非常識な数学教室 Eugenia Cheng 2026.4.10.
2026.4.10. 非常識な数学教室 「なぜ1+1=2なのか?」からはじめる
Is Maths
Real?
How Simple Question Lead Us to Mathematics’
Deepest Truths 2023
著者 Eugenia
Cheng シカゴ美術館附属美術大学サイエンティスト・イン・レジデンス、ロンドン市立大学名誉フェロー。著書に『世界は圏論でできている』(森北出版)、『数学教室πの焼き方』(原書房)、『Beyond Infinity』『The Art of Logic』『x + y』(以上、未邦訳)など多数。アメリカ・イリノイ州シカゴ在住。
訳者 熊谷玲美 翻訳家。東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻修士課程修了。訳書にキース・サイファート『菌類の隠れた王国』(白揚社)、ハリー・クリフ『宇宙のアノマリーはどこまで判明したのか』『物質は何からできているのか』(以上、柏書房)、エマ・チャップマン『ファーストスター』(河出書房新社)、スティーブ・ニコルズ『虫・全史』(日経ナショナルジオグラフィック社)、デイビッド・バリー『動物たちのナビゲーションの謎を解く』(インターシフト)など多数。
発行日 2025.11.10. 第1版第1刷発行
発行所 白揚社
イントロダクション
何から達成感を得られるかは人それぞれ
私にとっては、数学も自分で何かを作ること。それは真実を自分で作ること、そして自由奔放な思考の世界に出て行って、自給自足することだと言える。最高に愉快な経験で、私がこの本で伝えたいのはまさにこのこと
数学を巡る感情についての本
数学とは、探れば探るほど多層的になっていく世界で、いくつもある真を探求すること
数学の深遠な真理にどうやって到達するかについての本
第1章
数学の始まるところ
l どうして1+1が2になるのか?
1+1=2がいつでも正解なのかどうかを考えていこう
l 境界を押し広げる
何かが常に真実だと断言するのは、何かの周りに境界線を引くようなものであり、矛盾する例を探すのはそうした境界線を押し広げようとすること
l 数学の起源
数学の基本的なスタート地点として一番よく知られているのは数。身の回りの世界の一側面を数の中に詰め込むことで、私たちの脳の大切な部分は世界でもっと面白い部分を扱うためにとっておく。数は身の回りの世界を単純化したいという欲求から生まれる
l 抽象化とパズル
数を思いつくことで、抽象化を行った。抽象化というのは、ある状況の細かな部分を考えないことで、その状況の「理想」のバージョンを考えることであり、異なる状況の間の類似点を見つけることでもある
l 抽象的概念は実在するのか?
l 数学はどのように発展するか
数学は、論理的なものごとの仕組みについての論理的な学問
身の回りのものを抽象化する方法の1つが数であり、数を研究する手法として四則計算があり、数同士の関係を調べることが始まる
身の回りの物体を抽象化すると、図形に行き当たる。図形のたし算やひき算は、図形をくっつけたり分離したりすることだろう
l 図形と図形をかけ合わせる
線と円をかけ合わせるということは、垂直に立てた円を円と直角に当てた線に沿って円を「複製」していくか、1本の線を空中で円の形に動かしていくかで、いずれも円柱ができる
円x線=円柱 線x円=円柱 ゆえに 円x線=線x円 となり、「乗法の交換法則」
l 数式と対称性
図形には対称性がある。図形の差異を示すのが対称性
鏡映対称性とは、反転させると図形のある部分が別の部分に重なる
回転対称性とは、図形を回転させることである部分を別の部分に重ねられる
「群論」では、対称性やその組み合わせ方から抽象的構造を作り出す
ガロア理論では、回文のように数式の対称性を研究する。例: a2+ab+b2
l つながりを見つける
抽象化は、ものごとの間に類似性を見出す、つまりつながりを見出す手段
ピッタリ図形が一致するのは「合同」。サイズが異なる場合は「相似」。三角形で1辺が0になったのが線、2辺が0になったのが点だが、それらを「縮退」三角形と呼ぶ
「圏論」では、3つの辺があるものをすべて「三角形」と呼ぶ
l 1+1が2ではないとき
l 考えをパッケージにする
異なるものの集まりの類似性に気づくことから正の数が生まれ、それがさらに抽象的概念に繋がる
l 数字のパッケージ
3x3x3x3を1つのパッケージにまとめる方法が指数で34と書けば、累乗の世界に入り、ウィルスの広がりのようなものを理解する端緒を掴める
「ストローマン(かかし)論法」とは、相手の論証を遥かに劣る論証(ストローマン)にすり替えて、それを攻撃するという詭弁。白人特権という概念を否定するときに、「裕福な黒人がいる」という理由を持ち出す人がいる。正面から異を唱えずに、「すべての黒人が貧しい」と、誰も言っていないことに対して反論している。この一連の思考パターンを1つの単位として理解すれば、他の場面でも今起きていることを理解しやすい
ストローマン論法(藁人形論法)とは、相手の意見を意図的に歪曲・誇張・単純化し、その架空の脆弱な主張(藁人形)を攻撃することで、相手の本来の主張を論破したかのように見せかける詭弁の一種です。本質的な議論から逃げ、相手のイメージダウンを狙う際に使われます
ストローマン論法は必ずその内部に、ある種の「誤った等価関係」を抱えている
l 基本ブロックに分解する
相手の論理の基本要素を理解することが大切。理由は必ずある
1+1は2にもなるし1にも0にもなる。「なぜ1+1=2なのか」という疑問を考えるのではなく、「どのような場合に1+1=2になるか」という疑問を考えるべき
l 1+1=2になる世界
「1+1=2」の文脈を探るには、その基本ブロックを考える。まず1という数の概念と、1つのものを別のものとたし合わせるという概念について考える。次にそのたし算が2なると定め、それをスタート地点とする世界では、他に何が真実となるかを自問自答する
第2章
数学のしくみ
自明と思われている数式を厳密に導き出すのに必要な、多くの抽象的思考プロセスを見る
数学では、何が真であるかをどうやって決めるのか、その方法を説明する
l -(-1)=1になるのはなぜだろうか?
数学で、ものごとの真実性を評価するためのフレームワークは論理
l 数学で「正しい」と判断する方法
科学のフレームワークは証拠で、100%確実ということはない
数学を支えているのは証拠ではなく論理で、論理は数学で何かを「正しい」と見做すための判断方法だが、絶対的に正しいということではなく、数学のフレームワークの範囲内で正しいという意味であり、正しい答えの見極め方を解くのが数学の目的。数学で大切なのは、「正解を出すこと」ではなく、答えを裏付ける主張を組み立てること
l 負の数という概念
負の数の概念を理解する1つの方法が、方向の変化(10歩進んで10歩下がる)を考えることであり、もう1つが借金の例。負の数は、元々抽象的なものをさらに抽象化した概念
l 0
0は「無」を表すが、「もの」として存在する
数学の概念はもともと存在するものだから、数学は「発見」するものだが、その概念を書き留めてそれを使って論理的に考えるための手法は人間が作り出したものだから「発明」したものといえる
何を数とするのか、無理なく受け入れられる範囲は人によって違う。0や負数、分数などは含めるとする人がほとんどだが、虚数となると微妙
0とは何かを考えるより、0が基本ブロックになっている世界を考えて、それがどんな種類の世界かを調べる。単に0とシステム内の他のものがどのように相互作用するかを言えばいい。0を他の数にたすとどうなるのかを知っておく必要がある。x+0=x
l 負の数
負の数は何かを考えるのではなく、負の数が何をするかを考える。スタートした場所に戻るための方法として使う。そのためだけに新しい基本ブロックとしての「-1」を導入する
-1の定義は「1を相殺するもの」。別のものを相殺するものは「逆元」と呼ばれ、たし算(加法)の家庭を取り消そうとするのを「加法逆元」(反数とも)と呼ぶ
すべての整数は1を何回もたし合わせることで作られているから、-1を同じ回数だけ用いればどんな整数でも相殺できる
-1は1を相殺するものなので、-(-1)は-1を相殺するものなので1である
l 数学者が不安になるとき
分数は比ratioを表すので有理数rational numberと呼ばれるが、無理数irrational numberでは何が基本ブロックなのかもわからないので厄介
無理数(むりすう、irrational number)とは、分数(整数の比)で表すことのできない実数のことです。小数で表すと、終わりのない、かつ同じ数字の列が繰り返されない無限小数(非循環小数)になります。代表例は√2やπ(円周率)など
l 学生の質問の価値
非白人女性教師の場合、学生たちが弱みを見つけようとして陰険な質問をしてくる
l 二値vsニュアンス
何が正しいか間違いかというのが二値的な状況で、数学は二値理論を基本とするが、異なるものがそれぞれ真であるとする「観点」から生じるニュアンスは、私たちが数学の基礎を築くのに使っている二値理論とは異なるレベルで作用するという点は重要
数学で大切なのは正解を見つけることではなく、論理的に説明をすること
l 正解ではなく説明
数学とは単に正解を出せばいいというものではなく、どうすればその答えが正しいことがわかるかを考えるものだ、と認識することが重要。6x8=48の答えを聞くのではなく、それが正しいことを証明する。6を8回たしてもいいし、8=10-2なので、6x10から6x2をひいてもよい
l なぜ0でわれないのか?
わり算はかけ算以上に複雑
12を6でわる場合、トランプを12枚用意して6人に分けることを考える
最初の方法は1人に1枚づつ配ってから最初に戻りもう1枚づつ配り、最後に1人何枚あるかを確認する方法で、答えは「2枚の札」だが、札の山の数を決めておいて、それぞれの山に何枚の札があるかを数えた。2つ目の方法は、12枚の札を6枚づつの山にして、山がいくつあるかを確認すると答えは「2つ(の山)」で、1つの山に積む札の数を決めておいて、山がいくつになるかを数えた。2つの方法で得られる答えが同じだという理由は、それほど自明ではない
l 逆数としてのわり算
わり算はかけ算を相殺する過程として定義される
負の数をたし算を相殺する過程と定義したのと同じこと→0に戻る
他の数にかけた場合やたした場合に、「何もしない」数を「単位元」という。1は「乗法単位元」で、0は「加法単位元」
かけ算で4を相殺して1に戻すには1/4という分数をかければよい(乗法逆元=逆数)。負の数を定義したように、分数を抽象的に定義できる。「4でわる」というのは「4の逆数をかける」の短縮形であり、「4をひく」が「4の反数をたす」の短縮形であるのと同じ
l 0でわれる場合とわれない場合
わり算は「逆数をかける」を意味するから、0の逆数は1/0となるが、「0を相殺して1に戻る」をしようとすると、その逆数αは「0xα=1」となるが、これは成り立たないので、1/0は成り立たず、0には逆数はないことになる
0でわった答えは無限としてもよさそうだが、それは別の世界
第3章
数学をする理由
l 1が素数ではないのはなぜか?
「素数は、1とそれ自身だけでわり切れる自然数であり、1は含まれない」
l 意味のない数学
数学を勉強するのは、将来に向かって思考力を高めていくため
ものごとを論理的に研究する際には、じっくりと進めて、研究対象の世界において基本ブロックとなるものや、それらの関わり合い方を理解することが作業原則
l 基本ブロックを探して
1が素数ではない理由を考えるためには、素数の定義だけではなく、素数の原則についてもじっくり考える必要がある。その原則とは、素数が数の基本ブロックだということ
この世界のあらゆるものを作り上げるために十分な基本ブロックが必要だが、無駄なブロックは排除しなければならないのが、基本ブロックを決めるための原則
l 基本ブロックとしての素数
数と数のかけ算で自然数を作ると考えると、1は基本ブロックとして役立たず、適当ではない。役に立たないものは基本ブロックから外される
l 数学教育は何のため?
間接的な有用性が大切
l 筆算を習うのはなぜか?
数字を桁ごとに並べて数を表すというのは、すごい考え方に繋がる
l 一般化
数学での「一般化」は、目の前の文脈を慎重に拡張していって、もっと多くのものを理解できるようにすることをいう
l 水たまりに飛び込み、山に登る
l 第一原理
第一原理(First Principles)とは、他のものから推論できない、物理や数学における最も基礎的・根源的な法則や公理のことです。実験データや経験則に頼らず、量子力学などの理論的基礎から直接、物質の物性などを計算・予測する「第一原理計算(ab initio計算)」の根幹となる考え方です。
l ふるまいにもとづいた数の特徴づけ
数の特徴は、たし算ができ、かけ算ができる、そしてたし算とかけ算の間にはある種の関係性の原則があることだと言われる
l 意外に有用な数学
l プラトン立体の有用性
プラトン立体とは、対称性が最大になる3次元形状のことで、正三角形を4つつなげた正四面体、立方体、ダイヤモンド型の正八面体、正5角形を12つなげた正12面体、正三角形を20つなげた正二十面体の5種類
正二十面体はドーム型建築物の設計に使われているが、その建築方法を普及させたのはリチャード・バックミンスター・フラー。完全な球形は難しいが、三角形を集めた二十面体であれば、扱いやすい基本ブロックでほぼ球形の構造が作れる。各三角形の角を削って六角形にすると六角形の20面体と12ある頂点の正5角形とを組み合わせて出来る三十二面体は球への近似度がとても高く、サッカーボールなどはこの形で作られる。この立方体もフラーの名に因んで「バッキー・ボール」と呼ばれる
三角形で作れる構造はジオデシックドームと呼ばれ、プラネタリウムのドームや子供のジャングルジムなどでも使われる
多くのウィルスの構造が正二十面体であることがわかる
l 無限
無限に関する疑問は、古代ギリシャの哲学者で無限の研究をしたゼノンに因んで、ゼノンのパラドックスと呼ばれる。ケーキを半分づつ食べ続ければ永遠に食べられる。飛んでいる矢はある点に停止して見えるので矢は運動していない。アキレスは亀に永遠に追いつけない
第4章
よい数学
0.99999・・・のように小数点以下の数が何度も繰り返し、永遠に続いていく小数は循環小数と呼ばれ、0.9と表記されることもある
数学が私たちの直感と作用し合うこと、よい数学は単に何かの真偽を示すというより新たな知見の光を与える存在であること、そうした光のおかげで私たちは様々な状況を1つにまとめて幅広い応用が可能な洞察を生み出せることを説明していく。数学を使えば遥かに複雑な思考を組み立てて進歩できることも説明するが、同時にこれが1つの価値観の表れに過ぎないことも理解する必要がある。この価値観は、ヨーロッパの白人男性中心文化によって築かれたアカデミックな数学分野の中で培われてきたものであり、なぜそうしたものを評価するのかという疑問も浮かぶ
l 直感と論理
人生で大切に思うのは、自分の直感に耳を傾けながらも、直感の指す方向が間違っていることを示す新たな情報に対してオープンであり続けること
l 循環小数とは何なのか?
「繰り返しなしに永遠に続く小数」は無理数と呼ばれる。√2は「2乗すると2になる数」
循環小数は、「一定のパターンで繰り返しながら永遠に続く小数」で、いくつかのステップに分解して理解できるが、最終的にどうなるかは分からない。0.9で始まる循環小数では限りなく1に近づくが、常に隙間が残り、1に到達することはない
l 微積分学の始まり
微積分学は、無限に小さいものを理解したいという欲求から始まる
円の内側と外側に多角形を描くのは、円を近似する方法として古くからある。多角形の辺が多くなるほど内側と外側の近似図形の距離が近くなる
l 数学トリックの隠れた価値
90までの数字では、各桁の数字をたして9の場合は9でわれる。9でわれる数字を探すには、各桁の数をたして和が9でわれるかどうかを調べればいい
l 抽象的ジグソーパズル
l 複素数
l 数学と植民地主義
進歩という概念がよいものと決めてかかるべきではない。進歩という概念は、地球の自然資源の破壊と切っても切れない関係にあるし、植民地主義とも不可分
l ラマヌジャンとハーディ
ラマヌジャン(1887~1919)はインドの数学者、トリニティカレッジ初のインド人フェロー、最年少の王立協会フェロー。「真実」について夥しい量の覚書があるが、ケンブリッジ大のハーディ教授に招聘され、ヨーロッパ式で証明することを強要されるが、菜食主義の生活ができなかったために早逝。その後ヨーロッパ式の方法論で証明されている
環境と持続可能な形で調和して暮らすことと、急激で破壊的な工業発展を推し進めたあげく、破壊された環境の回復を大急ぎで進めなければならなくなること。この2つのどちらがより意味のある到達点と言えるだろうか? 後者が進歩だというなら、私たちはそれを望むだろうか?
第5章
文字
数を文字に置き換えたりするのはなぜか。文字を使えば、数同士の関係を考える時に、特定の数にだけ当てはまる特別な関係ではなく、あらゆる数に当てはまる一般的な関係を表せるようになる
l 関係に注目する
数学ではものごとの関係性が重要。特定の対象について、固有の性質ではなく、他の対象との関係の観点から調べようとする
数式に文字を使うのは、数の間の一般的な関係を示すため → a+b=b+a
数学はパターンを発見することに尽きるが、そのパターンを正確に特定できれば、個人の推測に任せるよりも生産的。その時に数字で示すよりも、文字を使って一般的な表現ができればわかりやすいし役に立つ
こんな風に始まる無限数列を考えているということを、誰かに伝えるとしよう
0,2,4,6,8,10・・・・・・
「ある数(2)を1つたし、次の数を作って、並べていくことを永遠に続けていく」という説明もあれば、奇数と偶数について知っていれば、「奇数を飛ばして、次の偶数を追加する」と言えばわかりやすくなるだろう。数学者は無限数列を表すためには、nが自然数である場合にn番目の項がどうなるか言いたいと考える。「任意の自然数nについて、数列のn番目の項は2nである」といい、数列のn番目の項をanとすれば、さらに簡潔に、「任意の自然数nについてan=2nである」となり、論理に従って数列を完全に表した
「代入」という操作の目的は、複数の関係を結び付けて複雑な関係性を、作ることができる
l 2次元空間
平面上のx軸とy軸の座標で示す方法を「デカルト座標」と呼ぶ。慣例的に横軸がx軸で、先に示すことになっているので、x軸で2、y軸で1離れた地点は(2,1)という位置にある
直角に交わる座標軸を使うのは便利だからで、直角でなくても構わない
北極では緯線は同心円状になり、経線は自転車の車輪のスポークのように見えるが、この方法を使っても2次元空間上の位置を決められる。この座標系を極座標という
l 数式で図形を描く方法
直線は無限の点の集まりなので、数で表そうとすると、(1,1)など無数に列挙しなければならないが、文字を使ってy=mx+cと書けばその直線上にあるすべての点のx座標とy座標を定義する、xとyの関係が得られる
l 直線が直線に見えないとき
直線の定義は奥深い問題。2点間の最短経路は、空間の形によって決まる。どんな距離の概念を使っているかにもよる。2点間の最短距離は、文脈にかなり左右されるもの
l 文字で表すことの威力
文字を使うのは、より多くのものごとを一度に表すため
数学の研究そのものを日常生活で直接的に使うことはない。日常生活で使っているのは、数学全般のテクニックであり、ルール
第6章
式
Sin(正弦)、cos(余弦)、tan(正接)の関係、つまり三角関数の公式を考える
l 「暗記」と「内面化」の違い
何かを自分のものにする(内面化)というのは、理解や直感、反復使用、習熟を総動員して自分の意識に埋め込むこと
l 観覧車と波
円座標(角度+斜辺の長さ)と直交座標(短い2辺の長さ)の変換
l サインとコサイン
l 三角関数の公式の意味
直交座標軸上の0から一定地点(x,y)までの距離を「斜辺」とする直角三角形の縦の線を「対辺=y」、横の線を「隣辺=x」といい、斜辺と水平線(隣辺)との角度をθとすると、
正弦sinθ=y=対辺/斜辺
余弦cosθ=x=隣辺/斜辺
正接tanθ=対辺/隣辺
三角関数は、直角三角形の角度と辺の比率(三角比)を拡張したもので、サイン(sin)、コサイン(cos)、タンジェント(tan)の3つが基本となる関数です。角度に対する辺の比を円(単位円)上で定義し、0°未満や90°以上の角度、さらには波の動きまで表現できるため、物理や工学、3DCG、音声処理など幅広い分野で必須のツールです
l 円と四角
特定の円と同じ面積を持つ正方形の1辺の長さは?
l 面積の概念
長さの概念は文脈に左右されるのだから、πも文脈に左右され、ただの数ではなく、関係
l πとは何か?
円の円周と直径の比率は円の大きさに関わらず変わらない → 円周=πx直径
l 円が円形に見えないとき
l ×÷+−の計算順に思うこと
演算順序は実際には数学ではなく、便利な表記法に過ぎない
文字を使う場合にはかけ算やわり算の記号は使わない
第7章
図
l 2+4=4+2になるのはどうしてだろうか?
両辺は完全には同じではない
l 「すべての等式はうそ」
等式で重要なのは、見方によってはこの2辺は違っていて、ある辺は他の辺よりも計算が簡単だということで、答えが同じになると分かった上で、簡単な辺を計算すればいい
等式の目的は、ある意味では異なるが、別の意味では等しい2つのものを見つけること
両辺が本当に同じである式はx=xのような形の等式だけで、それ自身に等しいといったところで何かについての知識は少しも得られない
l ブロックで数えることの奥深さ
縦に2、横に3並んだブロックを、3が2列と考えても、2が3列と考えてもよい
l 図の役割
図というのは、抽象的な話を理解するのに役立つ視覚的補助機能に加えて、計算をする際の正式な表記法の1つとされる場合もある
l なぜグラフを描くのか?
l 特徴を「翻訳」する
l 数学者ナイチンゲール
月毎の死者数を円形のグラフにして、それぞれの月は死因別に分類した図を考案(鶏頭図)
l ニュアンスを含む可換性
l 数学的編み込み(ブレイド)
l 圏論におけるブレイド
圏論(けんろん、Category Theory)とは、数学的な構造とその間の関係(射)を、「対象」と「矢印」という極めて抽象的な概念を用いて統一的に扱う数学の理論です。構造の内部ではなく、外部との「関係性」に焦点を当てることで、異なる数学分野(集合、群、位相空間など)に共通する普遍的な性質を記述・分類する「数学の言葉」として機能します。
l 高次元でのブレイド
l 抽象構造を視覚的にとらえる
l 私の人生のグラフ
第8章 物語
l 星形には角が何個あるか?
頂点が5つある星型(星形五角形または五芒星)は、奇数の五角形なので一筆書きでできる
六角形の星形は三角形を上下に反転させた組み合わせなので、一筆書きではできない
七角形の星形は、奇数なので一筆書きができるが、2通りある。7つの頂点を1つ飛ばしてつなげていくやり方と、3つ飛ばしてつなげていくやり方
l 円には辺が何本あるか?
「辺」をどう考えるかによる
縁には無限本の辺があって、1本づつが無限に短いとした。N本の辺がある多角形の外周の長さを使い、nが無限に近づく時にどうなるかを考えることで円周を計算することはできる。一方で、中心から等しい距離にある点の集まりだともいう
l ストローの穴は何個か?
ストローは大変な数の分子から出来ていて、分子同士は部分的にしか接していないので、分子の間には無数の穴が開いている
ストローの穴は1個(端から端まで繋がっている)だという人と、2個(両端に1個づつ)だという人の議論がある。開口部であって穴とは言わない?
トポロジーはものの形を研究する数学の一分野
エピローグ 数学はどこまで“リアル”?
どういう意味で考えるかによって答えが違ってくる
数学がアイディアだという意味で現実のもの(リアル)であり、アイディアは現実のものであり実在する
「現実」という言葉が触れられる具体的なものを指すとしたら、数学は現実のものではない
数学は、直観と厳密な論証の相互作用の連続だと言える
抽象数学に登場する概念は具体的な世界の一部ではないかもしれないが、そのアイディアは他のあらゆるアイディアと同じくらい現実のもの(リアル)だ。そしてフィクションと同じように、そこから得られる現実世界についての洞察は本物(リアル)である
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★年間ベストブック2冠達成!(ロサンゼルス・タイムズ紙、ニューサイエンティスト誌)★
★ウォーターストーンズ(英国書店)・ベストブック受賞!★
★フランシス・スー(ハーヴィー・マッド大学教授)称賛!★
――数学を単なる正解探しではなく、創造的発見の営みとして描いた。
★ジョーダン・エレンバーグ(ウィスコンシン大学教授)推薦!★
――単なる答えより、『なんで?』を追求したい人のための豊かな数学の旅。
「マイナスにマイナスをかけると、なぜプラスになるのか?」
「何かを1/10でわるとは、具体的にどういうことなのか?」
「本当に、4+2=2+4なのか?」
「なぜ、円は丸いのか?」
「ストローには、穴は何個あるか?
1つ? 2つ? 0?」
こんな一見シンプルな疑問が、数学の深い世界への扉を開く。アメリカで大人気の数学者が、教科書的な計算や公式にとらわれず、自由な発想と独創的な思考のプロセスを鮮やかに語る。
学校数学が嫌いだった人こそ楽しめる〝非常識な〟授業のスタートです!
非常識な数学教室 ユージニア・チェン著
自由奔放な思考法への誘い
2026年1月10日 日本経済新聞
扉の文にこうある。「数学が苦手だと感じたことがあるすべての人へ捧(ささ)げる。落ちこぼれはあなたじゃなくて、数学のほうだ」。ぼくは完全に共感する。著者のチェンさんは数学者ながら数学普及も熱心に行っている人だ。あなたが数学にトラウマを抱えているなら、この本はきっと特効薬になる。
ぼくは数学を学校数学と自由数学に分類している。前者は学校で押しつけられる正解が1つの忌まわしい暗記もの。後者は正解が1つとは限らない自由奔放な思考法だ。それが邦題の「非常識」の意図なのだ。本書は後者に誘(いざな)ってくれる。
チェンさんは、数学で何より大切なのはどんなことも自明だと思わないように心がけることだ、と説く。例えば、1+1が2である理由を考える代わりに、それがいつでも正解なのかを考える。「疲れていない(・・)わけじゃない(・・)」の文では、1個の「ない」と1個の「ない」がたされているけど、文意的には0個の「ない」になっている。これはヘリクツではなく、専門の代数学にも現れる計算だ。
「常識的な」数学の説明もうまい。例えば、マイナス(マイナス1)(―(―1))が1であることはこう説明をする。すなわち、マイナス1とは1を相殺する数のことだ。すると、マイナス(マイナス1)はマイナス1を相殺する数だから、1にほかならないよね、と。
「ストローの穴は何個か」という面白い謎かけも持ち出す。大切なのは正しい答えが何かではなく、さまざまな答えがどのような意味で正しいかを判断することだ、と説得するためだ。
最後はチェンさんが専門とする「圏論」の解説となる。これは様々な数学の根源に共通して存在する「普遍的な構造」を分析する最先端理論だ。怖(お)じ気づく読者にはこうなだめる。高級レストランのレシピは自分のキッチンでは作れなくても眺めるのは楽しいよね、と。ぼくは完全に共感する。
チェンさんの本で数学を教わることをぼくは強く推奨したい。なぜなら、学校体育で泳げるようにならなかったぼくを30歳すぎてから泳げるようにしてくれたのはジムのアスリート先生だったからだ。その人はオリンピック代表のようには泳げないことにいつも悩んでいるから、全然泳げない人のこともよくわかったのだ。
《評》帝京大学特任教授 小島 寛之
原題=IS
MATHS REAL?(熊谷玲美訳、白揚社・2970円)
▼著者は英国出身の数学者。ロンドン大シティ校名誉フェロー。著書に『世界は圏論でできている』など。
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