英米文学のわからない言葉 金原瑞人 2026.4.13.
2026.4.13. 英米文学のわからない言葉
著者 金原瑞人
1954年岡山県生まれ。法政大学名誉教授。翻訳家。訳書に『世界でいちばん幸せな男 101歳、アウシュヴィッツ生存者が語る美しい人生の見つけ方』(河出書房新社)、『不思議を売る男』(偕成社)、『バーティミアス』『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』(静山社文庫)、『青空のむこう』(求龍堂)、『ブラッカムの爆撃機』『さよならを待つふたりのために』(岩波書店)、『国のない男』(中公文庫)、『月と六ペンス』『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年』(新潮文庫)、『リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険』(ブロンズ新社)、『文学効能事典 あなたの悩みに効く小説』(フィルムアート社)など約650冊。日本の古典の翻案に『仮名手本忠臣蔵』(偕成社)、『雨月物語』(岩崎書店)など。 著書に『翻訳ワークショップ』(研究社)、エッセイ集に『サリンジャーに、マティーニを教わった』(潮出版社)など。ブックガイドの監修に『今すぐ読みたい! 10代のためのYAブックガイド150!』(ポプラ社)、『金原瑞人[監修] による12歳からの読書案内 多感な時期に読みたい100冊』(すばる舎)、『13歳からの絵本ガイド YAのための100 冊』(西村書店)などがある。
発行日 2025.12.10. 第1刷発行 12.25. 第2刷発行
発行所 左右社
はじめに
翻訳の仕事の1/4以上は調べもの。ネットの登場で楽になったが、逆にろくに調べもしないと批判・指摘される
² あだ名(別称/愛称)
ロバートとロブがでてくると、あだ名だと知らない人は困惑する。児童書ではどちらかで統一するが、一般書での扱いは訳者次第。読者を信用/信頼してそのまま訳したり、注釈を入れたり、児童書と同じで統一したり
日本語でも、文子の読み方で、「ふみ」や「ふみちゃん」はすぐわかるが、「ぶんちゃん」だと外国人には注釈がいるだろう
l 綽名・渾名は、本人の特徴などによって実名のほかにつけた名。あざけりの意味や愛称
l 愛称は、親愛の気持ちを込めて付けた呼び名
l 別称は、本名のほかの呼び名。別名・異称
呼び名のややこしいのがロシア語だが、小説内の設定を見ればかなり統一されている
² アブサンabsinthe (ニガヒョモギやアニスの味をつけたリキュール酒)
ゴッホ、ロートレック、ヴェルレーヌ、ランボーらがこの酒で身を滅ぼしたというが、皆大酒呑みでアブサンに限らない
アブサンはもともと貧乏人が飲む酒。19世紀フランスでは、アルコール依存症や犯罪の元凶となり社会問題化して、20世紀初めにはフランスだけでなくアメリカでも禁止令が出た
アメリカの作家・劇作家はアルコール依存症が多い。シンクレア・ルイス、ユージン・オニール、フォークナー、ヘミングウェイ、スタインベック、みな依存症
² アルコーヴ
ランダムハウス英和辞典では「(日本建築の)床の間」と解説されているが、床の間には一定のイメージがあるが、アルコーヴは何でもあり。とはいえ、部屋のくぼみでは色気もない
² イースター
キリスト教ではクリスマスよりも重要な日
詩人イェイッが、1916年のイースター蜂起を詠った詩『イースター 1916』は英語圏では有名。1916年のイースター蜂起はもっと有名。この後アイルランドの独立戦争が始まり、1921年に26州を奪還、37年に国名をEire(エール)と改め、49年に英連邦から独立
² 色
民族によって、言語によって、使う人によっても、色は違う
アガサ・クリスティの『複数の時計』に出てくるan orange catは茶トラ猫。日本語では虎は黒と黄だが、英語では黒とオレンジ
虹は七色だが、欧米の子供は3,4色で書く
虹の7色は、ニュートンがプリズムで太陽光を分けて7色と言ったのが始まりで、重要な学問だった音楽と自然現象を結び付けることが大事とされていた時代、各色の帯の幅が音階の間の高さに対応していると結論付けたもので、実はニュートン自身は、虹の色は無数にあることを知っていた
² エシャロット
ヨーロッパのエシャロットは小型でほっそりした玉ねぎの変種で、普通の玉ねぎと同様茶色の薄い皮で包まれている。鳥取でエシャロットといって売っているのは、ラッキョウを深植えして早取りしたもの。本物のエシャロットが入ってきたので「エシャレット」に改名
l ネギAllium fistulosum, Welsh onion/葱――ユリ科の多年草
l タマネギAllium cepa, onion/――ユリ科の越年草
l ニンニクAllium sativum, garlic/葫、大蒜――ユリ科の多年草
l ニラAllium tuberosum, Chinese Chive/薤、韮――ユリ科の多年草
l ラッキョウAllium chinense/薤、辣韭――ユリ科のネギ属の多年草
² 煙突掃除
イギリスのヴィクトリア朝、煙突掃除の親方が孤児を使って非道な商売をしていた
² オリーブ色の肌、ブロンズ色の肌
オリーブ色とは、「日焼けした肌のような黄褐色」とあるが、olive colorの画像は緑。オリーブといえば地中海、地中海の人は日焼けしているからと説明するが無理がある
ブロンズ色も、普通「青銅」と訳すが、酸化して緑青がわくのが由来なので、肌の色を「青銅色の肌」とは訳さない。錫の成分が少なければ銅に近い色で、五輪のメダルも銅に近い
日本語では「赤銅色」というのがあり、銅に微量の金や銀を混ぜた合金で、「赤銅色の肌」という。Bronze colorとは、日焼けした健康的な肌のことなので、「赤銅色」が近い
² 髪
Anne of
Green Gablesを『赤毛のアン』と訳したのは丸岡花子のお手柄。「緑の破風屋根のアン」の直訳ではあまり面白そうではない。単に赤毛だったからだけではなく、赤毛が嫌で堪らなかったという趣旨まで含む
「砂色の髪sandy
hair」とは「鈍い赤みがかった黄色」。さえない色の髪と思う。(金髪に茶色や灰色の混ざった色の髪)
「亜麻色の髪、栗色の髪」は綺麗な髪の色として用いられることが多く、前者はブロンド、後者はブルネットと考えていいが、髪の色だけでなくもう少し意味が広く、ブロンドは肌が白、目が青、髪が金色で、ブルネットは肌と目と髪が茶色から褐色。色素の濃さの違い
² キロとマイル
度量衡の表記に関して、翻訳家は2派に分かれる。距離のmileや容積のgallonをそのまま使う人と、日本人に馴染みのあるkmやリットルに直す人。前者は、度量衡の単位はその国や地方の文化や歴史を背負っているし、その地方の雰囲気も伝えることができるというのが理由で、後者は、日本語訳を日本人に読んで貰うためには外国語の慣用表現は日本語の慣用表現にしたいというのが理由。1ガロンで50マイル走ると言われても、読者は換算などしないから、何の意味も持たない文章になってしまう。「今日は100度を超すよ」と訳す人もいないだろうが、牛乳の1ガロンパックを3785ccパックとは訳さないだろう
² クリケット、サッカー、ラグビー
クリケットはイギリスの国技で、今でもサッカーに次いで競技規模が大きい
サッカーは、19世紀イギリスで生まれたスポーツで、その頃正式にはAssociation footballといっていたが、soccerもれっきとした英国の言葉
ラグビーも同じ英国生まれだが、時々最初の文字を大文字で書く。このスポーツが名門パブリックスクールのRugby Schoolで生まれたから。日本にも2023年付属校が誕生
² コート、オーバー、外套、マント
ゴーゴリの短編のタイトル『外套』(原題The Overcoat)は、今なら『コート』だろう
トレンチコートは、第1次大戦でイギリス兵が塹壕で防水のために着たのが始まり
ダッフルコートは、「丈夫なウールで作ったフード付き外套」。ダッフルはベルギーの町の名前。北欧漁師が寒風から身を守るために着ていたもの。イギリス海軍が防寒着として採用、ミリタリーコートとして発展
マントは、manteau(仏)mantle(英)からきていて、「ゆったりした外套」。その丈を短くしたのがケープcape
ジャンパーは死語? アメリカでは、ウィンドブレーカーも、ブレザーも全部ひっくるめてジャケットという。スーツ、コート以外はすべてジャケット。イギリスでは、blouson jacketかHarrington jacket
² コルセット
女優のウェストサイズは、モンロー61㎝、ケリー61㎝、ヘップバーン51㎝、ヴィヴィアン・リー49㎝(直径にすると16㎝)
纏足と同様で、細いウェストに憧れたのだろう
² 獅子鼻、鷲鼻
「獅子鼻(broad
nose/squat nose)」は、「胡坐鼻」で、発想は同じ。ライオンではない
「鷲鼻(beaky
nose/hooked nose)」も英語にある
² スコーン
Biscuitは、イギリスでは「タネを膨らませずに焼いた焼き菓子(クラッカー・クッキーの類)」のこと、アメリカでは「ベーキング・パウダーなどでタネを膨らませて焼いた小さくて柔らかな丸いパン」のこと
Muffinも、イギリスでは「小さな平らなパンの一種、熱いうちにバターを塗って食べる」、アメリカでは「小型のロールパンまたは甘いカップケーキ」
Sconeは、イギリスでは「オートミール、小麦粉、大麦の粗びき粉などで膨らし粉を使って作る丸い小型のパン」で、クロテッドクリーム(濃いクリーム)とジャムを塗り、紅茶とともに食べる
『ジーニアス大英和辞典』では、イギリスのビスケット=アメリカのスコーンで、アメリカのビスケット=イギリスのスコーンとある
² 石盤、石板
石盤は薄い石の板のことで、本来はノート代わり。粘板岩の黒くて柔らかな性質を利用して、欧州では18世紀末から教育用として利用、日本でも明治初期に普及
石板は屋根を葺くのに使う石の板slateだが、道路に敷くのは敷石・板石flagstoneといい、敷石の舗装のことをstone pavementという
石版は、石版印刷のことでリトグラフLithograph。今ではアルミ”版”を使う
² ターキッシュデライト
国際的な交流が増え、ネットの普及で翻訳もずいぶん楽になった
丸岡花子は『アンの娘リラ』で「軽焼き饅頭」と訳したお菓子が、今では「シュークリーム」
「焼き鳥/鳥の丸焼き」は、「ローストチキン」とそのまま書ける
「ターキッシュデライト」は、「プリン」と訳されていたが、日本の菓子に例えるとしたら、柚餅子、ボンタンアメ、求肥、わらび餅などだが、ゼリーの何十倍もの甘いもの
おひざ元のトルコでは「ロクム」。甘い。濃く入れたコーヒーと一緒に食べるのがお勧め
² 煙草
煙草、タバコ、たばこ、莨。語源はアラワク語、南米のインディオの言葉で、新大陸発見前にはヨーロッパにはなかった
たばこには、紙巻きタバコcigarette、パイプタバコ、葉巻cigar、水タバコ(シーシャ)、噛みタバコchewing tabacco、嗅ぎタバコsnuff
² テラス、ベランダ、バルコニー、ポーチ
テラスとは、「家屋に接して張り出したタイル張りや石畳の部分」で、マンションの1階
ベランダやバルコニーも同じマンションの外壁から張り出した部分、あるいは2階以上の部屋から張り出している部分だが、ベランダは上に屋根かひさしがあって雨除けになっている。バルコニーにはそれがないが、上の階のバルコニーの床が屋根の役割を果たしていることがある。ポーチとベランダはほぼ同じもの。デッキは建築用語でテラスのこと
² トランプ、カード
Trumpとは「切り札」のこと。日本で言う「トランプ」はcard
「かるた」は漢字で、歌留多、骨牌など。西洋骨牌と書いて「トランプ」と読むが、たまに「ドミノ」を指すこともある
カードの数をすべて足すと364。それにジョーカーを1枚足して365、閏年もあるのでもう1枚ジョーカーが添えてある
Ace, two・・・・・jack, queen, kingと英語の文字数もすべて足すと枚数(52)に一致
² ハート形の顔
日本では、口元から頬骨、眉の上あたりまでをハート型に取っているものが多く、海外では、顎の部分から髪の生え際辺りまでを大きくハート型に取っているものもある
富士額とは、額の髪の生え際が富士山の頂の形に似ているもの
² パイ
アップルパイといえばアメリカ。American
as apple pie
ミンスパイはmince
pieイギリスのクリスマス。ドライフルーツやリンゴを刻んでそれに砂糖やスパイスを混ぜて、パイ生地に包んで焼いた菓子。大き目のどら焼きサイズが標準
シェパーズパイshepherd’s(羊飼い) pieもイギリス。ラムのローストで残った肉を細かく切って使いうのが元々のレシピ。パイ生地は使わずコロッケのような感じ
キドニーパイkidney
pieは悪名高いイギリス料理。牛や羊のキドニーや肉が入っているが、匂いがきつく不味い
² ヒマシ油
下剤。ランプの油にも使う。蓖麻子油で、「蓖麻」とは「トウゴマ」
² ひよこ豆、空豆
ひよこ豆chickpeaは、雛豆、ガルバンソ、ひよこの頭のような突起がある黄色い豆
空豆 fava
beanは、蚕豆とも
レンズ豆lentilは、欧米では空豆やひよこ豆よりポピュラー。レンズの語源でもある
インゲンkidney
bean豆は、サヤインゲンとは別物で、赤茶豆で、ヒジキと一緒に煮る。アメリカではポークビーンズ
² 封蝋(ふうろう)、印章
19世紀デュマの『ダルタニャン物語』には、手紙に封をする場面が多数登場
ヨーロッパやアジアの前に、メソポタミアにも同じ発想があり、独特のものとして円筒形印章(シリンダー・シール)がある。筒の表面に模様や文字を刻み、柔らかな粘土の上に押し付けて転がすと、同じ模様や文字が連続して浮き彫りになる。大きさはバラバラ、印材は大体が石(黒色の石、白色の石、滑石、石英など)だが、貝もある
² フランス窓
「はめ殺し窓」に該当する英語はない
イギリスやオランダには17,8世紀、「窓税」なるものがあった。日本では「間口税」
フランス窓は、テラス・バルコニーなどに面して下端が床と同じ高さの両開きのガラス窓
² プリンとプディング
日本のプリンはカスタードプリンcustard
puddingでほぼ同一だが、英語のpuddingは様々。甘さもバラバラ、煮たり焼いたり蒸したり、中には混ぜただけのものも。血のプディングblood/black puddingは豚の血を入れたソーセージ
クリスマスプディングはプラム・プディングで、干しブドウなどを入れたイギリスのミンスパイと同じもの。焼いたのがクリスマスパイで蒸したらプディング
ヨークシャー・プディングは、イングランド北部発祥のローストビーフに添えて食べるプディング。ローストビーフのおいしい肉汁をつけて食べる
ライスプディングは、イギリスの伝統料理で日曜のごちそう(デザート)とされる。米を牛乳で煮て砂糖を加えたもので、世界各国に似たようなものは昔から存在する
² フルーツ・ポンチ、フルーツ・パンチ、ポンチ、パンチ
日本では昔からフルーツ・ポンチfruit
punch、刻んだ果物にシロップなどを混ぜたもの
パンチもポンチも同じで、ブランデーやラム酒などにソーダ、レモン汁などを加えて作った飲み物。カクテルの作り方は、国によってまちまち
² ペーパーバック
「文庫本」などと訳されていたが、今ではそのままで通る。「紙の背中」で、反対語はハードバック。書材に書いたものを綴じて装丁したものが本で、最初は綴じた部分を固い皮や厚紙で作ったのでハードバックといわれ、簡単に背の部分を糊付けして紙で包んだのがペーパーバック。1935年イギリスのペンギン・ブックスがペーパーバックの始まり
ソフトカバーsoft
coverというのもあるが、ぺーパーバックとほぼ同じものを指す
日本では「新書」という言葉がある。「本のサイズ」を指し、様々な分野の入門書として刊行されることが多いジャンルで、特定の分野の知識をインプットしやすいのが特徴
² ペチカとストーブとオーヴン
ペチカは、ロシアの暖房装置で、調理する炉やパン焼きの竈などと一体になっていて、そこで焚いた火の煙や熱気が石や煉瓦や木で作られた空間を通って煙突から逃げるようになっている。燃料は薪や石炭。北原白秋のペチカはロシアではなく満洲から来た
他言語を母語に訳すときの基本
①
母語に同じ物やよく似たものがあれば、それを使う――本や机
②
似たものがない場合は、音をそのまま写し――コンピューター、ティッシュペーパーなど。ペチカもここに入る
③
造語――哲学、経済、感情など
Stoveは、暖房用と料理用の両方に使われるので、混同するケースが多い
Ovenは、パンやチキンを焼く竈や電気調理器。天火
² 帽子、ハッと、キャップ
Hatは、つばbrimのある固い帽子。代表格はシルクハットsilk hat/top hat
高い山の部分にバネを入れて折り畳みができるようにしたシルクハットがオペラハット
山高帽は、男性用フェルト帽。アメリカではderby hat、イギリスではbowler
Capは、つばがぐるりについていない。一部にだけついているものと全くないものの2種
イギリスでは鳥打帽が定番で、アメリカではそれをdeerstalker hatと呼ぶ
² マントルピース
暖炉の周りや上部の飾り部分
² 羊皮紙、ちょっとパピルス
羊皮紙という訳語自体問題。英語ではparchment。子牛やヤギ、ウサギなども使う
² ワードローブ
Wardrobeも今では日本語になっているが、発音は「ウォードローブ」が近い
² 付録 こんなことがありました――お勧めの翻訳本
l ロバート・ウェストール、宮崎駿編+タイスマンへの旅『ブラッカムの爆撃機』
『ブラッカム』ほど爆撃機の空間を捉えた小説は初めて。戦闘機や爆撃機、その内部や、それに乗り込んだ兵士たちの気持ちがとてもリアルに描かれている
l スーザン・プライス『ゴースト 3部作』
絶版になっていた本をクラウドファンディングで復刻
l ジェラルディン・マコックラン『不思議を売る男』
80~90年代の英語圏の児童書の1つ。連作短編集
l ブルース・コウヴィル『奇妙でフシギな話ばかり』
ファンタジーの短編集
l パトリシア・マクラクラン『海の魔法使い』
l ジュディス・ヴィオースト『サウスポー』
l J.D.サリンジャー『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、 1924年』
左右社 ホームページ
新聞ほか各誌で紹介!
・共同通信配信
翻訳家・藤井光さん
「作品についての思い入れや翻訳出版のこぼれ話がたっぷり語られる文章は、これから英米文学を読もうという人にとっても魅力ある道しるべになっている」
・雑誌「クロワッサン」 2026年2月10日号
ライター・瀧井朝世さん
「日本人にはなじみのない言葉をどのように翻訳するか、といった工夫が分かるのも楽しい。もっと読みたい!」
・産經新聞 2026年1月25日号
文筆家・木村衣有子さん
「金原瑞人さんは、翻訳を40年以上続けてきていても、「わからない言葉」はまだまだあるという。(中略)「あだ名」から「ワードローブ」までそんな言葉たちが登場し、こちらも一緒にどう言い表したらいいだろうと考えてみたくなるエッセー集だ」
アルコーヴ? プディング? ターキッシュデライト? マントルピース?
砂色の髪? オリーブ色の肌?
英米文学に登場する“わかるようでわからない”おなじみのアイテムや表現を、翻訳家・金原瑞人がひも解く!
・9種類もある「エリザベス」の別称
・英語ネイティヴのひともじつはよくわかっていないオリーブ色の肌
・プリンとはまったくの別もの? 甘いものから血で作ったものまで、さまざまなプディング
・アメリカとイギリスでは異なるビスケットやスコーン
・ファンタジー世界への入り口、ワードローブ etc.
サマセット・モーム『人間の絆』やチャールズ・ディケンズ『クリスマス・キャロル』、C.S.ルイス『ライオンと魔女とようふくだんす』などさまざまな文学作品とともに、言葉の意味や背景を探求する。知れば知るほど、英米文学がもっと楽しくなる!
好書好日
金原瑞人さん「英米文学のわからない言葉」インタビュー 好奇心とサービス精神で
『赤毛のアン』の主人公アンの瞳は、住まいの屋根の色同様、緑色だった。映画「理由なき反抗」のジェームズ・ディーンが着ていたのはジャンパーでなく、ジャケット。かつて小説の大切な小道具だったたばこは、サリンジャーの短編集なら、ほぼどの作品にも登場する――。
ヤングアダルト小説を始めとしたフィクション、ノンフィクションあわせて約660冊(共訳、絵本、文庫含む)の邦訳書をもつ翻訳界のベテランが、言葉にまつわる逸話を軽妙に記した。
「イメージと意味のしりとり遊びが楽しかったですね。書きながら調べ、知人にも教わり、知らないことがほんとに多いんだとわかった」
その楽しさが特に伝わってくるのが食べものの話題だ。日本であまりなじみのない多様なプディング、パイ、豆料理の描写は、海外暮らしの体験や好みをまじえ、細やかにリズミカルに筆を走らせる。「料理好き、もてなし好き」という著者の、好奇心とサービス精神のなせるわざだろう。
医者をめざした大学受験で2度失敗し、あこがれの仏文科も入れず、屋台のカレー店を始めるつもりが大学院進学で縁あって翻訳家になった。
大学や翻訳学校で教えながら言葉と向き合い、30年余。世界の変容を受け、変化を感じるという。たとえば『ドリトル先生航海記』。黒人差別とされる箇所を修正した改訂版が米国で刊行され、賛否両論の中、翻訳を引き受けた。「両方あっていいと思う。比べて読んでもらうと面白い」
翻訳は「スクラップ・アンド・ビルド」、時代につれ更新していくものと考える。自身もヘミングウェー、モームらの新訳に気負いなく挑戦してきた。楽天的なこと、サービス精神、影の演出家との認識を翻訳家の条件とした上で「あまり賢い人間は無理ですよ」とも。読者への思いやりが欠けてしまうからと。AI時代にあっても、翻訳の仕事の未来には悲観も楽観もしていない。
「間違ってもいいから、面白く書いて」。取材後、言葉をかけてくれた。きっと後進たちに、そんな無数のエールを送ってきたに違いない。(文・藤生京子 写真・横関一浩)=朝日新聞2026年2月21日掲載
コメント
コメントを投稿