超高級老人ホーム 甚野博則 2025.7.16.
2025.7.16. ルポ 超高級老人ホーム
著者 甚野博則 1973年生まれ。大学卒業後、大手電機メーカーや出版社などを経て2006年から『週刊文春』記者に。2017年の「『甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した』実名告発」などの記事で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」のスクープ賞を2度受賞。現在はフリーランスのノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌などで社会ニュースやルポルタージュなどの記事を執筆。近著に『実録ルポ 介護の裏』(文藝春秋)がある
発行日 2024.8.6. 第1刷発行
発行所 ダイヤモンド社
はじめに
l 人は「高級」という言葉の魔力に魅せられる
「高級」という言葉には、警戒心をかき消すほどの不思議な力があるが、その正体が何かを考えてみても、答えを出すのは難しい。根拠は、商品の質か、希少性か、ステータスか
l では、「高級老人ホーム」はどうだろうか
メディアで描かれた「高級老人ホーム」は、まるで高齢者のユートピア
入居金だけで数千万から数億、さらに月数十万の費用を払えるのは、ごく一握りの超富裕層のみ。その真実の姿は?
l ならば、高級老人ホームでも実態は同じではないだろうか
高齢者の特徴が如実に現れてくると、他の者と摩擦が起きても不思議なことではない
「超高級」と呼ばれる老人ホームの実態は?
l 夢のような高齢者の桃源郷は本当にあるのか――
第1章 選ばれた者だけの「終の棲家」、超高級老人ホーム
l 「高級って何が高級なんだよ」
最期を迎えたい場所を自宅とする人は44%だが、自宅やホームで死亡したのは27%で、病院が66%
高級と虚飾は違う。高級が高品質とは限らない
l 超高級老人ホームの日本代表「サクラビア成城」
開業1988年。セコムと森ビルの合弁が経営。対象は3~10億の資産で、月の生活費80万
‘80~’90年代の高級シルバーマンションを手掛けた草分けは中銀グループ
l 入居一時金4億円超えの仰天価格
敷地3000坪、10階建て、150室、定員200名
最高の部屋は147㎡、夫婦2人3食付きで、入居金4.7憶、月額60万円
「介護付き有料老人ホーム」という類型で、外部委託ではなく、老人ホームの職員が介護サービスを提供
l まるで丘の上の飛鳥
当初は、高級マンションのディベロッパーが、世界のナーシングホームを見て回り、日本における先駆けとして建てたもので、介護よりも、人生の最終ステージを輝かしく過ごす場を目指す
l 一流ホテルマンさながらのスタッフ
68㎡の部屋で、入居一時金1.47(1人)~1.6億(2人)。15年で償却するので5年で退去すれが0.8億返金
l 原則フルリフォーム、間取り変更も当然対応
入居者が変わる時は原則フルリフォーム
l 優越感を具現化した設備の数々
娯楽などの共有施設は超豪華。イベントも盛りだくさん
l 財界の大物がこぞって入居
故人の住所がサクラビアとなっている新聞の訃報記事は多い
l 高額な部屋ほど争奪戦に
1996年、経営危機に陥ったサクラビアを買収したのがセコムと森ビル
翌年、介護保険法公布
高額の空き室が出る、既入居者の間で争奪戦が起こる
l 50代から部屋をキープする用意周到さ
100万円の保証金を預けて部屋をキープしている人もいる
l “品格”と”資力”は最低条件
入居希望者の面談時の判断基準。健常型では、既に介護サービスを受けている人は入居不可
l 値踏みされる施設
早くからコンタクトして人間関係を作り、施設の値踏みをしてから入居というケースが多い
l 徘徊する者は滅多にいない
入居の決め手は、「健康(医療体制)」「介護(自室での介護)」「食事」
l 好みの氷の数まで把握する徹底ぶり
食べたい時に食べたいものを、その場で選べるのが大事
l 給料月額約23万円(和食調理人として10年以上の経験者)は高いか安いか
サクラビアのスタッフは正社員100名+アルバイト・パートなど100名以上
調理師は25~45万円、介護職は諸手当込みで23~30万円
介護人材の不足は深刻
l “帝王学”を学ぶスタッフたち
居住者との会話を通じて帝王学を学べる
l 「仏様のような方が多いです」
単身が7割、平均年齢85歳、要支援・介護認定は3割
人生の質を物質的な豊かさで評価するかのような暗示があり、「高級」という言葉の響きには、社会的・経済的なエリート主義者による排他的な意味が込められているような気がする
第2章 「入居者カースト」でマウンティングし合う高齢者たち
l 相模湾から臨むは天下、「中銀ライフケア熱海第三伊豆山」――「僕は昔、クレディ・スイス銀行で東京支店長をしていましてね」
借景に一目惚れして入居を決断。竣工1992年、165戸、約180名、平均年齢82
l 賃貸型ではなく分譲型のシルバーマンション
中銀が介護事業に参入したのは1971年、サンフランシスコのセコイア視察がきっかけ
所有権分譲方式が多く、分譲マンションと同じ管理組合がある
l 海を濁らせた大災害
2021年7月の伊豆山土石流災害の影響は皆無
l “メンバー様”らとご対面
高齢者だけが集まった閉鎖的な住空間に根付く独特の世界
l 施設スタッフを電話で呼びつけ・・・・・
何でも用事があるとすぐに電話で呼び出す
l 「オージービーフは間違いだったか」
海外に長い人でも、老後は日本で暮らす
l 差し出された”奇妙な”資料
管理組合がマンションの問題の解決に動く
l 理事会メンバーは”何様”か
各方面の専門家の知恵を集めて理事会を運営
l 「東京から来るな」
コロナのときは、非常住者の入館を制限。入館は1親等までに制限
l 健康マウンティングが始まる
理事会が購入希望者の受け入れにまで関わり、健康入居に加え、年齢上限を85に
理事会が面談し、階段の上り下りのテストまでする
l 「意識が高いってことね」
高級老人ホームとは、居住者の意識・関心が高いこと
l カネは出すが口も出す
管理面での理事会の関与も大きい
l 「すぐ死んじゃうの」の裏事情
介護が必要になると、管理会社が手伝うが、介護事業者との契約は個人個人
最後は中銀ケアホテルに移る選択肢もあるが、移ると時期に亡くなるケースが多い
l 隠蔽体質に”ご乱心”
管理会社が居住者情報を教えてくれないのが理事長の不満
l 男をたてる女たち
l まるで貴族のお戯れ
l 居住者同士の色恋沙汰も
l 「自民党と一緒ですよ」
l 徳川家臣団の野望
楽しく過ごす秘訣は健康
l 食堂の席替えにも猛反対
l カラオケの十八番はあいみょん
l 女やもめに花が咲く
第3章 「死に場所」さえステータス化する富裕層の執着
l 終焉までのカウントダウンが始まる「聖路加レジデンス」
日本初の予防医療型ケア付きのシニアマンション。1994年第1期完売。2044年終了予定
l 薄給社員の悲憤
l 「中銀ライフケア横浜希望ヶ丘」で変わる夫婦関係
l 最期の居場所は妻の横か
l 施設スタッフと結婚した”やり手”入居者
l インド産バイアグラで二股交際
l 先立たれた者同士の純愛
l 高齢者による、高齢者のための街
リアタイアメントコミュニティの始まりは、1914年フロリダの「アドベント・クリスチャン・ビレッジ」。日本の高級老人ホームの源流は1960年アリゾナの「サン・シティ」
l 「サンシティ銀座EAST」その虚像と実像
アメリカをモデルとしたのがハーフ・センチュリー・モアの「サン・シティ」シリーズ
l 人知れずゴミ屋敷化も
l 「ご家族様もそういうお育ち」
l 「お金を払えばいいんでしょ」
傲慢な金持は共同生活に向かない
l ロイヤルケア食を試食したものの・・・・・
l 超富裕層の熱視線、「パークウェルステイト西麻布」
2024年10月開業。最高額が夫婦入居で一時金5.4億、月額基本料52万
l 遺産争いを見越した次男の思惑
l 高級老人ホームをオススメできない理由
誰でも入れるわけではないので、簡単には勧められない
l 取材後に”事前検閲”の要求
l 関西セレブが大集合する「エレガーノ西宮」
住友林業グループが運営。総戸数309戸
l まるでクラシックな高級ホテル
l 入居のきっかけは”将来への不安”
l “やりたくない”もOK
介護が必要になったとき(介護3程度)、施設内の介護居室へスムーズに住み替えができる
l 自宅を残すのは過去への執着か
l 入居は出来ない、でも働く
l 「入り込まれると嫌やから」
l 「その時は仕方ない」
第4章 老人は二度死ぬ。悪徳施設への潜入取材
l 現役スタッフからの告発
芦屋の高台に建つ老舗の社会福祉法人の運営する老人ホームは、広告と実態が違う
l 潜入するは我にあり
事前に施設の実情に関する情報を得たうえで、施設を見学
l 反発したスタッフを激詰め
介護スタッフの不足からサービスが低下すると、スタッフが上から怒鳴りつけられる
l 監査前にシフト表を改竄――介護職員の人員配置基準を誤魔化す
l 「自由なんてどこにあるんや」――入居者の自由意思が無視されている
l 「薬、薬、薬をちょうだい」――睡眠導入剤の服用を止められた
l 調味料はカビだらけ
l たった1房の”ドケチ”デザート
l 施設内で皮膚病が蔓延
l 2度の爆破予告
l 職員に手渡された”教本”
l 要介護3でも台湾カラオケ旅行の疑問――介護保険の不正受給
l 常駐ドクターも親族の言いなりに
l 疑惑の施設へ”潜入取材”
l “選択の自由”が強調されるも・・・・
l 予期せぬ質問にしどろもどろ
l “ちょっと”力を入れている――認知症ケアに注力
l 小学生並みの門限時間
l 盛り上がる職員、虚ろな入居者――入居者向けのイベントの実態
l 右も左もフェイクだらけ――装飾品はフェイクだらけ
l “金色の壺”が飾られた廊下
l 某新興宗教との関わりも・・・・
l 「ほんまに監獄みたいやと思います」
l 搾取される職員たち
l 港に浮ぶクルーザーの正体――耐用年数の短いクルーザーが施設の税金対策で購入
l まるで株主気分の入居者たち――居住者間でマウントの取り合いも
l 職業に貴賎ありの実態――入居の判断を職業によって決める
l 高級老人ホーム「X」の”黒い評判”――福岡の例
l 反社会的勢力との黒い噂
l まるで姥捨て山
第5章 桃源郷は夢のまた夢。「世俗」に還る人々
l 「アンペレーナ百道(ももち)」(福岡)で業務を体験
l 働きながら入居権をキープ――セカンドハウスとして部屋をキープしている例
l 老人ホームに友人は要らない
l 大鵬も訪れた名店(日本橋本町の寿司店「千八鮨」)。伝説の寿司職人
l 「また違う人生もあるかな」
l 業務体験を試みるも・・・・――高いコミュニケーションスキルが求められる
l 「もっと早く入居すればよかった」
l 麻生太郎元首相の訪問も
l 遺産目的の連れ去り事件
l 最期まで夫を気遣った妻の一言――妻に「私が死んだら入れ」と言われて入居した夫
l 老後に”義理”は必要なし――義理の付き合いは不要
l “死に場所”はどこにある――入居者が自らの居場所を見つけるための場が老人ホーム
l 超高級老人ホーム、その実態――高齢者達が幸福な人生とは何かを自ら探し求める場所であり、一見優雅に見える暮らしでも、複雑な人間関係や老いとの闘いから逃れることは出来ず、絶え間ない葛藤が続く
そこで働く人々の人間力が入居者の暮らしの質に反映される
ダイヤモンド・オンライン
カネさえあれば
幸せに死ねるのか――。
入居金3億円超えの仰天価格。
至れり尽くせりの生活を享受する超富裕層たち。
彼らがたどり着いた「終の棲家」は桃源郷か、姥捨て山か。
元『週刊文春』エース記者による、日本で初めて“超高級老人ホーム”の実態に迫った驚愕のノンフィクション!
◎財界人が多数入居する入居一時金4億円超えの超高級老人ホーム
◎入居者から“帝王学”を学ぶスタッフ
◎超高級老人ホームでマウンティングし合う高齢者
◎疑惑の施設への“潜入取材”
◎元首相がSPを連れて訪問するとある地方の施設
【スクープ】入居金6億円超え、日本を代表する超高級老人ホームはサービス終了へ。セレブ老人たちの末路とは?
2024年8月7日 4:06
一握りの超富裕層だけが入居する、閉ざされた「終の棲家」……。元首相も入居していると言われる“超高級老人ホーム”が、近年注目を集めている。これらを徹底取材したのが、ノンフィクションライター甚野博則氏による『ルポ 超高級老人ホーム』だ。本記事では、発売前から話題となっている本書の出版を記念して、内容の一部を抜粋し再編集してお届けする。
日本を代表する高級老人ホームに、まさかの事実が判明した
終焉までのカウントダウンが始まる
「聖路加レジデンス」
超高級老人ホームの代表格の一つとして名高いのが「聖路加レジデンス」だ。
「取材は一切お受けしておりません」
本書の執筆にあたって、聖路加レジデンスにも取材依頼の電話をかけたのだが、取り付く島もなく拒否された。
聖路加レジデンスはメディアの取材を受けたがらないことは、これまでの取材で既に関係者から聞いており、予想通りの展開だ。
東京都中央区にあるこの施設は、日本初の予防医療型ケア付きのシニアマンションとしても知られる。過去の新聞記事を調べてみると、1994年に第1期分が完売したことが話題になっていた。
94年といえば、6月にオウム真理教による松本サリン事件が発生し、同月には村山富市内閣も発足。バブルの象徴でもあったジュリアナ東京が閉店した年でもある。
そうした時代の転換期に聖路加レジデンスは、1億4800万円から4億8600万円の間で販売されていたのだ。
「ここは法人契約ができますので、中小企業の社長などが、隣接する聖路加国際病院を受診するときや、人間ドックに合わせてホテル代わりに利用していると聞きます」(介護施設関係者)
現在、ホームページを見ると、入居金総額の例として、一人入居の場合で2億1650万円から6億8925万円と記されている。
企業のオーナーや幹部を始め、元自治大臣や鳩山由紀夫元首相の母が入居していたことでも知られている。
だが、別の関係者が意外な事実を明かす。
「聖路加レジデンスですが、2044年3月には施設を終了する予定です。聖路加国際病院から土地を借りて運営していたようなのですが、その契約を更新しないと決めたとのこと。それ以降についてはまだ決まっていないようです。ただ、現在でも満室状態が続いているんだからすごいブランド力ですよね」
聖路加レジデンスに限らず、超高級志向のこうした施設に共通しているのは、空室待ちの客が多いということだろう。
ある有名施設の担当者は、内情をこう話す。
「中堅クラスの施設では、高額な入居一時金をホームページに掲げているものの、実際には値引きに応じるなどして入居者を集めています。一方、高級な施設で値引きはありません。知人の紹介や、付き合いのある銀行の紹介で入居者が集まる。質のいい入居者を紹介してくれた銀行には契約金の数パーセントをバックしている施設もあると聞きます」
こうして富裕層たちは、表には出ない独自のルートを使って、ステータスの高い施設に入居しようと試みているのだ。
高級老人ホームに入居するオーナー
薄給で働く現役社員
こうした超高級老人ホームでは中小企業のオーナーたちが多く入居する。その企業を支える社員たちは、彼らをどう見ているのだろうか。
ある会合で偶然出会った中小企業の社員が、私にこう漏らしたことがある。
「うちの会長も、高級老人ホームに入ってますよ」
飲食店を切り盛りするその社員は、吐き捨てるようにこう続けた。
「会長は、高級老人ホームの暮らしは退屈だとか周囲に触れ回っていますが、正直ムカつきます。低賃金で働らかされている我々のことより、自分のことばかりです。ふざけんじゃねえって感じですよ」
ただ、高級老人ホームで暮らす企業オーナーたちが、こうした社員の心の中までは知る由もないだろう。
そうした成功者たちが人生最期の城として選んだ超高級志向の老人ホーム。
その門をくぐってみると、老後を豊かに謳歌していると語るシニアたちの姿があった。ある人は恋が芽生え、またある人は家族との絆を再認識したという。
彼らにとって自由で贅沢な住環境は、まさに最高のステータスに違いない。
だが、果たして彼らの心は満たされているのだろうか――。
(本記事は、『ルポ 超高級老人ホーム』の内容を抜粋・再編集したものです)
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