検疫官  小林照幸  2020.4.5.


2020.4.5. 検疫官 ウィルスを水際で食い止める女医の物語

著者 小林照幸 1968年長野市生まれ。信州大経卒。明治薬科大在学中の92年毒蛇「ハブ」の血清造りに心血を注いだ医学者の半生を描いた医学史発掘ノンフィクション『毒蛇』で第1回開高健賞奨励賞受賞。99年佐渡でトキの保護に尽力した男たちの半生を描いた『朱鷺の遺言』で第30回大宅壮一ノンフィクション賞を同賞最年少で受賞。日本文芸家協会、日本推理作家協会、日本熱帯医学会各会員

発行日           2003.2.20. 初版発行
発行所           角川書店

第1章        生物・化学テロ対策――ワールドカップ宮城大会の舞台裏
2002年のワールドカップの決勝トーナメント初戦で日本は宮城スタジアムでトルコと対戦。厚労省仙台検疫所の所長・岩﨑は現地本部事務局で「検疫官」として待機
最大の対策事項は、炭疽菌などのバイオ・テロ、サリンなどの化学テロ(BCテロと総称)
化学防護服を2着購入して備えたが、全国13の検疫所で購入したのは仙台のみ。恵美子が感染症の恐ろしさを知る証左
耳鼻科の専門医が52歳からタイやパラグアイに滞在して、マラリアを筆頭とした感染症の診断、治療に本格的に取り組み始める
国や県と交渉して、「2002W杯宮城開催 感染症危機管理プロジェクト」立ち上げたものの、当局の対策は外傷被害ばかりで、恵美子との温度差は埋まらない
厚労省の具体的対策は、感染症ホットラインの設置のみ
先代では、除染用の防護服と温水プールを確保
9.11で炭疽菌が注目されて以来、感染症対策の中にテロ対策が含まれるようになった
98年仙台に着任の際は、「輸入感染症に備え、東北地区の感染症対策に注力する」と宣言して着任
94年の松本サリン事件は、戦場での使用が想定されていた生物・化学兵器がテロ集団によって市民生活を脅かす行為に使われ得ることを世界で初めて示した大事件
96年堺市のO-157(腸管出血性大腸菌)騒動を機に、感染症への危機管理が叫ばれ、99年感染症新法が施行 ⇒ 感染症を4分類し、「診断・治療マニュアル」作成
Bio-Safety Lebel: BL4対応の施設がない現状に加え、感染症と診断された患者は、消防庁の取り決めから救急車に乗せられないことも問題
病名が特定されるまでの時間が一番怖い

第2章        熱帯医学を極めた日々――崩れゆく顔
厚労省管轄下の検疫所は13。検疫所長は医師
検疫の起源は14世紀、ペストの大流行に際し、1374年北イタリア地方で「防疫」の法律が制定されたのが検疫の概念の端緒。ベニス共和国ではペスト流行国からの渡航者を一定期間港に足止めして消毒。1383年にはマルセイユに検疫所設置、ペスト患者のいた船を40日間沖合に停泊させ上陸を阻止。”40”が検疫の語源
日本では1822年にコレラが初上陸、58年には再上陸し、死者26万超を記録、港での検疫を布告、6279年と34次の流行、79年横浜に初の検疫所設置。野口英世も横浜検疫所で検疫官として勤務、外国船からペスト患者を発見した。1899年のペスト流行で外国船の検疫を義務付け
1926年、パリで国際衛生条約調印
1951年、日本はWHOに加盟。検疫法制定
検疫業務の第1は、入国者に対する検疫で、日本にない感染症を水際で防ぐ業務
港湾衛生業務は、海水の汚染調査、船舶や航空機搭載の飲料水等検査
食品監視業務は、輸入農作物の残留農薬の検査、食品の微生物検査、食品添加物検査
申請業務は、船舶衛生検査、海外渡航時の各種予防接種実施
地元の新潟大医学部を出て独立するために同大に研究に来ていた北大出の脳外科医と出会い結婚。夫がペンシルバニア大医学部研究所へ行くのについていき、子育てをしながら保母のアルバイト。次いで、大学の研究所に顔を出し、ウィルス学に興味を持つ
臨床医を志して、夫と離れ3人の子供を連れて帰国、新潟大医学部の医局に入局、研修をした後、県内の病院を回った
、新潟臨港病院の耳鼻科に落ち着き、足掛け15年勤務
85年離婚、3人の子供にはアメリカ留学を経験させ、子育てが終わったころ、医療が満足にない国や社会で自分は何か手伝うことができないかと考え、93年勧められるままにインドに行く
インドでは、熱帯特有の風土病といわれる感染症が蔓延。感染症には細菌、ウィルス、寄生虫の3種に分類されるが、口腔がんの専門家だった恵美子にとっては未知の世界
熱帯医学を学ぼうと、96年タイの王立マヒドン大医学部に留学
半年で卒業し、JICAの地域保健プロジェクトでパラグアイに1年派遣
南米を代表する疾病は、サンショウバエの刺咬によっておこるリーシュマニア症という人畜共通の感染症
1年の終わりごろ、厚労省勤務の同期生から、帰国後に成田の検疫所での勤務を提案され引き受ける。初めて知った検疫所の仕事は新鮮に映る。企画調整官というNo.2のポジションで、医師が就任する技官のトップ。民間人採用としては大抜擢

第3章        史上初の女性検疫所長の誕生――感染症を水際で防ぐ
9811月仙台検疫所に所長として赴任。行政の中で行える感染症対策の第1弾として、東北圏内での「感染症情報ネットワーク」を立ち上げ
現場の意識を高めると同時に、海外渡航の際の感染症対策への予防と啓発を広める
特に急増していた海外への修学旅行での感染予防が喫緊の課題

第4章        アフリカ大陸――エボラ出血熱の現場へ
2000年、ウガンダでエボラ出血熱の大流行に際し、厚生省から現地へWHOの短期医療専門家として派遣される
2週間で帰国した直後、より危険な熱帯熱マラリア(=黒水症)に罹患していることが分かり、東北大付属病院に感染症対策のために必要だと設置した隔離病棟の第1号患者となる
エボラは4か月で終息。患者総数425(うち女性63)、死者225

第5章        新たなる戦い――西ナイル熱への懸念
1994年の死亡例を機に、学会ではマラリアに過敏。年間100人以上海外からの帰国後発症している
01年サウジのハジ巡礼に来たイスラム教徒が帰国後髄膜炎菌性髄膜炎を発症、接触感染で拡散。日本では流行性髄膜炎として454,834人発症しているが、69年以降は延べで100人以下になり、4類感染症と位置づけられている
マラリア、デング熱、黄熱などの感染症は、原虫を持つ蚊は国内にはいないが、大勢の人が交流する機会があれば、来日した罹患者から国内の蚊が媒介することは考えられる
01年末赤痢患者の多発 ⇒ 西日本中心。韓国産の牡蠣が原因。年明けまでに30都府県に拡散。韓国でも集団感染発覚。同年夏には韓国でコレラも10年ぶりに流行
ワールドカップを前に宮城県では、恵美子が音頭を取って「感染症危機管理プロジェクト」が発足。県知事、東北厚生局長、検疫所長の3者がトップとなり、現場のゾーニングも含めた実地訓練を実施
ワールドカップは無事何事もなく終了したが、対策は不十分なものばかり
除染と搬送は、今後の課題として持ち越し
「西ナイル熱」は、ナイル川近辺の風土病だが、日本脳炎に近い症状を呈する。夏の終わり、秋の始まりの「ラスト・サマー」に感染が多くみられ、99年ニューヨーク市周辺部で流行が確認されて以来米国全土に広がる。02年現在米国内感染者数は37州で3,391人、死者188人。一部の地域の風土病が3年余にわたってアメリカで流行していることは異常事態。日本でも4類感染症に指定

あとがき
耳鼻科医から50歳で本格的に途上国での医療を志し、インド・タイ・パラグアイでの活動、日本検疫史上初の女性所長としての責任、日本人医師で初めてエボラ出血熱の現場での患者の診療にあたった経験、ワールドカップ宮城大会での積極的な生物・化学テロ除染対策など、使命感を伴った日々の積み重ねが、155㎝の岩﨑氏を大きく見せる
エボラの現場で闘いながらマラリアに罹患して帰国した、というのは途上国における自然との相克の証左
本書を通じて、岩﨑氏の生き方が1人でも多くの方に伝われば、著者として至上の喜び





「ペスト」だけじゃない パンデミック、今読むべき本は
2020325 1200分 朝日
 新型コロナウイルスの猛威が世界中を覆う。実体がわからないだけに人々を不安に陥れる感染症は、数多くの文学作品の題材となってきた。読むべき一冊を、本の目利きたちに紹介してもらった。
小林照幸「検疫官」
 本書は日本初の女性検疫所長、岩﨑恵美子が検疫官に就くまでの経緯と彼女のウイルスの感染拡大防止に関する考え方を克明に辿るノンフィクションである。
写真・図版小林照幸『検疫官』(角川文庫)
 2009年、WHO新型インフルエンザ発生を発表した。日本では厚労省の指導のもと各都道府県の指定医療機関に一般外来と接触させない「発熱外来」を設置した。だが仙台市は現場の混乱を危惧し「軽症者はかかりつけの医療機関を受診、重症化した場合指定の医療機関に搬送する」と独自の方策を打ち出す。指揮を執ったのは当時仙台市副市長の岩﨑恵美子。エイズやマラリアの治療経験を持つ感染症の専門家だ。
 後に関西に感染者が発生、全国に広がった患者が発熱外来に殺到したため厚労省は仙台方式に切り替えざるを得なくなった。
 新型コロナ最前線で戦う医師の姿を岩﨑の向こうに重ねてみる。(東えりか・書評家)


Wikipedia
岩﨑 恵美子(いわさき えみこ、194438 - )は、日本医師。元・厚生省仙台検疫所所長、元・仙台市副市長。
l  人物[編集]
新潟新潟市出身。旧姓桶谷。父は耳鼻科医、母は小児科医。3人姉妹の長女。3人とも耳鼻科医。新潟大学医学部医学科卒業。耳鼻科医として同大付属病院に勤務の後、公衆衛生分野に移り、検疫所国際協力機構JICA)、世界保健機構WHO)での活動などを通して、日本国内外における感染症対策の経験を積んだ。
2007年、当時の仙台市長・梅原克彦の要請で同市副市長に就任、「仙台方式」と呼ばれる先進的な新型インフルエンザ対策(地域の診療所が軽症者の診療を担う等)を行うなどした。
20097月、梅原の引退に伴う仙台市長選挙に立候補したものの、民主党社民党などが支援した奥山恵美子に敗れて落選した。この選挙では自由民主党公明党日本共産党などが自主投票として新人6人が立候補、当選した奥山も同じく仙台市副市長を前職とする「恵美子」であり、地元マスコミでは、元副市長2人による「恵美子対決」とも呼ばれた。岩﨑は、「梅原市政の継承」を訴えたが、告示5日前の立候補表明だったこともあり、選挙戦の終盤まで出遅れを挽回できなかった。
経歴[編集]
19685 - 新潟大学医学部医学科卒業
19705医師免許取得
19755 - 新潟大学医学部耳鼻咽喉科 研修医
19785 - 新潟臨港総合病院耳鼻咽喉科 医長
19935 - カルナータカ癌センター(インドカルナータカ州 非常勤医師
19961 - 新潟大学公衆衛生学教室 非常勤講師
19964タイ国マヒドン大学(Mahidol University熱帯医学・衛生学 ディプロマコース入学
19969 - 同・修了、Tropical Medicine & Hygene 学位取得
19973 - JICA派遣専門家として、パラグアイの地域保健強化プロジェクトに参加
19984厚生省成田空港検疫所 企画調整官
199811 - 厚生省・仙台検疫所 所長
200010 - WHOの派遣要諦により、ウガンダにおけるエボラ出血熱の診療・診断調査活動に参加
20035SARS対応協議のためのASEAN3ヶ国空港当局者会議(マニラ)に、日本代表として出席
20036 - WHOSARS対策専門家世界会」(クアラルンプール)に、日本代表として出席
20074仙台市副市長に就任
20098 - 仙台市長選挙に立候補するも、落選(次点)
著作[編集]
『間違いだらけのインフルエンザ対策』(日本文芸社200910月)



検疫官とは、空港港湾に設置されている検疫に勤務し、検疫法に基づいて検疫業務等を担当する厚生労働省所属の職員(国家公務員)の官職名である。「検疫所長等服制」(昭和27111日厚生省令第44号)によって制服制帽および胸章職名章)が定められており、貸与がなされている。


検疫とは、港湾空港にて、海外から持ち込まれた、もしくは海外へ持ち出す動物・植物・食品などが、病原体や有害物質に汚染されていないかどうかを確認すること。
またこれに例えて、コンピュータウイルス対策ソフトでシステムがウイルスに感染していないか、不正に侵入された形跡はないか確認することも「検疫」と呼ぶことがある。
l  概要[編集]
検疫とは、特定の国や施設に出入りする、輸出入される動物植物及び食品飼料等、その他、生物を原材料とする物品や生物が含まれる可能性のある土壌岩石等を一定期間隔離した状況に置いて、伝染病の病原体などに汚染されているか否かを確認、検査することである。
英語quarantineは、イタリア語ヴェネツィア方言quarantenaおよびquaranta giorni (40日間の意)を語源としている。これは1347黒死病大流行以来、疫病オリエントから来た船より広がることに気づいたヴェネツィア共和国当局では、船内に感染者がいないことを確認するため、疫病の潜伏期間に等しい40日の間、疑わしい船をヴェネツィアやラグーサ港外に強制的に停泊させるという法律があったためである。
日本でも、コレラ患者のいる船を40日間沖に留め置く「コレラ船」という言葉があり、夏の季語となっていた。
また、近年では外来種を水際で防止するために必要な対策となっている。日本における人や食品の検疫は厚生労働省が、動植物の検疫は農林水産省が担当しており、全国の主要な空港・海港に設置された検疫所厚生労働省)又は動物検疫所、植物防疫所(共に農林水産省)にて行なわれている。なお日本の植物検疫では、輸出入など外国との関係で行う検疫を植物検疫、国内での病害虫防除も含めて行うことを植物防疫という(#植物防疫で後述)。
様々な検疫が各国で行われており、例えば21世紀までイギリスでは狂犬病を予防するために全てのを含むほとんどの動物を6ヶ月間抑留するという法律が施行されていた。現在では、正しく予防接種が行われているという証明書を提出することで抑留を免れることができる。
検疫、特にその後の長期間の隔離は、その有効性が疑問視される場合には人権問題になることがある。
l  検疫対象[編集]
l  植物防疫[編集]
野菜果物など農作物は、外来の害虫病原体により大きな被害を受けることがある。例えば、アイルランドジャガイモ飢饉1845年~)をもたらしたジャガイモの病気は、最初にベルギーで発生した。このため、これらを持ち込む可能性のある植物や土などについては、国・地域と品目を特定して持ち込みを許さない場合がある。また、国内の一部に存在する病害虫の場合であっても、国内の他地域への移動を禁じていたり、検査しないと移動できなかったりする。たとえば日本ではサツマイモの大害虫として知られているアリモドキゾウムシ南西諸島の一部に生息する。このため、この地域から日本国内の他の地域への未消毒のサツマイモ類の持ち込みは禁止されている。同時に、野生植物のグンバイヒルガオもアリモドキゾウムシの寄主になるため同様である。また、柑橘類などは検査を受けなければ持ち込みが出来ない。
1862年にはアメリカ合衆国ブドウからフランスブドウネアブラムシ(フィロキセラ)が広がって、周辺国を含めて枯死被害をもたらした。その蔓延を防ぐための「フィロキセラ条約」が1879年に成立し、1952年に発効した国際植物防疫条約(IPPC)の原型となった。1992年には国際連合食糧農業機関FAO)内にIPPC事務局が置かれ、20195月時点で183カ国・地域が加盟するまで拡大した。海外旅行者の増加、インターネット販売など経済のグローバル化により検疫の重要性が高まっているため、国連は2020年を「国際植物防疫年」とした。
l  競走馬[編集]
競馬においては、馬が国外のレースに出走する場合も多く(国際競走)、その際は検疫厩舎で出国時と帰国時に定められた検疫を受けなければならない。
日本(=日本国外のレースに出走する日本の馬、あるいは日本のレースに出走する日本国外の馬)においては、検疫期間は通常7日間で、成田国際空港などを利用する際は、千葉県にある日本中央競馬会JRA)の競馬学校で、関西国際空港などを利用する際は、兵庫県にある三木ホースランドパークで検疫が行われることが多い。稀に競馬場で行われる場合もある。
l  紙幣[編集]
2020年、新型コロナウイルス感染症の流行の際には、紙幣新型ウイルスの感染源になるとして複数の国で消毒や検疫が試みられた。アメリカでは、連邦準備制度理事会FRB)が、アジア地域から国内へ戻ってきたドル紙幣を7-10日間隔離する検疫を行った。
l  生物多様性に関連して[編集]
検疫とは、元来は上記のように病原体や害虫などの有害生物の侵入を防ぐ意味を持つものであった。しかし、近年では、生物多様性の観点からの検疫も行われる。典型的な例はオーストラリアで、雑草種子が含まれている可能性のある品目など、国外から生きた動植物や食料品が入ることを厳しく制限している。これは、オーストラリアの生物相が、世界の他の地域に比べて特異であり、これまでに国内に持ち込まれた他地域の生物が、オーストラリア大陸で大被害を与えた例が多々あることと共に、国内の特異な生物相を保護することを目ざしての措置である。
なお、ガラパゴス諸島では更に厳格な措置が設けられ、島に立ち入る際には足を洗わなければならない。
l  日本における検疫[編集]
日本における検疫の手続は検疫法(昭和2666日法律第201号)などの法令による。検疫法は国内に常在しない感染症の病原体が国内に侵入することを防止することなどを目的として制定されているものである(検疫法第1条)。なお、日本国内での感染症予防や感染症患者に対する一般的な措置については「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症予防法)の項目を参照。
l  検疫感染症[編集]
検疫の対象になる、検疫感染症については、検疫法第2条の各号で次のようなものが指定されている(検疫法第2条の1号から3号までの区分により隔離や停留などの内容が異なる)。
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症予防法) に規定する一類感染症(検疫法第21号)
一類感染症については感染症予防法第62項に規定があり、具体的には、エボラ出血熱クリミア・コンゴ出血熱痘そう(天然痘)南米出血熱ペストマールブルグ病ラッサ熱が指定されている。
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症予防法)に規定する新型インフルエンザ等感染症(検疫法第22号)
新型インフルエンザ等感染症については感染症予防法第67項に規定がある。
国内に常在しない感染症のうちその病原体が国内に侵入することを防止するためその病原体の有無に関する検査が必要なものとして政令で定めるもの(検疫法第23号)
政令として検疫法施行令第1条に規定があり、具体的には、ジカウイルス感染症新型コロナウイルス感染症(病原体がベータコロナウイルス属のコロナウイルス(令和二年一月に、中華人民共和国から世界保健機関に対して、人に伝染する能力を有することが新たに報告されたものに限る。)であるものに限る。)、チクングニア熱中東呼吸器症候群(病原体がベータコロナウイルス属MERSコロナウイルスであるものに限る。)、デング熱鳥インフルエンザ(病原体がインフルエンザウイルスA属インフルエンザAウイルスであってその血清亜型がH5N1またはH7N9であるものに限る。)、マラリアが指定されている。
l  検疫法の適用[編集]
検疫感染症の疑似症及び無症状病原体保有者に対する検疫法の適用基準については検疫法第2条の2に定めがある。
検疫法第21号に掲げる感染症の疑似症を呈している者については、同号に掲げる感染症の患者とみなして検疫法が適用される(検疫法第2条の21号)。
検疫法第22号に掲げる感染症の疑似症を呈している者であって当該感染症の病原体に感染したおそれのあるものについては、同号に掲げる感染症の患者とみなして検疫法が適用される(検疫法第2条の22号)。
検疫法第21号に掲げる感染症の病原体を保有している者であって当該感染症の症状を呈していないものについては、同号に掲げる感染症の患者とみなして検疫法が適用される(検疫法第2条の23号)。
l  隔離の措置[編集]
検疫所長は検疫法第21号・2号に掲げる感染症患者を隔離し、また、検疫官に感染症患者を隔離させることができる(検疫法第1411号)。日本の検疫法上の隔離の措置は、既に検疫感染症にかかっていることが明らかとなった患者を対象とする措置である。
l  隔離される医療機関(検疫法第151項)
検疫法第2条第1号に掲げる感染症の場合 - 特定感染症指定医療機関、第一種感染症指定医療機関
検疫法第2条第2号に掲げる感染症の場合 - 特定感染症指定医療機関、第一種感染症指定医療機関、第二種感染症指定医療機関
ただし、緊急その他やむを得ない理由があるときは、これら以外の病院・診療所で検疫所長が適当と認めるものにその入院を委託することができる。
l  病原体保有の確認
隔離されている者やその保護者(親権を行う者又は後見人)が、検疫所長に対して隔離されている者の隔離を解くことを請求した場合(検疫法第154項)には、検疫所長は隔離されている感染症の患者が感染症の病原体を保有しているかどうかの確認をしなければならない(検疫法第155項)。
l  隔離措置の解除
検疫所長は隔離の措置がとられている感染症の患者について感染症の病原体を保有していないことが確認されたときには、直ちに隔離の措置を解かなければならない(検疫法第152項)。
l  罰則規定
隔離措置の継続中に逃げ出した者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処される(検疫法第352号)。
l  停留の措置[]
検疫所長は外国で検疫法第21号・2号に掲げる感染症が発生し、その病原体が国内に侵入し、国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認めるときには、検疫法第21号・2号に掲げる感染症の病原体に感染したおそれのある者を停留し、また、検疫官に感染したおそれのある者を停留させることができる(検疫法第1412号)。日本の検疫法上の停留の措置は、検疫感染症に感染しているおそれのある者を対象とする措置である。
l  停留される医療機関(検疫法第161項・2項)
検疫法第2条第1号に掲げる感染症の場合 - 特定感染症指定医療機関、第一種感染症指定医療機関
ただし、緊急その他やむを得ない理由があるときは、これら以外の病院・診療所で検疫所長が適当と認めるものにその入院を委託し、また、船長の同意を得て船舶内に収容して行うことができる。
検疫法第2条第2号に掲げる感染症の場合 - 特定感染症指定医療機関、第一種感染症指定医療機関、第二種感染症指定医療機関、その他検疫所長が適当と認める病院・診療所、検疫法第162項の手続により同意を得た宿泊施設や船舶
l  病原体保有の確認
停留されている者やその保護者(親権を行う者又は後見人)が、検疫所長に対して停留されている者の停留を解くことを請求した場合(検疫法第166項)には、検疫所長は停留されている者が感染症の病原体を保有しているかどうかの確認をしなければならない(検疫法第167項)。
l  停留措置の解除
検疫所長は停留の措置がとられている者について感染症の病原体を保有していないことが確認されたときには、直ちに停留の措置を解かなければならない(検疫法第164項)。
l  罰則規定
停留措置の継続中に逃げ出した者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処される(検疫法第352号)。
l  出入国管理法上の上陸制限[編集]
出入国管理及び難民認定法により感染症予防法の一類感染症、二類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症又は新感染症の所見がある外国人(特別永住者を除く)は日本に上陸できない(出入国管理及び難民認定法第511号)。
l  一類感染症(前述)
l  二類感染症
二類感染症については感染症予防法第63項に規定があり、具体的には、急性灰白髄炎結核ジフテリア重症急性呼吸器症候群(病原体がコロナウイルス属SARSコロナウイルスであるものに限る。)、中東呼吸器症候群(病原体がベータコロナウイルス属MERSコロナウイルスであるものに限る)、鳥インフルエンザ(病原体がインフルエンザウイルスA属インフルエンザAウイルスであってその血清亜型がH5N1又はH7N9であるものに限る。)が指定されている。
l  新型インフルエンザ等感染症(前述)
l  指定感染症
指定感染症とは「既に知られている感染性の疾病(一類感染症、二類感染症、三類感染症及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)であって、第三章から第七章までの規定の全部又は一部を準用しなければ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるもの」(感染症予防法第68項)である。
l  新感染症
新感染症とは「人から人に伝染すると認められる疾病であって、既に知られている感染性の疾病とその病状又は治療の結果が明らかに異なるもので、当該疾病にかかった場合の病状の程度が重篤であり、かつ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるもの」(感染症予防法第69項)である。
l  感染症予防法上の輸入検疫[編集]
感染症を人に感染させるおそれが高いものとして政令で定める指定動物については、感染症の発生の状況などから厚生労働省令や農林水産省令で定める地域を発送地あるいは経由地とする輸入には厚生労働大臣及び農林水産大臣の許可を要する(感染症法第54条)。現在、指定動物にはイタチアナグマコウモリサルタヌキハクビシンプレーリードッグヤワゲネズミが指定されている(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行令第13条)。指定動物の輸入には輸入検疫手続を要する(感染症法第55条・第56条)。
また、上の指定動物を除く動物のうち、感染症を人に感染させるおそれがあるものとして厚生労働省令で定める動物やその死体のうち感染症を人に感染させるおそれがあるものとして厚生労働省令で定める動物については輸入届出を要する(感染症法第57条)。届出の対象となる動物等は感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則に定められている。
l  家畜伝染病予防法上の輸出入検疫[編集]
特定の家畜の輸出入には家畜伝染病予防法上の農林水産大臣の許可、農林水産大臣への届出、輸出入検疫などを要する(家畜伝染予防法第36条~第46条)。
l  日本国内間の検疫[編集]
植物防疫法の定めにより、イモゾウムシサツマイモノメイガなど、害虫の拡散を防ぐため国内間でも検疫が行われ、沖縄県全域、奄美群島トカラ列島小笠原諸島からは、サツマイモグンバイヒルガオ等のヒルガオ科植物の生茎葉、及び生塊根等の持ち出しは禁止されている。
従って、空港や港で該当する物品を所持していると没収される。ただし加工品にはこのような制限は無い。現地の港および空港に、これらの注意を促す掲示やポスターがあるので、当地を訪問の際には参照されたい。



検疫所(けんえきしょ、英語: Quarantine Station)とは、海外から感染症や病害虫などが持ち込まれたり、また持ち出されることを防ぐ「検疫」を行う機関。
以下、日本国内における人の検疫業務を行う厚生労働省の施設等機関である検疫所について記述する。動植物の検疫は農林水産省消費・安全局所管の植物防疫所(植物)及び動物検疫所(動物)を参照ください。
l  概要[編集]
厚生労働省の施設等機関であり、健康局が所管する。
厚生労働省組織規則、第二節施設等機関、第一款検疫所、別表第一に規定のとおり、全国に計105箇所設置されている。
所管課:健康局結核感染症課/医薬・生活衛生局生活衛生・食品安全企画課検疫所業務管理室
イメージキャラクターは、クアラン。
l  組織体制[編集]
全国の主要な海港・空港に本所、支所、出張所が設置されている。
感染症の流入を未然に防護するため、また、国内に流通する輸入食品の安全性確保、審査及び検査を行う等、水際の第一線で輸入食品を監視するために、全国の検疫所には検疫官(食品衛生監視員を含む)が配置されている。
本所(13箇所)
小樽検疫所(海港
仙台検疫所(海港)
成田空港検疫所(空港
東京検疫所(海港)
横浜検疫所(海港)
新潟検疫所(海港)
名古屋検疫所(海港)
大阪検疫所(海港)
関西空港検疫所(空港)
神戸検疫所(海港)
広島検疫所(海港)
福岡検疫所(海港)
那覇検疫所(海港)
支所(14箇所)
小樽検疫所 千歳空港検疫所支所(空港)
仙台検疫所 仙台空港検疫所支所(空港)
東京検疫所 千葉検疫所支所(海港)
東京検疫所 東京空港検疫所支所(空港)
東京検疫所 川崎検疫所支所(海港)
名古屋検疫所 清水検疫所支所(海港)
名古屋検疫所 中部空港検疫所支所(空港)
名古屋検疫所 四日市検疫所支所(海港)
広島検疫所 広島空港検疫所支所(空港)
福岡検疫所 門司検疫所支所(海港)
福岡検疫所 福岡空港検疫所支所(空港)
福岡検疫所 長崎検疫所支所(海港)
福岡検疫所 鹿児島検疫所支所(海港)
那覇検疫所 那覇空港検疫所支所(空港)
出張所(78箇所)
海港(59箇所)
空港(19箇所)
l  検疫業務[編集]
検疫所では、すべての入国者に対して、サーモグラフィー等を用いて発熱等の有無を確認する検疫を行う。発熱や咳、吐き気等の症状がある、また、体調不良を訴える人に対して、健康相談も行う。滞在国によっては、医師の判断で、検疫法第二条各号に規定する検疫感染症を疑い検査を実施する。検疫感染症に感染している患者を発見した場合は、必要に応じて隔離、停留、消毒(検疫法第十四条)等の防疫措置を行う。
海港・空港の出国相談カウンターでは、渡航に関する相談やリーフレットの配布等を行い、感染症に感染しないための予防対策等の周知を行っている。インターネット上では、海外渡航者向けに、成田空港検疫所の運営するFORTHホームページにて情報提供を行っている。
また、感染症予防対策として、検疫所では黄熱等の予防接種業務も行っている。
l  黄熱予防接種について[編集]
黄熱の流行地域に入国する場合などには、国際保健規則(IHR)に則り、黄熱の予防接種証明書(イエローカード)の提示を求められることがあり、国内においては、検疫所および厚生労働省の指定する医療機関にて、黄熱ワクチンの予防接種をすることができる。
l  港湾衛生業務[編集]
検疫法第二条各号に規定する検疫感染症のうち、三号にはジカウイルス感染症マラリア等があり、国内に常在しない感染症病原体の国内侵入を防止するためには、蚊媒介感染症の調査も重要である。そのため検疫所では、ねずみ族および虫類の侵入や定着状況を監視し、海外から来航した船舶や航空機について、検疫法第二十七条に規定する調査及び衛生措置を行っている。
捕獲したねずみ、蚊等については種の同定、病原体保有の有無の確認検査を行う。
l  船舶衛生検査業務[編集]
国際航行する船舶は、船舶を介して感染症が国際的に拡大しないように、船内の衛生状態を良好に保つよう、国際保健規則(IHR)で定められている。検疫所では、船長等からの申請に基づき船内の衛生管理状況等を確認する衛生検査を実施する。
検査官が乗船し、感染症を媒介するねずみ、蚊等の生息の有無、食品や飲料水の取扱い、船舶の各区域の衛生状態について、現場確認、乗組員への聴取等の衛生検査を行い、検査の結果、衛生管理状況が良好な場合は、船舶衛生管理免除証明書(SSCEC)を交付する。問題が認められた場合、改善措置内容を記載した船舶衛生管理証明書(SSCC)を交付する。
l  動物の輸入届出審査業務(農林水産省動物検疫所の検疫対象を除く)[編集]
日本で流行していない感染症のうち、動物が媒介する動物由来感染症の国内侵入を防ぐために、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律に規定されている動物の輸入届出制度(法第五十六条の二)があり、その届出書等を検疫所において審査する。現場確認では、届出書に記載された内容と実際の貨物が合っているか、輸入動物の健康状態に問題がないか、実際に動物を目視で確認する。また、届出書および衛生証明書と貨物の内容を確認する。
届出制度の対象となる動物は、陸生哺乳類(家畜、犬、猫、あらいぐま、きつね、スカンクを除く)、鳥類(家きんを除く)、齧歯目の死体。イタチアナグマ、こうもりサルタヌキハクビシンプレーリードッグ、ヤワゲネズミは輸入禁止となっている。
l  輸入食品監視業務(食品の検疫)[編集]
輸入者は、販売や営業を目的として使用する食品、添加物、器具、容器包装、乳幼児対象のおもちゃ(食品等)を輸入する場合、検疫所へ食品等輸入届出書の提出が必要となる。検疫所の食品衛生監視員が、食品衛生法に基づき適法な食品等であるか、届出書の審査をする。
検査が必要と判断された食品等については、命令検査(違反の蓋然性が高いとして厚生労働大臣が命ずる検査)、行政確認検査(初めて輸入される食品等や輸送途中に事故が発生した食品等の確認のために検疫所が実施する検査)を実施し、その他の食品等についても計画的なモニタリング検査(多種多様な食品等について幅広く監視するため策定された年度計画[2]に基づき検疫所が実施する検査)を行うことにより、効率的・効果的な輸入食品の安全性を確保している。検査の結果、食品衛生法に違反していることが判明した食品等については、廃棄・積戻し・第三国輸送などの措置をとるよう指導を行う。
その他、輸入者や関係事業者に対し、輸入食品相談業務も行っている。
l  試験検査業務[]
検疫所の主要検査施設として、東日本と西日本にそれぞれ、横浜検疫所輸入食品・検疫検査センター、神戸検疫所輸入食品・検疫検査センターが設置されており、それ以外にも成田空港検疫所、関西空港検疫所等の検査施設にて、輸入食品等の検査、海外から侵入する感染症に関する検査を行っている。
輸入食品等については、殺虫剤などの残留農薬、抗生物質などの動物用医薬品力ビ毒重金属などの有毒有害物質、おもちゃや飲食器具、容器包装の規格、遺伝子組換え食品、食中毒の原因となる病原微生物の検出など、理化学検査および微生物学検査を行う。
また、海港・空港において検疫を実施した時に検疫感染症に感染した疑いのあるヒ卜から採取した検体、港湾衛生業務で捕獲したねずみ、蚊等の検体について、病原体検査を行う。



コメント

このブログの人気の投稿

近代数寄者の茶会記  谷晃  2021.5.1.

新 東京いい店やれる店  ホイチョイ・プロダクションズ  2013.5.26.

自由学園物語  羽仁進  2021.5.21.