言語学バーリ・トゥード Round 2  川添愛  2024.11.7.

 2024.11.7.  言語学バーリ・トゥード Round 2 言語版SASUKE3に挑む

 

著者 川添愛 1973年生まれ。作家。九州大学文学部卒業、同大大学院にて博士号(文学)取得。2008年、津田塾大学女性研究者支援センター特任准教授、12年~16年国立情報学研究所社会共有知研究センター特任准教授。専門は言語学、自然言語処理(統語論、意味論)。現在は大学に所属せずに、言語学者、作家として活躍する。 実績 著書に『白と黒のとびら』『自動人形の城』『言語学バーリ・トゥード』(東京大学出版会)、『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』朝日出版社、『コンピュータ、どうやってつくったんですか?』(東京書籍)『ふだん使いの言語学』(新潮選書)など

 

発行日           2024.8.16. 初版     

発行所           東京大学出版会

 

本書はアントニオ猪木の商標使用許諾を得て製作

 

同著者の『24-10 世にもあいまいなことばの秘密』参照

 

この本を手に取ってくださった皆様へ

本書に収録されているのは、東京大学出版会のPR誌『UP2021.4.24.1.まで3カ月ごとに掲載された12回と、今回書下ろしの3回の計15回分

アントニオ猪木が亡くなった後に書いた『2023年も行けばわかるさ(8)23年度の河合塾第3回記述模試の国語問題に採用

 

第1章        生産者の顔が見える原稿   (初出『UP20214月号)

1回分書くのに平均で約8時間かかる

「原稿は農作物」⇒まずは土作り(書く人のコンディション作りが重要)、次いで種を探す・種を作る(文章作りで絶対必要なのはテーマやネタ、具体性を備えたテーマ)、文章を育て最後まで書ききる、仕事を管理する(自分の目標に立ち返る)

 

第2章        言語版SASUKEに挑む  (初出『UP20217月号)

専門家の凄さが外部の人たちに伝わりやすい分野とそうでない分野がある

言語学は、伝わりにくい分野なので、伝わりやすくするために「言語学者の能力を使った競技=言語学バトル」を考える

問題① 構文4択――関係節と内容節の違い。関係節とは、「子どもの頃見た夢」のように名詞「夢」を修飾する文っぽい部分(連体節)の一種で、修飾先の名詞がその中で主語や目的語に対応する。内容節は、「海外旅行に行く夢」のように修飾先の名詞の内容を述べるもの

「カキ料理構文」と呼ばれる「XYZだ」(カキ料理は広島が本場だ)は、ZYを入れ替えられる文かどうかが決めて(このチームのキャプテンは有能だ)

問題② 例文タイムショック――「動詞来るが入っているにもかかわらず物理的な移動を現わさないような文の例は→頭に来る」「文末に終助詞がつくのに疑問を表さない文の例→なんだお前か」

問題③ 容認性100人に聞きました――「文の容認性」とは、人が特定の文について感じる自然さ・不自然さで、「今日は数学を勉強をする」「お湯を沸かす」など人によって判断が異なるのを、100人の属性を聞いたうえでどの程度の反応が来るのかを推測する

問題④ 言語学クイズハンター ――言語学のジャンル別(かきまぜ現象、生成文法理論など)の専門知識を訪う

問題⑤ とんでも俗説ダンジョン――言語学に関わるトンデモ俗説(「日本語は論理的ではない」など)に挑む

 

第3章        言語に引導を渡す者   (初出『UP202110月号)

思い込みで行動しがちになるというのは、年齢を重ねていく上では避けられない。人生経験を積み重ねると、どうしても「世の中というのはおおよそこうなっているんだろう」とか「これぐらいやっても大丈夫だろう」といった信念が出来上る。それが現実と食い違っている時、即座に気づいて修正出来ればいいが思考の柔軟性が失われていくと、自分の思い込みを絶対視して現実の方を歪めて認識。そうなると問題行動をする可能性が高まる

死語とは、若い人たちが年寄りの発した言葉を小馬鹿にすることではなく、「それが使われていた時代をリアルタイムで知っている」時代の生き証人の過剰反応が作り出したもの

言葉の受け止め方は人によって違うので、死語の明確な基準は恐らく存在しない

 

第4章        あるあるネタはなぜ人を笑顔にしがち♪なのか (初出『UP20221月号)

他の言葉の後ろにつく「~がち」は、動詞や名詞の後につくが、最近は「多いがち」など形容詞の後にもつけるようになった←レイザーラモンRGの「あるあるネタ」が「がち♪」で締めくくられる影響。俵万智は「日本語の使い方がうまいアーティスト」のNo.1に選ぶ

笑いに関する古典的な説

   不調和節――予想が裏切られることでおかしみが生じるとするもの。漫才のボケなど

   優越説――対象を蔑むことによっておかしみが生じるとするもの

   安堵説――心理的抑圧によって蓄積されたエネルギーが解放されるとおかしみが感じられる

「あるあるネタ」の面白さを説明できそうなのは①に加えて、広く浅く経験されているにもかかわらず、人々の意識の底に深く沈んでいるという、その落差が大きければ大きいほど面白いネタになる

限られた数の経験や観察から導き出すことを「一般化」というが、人間は普段の生活において頻繁に一般化を行い、さまざまな法則性を見出している。その法則性が他人の中にもあるという発見に繋がることが面白さになる。自分に馴染みのない事でも、「実にそれっぽい」と感じられれば面白く思えてしまう

 

第5章        最高にイカすぜ、倒置は!                      (初出『UP20224月号)

倒置法の文は、普通の語順に戻したときとの差が大きくそのギャップを味わうのが楽しい

倒置が起こっている文を「後置文」と呼び、述語が最後に来るべきところを述語でないものを述語よりも後ろに置いているもので、大きく2種類あり

   文脈から見て古い情報を後ろに持っていくタイプ

   新しい情報を後ろに持っていくタイプ

「分かりきったことだから後回しにした」のか、「新しい情報だから後で言った」のかの違い

「本当にダメだね、君は」は、「本当にダメ」なのが「君」だということが、話し手にとっても聞き手にとっても明らかなときにだけ使える。両者にとって古い情報なので①のタイプ

「私言ったの、結婚したいって」は、聞き手にとって後半の部分は新しい情報なので②だが、後半の部分に聞き手の注意を向けるために意図的に語順を逆転させるケースもある

英語でも「A is B(Bは形容詞)のような文が「B is A」になるケースがある。「Guilty is that witch, who…..who以下で罪状を述べているが、Aが長すぎると分りにくいための後置

 

第6章        悪い言葉の誘惑                                  (初出『UP20227月号)

『悪い言葉哲学入門』の刊行記念のトークイベントで著者と渡り合う

悪口の構文――「この~が!」「~め!」「~しやがる」「~のくせに」

タコの可能性――「バカ」「アホ」は相手の「愚かさ」を、「イモ」は「田舎っぽさ」を見下している。また他人を動物になぞらえる悪口ではその人の持つ性質の中にその動物に似たものがあることが示唆されるが、「タコ」は相手のどこに目をつけているのか明確ではない

ツッコミにおける推論――文脈との相互作用によって悪口として機能する文もある。「頭のよくなる本を買ったよ!」「早く読めよ」のケースでは、その本を読んだのなら頭がよくなっているはずなのにまだよくなっていないから早く読めという推論が行われている

猪木の言語行為論――「言葉を使う」ことは単なる情報の伝達ではなく、「何等かの行為をすること」だというのが言語行為論。異種格闘技戦で猪木が対戦相手に対し、「スパーリング相手がいないなら、私がスパーリングパートナーをこれから務めよう」といったことに対し相手が激怒したのは、すでに出来上がっていることを猪木が示唆して相手を挑発したから

 

第7章        【コント】ミスリーディング・セミナー   (初出『UP202210月号)

ミスリーディングは、「意外性」に惹かれるという「人間の性質」を応用したメソッド

「市内で新たに34人感染」というより「幼稚園児ら34人が感染」の方が刺激的

 

第8章        2023年も行けばわかるさ                  (初出『UP20231月号)

猪木はプロレスのパラダイムを変えた――実力至上主義を掲げ異種格闘技戦を生み出す

モハメッド・アリとの試合で披露した「アリキック」は「世紀の凡戦」と酷評されたが、現在隆盛の総合格闘技の源流とされる

猪木が引退試合で披露した詩《道》の1

「この道を行けばどうなるものか 危ぶむなかれ 危ぶめば道はなし 踏み出せばその一足が道となり その一足が道となり 迷わず行けよ 行けばわかるさ」(新たな挑戦に踏み出す勇気と決断の大切さを教えてくれる名言)

 

第9章        【創作】言語モデルに人生を狂わされた男  (初出『UP20234月号)

言語モデルの基本的な仕組みや性質が一般ユーザーにほとんど伝わっていない

「チャットGPTのいう事は本当だとは限らない」というのは常識だが、真に受けられていない。言語モデルが学校教育に与える影響については、専門家によっても指摘されている

 

第10章     話題のAIをちょっと真面目に解説してみる  (初出『UP20237月号)

言語モデルの昔と今――「言語を生成するAI」の基盤は「大規模言語モデルLLM」で、その総称がチャットGPTであり、言語モデルとは「人間の言語の中でどういう単語の列が現れやすいかという確率の情報を持ったもの」。膨大なデータを利用して、「単語の列を入力したら、次に現われる単語を出力するという課題の解き方を学習する

単語間の関係を捉える――人間が書いた文章の中には「単語間の依存関係」が何種類も存在し、そこには文法的・意味的な性質や文体、常識や文化的背景など、様々なレベルの知識が反映されている。そういう依存関係をうまく捉えられるようにしたのがトランスフォーマーという仕組みであり、その中でもアテンションという注意を喚起する仕組みもある

言語モデルをしつける――データに必然的に現れるお下劣な部分を除去するために出てきた対処法が「人間によるフィードバックに基づく強化学習」で、チャットGPTの答えを好ましい方向に微調整して、人間が望む答えに近づけていく

 

第11章     【創作】メトニミーのない世界              (初出『UP202310月号)

メトニミーとは「換喩」。概念的に近いもので表現することで、日本政府のことを「永田町」、鍋料理を「鍋」、トヨタ車を買うのに「トヨタを買う」などがある

 

第12章     日本語は「世にも曖昧な言語」なのか         (初出『UP20241月号)

24-10 世にもあいまいなことばの秘密』の番外編

人間は誰しも自分の頭に最初に思い浮かんだ解釈を「たった1つの正しい解釈」と思いがちなので、相手側の解釈に想像が及ばないことが多い

曖昧さという宿命――曖昧さは人間の言語とは切り離せない性質の1つで、森羅万象あらゆることを限られた音や文字で表すのは不可能なため、同一の表現が2つ以上の物事を表す状況が出来。英語でもfineには日本語の「大丈夫」に似たニュアンスがある

日本語だけの特徴?――主語がない言語の方が多数派だし英語でも主語のない文章はある、単複の区別がないのは中国語でも同じだし英語でも複数形の-sか動詞の3人称単数につける-sかの混同が起こる、述語が最後に来るのも世界では多数派

曖昧なのは人間の方――「言語自体の問題」というより「言語を使う人間の問題」であることが多い

 

小学館辞書編集室公式ウェブサイト https://kotobanomado.jp/column/1201/

「日本語ハラゴナシ」 第19回 「曖昧なアメリカの私」 Arthur Binard、詩人

 日本語は曖昧だと、日本人が思い込んでいるらしい。

 日本文化について語り合っていても、日本のマスコミの問題を論じてみても、日本の国政の話題をサカナに一杯やっているときでも、だいたい誰かが「やっぱり日本語っていうのは曖昧だからね」といったセリフを吐く。意識調査の統計を見たことはないが、「日本語=曖昧語」のイメージがこの列島の津々浦々にまで広まっているようだ。ぼくはこれまで企業家からも大学教授からも、主婦、サラリーマン、タクシーの運転手からもいわれたことがある。それぞれの口調は異なれど、口々に「日本語は曖昧ですから」という。

 ぼくはそれに対して、どうしてもうなずけない。英語の中で生まれ育ち、20歳すぎてから日本語を学び出して、はや四半世紀、このふたつの言語を行ったり来たりしながら生きてきて、自分の体験を通じて正反対の印象を得たからだ。日本語が特別に曖昧ではなく、どちらかといえば英語のほうが荒削りの表現に富んでいて、曖昧な部分がやや多いと思う。

 ところが、皮肉なことに「日本語=曖昧語」の定説の根拠とされるのは、往々にしてぼくの母語との比較だったりする。もちろん「曖昧度」を測る基準そのものは曖昧さを多分に孕んでいて、しかも両言語の全体を比べようと思ったら気が遠くなる作業が待ち受けているのに、そんな本格的な分析による比較は出てこない。恣意的にディテールをピックアップして天秤にかけるやり方で、定説に好都合な言語学が流布してしまっている感じだ。

 日本語の曖昧さのひとつとして、「主語を省略するので具体的に誰の行為なのかはっきりしない」という特徴が、たびたび取り上げられる。たしかに英語では主語を話に盛り込む場合が多く、その一点にしぼれば日本語が曖昧だといえる。先人たちがもともと曖昧さを狙ったというより、いわずもがなの主語を省いていった結果に違いないが、ずるがしこい日本語のプロにとってはこの文法は重宝する。

 浜の真砂の数ほどある「主語抜き」の日本語の例文の中でも、広島の平和公園の慰霊碑に刻んであるものが有名だ。

   安らかに眠って下さい
   過ちは繰返しませぬから

 ウランの核分裂に晒されて命を奪われた人びとに対して、「繰返しませぬから」と約束しているのは、いったい誰なのか。「歴史は繰り返す」と大昔からいうが、そうはさせまいと、いったい誰が保障するのか。もし死者への深い思いに裏打ちされているものであるならば、碑文の意思表示は、このままでも成立する。が、責任転嫁の可能性を前提に契約書の一種としてとらえた場合、主語の省略は重大な欠陥といえる。

 ただ、それ以上に「過ち」の曖昧さが、ぼくはクセモノなんじゃないかと考える。核分裂の連鎖反応を、広島の上空で引き起こしても長崎の上空で引き起こしても、福島第一原子力発電所の原子炉内で引き起こしても、川内原子力発電所の炉内で引き起こすにしても、物理学的にまったく同じ現象だ。どれもみんな生命体をヒバクさせる「過ち」につながるので、ぼくは当たり前の同一性をそこに見る。でも、原子力を推進したい勢力は意味を矮小化させ、原発の「過ち」を「正解」に見せかけようとする。メルトダウンの「過ち」を犯したあともなおさらだ。核にまつわるこのマヤカシは、なにも日本語限定の現象ではなく、アメリカ英語でもイギリス英語でも同様にずっと繰り広げられてきているのだ。

 さて、英語ならではの曖昧さを示す実例はどうか。

 21世紀に入ってから曖昧な英語をもっとも巧妙に利用した人物は、おそらく第44代アメリカ合衆国大統領バラク・オバマだろう。ま、オバマ陣営に雇われたコピーライターやスピーチライターや選挙プランナーが巧妙に利用したといったほうが正確か。彼らは曖昧な表現を見事に組み合わせ、最大限のPR効果を出して2008年の大統領選で勝利をおさめた。数ある曖昧なキャッチフレーズの中でも、いちばん効いたのはChangeだった。

 言質を取られないようにごまかす常套手段として、英語の動詞を活用させず単独で原形のまま使うテクニックがある。勇ましい候補者がChangeを堂々と唱えると、聞き手はつい「この人は『変える』つもりなんだ」と思い込む。けれど実際はChangeには「変える」という他動詞も「変わる」という自動詞も、「変化」だの「変異」だの「心の移り変わり」といった名詞も、すっぽり含まれる。つまりChangeを実施する主語が曖昧になるのみならず、そのChangeの中身も方向性すらすべて曖昧のまま素通りするのだ。

 アメリカ合衆国の有権者の多くは、他動詞として真に受けて期待していたようだが、当選を果たして2009年の初めに就任したオバマ大統領は、さっそく自動詞のほうの意味を活かしてガラリと変わってくれた。残念ながら「嘘つきだ!」と責めるわけにはいかない。なにしろそれもChangeの内だから。

 思い出せばもうひとつ、英語ならではの曖昧なキャッチコピーが、オバマ候補の口からしょっちゅう飛び出ていた。2008114日の夜、シカゴでぶった勝利演説でも繰り返しYes, we can.を使った。ごくシンプルな単音節の言葉の組み合わせで、三拍子のリズムも抜群によくて、一見わかりやすいフレーズではある。けれど本当はcanにつづく動詞と目的語が出てこなければ、どうとでもごまかせるアヤフヤなコマーシャルにすぎないのだ。

 オバマ大統領就任式のあと、ぼくは仕事で福岡県久留米市へ出かけた。少し町をぶらぶら歩く時間もあって、ラーメンを食べてから交通量の多い通りの交差点で横断歩道を渡ろうとしたら、信号機の向こうにオバマ大統領の看板が立っているではないか。カッコよく演説をぶっているポーズで、手に筒状のものを持って訴えている写真だ。よく見ればそれはハンコを売っている店の看板で、大統領の写真の下に「Yes!印鑑」とでっかく書かれていた。

 ひどく曖昧な英語の文句よりも、この日本語のほうがとても具体的で、ぼくはハンコ屋さんにお礼をいいたい衝動にかられた。

 

曖昧さの要因はさまざま。直接的な言い方を避けるためだったり、責任回避のため言質を取れないようにしたりするために使われがち

 

第13章     重言パラダイス                                      (書下ろし)

似たような言葉を重ねることを「重言」という――「満の星」「30ほど

巨匠の言い間違い――言い間違いは言語学的にも重要な現象。意識の及ばないレベルで何が起こっているのかを探る手掛かり

https://www.youtube.com/watch?v=Rkak7205RJ0&list=PLyTflU0HkWT84gac1D1PnlQQpatSEXpsE&index=1

気遣いの末に――「熱中症警戒アラート」「完結済み」

あふれる想いを表現――歌詞に多い。「あとで後悔する」

「違和感を感じる」に違和感を感じる?――「歌を歌う」と若干異なるニュアンス。目的語が「行為や出来事」か「モノ」と捉えるかによって、前者なら冗長に感じるのでは?

「頭痛が痛い」を救いたい――情報量が増えれば意味の重複があまり気にならなくなる。「頭痛が痛い」には違和感があっても、「持病の頭痛が今日はひどく痛い」では違和感が軽減?

 

第14章     日本語は本当に「非論理的な言語」なのか       (書下ろし)

「日本語は論理的ではない」の曖昧さ――「論理的」という言葉自体、「言語そのもの」を直接形容するものではない。「一貫した法則性がない=不規則性」と「日本語で表現される思考が論理的ではない」という2様の意味が含まれるが、何れの主張も日本語に限らない

曖昧だから非論理的?――曖昧なのは日本語だけではなく、論理的に話をすることは可能

厳密な意味での「論理」と日常的な意味での「論理」の乖離――日常的には「論理的=説得的」と考えるが、厳密な意味での論理は基本的に別物。「なんだか説得力のある話」と「正しい推論に則った話」にはずれがある

外国語効果と関連している?――「外国語での思考が意思決定バイアスを軽減する」という仮説がある。外国語で考えると、母語における場合のような感情的・直感的反応が作動しなくなり、熟慮を促す効果も現れ、結果的に意思決定バイアスが提言すると説明

 

第15章     【コント】接頭辞BLUES                         (書下ろし)

上下左右・東西南北・不・未・新・旧・前・後・奥・裏・元・無・非・大中小

 

 

 

 

 

 

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Round 1

読むなよ、絶対に読むなよ!

ラッシャー木村の「こんばんは」に、なぜファンはズッコケたのか。ユーミンの名曲を、なぜ「恋人はサンタクロース」と勘違いしてしまうのか。日常にある言語学の話題を、ユーモアあふれる巧みな文章で綴る。著者の新たな境地、抱腹絶倒必至!
【東京大学出版会創立70周年記念出版】

 

 

Round 2

ことばの「なぜ?」に向き合う、爆笑必至エッセイ! 迷わず読めよ、読めばわかるさ

レイザーラモンRGの「あるあるネタ」はどうしておもしろいのか。「飾りじゃないのよ涙は」という倒置はなぜ印象的なのか。猪木の名言から「接頭辞BLUES」まで縦横無尽に飛び回りながら、日常にある言語学のトピックを拾い出す。抱腹絶倒の言語学的総合格闘技、Round 2スタート!

 「自ら手傷を負いながら「あるある」の本質に肉薄する渾身の回をはじめ、今回のRound 2も楽しくて楽しくて。」古田徹也氏(哲学者)

「笑えて、ためになり、読み終わるとフリーダムな気持ちになる奇跡の本。」高野秀行氏 (ノンフィクション作家)

「前作も最高でしたが、今作も相変わらず川添節が炸裂しまくってる。まえがきの2pからボケの手数がすごすぎる。最高だ。」水野太貴氏(ゆる言語学ラジオ)

 

 

 

Search Labs | AI による概要

バーリ・トゥードVale Tudoには、次のような意味があります。

ポルトガル語で「何でもあり」を意味する言葉で、制限のない総合格闘技を指す

言語学の読み物で、東京大学出版会から出版されている

バーリ・トゥードの格闘技は、眼球や金的、咽喉などの急所攻撃や噛み付きなどは基本的に反則技ですが、顔面への打撃や関節技などは認められています。柔術とキックボクシング、レスリングと柔道など、異なる競技の選手同士が優劣を競う他流試合ともいえます。

また、言語学の読み物である『言語学バーリ・トゥード』は、プロレスラーがリング上を飛び回るように軽快に展開される文章で、言語学初心者でもわかりやすいのが特徴です。著者は熱烈なプロレスファンで、文章のいたるところにプロレスネタが散りばめられています。

 

 

言語学バーリ・トゥード 川添愛著

思考の過程も活字で見せる

2021925 日本経済新聞

この本は、抜群におもしろい。

(東京大学出版会・1870円) かわぞえ・あい 73年生まれ。専門は言語学、自然言語処理。著書に『ヒトの言葉 機械の言葉』『ふだん使いの言語学』など。

いきなり筆者基準の「おもしろい」という曖昧な情報をわざわざ書くのにはわけがある。言語学や日本語学に携わる最末端の人間として私見を述べることをお許しいただけるのであれば、言語に関する書籍というのは、専門性の高いもの、あるいは専門性の高いことを簡潔で平易に説明するもの、そして「正しいか間違っているか」という規範(ほぼ幻想)を求められるものが大半である。順に単価のそこそこ高い単行本、新書、ムックという形で世に出ていて、内容が興味深くて面白いものはあるけれど、思わず笑ってしまうという意味での「おもしろい」本は皆無といっていい。エッセー風の軽妙な文章で言葉について考える書籍はすでにファンの多い大御所の先生が書くことはあるが、決して笑っちゃう読み物ではない。

ところがこの本は、研究者としてはまだ若手といっていい年齢の川添さんが(読者のなかには『数の女王』の著者として認識している方もいるかもしれない)、身の回りで目にしたり耳にしたりする言語現象をキッカケとして、言語学のこれまでの知見をするすると紹介するという形をとっている。当然、これまで川添さんが生きてきたなかで触れてきたプロレス、ゲームや芸能ネタ、歌詞などが随所に出てくるのだが、これらをご存じなくても存分に楽しめる闇鍋的なエッセーにまとまっている。

ユーミンの『恋人がサンタクロース』はなぜ『恋人はサンタクロース』ではないのか。日本語教育でも「は/が」の問題は、一筋縄ではいかない事項のひとつだ。この問題をとりあげて、川添さんはいきなり結論にはいかない。言語学者としてどう考えたのか、その思考のプロセスを活字化してくれる。専門家は理路整然と結論に向けて語り、考えた時間や思考の過程を説明してはくれないものだが、川添さんはちゃんと寄り道した跡を書いてくれる。人間味がある文章なのだ。だから楽しい。

16のトピックからなる思考の小旅行。専門家でありながら、アカデミアに染まりきらずに少し外側にはみ出した人だからこそ見える諸問題は、どんな人にでも届く力を持っている。ちなみに「バーリ・トゥード」の意味は知らなくても大丈夫です。

《評》漫才師 サンキュータツオ

 

 

(売れてる本)『言語学バーリ・トゥード Round 1』 川添愛〈著〉

有料記事売れてる本

202257 朝日

『言語学バーリ・トゥード Round 1 AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか』

 「こんばんは」の衝撃と文脈

 本書は言語学エッセイの体裁を持つ自称「バカ話」で、過剰なほどプロレスに触れている。本紙から書評を依頼されたのは、1981923日のラッシャー木村「こんばんは」事件を田園コロシアムで目撃したり、格闘競技のバーリ・トゥードを北米に移植したアルティメット第2回大会を94年にデンバーで観戦したからだろう。

 本書が売れている理由は、近代言語学の祖であるソシュールの所説を「能記(注。音声や文字)と所記(意味内容)の間は恣意的で、特別な関係はナッシング」と要約するキレや、コロナ感染症がコロナビールの風評被害をもたらしたのかを探るといった連想の妙にあると思う。

 アントニオ猪木の元に「突然の殴り込み」を掛けたラッシャー木村が「こんばんは」と挨拶し観客をズッコケさせた件は、挨拶は相手を驚かさないためにあり、敵に投げかけるのは不適切と診断されている。

 挨拶の一般論はそうだろう。けれども本書冒頭にある通り、「言葉の理解のために、文脈の理解は不可欠」である。文脈が示されなければ木村発言の衝撃は伝わらない。

 当時、善玉の日本人対悪役の外国人という定型化された役割分担は飽きられていた。それに対し猪木は言葉で煽って筋書きを展開するという技術革新に取り組んだ。新日本プロレス人気は沸騰、木村の国際プロレスは直前の9月中旬までに崩壊した。それだけに満場の観客は国際のエース木村に過激な言葉を期待した。「人気だけのくせに何がストロングスタイルだ!」といった挑発である。そこに飛び出したのが善玉然としたご挨拶だった。「だから倒産したのか」と納得させられた。

 著者は一日のほとんどの会話を自分の脳内で完結させているといい、それゆえか文脈が指示されない。文脈は、他者への期待や失望に彩られる。付言すれば後年、木村は木訥(ぼくとつ)としたマイクで名脇役となった。それも予想を裏切る展開であった。

 松原隆一郎(放送大学教授)

     *

 『言語学バーリ・トゥード Round 1  AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか』 川添愛〈著〉

     *

 東京大学出版会・1870円=621千部。20217月刊。「紀伊国屋じんぶん大賞2022」第3位。担当編集者は「今後はプロレスファンにもかみついてほしい」。

 

 

言語学、ポケモン・ラップで

キャラクター名や若者の言葉を分析2022823 日本経済新聞

言葉は日常的な存在でも、学問の「言語学」となると、とたんに難しく感じられる。だが最近、キャラクターの名前や若者言葉といった身近な題材の研究が一般の注目を集めている。

202111月、ある論文を紹介したツイートが話題になった。バズったのは「ポケモン言語学」。慶応大学言語文化研究所の川原繁人教授が提唱し、国際共同研究も進められている。川原教授の専門は音声学で、特に音と意味の結びつきについて研究。16年に「ポケモンGO」が流行した際、学生から「ポケモンの進化と名前の濁音には相関がある」という仮説が出され、検証が始まった。

名前を調べると「ゴースト」「ゲンガー」など、進化後に重く、強くなると濁音が増えることが統計的に実証できた。さらに実際には登場しない架空のポケモンの進化前と後のイラストと名前のペアを示し、どの組み合わせがふさわしいかを日本語話者に判断してもらう実験をした。すると子供も大人も、濁音を含む名前を進化後とみなす傾向にあった。

濁音、強大さ表す

論文が海外の言語学者から注目を集め、各国で研究チームが立ち上がった。同じポケモンキャラでも各国で別の名前が付けられており、比較にも適していた。現在までに英語とポルトガル語、ロシア語で実験が行われ、日本語と同様の傾向が表れたという。川原教授は「濁音を発するとき、口の中は大きくなる。大きなキャラのイメージと結びつくのは音声学上、理にかなっている」と指摘する。

川原教授は日本語ラップの韻やメイドカフェ店員の愛称、アニメ「プリキュア」の名前分析などにも取り組んできた。「分析や実験、統計の手法は堅い論文と変わらない。真面目な研究だ」と語る。22年に入り一般向け書籍を続けて刊行、研究を紹介している。

ところで「バズる」は、典型的な若者言葉といえる。宇都宮大学専任講師の堀尾佳以氏は、若者言葉のルールや変遷を社会言語学の見地から分析した。学生だった90年代の終わり、アイドルグループのメンバーが「告る(告白する)」と発言していたことに興味を持ち研究に取り組み、5月に「若者言葉の研究」(九州大学出版会)を出版した。

「タピる」に文法

「サボる」は明治期から使われたとされ、こうした動詞化は古くからある。堀尾氏は近年の若者言葉を集めルールを調べると、少し前にはやった「タピる(タピオカドリンクを飲む)」など全ての「る言葉」が文法的に五段活用だった。堀尾氏は「若者言葉は乱れていると言われるが、ルールにのっとっていて乱れてはいない」と説く。

さらに若者言葉が幅広い世代に浸透し、元の意味を失って定着している例もあるという。「っていうか」が典型だ。本来「……よりむしろ……」という意味だったが「話者や話題の転換のマークとして一般化している」と堀尾氏。若者でなくとも思い当たる用法だ。

言語学を身近にするエッセーも人気だ。217月刊行の「言語学バーリ・トゥード」(東京大学出版会)は、今年5月時点で926000部を発行した。松任谷由実の名曲「恋人がサンタクロース」はなぜ「恋人は」ではないのかなど、身近な話題を作家で言語学者の川添愛氏がユーモアを交えてつづる。

研究機関を離れた川添氏は「外からみて言語学の面白さが知られていない」と感じ、幅広い発信に力を注ぐ。さらに言語学は「自分の文章が誤解を招かないか、立ち止まって省みるのにも役立つ」と強調する。SNS(交流サイト)で自由に発信ができる時代、バズりは良くても炎上は避けたい。言語学に触れる意義は大きい。

(西原幹喜)

 

 

『言語学バーリ・トゥード Round 2』刊行記念トークイベントが開催されます

2024/08/02  フェア・イベント

『言語学バーリ・トゥード Round 2――言語版SASUKEに挑む』の刊行記念イベントが開催されます。著者の川添愛先生がご登壇される、トークイベントです。ぜひふるってご参加くださいませ。

【場所】書泉グランデ7階イベントスペース

【日時】202492日(月)19:0020:00(開場18:45

    トーク45分、質疑応答+サイン会1530

【定員】50

 

 

東京新聞

言葉って曖昧で、難しい 『言語学バーリ・トゥード』 作家・川添愛さん(47

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 書名にある「バーリ・トゥード」は、ポルトガル語で「何でもあり」の意味。言語学を研究していた著者が、言葉にまつわる身近な話題をユーモアたっぷりにつづった十六編を収める。「気楽に読めて、気持ちが明るくなるようなものを」と期する通り、趣味だというプロレスのエピソードやちりばめられたギャグに笑い、同時に、日ごろ何げなく使っている言葉の奥深さに気づかされる。

 例えば、副題の「AIは『絶対に押すなよ』を理解できるか」は、言葉の額面通りの「意味」と、話し手が伝えたい「意図」とのずれがテーマ。言っていることと、言いたいことが正反対の例なども示しながら、人は文脈や常識から相手の言葉の曖昧さを解消して意図を推測している、と説く。だから、人工知能(AI)に<いくら言葉そのものの意味を教えても、それだけでは意図をきちんと推測するためには不十分>なのだという。

 長年、松任谷由実さんの名曲「恋人がサンタクロース」を「恋人は」だと勘違いしていたのを素材に、「が」と「は」の違いを考察する。コロナ禍で出てきた「ソーシャルディスタンス」「Go To トラベル」といった新語を導入として、ニセ英語の広がりを眺める。相手が自己卑下した時にどう反応すればいいか、との問いには、かつてテレビで見た大物歌手同士の対談のひとこまに、コミュニケーションで重要な「たったひとつの冴えたAnswer」を見いだす。

 「言葉って曖昧で、思っているより難しい。私たちは頭の中ですごく複雑な処理をしながら話したり、理解したりしているんです。人間の言語能力を過小評価することが逆に、AIやロボットに対する過大評価につながっているんじゃないか。言葉の複雑さ、面白さ、人間が無意識にやっていることのすごさ、といったことは伝えていこうと思っています」

 情報科学の理論を謎解きの物語にした『白と黒のとびらオートマトンと形式言語をめぐる冒険』で2013年にデビュー。本書は、月刊の冊子『UP』で184月号から3カ月に1回、連載中のエッセーと書き下ろしをまとめた。

 連載を念頭に、最近調べているのは「死語」。なぜ人によってとらえ方が違うのか、口にした時に恥ずかしいと思うのか。「自分の中でいま、熱いテーマです」。東京大学出版会・1870円。 (北爪三記)

 

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