地球大解剖  Newton/廣瀬敬  2024.8.1.

 Newton』特集

 

『地球大解剖 実は謎だらけ』 20246月号

監修 廣瀬敬(東大大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授

執筆 尾崎太一

 

地球の内部を調べるための方法は限られている。地球の構造やその歴史にひそむ、壮大なスケールのミステリーを届ける

 

地震や火山などの地殻変動を引き起こす「プレート」の動きの原動力な何なのか? 

地球の体積の約8割を占めるマントルとは、どんな鉱物で出来ているのか?

地球の中心にあるコアは、どのように流動しているのか?

地球の内部を調べるための方法は限られており、私たちの足下に広がる世界には、実はわかっていない謎がたくさんある、この特集では、謎だらけの地球内部を徹底解剖する

 

地球の内部構造: 私たちの足下に広がる世界は、実は謎だらけ

地球はゆで卵のような構造を持つ――地球の構造は「地殻(卵の殻)」「マントル(白身)」「コア(黄身)」の3層に分かれる

地殻は厚さ630㎞の岩石(鉱物の集合体)の層。地球から中心までの距離約6370㎞の1%未満

マントルは、地殻より密度の高い岩石の層。地殻の底から約2890㎞の深さまで続く。マントルが溶けて液体状になったものがマグマ。地殻とマントルの最上部を合わせて「プレート」

コアは最深部。主に金属の鉄でできていて、「外核(液体の鉄)」と「内核(結晶化した固体の鉄)」。地表から直接マントルとコアの物質を採取することは、現時点ではできない

 

謎1:     マントルサンプルの直接採取は可能か

人類は地球の表面を薄くおおう「地殻」すら掘り抜けていない

ロシア北西部のコラ半島に、世界で最深の人工の穴がある。1970年から20年以上かけて科学調査を目的に掘削。深さ12

地殻には大陸地殻と海洋地殻の2種類。海洋地殻の厚さは約6㎞で、日本の海洋研究開発機構JAMSTECの地球深部探査船「ちきゅう」は海底約7㎞の掘削が可能で、現時点では海底下3058.5mまで20141月に達成

プレート同士がぶつかって片方がめくれ上がり、マントルの岩石が地表に露出することがある

日高山脈の幌満峡では、マントル上部の岩石である「カンラン岩」が約8㎞にわたって露出

マグマの噴出によってもマントルの岩石が地表に運ばれてくる。男鹿半島の一ノ目潟という火山湖の周辺では、マントル由来の岩石が露出するが、約200mの深度のものが限界

マントル対流説――流体に於て高温と低温の部分がそれぞれ上下に入れ替わるようにしておきる対流のことを「熱対流」といい、マントル上部の層は海水によって冷えて収縮し、重くなる(密度が上がる)ため、下部に沈み込んでいく。一方下部マントルの層はコアに温められて膨張し、軽くなるため、上部に浮き上がっていく。この熱対流に引きずられてプレートが運動する

テーブルクロス説――海底を作る海洋プレートは海水によって冷やされると収縮し、重くなる。その重みでプレートは大陸プレートの下に沈みこむのが、プレート運動の原因だとする説

 

謎2:     プレートはなぜ動く

プレート運動の原動力を説明する2つの仮説

地球は十数枚の「プレート」でおおわれているプレートは地球の表面を年間数㎝の速度で動き、それが地震や火山活動など様々な地学現象の原因。この理論が1967年確立された「プレートテクトニクス」。残る謎の1つがプレート運動がおきる原因で、以下の2説がある

l マントル対流説――流体で高温と低温の部分がそれぞれ上下に入れ替わるようにしておきる対流のことを「熱対流」といい、マントル上部の層は海水によって冷えて収縮し、重くなる(密度が上がる)ため、下部に沈み込んでいく。一方下部マントルの層はコアに温められて膨張し、軽くなるため、上部に浮き上がっていく。この熱対流に引きずられてプレートが運動する

l テーブルクロス説――海底を作る海洋プレートは海水により冷やされると収縮し、重くなる。その重みでプレートは大陸プレートの下に沈みこむのが、プレート運動の原因だとする説

太平洋のプレートの動きはテーブルクロス説で完璧に説明できるが、大西洋は海洋プレートが大陸プレートに沈みこむ場所である大きな海溝がないため、マントル対流拙が有効

プレート運動の鍵は海水にあるという点では両説共通だが、両説だけでは十分でない

 

謎3:     マントルはどんな鉱物でできている

マントル最下層の鉱物「ポストペロブスカイト」の性質とは?

鉱物の正体解明の1つの方法が、地震波の観測。マントルなどの岩石を通過して地表に届く地震波は、通過する鉱物の種類によって伝播速度が変わるため、鉱物の大まかな予測が可能

マントルは、4つの異なる層からできている。いずれも主にケイ素Si、酸素O、マグネシウムMg、鉄Feからなり、地球は深くなるほど圧力が高くなり、「相転移」をおこして、密な結晶構造に変化し、性質が大きく変化する。地球内部と同じ環境下での高温高圧実験により、4つの層の結晶構造の違いを解明。「上部マントル(マントル最上部)」と2番目の層「マントル遷移層」の境は深さ約410㎞、圧力14万気圧、温度約1500℃。上部マントルの主要鉱物「カンラン岩」にこの圧力を加えると別の鉱物「ウォズリアイト」に相転移し、遷移層の主要鉱物となる。この発見(合成)1950年代後半で、1974年には第3層の「下部マントル(深さ約6602600km)」の主要鉱物「ブリッジマナイト」を発見。最下層マントルは気圧が100万気圧以上になり、実験室での再現は困難で、30年以上放置

2004年廣瀬チームが最下層部の主要鉱物「ポストペロブスカイト」を発見。効率よく電気や熱を伝える性質があることが判明、コアの熱によるマントルの対流発生への理解が進む

まだまだマントルの全容は解明できていない

 

謎4:     地磁気はなぜ逆転する

地球の磁場はどうして逆転するのか? その理由は謎

地球は北極をS極、南極をN極とする1つの磁場であり、これによって発生する磁場を地磁気という。生命に有害な宇宙線などから地球を守るバリアーのような役割がある

地磁気が発生する原因は、地球内部の外核(液体コア)の流動だと考えられている。液体の鉄でできた外核は、一種の電磁石と考えられる。液体の鉄は水と同じくらいサラサラで流動性があるため、外核は地球の自転の影響を受け、自転軸に沿った螺旋状の対流運動をしている。鉄は自由電子を持った金属のため、外核ではマイナスの電荷をもった電子が対流運動に合わせて移動し、結果的に電流が生じる。その螺旋状に流れる電流によって、地球には磁場が発生する。これを「ダイナモ理論」という

地球の地磁気の向きは、数万年~数十万年の周期で何度も入れかわっている。一番最近逆転が起きたのは77.4万年前。その証拠が市原の地層で発見され、そこから始まる65万年間(12.9万年前まで)の地質時代を、2020年から「チバニアン」と呼ぶことになる

地磁気の逆転とは、地球の磁石のN極とS極が入れかわることで、ダイナモ理論に基づけば、その原因は外核を流れる電流の向きが逆になったことになるが、その原因は未解明

 

謎5:     コアは何の元素でできている

地球科学における最重要問題――コアに含まれる混ざり物は何か?

大部分は鉄だが、それ以外の成分は未解明。1952年、地震波のデータから、外核の密度は純粋な液体鉄の密度よりもだいぶ小さいことが発見された。ニッケルの含有は判明したが、ニッケルは鉄より密度が大きいところから、鉄よりも軽い元素が含まれるはずだが、現状不明

2020年、廣瀬チームにより、外核の密度と液体鉄の密度の差が8%と判明。主な軽元素の候補は水素、酸素、炭素、ケイ素、硫黄などで、いずれも宇宙に豊富に存在し、鉄と反応(結合)して合金を作りやすい特徴を持つ。酸素とケイ素はマントルの主成分、他の3元素は地球の原型ができた後にほかの天体との衝突を通じて持ち込まれたと考えられる

有力候補は水素。地球誕生時に太陽からもたらされたヘリウムの含有も可能性あり

 

謎6:     内核の自転はなぜ速い

コアにひそむ3つの謎――温度、異方性、スーパーローテーション

F  地球の中心部の温度は約5000度。様々な仮定に基づく推定値で、正確には未解明

外核は液体鉄、内核は高温高圧で結晶化した鉄からなるが、鉄以外の成分が含まれているため、どの元素が含まれるかによって結晶化の温度は大きく変わる

F  異方性――内核の鉄は、「六方最密構造」という六角柱結晶構造を持つと考えられ、地震波の観測から、鉄の結晶は六角柱の高さ方向を地球の自転軸に平行にして並んでいると推定されるが、鉄の結晶の向きのそろいぐあいが西半球の方が大きく(南北方向にそろっている)、東半球は不ぞろい。西半球と東半球の区別は人間が恣意的に行ったものなのに、コアに影響するとは不思議。内核の非対称性を説明する理論はまだ見つからない

F  内核は地球の自転よりも少しだけ速く回転している(スーパーローテーション)――角度にして1年にせいぜい1程度の差。原因は未解明

 

謎7:     マントルの「巨大低速度領域LLSVP」の正体は

地球環境を一変させた「ジャイアントインパクト」の痕跡が、地球深部に眠っているかも

LLSVPは、マントル深部に存在する巨大な構造で、地震波の伝播速度が遅い。アフリカ大陸と太平洋の下のマントル最下部に存在、マントルやコアとは異なる物質の組成を持つ。1説に、約45億年前に地球と衝突した原始惑星「ティア」の残骸という

地球を含む太陽系の惑星の起源の仮説の1つが、最初に太陽の周囲にある塵や氷などが集まって直径110㎞の「微惑星」が形成され、微惑星同士が衝突・合体を繰り返し、直径1000㎞程の「原始惑星」に成長、さらに大規模な衝突(ジャイアントインパクト)を何度も繰り返して現在知られる惑星の原型ができたというもの。原始地球は約10回のジャイアントインパクトを経験したが、最後で且つ最も大規模なものが「ティア」との衝突。この衝突による破片が集まって月ができた。LLSVPの正体については、沈みこんだ海洋プレートが崩落し、マントルの下部にたまったというのが有力説

 

謎8:     地球の水はどのようにしてもたらされた――隕石によってもたらされた可能性

地球以外の太陽系の惑星には表面に水がない。地球の海形成の仮説は、ジャイアントインパクトによって地球の表面は深さ数千㎞におよぶマグマオーシャンにおおわれ、数百万年かけて徐々に冷えて固まり、大気や海、地殻、マントル、コアなど地球の層構造がつくられるとされ、大気中に水蒸気として存在した水がマグマが冷える過程で凝結して雨となり、地上に降り注いで海を形成したというもの。太陽の周囲を漂う水分子は、太陽の近くでは水蒸気として、遠くでは氷として存在し、その境界を「スノーライン」といい、水蒸気は軽いため微惑星がそれを内部に含むことはできず、微惑星が水を含むことができたのは水が氷として存在するスノーラインの外側だけ。地球は内側にあったため形成時点で水は含まれていなかった

地球の海の起源については3つの仮説あり、いずれのシミュレーションでも、現在の海水の数十倍~百倍の水が地球に持ち込まれた計算になる。大量の水はどこにいったのか疑問

F  隕石落下説――「炭素質コンドライト」という隕石は水を2%含むが、それらが太陽系の重力の変化に伴ってスノーラインの外側から地球に降って来た

F  グランドタックモデル――水を含む隕石が降って来たのは前説と同じだが、微惑星の移動の仕組みが異なり、木星と土星がある時期軌道を変えてスノーラインの内側に移動し、その後外側の軌道に戻ったと考える(グランドタックモデル)。原始木星や土星に引きつれられてきた氷を含む微惑星が原始地球に降って来た

F  小石集積モデル――原始惑星は微惑星の段階を経ずに、1100㎝の小石の集積によって直接形成されたと考え、スノーラインの外側にできた小石も内側に引きこまれ原始惑星の材料となり、地球は水を豊富に取りこむことができた

 

謎9:     地球の水はどこに消えた? ――コアの形成と深い関係にある?

地球のコアは、45億年前のマグマオーシャンの時代に形成。衝突してきたほかの天体によってもちこまれた金属鉄は、マグマオーシャンの中を中心部へと落下しコアを作る。大量の水の大半は鉄と反応してコアに取り込まれたと推測。水と反応した鉄は水素化鉄と酸化鉄になり、水素化鉄は鉄と一緒にコアに取りこまれ、酸化鉄はマグマに溶け込むためにマントルに留まる

鉄と反応しなかった水のうち、約半分がマントル含まれ、残りの約半分が地表の海水になったと考えられ、地表の海水は元々の水の量に比べるとわずかな量に過ぎない。コアの水素の量は海水に含まれる水素の量の3060倍と推定

以上の結論が正しければ、コアの主要な不純物の正体は水素となるが、外核の密度差のうち4割しか説明できず、残る6割はまだ不明

 

謎10:  金星や火星はなぜ地球と異なる運命を辿った?

金星は、地球とよく似ている双子のような惑星。大きさと密度は地球とほぼ同じ、内部も同じ3層からなる(固体の内核があるかどうかは不明)が、地球より遥かに弱い磁場しかもたない

1枚板のプレートにおおわれていて、海もないのでプレート運動はおこらない。太陽に近いため、マグマオーシャンが冷えて固まった際も時間がかかったはずで、その間に水蒸気はマグマの熱で水素と酸素に分解され、太陽風にさらされて宇宙空間に飛散

火星は一回り小さい(半径3396/金星6052)が、同じ3層構造。約40億年前、何らかの理由でコアの対流が止まり磁場が消滅。火山活動の痕跡が残る。オリンポス山は標高2.7m。プレート運動がないので、長期にわたり溶岩が同じ場所で噴出し続けたため高くなった

 

謎11:  マントルの対流はどのようにおきる

マントルは、熱対流によってゆっくりとかき混ぜられている。下部のマントルは均質ではない

マグマオーシャンが固まる際には、まず下部マントルの約8割を占める「ブリッジマナイト」という鉱物のみからなる硬くて流動性に乏しい岩石(ブリッジマナイト・ブロック)ができる。そのブロックは周囲のマントル成分とは殆ど混ざり合わず、対流運動にも参加せず、約45億年前からマントル下部に居続け、その間隙を縫うようにマントルが対流している可能性がある

下部マントルは、地球の約6割を占めるので、地球の体積の約半分はブリッジマナイトになる

 

謎12:  生命はどのように誕生した

生命は約38億年前に誕生したと言われるが、それは生命の痕跡を残す最も古い岩石の形成年代からの推測。地球の誕生から約40億年前までの時代は冥王代と呼ばれ、地層や岩石は残っていないので、生命が存在していたとしてもその証拠は残っていない

冥王代にのみ地球に存在していた可能性のある「KREEP (クリープ) 岩」と呼ばれる鉱物は、マグマオーシャンが冷え固まる過程で最後に形成されたと考えられる岩石。Kはカリウム、REEはレアアース(17個の希土類元素の総称)Pはリンで、マグマオーシャンに含まれる元素のうち、最後まで結晶化しにくかった元素が濃縮されている。カリウムとリンは生命にとって不可欠な元素。カリウムはカルシウムに次いで人体に最も多く含まれるミネラル(生体を構成する元素のうち、酸素、水素、炭素、窒素以外の総称)で、細胞の機能を正常に保つ役割がある。リンはDNARNAなどの核酸や、生物の細胞にエネルギーを蓄える分子であるATPの骨格となる元素。カリウムもリンも生命に不可欠であるにもかかわらず、現在の地球にはそれほど多くは存在していない。ということは、KREEP岩から溶け出したカリウムやリンをもとに生命が形作られた可能性を示す。またレアアースには特定の化学反応を促進する「触媒」の効果を持つものがあるところから、地表のKREEP岩を「足場」にすることで、生命の部品である拡散やアミノ酸が豊富に作られた可能性もある。以上の仮説が正しければ、生命はKREEP岩が風化せずに存在した数億年間でのみ「期間限定」で生まれることができたということになる

 

 

廣瀬教授が今、注目する地球科学の最新研究

1.  地球内部のヘリウムについての研究

ヘリウムには、ヘリウム34という2種類の安定な同位体が存在。地球の大気に存在するヘリウムのほとんどはヘリウム4で、わずかに存在するヘリウム3はすべて地球の誕生時に太陽から持ち込まれたもの。マントル下部から運ばれた岩石にはヘリウム3が含まれていることから、マントル下部には太陽系の始原的な物質が豊富に保存されているというのが地球科学の常識だったが、最近の研究で、ヘリウム3はコアに保存されている可能性が高いことが判明。不活性ガスのヘリウムでも高圧化では鉄と反応することが明らかになった

2.  最近は火星の内部の研究が盛ん

2018年、NASAの探査機「インサイト」が火星に到達、地震計を設置。そのデータ解析から、地殻が厚く、コアは遥かに大きいことが判明

地球温暖化の問題に関して、火星と金星のCO2の濃度は約9596%であり、地球の初期も同じくらい濃度が高かったと考えられるが、今では約0.04%まで低下。地球というシステムは一体どうやってCOを減らしてきたのかという広い視点からヒントが得られるのではないか

 

 

 

 

 

 

コメント

このブログの人気の投稿

近代数寄者の茶会記  谷晃  2021.5.1.

新 東京いい店やれる店  ホイチョイ・プロダクションズ  2013.5.26.

自由学園物語  羽仁進  2021.5.21.