妄想古文  三宅香帆  2024.11.30.

 2024.11.30. (萌えすぎて)絶対忘れない! 妄想古文

 

著者 三宅香帆 作家・書評家。1994年高知県生まれ。京大大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。大学院時代の専門は萬葉集。院在学中に書籍執筆を開始。京都市立芸術大学非常勤講師

 

発行日           2022.10.20. 初版印刷  10.30. 初版発行 

発行所           河出書房新社 (14歳の世渡り術」シリーズ)

 

2024年、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』にて、「第2回書店員が選ぶノンフィクション大賞2024」を受賞し、「第17回オリコン年間本ランキング2024」の新書部門においても年間1位を記録したニュースを見て興味

 

 

まえがき

本書で伝えるのは、古文のおいしい部分。それは古文で描かれている、人間関係の面白さを知ること。「推しカップリングを見つけること」

『枕草子』は、清少納言が藤原定子との7年間の思い出を綴った日記。定子からもらった紙束を、清少納言は「枕にする」と言って、その紙に思い出を書いた

 

第1章   百合が生んだ日本一有名なエッセイ――枕草子

『枕草子』中宮定子×清少納言

l  日本最古の百合にして布教ファンブログ

清少納言は自身の才気を「推し」に捧げるアツい女。『枕草子』は日本で初めて誕生した「推し」の布教ファンブログ

l  百合物語としての『枕草子』

女性同士の親密な関係は「百合」と呼ばれる。上下関係の入った百合こそ『枕草子』

l  定子と清少納言の出会い

中心は一条天皇の中宮・定子の日常。清少納言は17歳のシングルマザー

l  「私のこと、好き?」

定子の母は、円融天皇の内裏で働く管理職。後の関白藤原道隆の妻となり、天皇に入内させるつもりで育てた娘が定子。その定子が、自身の教養部分を共有できる相手としての素質を清少納言に見出して蜜月関係になる

l  遠距離になっても……

宮中の人間関係に悩んで故郷に帰った清少納言の下に定子から封書には山吹の花びらが1枚に添え書きが言はで思ふぞ。定子の強い想いが詰まっていた

『古今和歌六帖』の歌「心には下行く水のわきかへり言はで思ふぞ言ふにまされる」(恋心は、心の中で地下水の如く、口には出さないが、口に出すよりずっと強い想いだ)

『古今和歌集』の歌「山吹の花色衣ぬしや誰問へど答へずくちなしにして」(山吹色の衣に「持主は誰」と聞いても答えない。山吹色の染料は「クチナシ(口無し)なので」)

l  描かれなかった定子の政変

定子は波乱万丈の後半生を送るが、『源氏物語』桐壺更衣のモデルともいわれる

道隆の死後、嫡男伊周は叔父道長との政権争いに巻き込まれ、定子は出家・還俗を繰り返す

l  別れは描かない

跋文(あとがき)には、「紙束を枕にしたい」といったのが『枕草子』の由来だとあるが、同時に「故郷に帰った時、中宮を恋しく思いながら宮中の思い出を書き始めた」ともあり、定子の死後に書いた可能性は高い。道長の娘彰子は定子の第1皇子出産と同日、一条天皇の女御(にょうご、后の位の1つで、中宮の下で更衣の上)となっていた。道長は邪魔になった定子を遠ざけ、定子は失意のうちに死ぬが、『枕草子』に定子との別れは描かれていない

l  推し、描く

清少納言にとって定子は「推し」そのもの。定子との戻らない日々を、言葉で保存で残したのが『枕草子』で、定子の鎮魂のために書いたもの(山本淳子説)

 

第2章   天才作家の仕事、恋愛、シスターフッド――源氏物語

『源氏物語』紫式部×清少納言、紫式部×藤原道長、紫式部×女の子?

l  「彰子モテ作戦」で招かれた紫式部

漢詩好きの一条天皇のために、道長が娘彰子の入内に合わせてつけた女房が『源氏物語』で評判になっていた紫式部

l  紫式部×清少納言 時代を超えた小説家VSエッセイスト対決

紫式部の素性は謎。両者の経歴には共通点が多い――田舎の主婦、バツイチのシングルマザー、年下の后に女房として仕えその日常を紙に残す、漢詩の知識豊富、父親も学識者・歌人

紫式部は、会ったこともない清少納言の悪口を日記に書く――漢詩の知識は未熟で、感性だけで売っているとしたが、併せて自分への自信のなさも書いている

『枕草子』がエッセイなら、『源氏物語』は小説

l  「女だなんてもったいない」紫式部の抑圧

紫式部は描写力が高い。自虐癖があり、自分の知識量や能力を隠すことに腐心するが、周囲の仕事ぶりへの不満は募る。その自己肯定感の低さと抑圧こそが物語を書かせたのだろう

l  奇跡の国風文化――女性を描き切った大長編の誕生

11世紀に「女性が主人公の大長編の物語」が存在していた国は珍しい

道長の財力サポートがなければ存在しない

l  紫式部×藤原道長 パトロン兼ファンと作者の色っぽいやりとり

道長が作品のファン。物語を元ネタにした両者の色っぽい和歌のやりとりが見られる

「すきものと名にし立てれば見る人の折()らで過ぐるはあらじとぞ思ふ」(すっぱくておいしいと評判の梅の枝を、折らずに通り過ぎる人がいないように、「光源氏並みに恋愛に達者な人らしい」と評判の『源氏物語』作者を前に、口説かないわけにはいかない)

「人にまだ折られぬものを誰(たれ)かこのすきものぞとは口ならしけむ」(まだ折られていないのに、どうしてこの梅がすっぱいなんてわかるのか? まだ私は男性に味わわれていないのに、どうしてそんな評判が立つのか)

紫式部日記の冒頭には、道長が女郎花の花を折って几帳越しに紫式部に差し出し、お互い和歌を交換し合う場面が描かれている

 

l  紫式部×女の子? 意外に女性との仲もアツい紫式部

紫式部は女性を描いたほうが上手。弁の宰相の君の部屋で寝ていた可愛い女の子をはじめ、『源氏物語』の多種多様なヒロインの描写は圧巻。女性同士の関係もうまく描いている

 

第3章   男女だけじゃない! 百合もBLもありのハーレム絵巻――源氏物語

『源氏物語』桐壺更衣×桐壺帝、光源氏×藤壺、明石の君×紫の上、光源氏×空蝉、頭中将×光源氏、紫式部×紫の上

l  桐壺更衣×桐壺帝 シンデレラストーリーは突然に

父・桐壺帝の命で臣籍降下となったがゆえに自由恋愛が許された光源氏。その母・桐壺更衣は身分は低かったが桐壺帝の寵愛を受け、前妻の弘徽殿女御(こきでんのにょうご)など周囲の女性から疎まれる。大納言の娘で後宮入りを熱望、父の死を越えて夢を果たしたが早逝

l  光源氏×藤壺 紫式部、伏線の張り方がうますぎる

桐壺更衣と瓜2つの容貌から桐壺帝の後妻となるが、光源氏と密通した藤壺。その藤壺と面影が似ていたが故に、小さいときから源氏に育てられ妻となる物語第1のヒロイン・紫の上。身分が低いながらも源氏に言い寄られるが、彼を振った空蝉。源氏の最初の正妻となるが、六条御息所の生霊に取りつかれて亡くなる葵上。身分も教養も容姿も完璧なのに、嫉妬から葵上に取り憑いてしまった六条御息所。素直で従順で可憐だが物の怪に取り憑かれた夕顔。夕顔の娘で源氏の美貌の養女で髯黒の妻になった玉鬘(かずら)。華やかで奔放、源氏と天皇の二股をかけた朧月夜。朧月夜との恋が原因で都から離れた源氏が明石で妻とし子どもまで設けた明石の君。教養のない源氏の正妻で柏木と密通し子どもまで産んだ女三宮。心優しき花散里。ひどい容姿の末摘花。源氏を相手にしなかった朝顔の姫君。源氏の息子夕霧と幼馴染の恋を経た雲居雁。「宇治十帖」で突然恋愛物語の主人公になった浮舟

単純なハッピーエンドを迎えた人は1人もいない

女性が恋愛を介して幸せになることはほとんどない、というのが紫式部のポリシーで、『源氏物語』全般を覆う1つのテーマ

l  明石の君×紫の上 子どもをめぐるエトセトラ

意外と幸せに暮らしたと感じる人物の共通項は「受領階級出身の女」で、紫式部の出自と同じ

受領とは田舎の中小貴族、本来後宮に入れる身分ではない

源氏の娘を生んだのは明石の君ただ1人。受領の娘でシンデレラストーリーとなる。源氏の一番愛した妻・紫の上は「子宝に恵まれない」事実に苦悩しながら、明石の君の娘を育てる

最終的に出会った紫の上と明石の君は、女性同士お互いの優れたところを認め合い、シスターフッドともいうべき関係が生まれる。『源氏物語』名場面の1

l  光源氏×空蝉 光源氏と結ばれないハッピーヒロイン

空蝉も受領階級のヒロイン。源氏の夜這いから逃れた空蝉だが、夫の死後源氏の屋敷に引き取られる

l  頭中将×光源氏 元祖BL萌えはここから!

空蝉の弟・小君(こぎみ)のことを源氏は気に入っていた

「紅葉賀(もみじのが)」の巻では、58歳のお婆さんを源氏と頭中将が奪い合う

l  紫式部×紫の上 シンデレラは傷ついていた

「男性に言い寄られることは、女性にとって、時に恐怖である」ことを真正面から描いている

男性と結婚する以外に生きる道のない女たちを悲劇的に描く。シンデレラは必ずしも幸福ではなかった。紫の上の初夜のエピソードは襲われた女性の恐怖と、本気で恐怖と感じていることに気づいていない男性の両方が、きちんと描写されている

 

第4章   無限カップリング天国と主従モノ――伊勢物語・落窪物語

『伊勢物語』在原業平×伊勢の斎宮、在原業平×藤原高子

『落窪物語』落窪の君×阿漕

l  『源氏物語』=ポストモダン文学?

物語の決着がきちんとつかない、読者に解釈を委ねる文学を「ポストモダン文学」という。欧米では最近のことなのに、日本には既に11世紀に『源氏物語』が生まれているのは、それ以前に「モダン文学」があったから

l  「歌物語」はミュージカル、「作り物語」は演劇

『源氏物語』以前は、「歌物語」と「作り物語」があり、前者はメインが和歌で、歌が詠まれることになった経緯を伝えるもの、代表作が『伊勢物語』『大和物語』『平中(へいちゅう)物語』など。後者はフィクションで、物語を楽しむことがメイン。代表作は『竹取物語』『宇津保物語』『落窪物語』

l  なぜタイトルは『伊勢物語』なのか?

『伊勢物語』は、大抵の物語が「昔、男ありけり」で始まる。男の正体は在原業平で、多種多様な恋物語を描く。作者も、題名の由来も不詳

l  『伊勢物語』在原業平×伊勢の斎宮 禁じられた2

鷹狩に行った勅使を斎宮がもてなす。勅使の誘いに斎宮が乗って一夜を過ごすが何事もなく終わる

l  在原業平、ジャニーズにいそうな歌人No.1

次の日の逢瀬を約するが結局会えず仕舞い、またの機会を約束して別れる

冒頭に「狩の使」が来ていることから『伊勢物語』と呼ばれても不思議ではない

l  ゴシップ的追記文の謎

「狩の使」の最後には、斎宮の実名が追加されているが、後世に付加されたともいわれる

『源氏物語』の「朝顔」の巻にも加茂神社に仕える「斎院(さいいん)=朝顔の姫君」が登場

l  在原業平×藤原高子(たかこ) モテ男すら翻弄する「アザトカワイイ」

最近の言葉「あざとい」は、自分をわざと可愛く見せる仕草や言動のこと

「芥川」の章は、業平が高貴な女性を盗み出したが鬼に食べられてしまった話。女性は草の上の露を見て「あれは、なに?」と聞く。そのあざとさはたまらない

l  白玉の和歌に想いはたくされて

「芥川」の章、女性は藤原高子(通商二条后)で、鬼は彼女の兄弟だと付記されている。お后候補の高子と業平が密会しているのを知った兄弟が彼を遠ざけたということらしい

l  『落窪物語』落窪の君×阿漕(あこぎ) 継母にいじめられる! 平安時代のシンデレラ

『落窪物語』は、西洋のシンデレラストーリーそのもの

継母にいじめられる落窪の君を助けに来たのが右近の少将・藤原道頼。下ネタで笑わせるが、物語の最大の魅力は落窪と阿漕の主従関係にある

l  「お姫様にしてよ!」ネガティブな姫×ポジティブな女房

全編にわたり姫と女房との関係性が詳細に描かれる

中国の文学の影響が大きく見て取れ、下ネタ満載なところから、男性の知識階級の人が書いたといわれる

 

第5章   二次元に恋して、二次創作に励んで――更級日記・とりかへばや物語

『更級日記』菅原孝標女×妄想・光源氏、孝標女×妄想・薫の君、孝標女×現実の男

『浜松中納言物語』中納言×唐后

『とりかへばや物語』中将×四の君、中将×中納言

『有明の別れ』中納言×対の上

l  『更級日記』菅原孝標女(たかすえのむすめ妄想・光源氏 平安時代もヲタクに恋は難しい

上総で育ち京に上った『源氏物語』オタク少女の日記。『源氏物語』全50余巻を通読

l  孝標女×妄想・薫の君 プリティ・プリンセス願望

『長恨歌』も読みたがる。『源氏物語』に多大なる影響を与えた文学だが、どこまで引用元と思っているかは分からない

宮仕えの苦労話に続いて結婚

l  孝標女×現実の男 文学少女が夢見る頃を過ぎても

33歳の晩婚。結婚・出産など女の人生についての記述はなく、物語と宗教が2大テーマ

l  孝標女と亡き夫――彼女の中年時代

子供は生まれたが、夫が早逝。物語や和歌に現を抜かしていた自分を後悔し、信仰に目覚める

夫を亡くして日記を書き始めたが、他にも物語を書いた形跡がある

l  『浜松中納言物語』中納言×唐后 まさかの転生ネタ――振り返れば孝標女がいる?

藤原定家が、「『夜半の寝覚』『近松』の作者は孝標女との言い伝えがある」と述べている

『近松』は、『源氏物語』の生まれ変わり。オタクの妄想したライトノベル二次創作ともいえる作品。三島由紀夫の『豊饒の海」は、この話にインスピレーションを受けて作られた

l  『とりかへばや物語』中将×()の君 みんな大好き男女逆転・源氏二次創作

平安後期の王朝物語には、今に通じるものが多い。『とりかへばや物語』は新海監督がインスピレーションを得て《君の名は。》に繋がる

関白が息子を姫君、娘を若君として育て、若君は右大臣の婿となり中納言となるが、右大臣の娘は若君の友人の宰相中将と密通、さらに中将は中納言にも言い寄る

l  『とりかへばや物語』中将×中納言 性別よりも、君の名は?

ジェンダーの揺らぎを描いた古典文学作品が、今も形を変えながら、少女たちに受容されている

l  『有明の別れ』中納言×対の上 ジェンダーの攪拌と平安文学

ジェンダーをテーマにした有名な古典文学作品が『有明の別れ』。最近写本が発見された

神のお告げで男装し右大将として生きるが、帝に正体を知られ、契りを結んだ後は女性として第2の人生を送る

『とりかへばや物語』や『有明の別れ』のようなジェンダー意識を攪拌するような物語が11世紀に成立していたのも奇跡

 

第6章   古文イチ妄想捗る! 歌の外にある関係性――万葉集

『万葉集』額田王×大海人皇子、額田王×鏡王女(かがみのおおきみ)、石川郎女(いしかわのいらつめ久米禅師、竹取のおじいさん×かぐや姫?

l  万葉集は最古のSNS!

奈良時代、和歌はこうあるべきという規範が少なく、日常の気分や愚痴、ダジャレや宴会芸まですべて和歌にしていた。あらゆる階層の130年間(629759)の言葉が4500首の和歌として収められたのが『万葉集』

l  額田王×大海人皇子 授業では習わない三角関係のウソ

飛鳥時代の額田王の歌、「あかねさす紫草野(むらさきの)行き標野(しめの)行き野守(のもり)は見ずや君が袖振る」――天智天皇の妻が、天皇の弟大海人皇子と不倫、皇子の振舞に警告した歌で、「標野(立ち入り禁止の野)に入って手を振ったのでは見張りにばれてしまう」の意。標野は人妻の自分であり、見張りは天皇のことだが、恋歌の分類である「相聞」ではなく「雑歌」に分類されているところから類推すると、狩りの後の宴での遊びの歌と見るべき

l  額田王×鏡王女 正反対のシンメトリー女流歌人

額田王は、斉明天皇に和歌の才能を見出され、天皇に代わって和歌を詠む女官として仕えていたらしい。その姉妹が鏡王女。天智天皇の後宮に仕え、鎌足の正妻。額田王が大胆かつ鮮やかな歌を詠んだのに対し、鏡王女は控えめ、キャラの違いが歌から読み取れる

l  石川郎女×久米禅師 賢い女性は最強!

『万葉集』では、賢い女性が一番最高にかっこよくて可愛い

石川郎女は身分は低かったが、何人もの男性と歌を交わしている。初めて登場するのが久米禅師との恋愛贈答歌。年嵩の身分の高い禅師が口説く歌から始まり5首のやりとりが続くが、郎女の返しが上手で、年嵩の禅師が絡め捕られていく

l  竹取のおじいさん×かぐや姫? 『万葉集』版・竹取物語の正体

『万葉集』の巻16は短篇エピソード集。平安時代の「作り物語」「歌物語」の元ネタとなる話が多数収録されているが、その中の『竹取の翁の歌』も、『竹取物語』の元ネタ。『竹取物語』には中国の漢詩文の影響も多く見られ、万葉集と漢籍の二次創作のようなものだった

大量のパスティーシュ(模倣・寄せ集め)、つまりは模倣の混沌が、きっと創作物を生み出す

 

第7章   どう編む? 人間ドラマ渦巻く歌集制作現場――古今和歌集

『古今和歌集』醍醐天皇×紀貫之、紀友則×紀貫之、紀貫之×凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)、凡河内躬恒×小野小町、藤原顕輔(あきすけ藤原清輔

l  和歌を推していこう!

身分も高くないただの中流貴族だった紀貫之に勅撰和歌集編纂の大命が下った背景には、万葉集以来漢詩・漢文に押された和歌の地位向上の狙いがある。日本最古の勅撰漢詩文集『凌雲集』は、勅撰和歌集よりも早く9世紀初め。『古今集』の和歌には漢詩を題材にした歌が多いのはそのためであり、和歌よりさらに地位の低い「物語」だった『源氏物語』が評判となったのは、教養ある紫式部が高尚とされた漢詩文の引用やオマージュを大量に挿入したから

l  醍醐天皇×紀貫之 最強のアンソロジー・ベストアルバムを作れ!

勅撰和歌集は、平安時代文化人の晴れ舞台となる

藤原氏一族の時代を綴った歴史物語『大鏡』に、『古今集』編纂時のエピソードが登場

ほととぎすがまだ忍音(しのびね、慣れない声で鳴くこと)の頃、忍音に夢中になった醍醐天皇が貫之に詠ませた歌が、「こと夏はいかが鳴きけむほととぎすこの宵ばかリあやしきぞなき」(昨年までの夏はどう鳴いていたのだっけ。今夜くらいほととぎすの鳴き声を素晴らしく感じたことはない)。受領階級の貫之は、「御書所預(ごしょどころあずかり)(司書のような役職)に過ぎなかったが、勅撰集の選者の中心となって編纂をリード、配列や部の立て方は貫之の発案、「仮名序」まで書き、現実や仕事で嫌なこと煩わしいことがあっても、それでもそこで感じたことを和歌に出来る、それこそが文学なのだという自身の意志表明をしている

l  紀友則×紀貫之 勅撰歌人は平安アベンジャーズ(スーパーヒーローの映画より)?

撰者の貫之、紀友則、凡河内(おおしこうち)躬恒、壬生忠岑(ただみね)4人とも位階は高くないが、4人の歌が全体の2割以上を占める異例の多さ。友則は完成直前に死去

l  紀貫之×凡河内躬恒 なんて平安のビートルズ

躬恒は宇多法皇のお気に入り。貫之と12を争う間柄

l  再びゴールデンコンビ

平安後期の歌論『俊頼(としより)髄脳』には、貫之・躬恒コンビの連歌(現代の謎かけ)が収録

「奥山に船漕ぐ音の聞こゆるは」(躬恒)――意味不明の謎かけに対し

「なれる木()の実()やうみわたるらむ」(貫之)――「木の実が海を渡っているかのように一面に熟しているからだろう」、と答える。「海」と「熟()み」、「海渡る」と「熟み渡る」をかける

l  凡河内躬恒×小野小町 「歌同士」の関係性から生まれた二次創作

2人が同じ秋の夜長を詠んだ句が並列されている。50歳も違うので2人がやり取りした句ではないが作為的に並べて収録されたもので、まるで現代の二次創作

「秋の夜も名のみなりけり逢ふといへばことぞともなく明けぬるものを」(『古今和歌集』恋3635・小野小町、長いと言われる秋の夜も、あなたに逢うなら、あっけなく過ぎてゆく)

「長しとも思ひぞはてぬ昔より逢ふ人からの秋の夜なれば」(同恋3636・凡河内躬恒、秋の夜が長いものと思い込んでいるのではなく、昔から逢う人によって長くも短くもなるもの)

貫之は「仮名序」で6歌仙を辛辣に批評しているが、特に小野小町に対しては当りがきつい

曰く、「古の衣通姫(そとおりひめ、『日本書紀』『古事記』に登場する美女)の系譜。彼女の歌は情緒的ではあるが力強さはない。身分の高い女性が病んでいる感じ。歌が力強くないのは女だからだろう」

l  藤原顕輔×藤原清輔 わずか15歳差、栄誉ある父×不憫な息子の不和

平安中期~鎌倉初期の勅撰和歌集「八代集」

平安末期には家元制度導入。藤原顕季(あきすえ)を祖とする「六条藤家(とうけ)」は歌道の家元として栄えるが、息子の顕輔は崇徳院に指名され『詞花(しか)和歌集』の撰者となるが、その次男・清輔は父と仲が悪く、両者の葛藤は歌集にも生々しく刻まれている

『詞花和歌集』には清輔の歌はない。父には認められなかったが、『袋草紙』や『奥義(おうぎ)抄』を残し、後世「平安歌学の大成者」とまで言われた

 

 

 

 

河出書房新社 ホームページ

名作古典はカップリングだらけ!?  伊勢物語から古今和歌集まで、古文を「カップリング≒関係性の解釈」で妄想しながら読み解く本。「萌えポイント」さえつかめば楽しく学べて、忘れない!

 

河出書房新社さんの「14歳の世渡り術」シリーズの一冊ということで、10代の方々に古文の魅力をもっと知ってもらえたら~~~~! と思って書きました。とはいえ大人の方にも読んでほしい。古典が苦手だった方にこそ読んでほしい。

大人の方の学び直しにも、受験古文で文学史を覚えたい人にもおすすめの一冊です!

表紙は睦月ムンクさんが描いてくださいました。中のイラストも!! 美しいので!! 是非見てほしいです。本当にきれいなイラストで嬉しい……

 

 

 

Wikipedia

 

 

 

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