東京アウトサイダーズ  Robert Whiting  2013.7.16.

2013.7.16. 東京アウトサイダーズ  東京アンダーワールド II
TOKYO OUTOSIDERS        Tokyo Underworld II                   2002

著者 Robert Whiting 1942年ニュージャージー州生まれ。カリフォルニア州立大から上智大に編入。政治学専攻。72年帰国後、出版社勤務で76年に日本に戻り、退職して、日米比較文化の視点からユーモアとエスプリの利いた執筆活動を展開。1977年『菊とバット』を発表、日米両国で高い評価を得、90年には『和をもって日本となす』がベストセラーに。1999年に発表した『東京アンダーワールド』は取材・執筆に10年を費やした戦後日本の秀逸なドキュメンタリーであり、著者独特の日米比較文化論の総括でもある。本書は前著を補完する続編であり、いまだかつてない外人悪漢列伝である。現在鎌倉在住

訳者 松井みどり 翻訳家。東京教育大文学部英文科卒

発行日           2002.4.20. 初版発行(英語版より先)
発行所           角川書店

13-05 「本当のこと」を伝えない日本の新聞』で紹介
13-06 東京アンダーワールド』の続編

世界中から、アウトサイダーたちが、一攫千金を夢見て集まる東京。天才詐欺師、荒稼ぎする高級外人娼婦、アウトロー起業家、政治家を手玉にとるロビイスト、世界各国の諜報部員、麻薬密売人...夜のTOKYOに暗躍するアウトローたちに、日本のヤミ社会はビッグ・チャンスと失望を与え続けてきた。そして、彼らはいまも暗躍し続けている。ベストセラー『東京アンダーワールド』につづき、手練のジャーナリスト、ロバート・ホワイティングが、アウトサイダーたちをとおして浮き彫りにする、知られざるもうひとつのニッポン。

はじめに
日米関係の腐りきった側面、灰色の副産物とも言える出来事や、ユニークなキャラクターを紹介 ⇒ 身に覚えのある不快な話に耳を傾けることは己を知るいい機会だ

第1章        金儲けの達人
ブレークモアが指摘するアメリカの犯した大罪
   偽善の罪 ⇒ 戦犯裁判でも公正な裁判の建前を取りながら判決は事前に決定済み
   GHQが自分たちのモラルを絶対視していた ⇒ 日本人の道徳心を無視
戦後の日本社会にヤクザをはびこらせた最大の要因はGHQの政策 ⇒ 諸物資の配給制がヤミ市場での価格高騰を招き、為替レートの規制が厳密でなかったために円が大暴落して為替のヤミ取引に火がついた
マッカーサーの暴力禁止の厳しい姿勢のお蔭で、占領中のGIによる殺人事件は11件、犯人はいずれも25歳以下、全員が軍法会議で死刑の宣告(後に減刑)
フライング・タイガー軍団のパイロットだったウォリー・ゲイダは、IQ165の知恵者で、除隊後の49年麻布台にアメリカ人として初めてナイトクラブ・ゴールデンゲートを開店、不法行為や取引の舞台として賑わう ⇒ 7年後に風営法違反で逮捕されるが、警察を言いくるめて保釈、店を売却して日本から脱出に成功
同じような不良ガイジンが跋扈

第2章        GI――氷河期 反米旋風――
講和条約発効後、自衛隊を補強するために改めて米軍の常駐が始まったが、以前より遙かに扱いにくいGIたちがどっと日本に上陸 ⇒ 当初のGIは不況の時代に育ち、祖国アメリカの経済的苦境から逃れる場所として軍隊を選んだので、戦禍で荒れ果てた日本と言えど不満は少なかったが、占領後のGIたちは恵まれた環境で育ち甘やかされて育ってきているだけに、日本人を見下し平気で悪さをした
50年代には約12万が駐留、朝鮮半島からの帰休兵も加わって増加の一途をたどる
50年代の反米感情のピークになったのがジラード事件 ⇒ 余りの世論の激しい非難に国務省と国防総省は初めて裁判権を日本に認めたが、司法省が抗議して連邦地裁も行政府の決定を違法と裁定、最高裁まで行って漸く引き渡しが合憲とされた
執行猶予つきの軽い刑で済んだことは、95年になって公にされた機密文書により、日米間で極秘の取引がなされた結果と判明。引き渡しの交換条件が、殺人罪ではなく傷害致死での告発だった。大袈裟に言えば日本国憲法に対する冒涜であり傲岸不遜の許し難い行為ではあるが、戦後の日米両国首脳の間で交わされた様々な極秘協定の氷山の一角でしかない
基地撤廃運動にも火をつけ、米側も在日米軍の役割の見直しを行い、米軍の大半が日本から撤退する事態に繋がる(判決後1年以内に6万人が帰国)
Wikipedia
ジラード事件とは、1957.1.30.群馬県在日米軍兵士・ウィリアム・S・ジラード(当時21歳、イリノイ州オタワ出身、1騎兵師団特務二等兵)が日本人主婦を射殺した事件。実弾射撃訓練が行われていた演習地に薬莢や発射された後の弾頭など金属類の盗品売買による現金収入を目当てにした地元住民が不法侵入していたが、そのうちの1被差別部落日本人主婦(当時46歳)に対して、彼女の背後からジラードがM1ライフルで空薬莢を発射し、主婦が即死する事件が発生した。他の侵入者の証言から、ジラードが主婦に「ママサンダイジョウビ タクサン ブラス ステイ」と声をかけて、近寄らせてから銃を向け発砲した可能性があることがわかると、アメリカへの批判の声が高まり社会現象となった。ジラードが主婦を射殺した時は休憩時間であったことから日本の裁判を受けるべきであると日本側が主張し、米陸軍が職務中の事件だとして米軍事法廷での裁判を主張するなど、アメリカ側からは強い反発もあったが日本の裁判に服することで決着し、傷害致死罪起訴され、懲役3年・執行猶予4年の有罪判決が確定した。
ジラード自身は、その酒癖の悪さや借金癖から兵士仲間からも軽く扱われる存在だった。米軍を不名誉除隊した後、台湾生まれの日本人女性と結婚し当年度中に帰国した時も兵士仲間からブーイングが起きた。被害者の遺族(夫と6人の子供)には補償金として1,748.32米ドル(2011年現在 13,642米ドル)が支払われたが、司法が売買された結果だと日本人の多くが捉え、被害者の夫も「感謝しない」と述べた。
なお、ジラードへの処罰を最大限軽く(殺人罪でなく傷害致死罪で処断)することを条件に、身柄を日本へ移すという内容の密約が日米間で結ばれていたことが、1991年に米国政府の秘密文書公開で判明した。日本の外務省19941120日に行なった「戦後対米外交文書公開」でも明らかとなっている。

同じ頃に同じ様なGIによる不祥事が頻発、検察が検挙した犯罪は1年で1481件に上り、反米感情はますますエスカレート
クォッケンブッシュ事件 ⇒ 61.6.府中で米空軍所属の文民が自宅裏庭で殺害、享年43。妻と息子が逮捕。警視庁に殺害容疑で留置された外国人の女性は初めて。原因はDVだったが、両名とも殺人罪で実刑、日本の刑務所に放り込まれた軍属の妻第1
日本人もアメリカ人も、長年の間に米兵の能力と体質が変化したことに殆ど気付いていない ⇒ 70年代初めにヴェトナム戦争の影響から徴兵制が廃止され、軍の体質が「金目当ての戦士」の集団になる。そのクライマックスが01年のハワイ沖での「えひめ丸」と米原子力潜水艦「グリーンヴィル」の衝突事件で、米国海軍に新たな汚点を残したのみならず、日米関係史に最も悲劇的な一章を加えた

第3章        売春婦
アメリカが日本に期待したのは反共体制の構築と維持であり、それ以外のことは大概目をつぶった
日本と西欧との合法的取引は様々な障壁や制約に阻まれたが、不法取引はむしろ加速。それを助けたのが東京オリンピックとベトナム戦争
商機とばかりに内外の怪しげな連中が不法な商売に没頭
日本人男性相手の多国籍売春施設が大繁盛
57年の売春防止法施行で、一応売春宿は閉鎖されたが、それに代わる様々なセックス産業が出現
元ニューヨーク市警のダニエル・スタインが開いたアルバイト売春宿の「ダニーズ・イン」は、最大の成功を収めて撤退したが、西洋人女性と日本人娼婦が日本人男性相手に基本的には同じサーヴィスをするのに、どういうわけか料金は西洋人の方が遙かに高いという伝統を残した

第4章        詐欺師
正直者だらけの日本は、西洋人にとってまさに天国 ⇒ 詐欺師にとって格好の稼ぎ場
一際異彩を放っていたのは元米空軍兵士 ⇒ 50年代に立川基地に配属、20年軍務に就いた後病気で除隊。そのまま日本に残って様々な詐欺事件を起こす
東京に進出した詐欺師の中で最も有名なのは、自称「ワシントンのロビイスト」クレイグ・スペンス ⇒ ボストン出身、ABCのヴェトナム駐在員となるがヤミ市で怪しげな商売に手を出してキャリアを棒に振り、日本に来てJETROにスカウトされ、日米両政府の上層部に潜り込み嘘を塗りたくった話で渡り歩く。元自民党副総裁の息子の椎名素夫が理事長を務めるPSG(国際経済政策調査会: 日本人ビジネスマンを大物アメリカ人に紹介し、日本経済の発展に寄与することを目的とする)を舞台に、82年には『ニューヨーク・タイムズ』にも時の人として取り上げられるまでになるが、自ら発案した男性売春スキャンダルによって奈落の底へ突き落される ⇒ 92年自殺
国産詐欺師も多数輩出 ⇒ 85年の豊田商事事件、ウェスト通商事件(稲川会のアメリカ支部的存在、当時副大統領のブッシュの兄プレスコットを誑し込もうとした)、アメリカ人の戦闘機パイロット偽装事件(純粋な日本人が幼少から憧れていたパイロットになりすまして人を騙して歩く)

第5章        ホステス
ホステスバーが繁盛しているのは、日本のビジネス社会のつらく厳しい現実と大いに関係がある ⇒ 仕事のストレスのはけ口。西欧と違って日本では商品の質と価格より、人間関係が最重要視される
ホステス総数は推定で百万人
それなりの知識と経験が必要で、とても西欧人にはできない ⇒ 高級クラブに西欧の女の子を入れるのは、まるで皇族のパーティーに安ワインを出すようなもの
ガイジンホステスの殺害事件 ⇒ 2000年殺害されたルーシー・ブラックマン

第6章        暴力団
戦前のヤクザは大企業の経営陣に雇われ、社会主義者が主導するストライキを妨害
戦争直前と戦中は、一部政党の要請で、軍隊に近い戦闘集団を結成
戦後は、保守政権の音頭に応えて警察と結び、共産主義のデモを制圧したり、共産主義者と思しき人物を脅迫する役目を果たす
戦後の数年間で大躍進を遂げる ⇒ 住吉会を筆頭に稲川会(横須賀出身)、山口組(大阪)3大組織
共産主義の脅威が暴力団の規模拡大と違法活動に拍車をかけた ⇒ 60年安保騒動の頃がピークで、児玉誉士夫が結成した25千の警備隊が体を張ってデモを阻止
ガイジンヤクザの暗躍 ⇒ 80年代初頭外国人の入国ラッシュが始まり一気に10倍に跳ね上がるとともに、外人犯罪が急増
95年ベルリンの研究所が先進国の腐敗ぶりに順位を付けた ⇒ イタリアに次いで日本が2位、アメリカは7

第7章        いいガイジン
他国の文化を学ぶなら、それが自国の文化を学ぶことに繋がらなければ意味はない
日米関係に前向きな貢献をした選りすぐりのアメリカ人の例
   米国海兵隊第27歩兵部隊「ウルフハウンド」 ⇒ 第2次大戦後に占領軍の警察組織として日本へ。ヒュー・オライリーを中心に日本の孤児の救済のための募金活動を開始
   レイモンド・ブッシェル ⇒ SCAPが認可した日本における外国人弁護士70人の1人。根付の世界的権威となり、熱心な後援者に
   フランシス・ベイカー ⇒ 36年宣教師の妻として来日。女優の村松英子と親友。戦時中はハワイに避難して米軍に協力、戦後日本に戻って国務省の美術担当局長。「女性の権利」という概念を日本に持ち込む。原子力の平和利用をアピール。ブレークモアと知り合って結婚。外国人では初めてホテル・オークラの新館にギャラリーをオープン、日本美術の発展に貢献。夫妻は離日に際し、自らのゴージャスな西洋式アパートを売却、数えきれないほど手掛けた親善活動の締めくくりとして、日本の研究を志すアメリカ人留学生の奨学金に充てた
   トーマス・ブレークモア ⇒ イギリスに留学後、アメリカ政府の「世界時事問題研究会」の奨学金で帝大で法律を学ぶために39年来日。戦争中は上海でOSSのために働き、戦後日本に戻ってGHQの法務部へ。「占領は完全なる時間の無駄」との結論から49年退職して日本での弁護士資格を取り、大手アメリカ企業の日本市場進出の手助けに奔走。最大の貢献は83年開園の東京ディズニーランドの法律業務担当

エピローグ
どんな明るい光にも影は付き物、どんな平和的な言動にも破壊的な力が潜む。それもまた人間の本性の一面なのだ。本書はこの真実を淡々と書き連ねた記録
登場する不良ガイジンは、想像以上に日本社会に驚異的な影響を与えてきた。その事実は、日本の外交史上最大の皮肉
また、この50年間、いずれの米国政権も、日本をアメリカのイメージ通りに塗り替えようと躍起になってきたが、政治家の「デモクラシー」にしても、日本人男性一般の「男女平等」意識にしても、日本人ビジネスマンの「フェアプレー」精神にしても、曖昧な成果しかもたらしていない
むしろ外国人犯罪者の方が、遙かに巧みに、さほどの苦も無く、日本の暗黒街をアメリカ風に塗り替えている ⇒ カジノなどの西洋賭博やストリップショーを紹介したのもアメリカ人だったし、ヤクザのマフィア化が進んだのもアメリカの影響
人間の行動の中で、金銭欲や犯罪や肉欲は、いかなる善行をも凌ぐ人類共通の要素であり、日本人とガイジンとの関係に今後とも介在するに違いない





 夢中で読んだ「東京アンダーワールド」の続編。
 前作が大成功し、なんとドリームワークスの手で映画化もされるとのことで、分量が多すぎるという理由で「泣く泣く削除した部分を、これで復活させられる!」っつーわけで出版されたのが本書。
 出てくる連中の顔ぶれが変わるだけで、内容は前作と似たパターンですが、日本人の腐敗振りが特に強調されている印象でした。
 教科書には決して載ることのない、日本の歴史のヤミの部分。
 戦後から現在まで、一攫千金を夢見て世界中から東京に集まってきたアウトサイダーどもの列伝ですな。
 出てくるのはほとんど犯罪者ばかりですが、そういう連中を受け入れ、一緒に金儲けをしようという土壌が日本にはあった。
 主役はガイジンなのですが、その暗躍ぶりが語られる過程で、日本人の腐敗が皮肉たっぷりにえぐり出されます。
1995年にベルリンの研究所が、先進国の腐敗ぶりに順位をつけた。それによると。G7の国の中でマフィアで有名なイタリアが一位、日本が堂々の二位だ。役人の腐敗が世界一進行しているし、建築業界、不動産会社、さらには政界のトップに、暴力団が大きな影響力をもっているからだろう。 (p.269
 警察と暴力団との癒着、裁判所が賄賂を受け取って刑を軽くしてくれるとか、「これはどこまで本当なの?」というようなことが書いてある。
 が、毎日のニュースとか見ていると、「もしかしたら本当なのかも」と納得してしまいそうになるような、ヘンなことがまかり通っているのも事実なのだ。


2007年 高裁判決 「東京アウトサイダーズ」事件
家族のスナップ写真の書籍無断掲載をめぐってその写真の創作性や著作権侵害性が争われた事案 ⇒ 本の冒頭に挿入された写真の中に、屋外で乳児を抱きかかえている写真の原告部分だけがカットして掲載され、「元CIAのウォリー・ゲイダはIQ165とも言われ、1949年ナイトクラブ<ゴールデンゲート>をオープン、開店当初から大センセーションを巻き起こした。来日したエヴァ・ガードナーとも浮名を流し、東京の夜を我が物にしていた。写真は60年代末のスナップショット」と紹介
スナップ写真の著作物性を認めた上で著作権、著作者人格権侵害を肯定しています。
本件写真がスナップ写真であることの特殊性に関する原審被告側の主張について、控訴審でも認められていません。原審の判断を基本的に維持しています。
今回の事案では、第三者から提供されたスナップ写真の撮影者、著作権者についての確認は、写真の提供を受けた執筆者がたんに提供者に問い質しただけでした。
撮影者、著作権者がだれであるのか、写真使用の際の著作権処理として出版社側としてもネガの所在確認なども行っていく必要が今後一層厳しく要求されることとなります。
事例判断とはいえ控訴審でも出版社にも過失が認定され、出版業界には厳しい判断の先例となったかもしれません。


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