  火炉(かろ)は炉の総称

囲炉裏から火鉢まで、火を使って暖房や調理に使われた炉をひっくるめて火炉という

 

     火燵の話

l  火燵はかつてこう表記されていた

火燵は火炉の応用

火は唐音の火()、榻(タツ)は脚榻(きゃたつ)と同じで床や櫓のこと。コタツは火を取り囲んだ櫓の意で、語源は「火榻子の唐宋音に由来する」説が有力

唐宋音については、中国の宋・元時代の発音が鎌倉時代に日本に伝えられ「宋音」となり、江戸時代に伝えられた「唐音」と合わせて「唐宋音」と呼ぶ

l  開音節と促音

中国渡来の漢字の音がそのままに近い形で定着したのが漢字音

日本語の音節は母音で終わる「開音節」だが、漢字では子音で終わる(韻尾)語があり、特にt,k,p3つは「入声韻尾(にっしょういんび)」と呼ばれ日本語になかったため、母音をつけて読んだ

l  平安時代に起こった漢字音の変化

遣唐使廃止後は、日本国内で独自に発展。最大の変化がハ行転呼音で、ハ行子音はpΦ()wに変化。その過程でΦ」に促音化が現れる

l  唐音の導入

l  榻という字

火榻子の漢音は「クワタフシ」。榻は漢音「トウ」で、歴史的仮名遣いでは「タフ」(韻尾がp)

l  入声韻尾は消失していたか

l  火榻子

l  コタツは中国から渡来したものではない

l  榻はこしかけのことであり、牛車(ぎっしゃ)の付属品

l  火踏子と火燵

中国の火踏子は脚炉であり、灰に炭火を埋()けたもの

l  「燵」は国字

(オン)が先行し「火」に関係する意味を持たせた作字、手法としては形声字で、作られた字はそれ自体の意味を持たず、義を欠いた字

同じ字が中国にもあった場合は国字ではないが、『康煕字典』に至るまで見当たらない

 

(コラム②) 漢字と部首のはなし

『康煕字典』は、部首の建て方についても統一基準を樹立。ただし、原則不明もある

「三」の部首が「一」で「五」の部首が「二」だったり、「相」の部首が「目」、「守」はウ冠なのに、「学」の部首は「子」など。そこに当用漢字の採用が拍車をかけ、「萬」は艸冠なのに「万」は部首「一」に所属替え。「単」のように新しい部首「」が作られ、音(オン)も意味もない「字」ではないものを部首に据え、「部首は部の首(あたま)に立つ「字」である」という大原則を破壊

 

第3章       纐纈の「纐」はどう作られたか

     (ゆはた)とは何か

l  天平の三纈

染色技術は日本の誇る文化――絞り染め、辻が花、更紗(さらさ)、友禅、茶屋染め、江戸小紋など

纐纈、夾纈(きょうけつ)、臈纈(ろうけつ)を天平の三纈といい、布を染める時の文様を作るための防染のやり方が異なる

纐纈はしぼり染めのこと。天平時代は纈(ゆはた)と呼ばれ、生地を硬く結んで染料液が入らないようにする防染技法を意味。もともと中国にあった技法が日本で発展した

夾纈も中国渡来の技法で、2枚の板のそれぞれの片面に、模様の防染する部分を凸型に彫刻し、2枚の板に生地を挟んで硬く縛り、凹部に穴から染料を流し込んで染めたもの

l  『日本書紀』と『万葉集』に登場する「纈」

「結()ひ幡(はた)」「夾纈(ゆひはた)」「纐纈(ゆふはた)」などがあり、「ゆひ」はしぼり染めを意味する言葉として長く使われたが、当時のしぼり染めは皺などを完全に伸ばしており、後世の凹凸や皺を尊重したしぼり染めとは異なる

l  目交はしぼり染めのことか

天平に見える「目交」は、しぼり染めのことと解されているが、

夾纈・臈纈に混ざって、目交夾纈・目交臈纈の表記も見られ、しぼりの技法が従来と異なり夾纈・臈纈風に見える鹿子絞で作った裂(れつ、布地)のことで、しぼり染め一般をさす言葉ではないように思われる

l  『法隆寺献物帳』(756)に表れる(ママ)

夾纈・臈纈とは別に「纈」があったことが確認できる

l  『西大寺資財流()記帳』(780)に見る交纈と甲纈

『法隆寺献物帳』と同様多くの「纈」の記載がある。「交纈」「甲纈」も頻出するが区別は不詳

l  『神宮寺伽藍縁起並資財帳』(801)と『皇大神宮儀式帳』(804)の押纈と甲纈

『神宮寺』に「押纈」の表記が見られるが、「甲纈」のように思える

『皇大神宮』にも甲纈が見られる

l  上流階級の女子の装束には纈が使われていた

『令義解(りょうのぎげ)(834)は、養老律令の公式注解書で、衣服令を見ると、女子の裙(もすそ)に纈が幅広く使われている

l  『続日本紀』(797)などに見る纈と夾纈

「纈羅」(絞り染のうすぎぬ)があり、『続日本後紀』(869)には「夾纈」が見える

 

     纐纈はいつ頃から使われた言葉か

l  10世紀には国字として成立

10世紀の和歌に「纐纈」が、「水面に纐纈の花が現れる」との表現が出る

l  作字の謎

しぼり染めが日本では纈(ゆはた)と呼ばれていたとすれば、音で読む必要があればケツと読めば足りるのに、なぜ作字が必要となったのかは不明。漢字は2字熟語の形をとると最も安定する性質がある。夾纈は、平安以後文献からは消えていったのは夾纈の技術が衰退したからだろう

 

     成立までの四つの可能性

l  纐の作字 その1 絞+頁

律令の施行細則を定めた『延喜式』(927)に、「絞紗」1匹を染めるための材料の記載がある。「絞(ククル)」は染め方を表す。「くくる」は「まとめて結ぶ」の意

岐阜県可児市久々利の地名の由来は、纐纈の産地だったこと

「絞」を基にくくり染めを示す「纐」が作字され、「頁」と組み合わせたのは「纈」に倣ったもの

「しぼり染め」という言葉が生まれた時期は不明だが、もっと後世になって生まれたのではないか。18世紀の書に「纐纈とはくくし染の事也。今時しぼり染という物也」とある

l  纐の作字 その2 糸+交頁(1)

形声」による作字とする説もあるが、「交頁(1)」の意は「媚びないこと」でしぼり染めとは関係ないので、無理がある

l  纐の作字 その3 交+糸+頁

「交纈」という表記はあるが別物

l  纐の作字 その4 夾→糸夾頁(1)→纐

夾の字を基に、熟語構成上「纈」との整合性を求めて糸と頁を加え「糸夾頁(1)纈」という表現が生まれ、書き誤りによって「纐纈」になったのではないか

l  纐が姓になると、どう読まれるか

「纐」の姓があり「くくり」と読まれる。「纐」または「纐纈」で「はなぶさ」や「きくとじ」と読む

「はなぶさ」は、古くは蕚(がく)のこと。「きくとじ」は古い言葉で、水干や直垂などの縫い目に綴じつけた飾りで、形が菊の花に似ているところからきたもので、関連は不明

l  読みと字の変化

しぼり染めを表す言葉として、纐纈の外に纈、甲纈、目交、作目、目染め、目結などある

纐の作字その4の私の考えが正しければ、「纐」の訓みは「夾」と同じ。「糸夾頁(1)纈」から「纐纈」への変化は長い間揺れている

「纐」は「カウ」の音を持つがその字自体の意味を持たず、「纐纈」の熟語を作る機能しかない

 

(コラム③) 漢字音の変化は今も続いている

「人生」を「ジンセー」と読むか「ジンセイ」と読むか

1986年の内閣告示「現代仮名遣い」では、「オ行の長音はオ列の仮名に「ウ」を添える」とされているが、発音は長音であり、17世紀末には統一されていたらしい

和語では、まだ長音への音韻変化は完了していない――「責任を負う」「栄耀栄華」

英語の二重母音は長音で写し取られるのが普通――「ゲーム」「テーブル」

 

おわりに

国字は、借り物であった漢語・漢字を自分勝手に扱いこなすようになったことの表れであり、漢字の持つ制限の中で日本語を発展させていったことを物語る

日本人の知恵と適応力の結実したものが「奇妙な国字」の正体

ところが、現代に作字された国字の中に、日本人が守ってきたこの作字の原則を無視して安易に作られたものがある。ここでいうのは、「常用漢字」の中に一般に慣用されている略字を採用したなどとして指定されたいくつかの新字体の字のことである

例えば、「広」で、「廣(コウ)」の音符の「黄(コウ)」を「ム」に変えてなぜ「広」を「コウ」と読めるのか。「仏」も同じで、「ム」は字画の多い漢字素を略して略字を作るための記号・符丁であり、符丁を正字に取り込んで音符を無視してよいのだろうか。中国の簡化字も随分極端に略体化しているが、それでも音符を共有する同音の文字群は出来るだけ保存するなど、漢字構成についての配慮はそれなりになされている。日本ではもっとこの点の配慮が必要だったのではないか

中国の簡化字も日本の略体化も、漢字の字形は如何に簡単に書くか、画数を減らすかという方向で変化してきた流れにあるが、昔の日本人が「夾」→「纐」という字の複雑化をやったのは不思議な気がする。それは、「纐纈」という優れた染織品に与えられる名称は、製品に相応しく、重厚で均整のとれた美しい熟語が望ましいという気持ちの表れに他ならない。皆が正式に認める字はそれなりの合理性と美しさを持っているべきで、「纐」の字の成立はそういう日本人の感性を示していると思う

漢字制限と新字体の指定は、日本語の持つ表情や艶を多く失わせた。それに拍車をかけるのがカタカナ語の氾濫。日本語は昔から「和語と漢語で構成され、仮名と漢字で表記」されてきた。この表記方法を維持し表現の豊かさを保つため、国字を生むなど様々な工夫がなされてきた

言葉の意味を考え、熟慮を重ねたうえで国字を作り出す努力など、最早必要とされなくなったのだろうか。杞憂であってほしい

 

 

 

 

 

 

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奇妙な国字

訓がなく、特定の漢字と結びついて熟語を作る奇妙な国字の謎に迫る。

著者 西井 辰夫 出版年月日 2009-01-13

内容紹介

国字とは、日本で作られた漢字のことである。日本語の意味を表わすものとして日本で作られた国字には、基本的に訓、つまり和語での意味を表す読み方しかない。ところが、国字の中には、音だけがあって訓のない字がいくつかある。さらに、そうした国字のうち、特定の漢字と結びついて熟語を作るためにのみ使われるという変わった漢字が6つある。そのうち、「火燵(こたつ)」の「燵(たつ)」と「纐纈(こうけつ)」の「纐(けつ)」という2つの奇妙な国字について、本書で詳述する。

 

 

 

Wikipedia

国字(こくじ)は、中国以外の国で作られた、独自の漢字体の文字である。

広義では方言文字・職域文字・個人文字や仮名合字も含む。学者によって定義・解釈が異なり、調査が不十分であるなどの理由から、国字とされる文字にも疑義がある場合が多く、逆に文献・文書の調査が不十分なため漏れた文字も多い。

l  日本の国字

和字・倭字・皇朝造字・和製漢字などとも呼ばれる。会意に倣って作られることが多い。峠(とうげ)・榊(さかき)・畑/畠(はたけ)・辻(つじ)など古く作られたものと、西洋文明の影響で近代に作られた膵(スイ)・腺(セン)・腟 (チツ、本来はシツ)・瓩(キログラム)・粁(キロメートル)・竓(ミリリットル)などがある。主にのみであるが、働(はたらく・ドウ)のようにがあるものもあり、鋲(ビョウ)・鱇(コウ)など音のみのものもある。「錻」には「錻力」と表記したときの音読み「ブ」と、「錻」一字で表記することで音読みから派生した訓読み「ぶりき」がある。また、匂(匀+ヒ)の様に構成要素に片仮名が使われる事も有る。

中国などに同じ字体の字があることを知らずに作ったと考えられる文字〔「俥(くるま・じんりきしゃ)」・「閖(ゆり・しなたりくぼ)」・「鯏(あさり)」・「鞄(かばん)」など〕や、漢字に新たな意味を追加したもの〔「森(もり)」・「椿(つばき)」・「沖(おき)」など〕は、国字とは呼ばず、その訓に着目して国訓(こっくん)と呼ばれる。中国などで意味が失われているもの〔「雫(しずく)」など〕は、中国などで失われた意味が日本に残った可能性も否定できず、国訓ともいえない。国訓のある文字に着目して、国訓字と呼ばれることもあるが、一般的ではない。

日本で作られた国字の輸出現象も見られる(「鱈(たら)」など)。また、姓の「畑(はた)」は中国でも日本人の姓を表記するために用いられて、『新華字典』などの字書にも収録されているが、つくり(音符)の「田」の中国語音(tián)で読まれている。

〔「鰮(いわし)」・「鱚(きす)」など〕のように、中国にもともと同じ字体の字があり、日本で使われる意味を加えて使っている字もあるが、これらには、現在は使われなくとも、別に漢字本来の意味があるため、国字とは言えない。

国字かどうかの判断は難しく、「」は中国で古くから「銭」の異体字として使われていた字であるために国字ではないが、辞典類ではしばしば国字とされる。

l  朝鮮半島の国字

朝鮮半島でも独自の漢字が作られている。日本の国字と異なり、主に形声に倣って作られている。朝鮮国字の場合、構成要素に漢字の他、ハングルが使われる(ただしハングルそのものは構成要素が漢字とは共通しないので国字とは言えない)。日本同様に漢字に意味を追加したものを朝鮮では国義字といい、音を追加したものを国音字と呼ぶ[要出典]

l  ベトナムの国字

ベトナム語を表記するために作られた漢字。しかし最近では字体の統一性がないなどの理由から、ラテン文字に立場を取って変わられている。

l  その他の地域

女真文字契丹文字漢字に倣って作られたが、その民族の国家が滅亡して長期間が経過したためか、国字とは呼ばれない。壮族の作った古壮字も漢字に倣ったものであるが、中国の一少数民族であるためか、国字とは呼ばれない。西夏文字も構成方法は漢字を踏襲しているが、部品が漢字とは共通しないので、国字とは言えない。

 

 

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