宇宙からの挑戦状  Newton/平松正顕  2024.8.1.

 

Newton』特集 

『宇宙からの挑戦状 謎が謎をよぶ』 20248月号

監修: 平松正顕 (自然科学研究機構国立天文台天文情報センター講師)

 

「宇宙からの挑戦状 謎が謎をよぶ」 Newton×朝日新聞

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 宇宙について知れば知るほど、現在の理論では説明できない謎が次々とあらわれます。まるで、宇宙から人類に突きつけられた挑戦状のようです。ブラックホールや三体問題など、宇宙はたくさんの難問であふれています。

 Newton編集部から)暦の試行錯誤、人類は続ける

 6月30日がちょうど1年の折り返し地点に感じられる方もいることでしょう。しかし、今年はうるう年なので366日あり、6月30日は182日目にあたります。つまり、1年の半分が終わるのは、183日目である明日7月1日の終わりです。

 古代エジプト人は1年を365日とする暦を使っていました。ただし、地球は太陽のまわりを約365・25日で1周するため、1年に約0・25日ずつ暦と季節がずれていきます。これを補正するために導入されたのがうるう年です。

 1972年には「うるう秒」が導入されました。地球の自転速度は実は毎年、微妙に変化しています。そのずれを補正するのがうるう秒で、これまでに27回実施(挿入)されましたが、システム障害への懸念などから2035年までに廃止されます。詳しくは最新号の記事「暦と時のサイエンス」で解説しています。人類はえんえんと、暦の試行錯誤を続けているようです。(板倉龍・Newton編集部長)

 

 

1. アマテラス粒子の発生源は謎に包まれている

テレスコープアレイ実験は、アメリカ・ユタ州の砂漠約700㎢の範囲に507台の検出器を置いて、超高速エネルギー宇宙線が大気中に飛び込んで酸素分子や窒素分子と衝突し連鎖的に生み出す膨大な数の高エネルギー粒子(2次宇宙線)がシャワー状に広がる現象(空気シャワー)を捉えるプロジェクト。アマテラス粒子の到来方向の範囲を絞り込んだが、その方角には発生源になりそうな既知の天体はなく、謎に包まれている

 

2. 最新の挑戦状① 超高エネルギー宇宙線「アマテラス粒子」の正体は?

2021年、テレスコープアレイ実験で、超高エネルギーの宇宙線を検出、「アマテラス粒子」と名付ける

宇宙線とは、宇宙空間を飛び交う放射線で、運動エネルギーが非常に大きい粒子のことで、9割が陽子(水素の原子核)、残りがアルファ粒子(ヘリウム4の原子核)や炭素・酸素・鉄などの原子核やガンマ線(電子や高エネルギーの光子)。磁場で進路が曲がるため、発生源の特定が困難。ダークマター(後述)など、未知の天体現象が関わる可能性もある

宇宙線は、エネルギーの高いものほど地球に到来する頻度が低く、数年~数十年に1個ほどなので、広範囲に検出器を設置して観測

超高エネルギー宇宙線の発生源の候補:

   ガンマ線バースト――極めて重い星の超新星爆発などにより生じる

   ブラックホール――超大質量ブラックホールから噴き出す「ジェット」によって加速

   銀河系の衝突――銀河団同士の衝突により、銀河団内のガスが圧縮され衝撃波が生じ、その中を粒子が何度も通過することで、超高エネルギーまで加速

   未知の物理現象

 

3. 最新の挑戦状② 次々と見つかる「古代銀河」が銀河系形成論の見直しを迫る

2021年打ち上げのNASA「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡JWST」により、遠い天体の観測記録が何度も更新されている。現在地球から最も遠い銀河は約135億光年だが、138億年前とされる宇宙誕生から間近の初期銀河にも拘らず既存の理論と合わない性質を持つ

 

4. コロナの加熱問題(太陽の謎の1) 表面の温度に比べて異常に熱い太陽の大気

太陽の表面は「光球」と呼ばれ、温度は約6000℃。光球の上には「彩層」という薄い大気があり、その上にコロナの大気層が広がる。コロナには鉄のイオンが含まれるが、高温のために鉄の原子核の周りの電子26個のうち10個以上剝ぎ取られている。その温度を見積もると100万℃以上となるが、太陽の熱源は中心で起きている核融合反応で、表面より遠くのコロナがより高温となる加熱の仕組みは謎のまま

 

5. 惑星大移動仮説 木星が太陽に接近した時代があった?

太陽系の8つの惑星のうち、内側4個は主に岩石からなる岩石惑星で、外側4個はガスの厚い大気を持つ巨大ガス惑星

ガスや塵が円盤状に広がった構造から生まれる「原始惑星系円盤」の中にある微粒子が集積して「微惑星」となり、さらに衝突・合体を繰り返して「原始惑星」になるというのが197080年代に確立した通説だが、19902000年には、説明できない特徴が発見される

その1つは、火星・水星の質量が地球の10%以下。木星や土星が太陽近辺まで大移動してUターンしたことが考えらえる(グランドタックモデル)

 

6. 9惑星 太陽系外縁天体の偏った軌道は、「第9惑星」がある証拠?

太陽系外縁天体の軌道の偏りに基づいた最新の研究では、軌道長半径が海王星軌道の約15倍、質量が地球の約6倍という未知の惑星が存在する可能性を示唆

海王星軌道より外側にある天体を「太陽系外縁天体TNO」と呼び、現在2000個超が確認

 

7. 高速電波バーストFRB 一瞬だけ届く謎の電波。鍵を握る天体「マグネター」とは?

2001年以降、継続時間が一瞬の電波が観測され、発生源は約10億光年と推測されるが、その方向に銀河のような天体は見当たらず。正体は不明

2020年、発生源「マグネター」確認。「マグネター」は、非常に強い磁場を持つ中性子星(大質量の天体が超新星爆発を起こした後に残る特殊な天体)だが、発生の仕組みは未解明

 

8. ブラックホール 重力波観測によって見つかった「ありえない質量」を持つ

ブラックホールは、極めて高密度で、強い重力を持つ謎多き天体

2010年代に「重力波検出器」を開発、以後約90件の重力波現象を検出され、そのほとんどがブラックホールの合体現象。質量の平均が太陽質量の30100

 

9. 三体問題 宇宙の謎で、ブラックホールの運命にも関わる

3個の物体が重力を及ぼし合う場合にどんな運動をするかという力学の問題

2体の場合は、ニュートンの運動方程式の解を求めることで、どんな初期条件でも、必ず楕円(円を含む)・放物線・双曲線の3通りの軌道になる

3体の場合は、特殊な初期条件の下での軌道しかわからない ⇒ カオス

銀河同士が合体を繰り返すことで、銀河とブラックホールが同時に成長していくと考えられるが、その合体の過程で三体運動が重要な役割を果たす可能性がある

 

 

10. ダークマター 次々と見つかる「ダークマター」を持たない奇妙な銀河たち

「ダークマター」とは、光では観測できないが質量をもつ暗黒物質で、この宇宙線には、原子を形作る陽子や中性子、電子のような通常の物質(バリオン)の約5倍のダークマターが存在し、その正体は謎。未知の素粒子だという説が有力

現在の理論では、ダークマターの存在なくして銀河は形成されないため、2018年以降のダークマターが存在しない銀河の発見が事実なら、銀河形成の理論の見直しが必要

 

11. コールドスポット 宇宙背景放射の「異常に冷たい領域」はなぜ生まれたのか?

宇宙は、星や銀河以外は真っ暗に見えるが、可視光線はないが、マイクロ波という電磁波が地球に届いている ⇒ 「宇宙マイクロ波背景放射CMB」という

その中に異常に冷たい「コールドスポット」と呼ばれる謎の領域が存在。灼熱のビッグバンの名残で、宇宙の膨張により波長が引き延ばされ、宇宙自身の熱放射へと変身

 

12. 宇宙膨張 世界の天文学者の頭を悩ます「宇宙膨張」にまつわる2つの大問題

宇宙が膨張していることは、ルメートル(1927)やハッブル(1928)によって発見

未解明の問題の1つは、「ダークエネルギー」(宇宙膨張を加速する仮想上のエネルギー)の正体。1998年に提唱され、宇宙全体のエネルギーの約7割を占めることが判明

もう1つは、膨張の速度に関する矛盾。膨張の速度を表す「ハッブル定数」が、算出方法によって2通りの値になる

 

13. 消えたバリオン問題 見えるはずの「バリオン」の一部が見つからないのはなぜ?

CMB観測結果から、現在の宇宙の68.3%がダークエネルギー、26.8%がダークマターでできており、原子・分子などの通常の物質(バリオン)はわずか4.9%であることが判明

バリオンは、電磁波()によって検出できるが、観測可能なバリオンを全て足しても約7割にしか満たず、残りの3割は「消えたバリオン(ダークバリオン)」と呼ばれる

宇宙の「フィラメント(大規模宇宙構造)に潜む高温プラズマだという説が有力

 

14. 超巨大構造 グレートウォール、ビッグリングなど、宇宙原理を脅かす構造の数々

現在の宇宙論では、宇宙は「大きなスケールで見ればどこも同じ」という考え方が基礎になっていて、それを「宇宙原理」と呼び、宇宙論の基礎方程式はこの原理から導かれているが、近年この宇宙原理を脅かす超巨大構造が次々に見つかっている

2024年、地球から約92億光年の距離に、直径13億光年という巨大なリング状に銀河連なった構造が発見され、「ビッグリング」と名付けられた。2年前には長さ33億光年の巨大構造を発見し、「ジャイアントアーク」と名付けている

宇宙原理は、約12億光年以上のスケールで均せば概ね一様とみなせるとされるため、12億光年以上の構造物が自然に存在するはずがないところから、超巨大構造の存在自体の真偽やそれが生まれる仕組みの解明が待たれる

 

15. 地球外生命の謎 今後の地球外生命探査の計画は?

20世紀後半に電波天文学が始まると、電波による地球外知的生命探索SETI(セチ、Search for Extra Terrestrial Intelligence)が行われ、これまでで最も有望な信号はオハイオで1977年受信された「Wow! シグナル」だが、それ以後同じ方向からの電波は観測されていない。土星や木星の衛星には地下に液体の海を持つ天体があり、生命の存在可能性の高い場所として注目されているし、系外惑星(太陽系の外にある恒星を周回する惑星)でも大気に酸素やオゾンが見つかれば、何らかの生命存在の可能性はある

 

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