必修の数学 Newton/西成活裕 2024.8.1.
『Newton』特集
『必修の数学 現代人が身につけたい』 2024年9月号
監修: 西成活裕 (東京大学工学系研究科教授、専門は数理科学)
変化の激しい現代社会において、決して古びない知識が数学。AI始め、社会を支えるテクノロジーの背後には、必ずと言っていいほど数学が潜む
本特集では、現代人が身につけておきたい「必修」の数学を解説
1. 数学の4分野――現代人にとって必修の4つのゴール
4分野と、分野ごとのゴール
分野 基礎 発展 ゴール
l 代数学(数と式) 方程式 解の公式 行列
l 幾何学(図形) 三平方の定理 余弦定理 ベクトル
l 解析学(グラフ) 2次関数 微分・積分 微分方程式
l 確率・統計 確率論・場合の数 分散・標準偏差 ベイズ統計
2. 代数学基礎――方程式 わからない数は開き直ってXと置く。この発明が文明の扉を開く
数の代わりに、X等の文字を使って「方程式」を立て、その解法等を研究する分野が代数学
数同士の関係性に注目して方程式を立てれば、必要な解が得られる
負の数は方程式を解く過程で、計算を先に進めるための一種の「辻褄合わせ」として作られた数。2乗するとマイナスになる「虚数」も2次方程式の解を探究する過程で生み出された
X2=-1という方程式を解くと、
3. 代数学発展――解の公式 方程式を解くための「必勝アルゴリズムAlgorithm」
アルゴリズムとは、問題を解決する手順のこと。方程式を立てさえすれば、決められたアルゴリズムに従って式を変形するだけで答えが決まる
方程式を解くための最も効率的なアルゴリズムが「解の公式」: 2次方程式ax2+bx+c=0の解の公式は: x=-b±√b2-4ac/2a
3時、4次方程式にも解の公式があるが、5次になると公式は存在しないことが証明され、解ける式と解けない式が存在する
4. 代数学ゴール――行列 「行列」を使いこなせば大量の方程式を効率的に解ける
行列は、17末~18世紀に「連立方程式」を効率よく解くために確立されたもので、数や記号を正方形や長方形の形に並べて括弧で括ったもの。横に並んだ数字を「行」と呼び、縦に並んだ数字を「列」という
行列で連立1次方程式をシンプルに表せる
5x+3y=11、4x+5y=14を行列で表すと、
行列には特有の「掛け算」の規則があり、2行2列の行列と、2行1列の行列の掛け算は上記の通りとなり、機械的に計算を繰り返していくだけで、解(x=1、y=2)が決まる
5. 幾何学基礎――三平方の定理 最古の歴史を持つ数学。三平方の定理は何に役立つ?
別名ピタゴラスの定理。
6. 幾何学発展――余弦定理 サインとコサインによって生まれた三平方の定理の拡張版
あらゆる三角形の3辺の関係を示す定理――3辺の長さがa,b,cの三角形において、aの辺とbの辺がなす角をθとしたとき、 c2=a2+b2-2abcosθ が常に成り立つ
三角比とは、三角形の辺の比のことです。
直角三角形の斜辺(一番長い辺)と高さの比を正弦(サイン)、斜辺と底辺の比を余弦(コサイン)、底辺と高さの比を正接(タンジェント)と呼び、次のように表します。0<θ<90°の場合のみ成り立つ
θ=90°の時、cos90°=0となり、三平方の定理と一致
三角関数とは、θが90°以上や0°以下でも定義できるように三角比の定義を拡張した関数で、横軸をx軸、縦軸をy軸とし、交差した点を原点0とし、原点を中心に半径1の円周上に点Pをとったとき、Pと原点を結ぶ線とx軸の角をθとする。点Pのx座標をcosθ、y座標をsinθと定義する。θは鋭角に限らず、どんな値でも構わない
7. 幾何学ゴール――ベクトル 「幾何学の最終兵器」
ベクトルは「大きさ」と「向き」の2種の性質を持ち、アルファベットの上に→印をつけて表記
1,2,3やx,yなど、ある量を表す数を「スカラー量」といい、身近な数の大半はスカラー量
ベクトルは、複数のスカラー量を1つの概念でまとめたもので、ベクトル同士の演算は定義されているので、どんな図形問題も座標平面に持って来てベクトルに変換すれば、ベクトル代数のルールに従って計算するだけで解くことができる
ChatGPTでは、Transformerと呼ばれる仕組みがあり、単語同士の関係を広く把握し、どの単語とどの単語が意味的に近いかを学習することができるアルゴリズム。ここでは1つ1つの単語をベクトルに変換。意味の近い単語ほどベクトル同士の距離が近くなる。それぞれの単語のベクトルの原点からの角度の差をcosθとして、単語の意味の近さの指標にする
8. 解析学基礎――2次関数 関数は未来予測装置。ホームランの軌道も「2次関数」で予測
解析学は、関数やグラフの性質を調べる学問
関数とは、xとyなどの複数の変数同士の関係を表す式で、必ずグラフで表すことができる
未来を予測するのは、ある現象をうまく説明する関数を見つけ出すことに相当
微分・積分は、関数の性質を詳しく調べるための手法
9. 解析学発展―微分・積分 連続的に変化する現象(関数に変換)に対し、微分は細かく分けてその変化を見る、積分は細かく分けたものを足し合わせる
微分は、スローモーションで解析するようなもの
ボールの位置xの変化を、時間tを細かく区切って調べることを「xをtで微分する」といい、xの微小な変化を時間軸tに沿って足し合わせることを「xをtで積分する」という
時間軸を1秒、0.1秒、0.01秒・・・・と小さくすればするほど未来予測の精度は高くなる
実際の微分では時間の軸を限りなく0に近い「無限小」まで小さくして計算する
10.
解析学ゴール――微分方程式 渋滞から人工衛星の軌道まで、未来は微分方程式で予測できる
微分方程式とは、物事の関係性や法則を表したもの
渋滞学で予測に使う微分方程式の基本は、「人間は、前の車との車間距離が詰まり過ぎればブレーキを踏み、車間距離が開き過ぎていればアクセルを踏む」ということで、それを数学的に表した微分方程式を解けば、車の流れの時間変化がわかり、渋滞予測に繋がる
物理現象は、そのほとんどが時間変化する現象を扱うので、式に時間の微分が登場。そのため、微分方程式はあらゆる物理理論に登場――ボールなどの物体の動きの法則を表す「運動方程式」は微分方程式であり、物理現象を解析すること=微分方程式を解く
11.
確率・統計基礎――確率論とは? 突然変化する現象の未来も予測する武器が「確率論」
急激に変化する現象や不連続な現象は微積では扱えない
株価のように値が連続的に変化しない「不連続関数」は、数学では「微分不可能」と表現する
偶発的な現象にも一定の予測を与えるのが確率論で、応用数学の一分野
地震予測――過去の統計データから、大地震は一定の頻度で繰り返されることが分かっている。次の地震までの地震発生確率の時間変化は、関数によって表すことがきる
12.
確率・統計基礎――場合の数 「もれなくダブりなく」の考え方はロジカルシンキングの基本
確率を求めるもっとも基本的な方法は、「場合の数」を計算すること
場合の数とは、あることがらの起き得る場合の総数――事象Aが起きる確率は、「Aが起きる場合の数÷すべての場合の数」で求められる
場合の数を正確に求めるためには、すべての場合をもれなくダブリなく数え上げる必要があり、地道な計算が必要――「順列」と「組み合わせ」の公式が役立つ
順列の公式「nPr」――n個の中からr個を選び出して順番に並べる並べ方をもれなく数える
組み合わせの公式「nCr」――n個の中からr個を選び出す組み合わせの総数をダブりなく数える
日常生活では、論理的に考え、的確に判断する力=ロジカルシンキングが求められる。その考え方の1つに「MECE(ミーシー)=もれなくダブリなくMutually Exclusive, Collectively Exhausive」がある。物事を整理する際に、すべての場合をもれなくダブリなくすべてを洗い出して検討することが大事だという考え方で、場合の数を求める計算はMECEそのもの
13.
確率・統計発展――分散・標準偏差 データのばらつきは「リスク」と考えれば分かり易い
統計データの特徴を押さえる上で一番大事なのは「平均」と「分散」で、統計の基本中の基本
平均値を見ただけでは、統計データの特徴を正しく把握できたとはいえない
分散とは、データのバラツキの大小を表す指標のこと――各データと平均との差(偏差)の2乗を取り、それらを全部足して、データの個数で割った値が分散。値が大きいほどデータはばらついており、小さいほどバラツキは少ない
経済学では分散の値を「リスク」と呼び、投資の分野では「ボラティリティ」と呼ぶ
14.
確率・統計ゴール――ベイズ統計 機械学習の基礎になるベイズ統計
ベイズの定理を使った計算を繰り返すと、確率が更新されていく――「事前確率」から「事後確率」へ。事後確率を新たに与えられた条件や情報に基づき更新することを「ベイズ更新」と呼び、更新によって確率の精度が高まる
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