国境の医療者  メータオ・クリニック支援の会  2019.6.9.


2019.6.9.  国境の医療者

編者 メータオ・クリニック支援の会
写真 渋谷敦志 1975年生まれ。写真家。フォトジャーナリスト。立命館大産業社会学部卒。英国London College of Printing卒。国境なき医師団日本主催MSFフォトジャーナリスト賞、日本写真家協会展金賞、視点賞など受賞。テーマは「境界を生きる者たちを記録し、分断を越える想像力を鍛えること」

発行日           2019.4.20. 初版第1刷発行
発行所           新泉社

唯一の治療の場と思い、必死になって友人を連れてきた男性の気持ち――。彼の涙に応えられないこと、傷ついた人を助けられないこと、どうすることもできないこと
無力感とやるせなさに押しつぶされそうな時間。何十年も患者を診てきたスタッフたちは、何度もこの時間を乗り越えてきたんだと思う
私に「できること」はいったい何なのだろうか――


I 国境の難民診療所 ~ 体当たりの医療支援
l  「メータオ村」で過ごした日々 田邉文(あや) 09.6.10.8. 第2代派遣員/医師
タイ・ミヤンマー国境の町メソットは両国に聳える山あいの盆地。人口12万。経済特区で、ミヤンマーからの不法移民によって支えられている
メータオ・クリニックは、病院というより1つの村
外科病棟に配属されたが、正式な医療者として免許を持つのはシンシア医師と外国人ボランティアのみ

II 国境の医療者たち ~ なんでも屋、ときどき看護師
l  国境の医療者たちの強さと優しさ 前川由佳  11.8.13.9. 第3代派遣員/看護師・保健師
外科病棟配属
2012年資金難 ← 前年ミヤンマーで発足した軍政政権が「民主化」革命を進めていると評価し、各国の援助機関や支援団体が援助対象を見直した結果で、公立病院への転送費用が賄えず。日本財団への働きかけで危機を脱出
l  きっとたくさんある「私にできること」 田畑彩生 12.7.14.9. 第4代派遣員/看護師・保健師

III 国境の変化の中で ~ できることを1歩づつ
l  いまできることを明日からもひとつづつ 鈴木みどり 14.8.15.9. 第5代派遣員/看護師
l  すぐに変わらなくても自分にできることを 神谷友子 15.8.17.9. 第6代派遣員/看護師・保健師
クリニックには「看護」という概念がないため、JAMの活動は、院内感染対策や学校保健のサポートが主 ⇒ 看護研修スタート
l  看護スタッフたちの成長を見守って 齊藤つばさ 17.8.18.9. 第7代派遣員/看護師・保健師

IV 国境を見つめ続けて
l  国境の未来を見つめて 梶藍子 07.7.09.5. 初代派遣員/看護師
07年ヤンゴンを中心に起こった大規模な反政府デモ「サフラン革命」で、軍事政権の迫害から逃れてきた人がメソットの街に溢れていた
国境沿いの内戦は、鎮静化からは程遠く、犠牲者が運ばれてくることが日常茶飯事



(書評)『すべては救済のために デニ・ムクウェゲ自伝』『国境の医療者』
20195180500分 朝日
 弱い命を救う、医は今も仁術
 今回取り上げるのは、二組の医療行為者に関する本であり、まずひとつがノーベル平和賞を受賞したばかりのコンゴ人医師デニ・ムクウェゲの自伝的な一冊。
 彼がコンゴ内紛の中でいかに暴力と対峙(たいじ)し、命を狙われながらすべての患者に開かれた医療を提供し続けてきたか、そして現在も性暴力がいかにあくどく住民を蹂躙(じゅうりん)し、家族を引き裂いてしまうかの克明な記録は読んでいて胸が痛い。と同時に不屈の医師デニ・ムクウェゲがいてくれることの輝きは、悲惨な状況の中で一点まぶしい。
 そして日本の私たちがいつでも世界情勢に暗いことを、この本で詳述されるコンゴの歴史が教えてくれるだろう。知ることはそれだけでも力である。
 さて、もうひとつの本はミャンマーとの国境にあるタイのメソットで30年、難民や移民に無償で医療を提供し続けている「メータオ・クリニック」の記録。
 この支援の会には数多くの日本人医師や看護師が参加しており、ユニークなことに本書は彼女らが自分の滞在した年代ごとに書き記す、それぞれ質の高いエッセイで構成されている。
 主にミャンマーからタイ側に移動してくる患者たちに、資金も乏しい中でどうよりよい医療を施すか。そこにボランティアたちのシンシア院長への尊敬、また患者と看護師の互いの尊敬が力となって作動するありさまには、読んでいて強く心が動かされる。
 これを評している私自身、数年「国境なき医師団」を世界各地で取材して本にもしているのだが、海外には確実に「メータオ・クリニック」の人々やムクウェゲ医師のような医療従事者が存在し、困難の中で人道支援を行っている。
 日本国内でそれを「偽善」のように扱うことがあるのは、世界側から見ると不毛な錯誤に過ぎない。彼らなしでは実際に多くの弱い命が消えてしまうのだ。
 世界において、医は今も仁術なのである。
 評・いとうせいこう(作家)
    *
 『すべては救済のために デニ・ムクウェゲ自伝』 デニ・ムクウェゲ、ベッティル・オーケルンド〈著〉 加藤かおり訳 あすなろ書房 1728円
 『国境の医療者』 NPO法人メータオ・クリニック支援の会〈編〉 渋谷敦志〈写真〉 新泉社 2052円
    *

JAMとは
NGOメータオ・クリニック支援の会(JAM)について
メータオ・クリニック支援の会(JAM)とは、タイ北西部にあるビルマ難民診療所「メータオ・クリニック」を支援するために創設された国際NGOです。Japan Association for MaeTao Clinic(JAM)の愛称で、2008年の設立以来、メータオ・クリニックへの医療人材派遣、医療・技術支援、設備投資など、様々な活動に取り組んでいます。2013年NPO法人化。日本から直接支援する窓口として設立
わたしたちのミッション(使命)
母国のミャンマー、庇護国のタイでも最低限の保健医療が満たされないミャンマー難民、移民。
メータオ・クリニック支援の会は彼らの権利と幸福を守るため、メータオ・クリニックとクリニックを応援する世界の支援者とともに、
医療支援と保健活動を行います。
「メータオ・クリニック」とは、タイ/ミャンマー国境の街に設立された、ビルマ移民・難民のための総合診療所です。
メータオ・クリニックは1989年、タイ北西部に位置する国境の街・メーソートに設立されました。ミヤンマーよりタイに逃れてきた院長のマウン女医らによって設立。以来、軍事政権による迫害・弾圧などによってタイに逃れて来たビルマの人々、貧困により国内では医療を受けられないビルマの人々のために、必要な医療を提供し続けてきました。現在、メータオ・クリニックを訪れる患者の数は、年間15万人に上ります。受診する15万人の患者さんの半数は、貧困などによりミャンマー国内で医療を受けられず国境を越える人。もう半数はタイ国内に住む移民や難民です。メータオ・クリニックは支援者からの寄付によって運営されており、人々は無料で医療を受けることができます。

家族を養うための職を得るためー、ミャンマー政府の弾圧から逃れるためー。
祖国を離れ、タイに逃れてくるビルマ移民・難民は、現在も増え続けており、ミャンマーの民主化が進む今も、メータオ・クリニックの医療を求める患者さんの数は減っていません。ミャンマー国内では未だに、診療費、検査費、薬剤費用、手術費など医療費の大部分に自己負担が求められ、貧困に喘ぐ多くの人々は病院にかかることすら出来ないからです。
そんな彼らの命に寄り添い、唯一の医療の場を提供しているのが、メータオ・クリニックです。
クリニックには今日も、マラリアや肺炎、下痢に苦しむ患者のほか、地雷被害者、出産を控えた女性、子どもの予防接種を求める人々が、国境を越えてやって来ます。
またメータオ・クリニックでは、年々増加するタイ国内のビルマ移民・難民のために、子ども達のための学校や孤児院を運営しているほか、HIV/AIDSの予防啓発や、保健教育など、多岐にわたる活動を実施し、23年の長きに渡って国境に住む人々の生活を支え続けています。
メータオ・クリニックが提供しているサービス
l  医療サービス        内科、外科、小児科、歯科、眼科、産婦人科、検査、献血、義足の作成など
l  社会サービス        カウンセリング、出生証明書発行、学校・孤児院運営、長期入院患者ケア、死亡患者の葬儀など
l  移民へのヘルスケア                   学校保健、思春期性教育、HIV/AIDS患者訪問ケアなど

メータオ・クリニックの患者の推移
                    2007                   2011                   2014
外来患者数      114,842              150,904              129,826                                       
入院患者数      9,066                  10,692                12,629
         

メータオ・クリニックが直面している資金難
メータオ・クリニックはタイ、ミャンマー両政府から認定を受けた組織ではなく、公的な資金援助を受けられていません。また、患者からバーツやチャットの収入を得ることが難しいため、その活動資金は海外からの支援団体からの寄付によって賄われています。
患者数の上昇に伴う運営費の増加により、慢性的な資金不足が訴えられてきましたが、近年のミャンマーにおける民主化への動きに伴い、メータオ・クリニックの事業は急激な資金難に直面しています。タイ/ミャンマー国境地域の移民・難民への支援を続けてきた各国の支援団体が、支援対象を国境地域からミャンマー国内へとシフトする傾向にあるからです。
こうした資金難を受けて、メータオ・クリニックではスタッフの給与を20%カットした他、緊急性の低い診療科やサービスの中止、緊急性の低い患者さんの病院への転送の中止を含んだ事業の整理を行っています。本来であれば大病院に転送し、治療を受けさせてあげたい患者さんに、何もしてあげられないー。必要な薬を提供出来ないー。患者さんにとっても、クリニックのスタッフにとっても苦しい状況が続いています。
これからの国境におけるメータオ・クリニックの役割
2010年のミャンマーの選挙以降もメータオ・クリニックを訪れる患者数に顕著な減少は見られず、今も多くの人々が仕事を求めてミャンマーからタイへと渡ってきています。タイに暮らす移民の多くは未登録であり、弱い立場にあり、劣悪な労働環境にあります。登録している移民は政府が整備する健康保険を持っていますが、登録されていない移民の多くは医療サービスを購入するほどの余裕はありません。
2013
年、メータオ・クリニックは今後も必要な役割は何かを検討しました。そして出された方針は、国境での医療提供の継続と人材育成です。


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