子規全集第12巻 俳家全集 編著 貳  正岡子規  2026.9.10.

 2020. 子規全集第12巻 編著 貳 (非売品)

 

著作者     故・正岡子規

発行日     大正14125日 印刷         130日 発行

発行所     ()アルス   発行者 合資会社代表者 北原鐵雄

 

(季毎の並記は代表句)

 

俳家全集 二 (没年順)

【寛政~嘉永】

78.    春秋庵白雄 (加舎白雄(かやしらお。元文3(1738)-寛政3913(1791)。通称は五郎吉、別号は春秋庵・白尾坊など。中興五傑及び天明の六俳客。鴫立庵の庵主。信濃国上田藩の江戸詰め藩士の次男。姨捨山長楽寺芭蕉の句碑を建立。関東に一大勢力を築き門人を育成。芭蕉百回忌句会を催し、蕉風復古者として認知。無技巧だが繊細で情のこもった句が特徴、妻帯せず清貧孤高だった生き様から「日東の李清蓮」と賞された平易な俳論でも知られる)

    (時候)  元日や大樹のもとの人心

    (正月人事、三春人事)  若水やおよそ玉川井のかしら

    (二、三月人事)  出代りの一日にせまる誠かな

    (天文、地理)  春干潟人の歩みのすくならす

    (獣、鶯、燕)  此程やうとくなり行く猫の妻

    (鳥 除鶯燕)  日や暮るゝ尾をうちかひて枝の雉

    (動物 除獣、鳥)  酒星を見に出て蛙聞く夜哉

    (梅、桜)  宿の梅といはるゝ宿よ松もよき

    (木 除梅、桜)  夕汐や柳がくれに魚分つ

    (草 花草ナシ)  越後 井のもとや茎立摘まん寺泊り

    (花草)  野の朧茅花(つばな)月夜といはまほし

    (時候、地理)  下総木颪(きおろし、木下)より舟を浮む 舷(ふなべり)や年は四月の別れ霜

    (四月、五月、六月人事)  綿抜かんゝゝとて四月二日哉

    (三夏 器用、飲食)  裏表表はわきて青簾

    (三夏人事 除器用、飲食)  川狩や鰷(はえ/はや)の腮(あぎと、えら)さす雨の篠

    (天文)  人の知る曾我中村や青嵐

    (時鳥、閑古鳥)  起臥のこゝの夜待ちぬ時鳥

    (鳥 除鵑閑古鳥)  草茂み水雞の道に鎌入れん

    (動物 除鳥)  八九間鹿の子見送る林哉

    ()  卯の花や折つての後の裏表

    (草 水草類野禾ナシ)  荅(あずき)なき芍薬園となりにけり

    (水草類、野禾)  雨の程今日を葉のびの杜若

    (秋時候 夕、夜ナシ)  馬買の小笠に秋の立つ日哉

    (秋夕、秋夜、夜長、夜寒)  気のつけば馬も通らず秋の暮

    (盂蘭盆會)  身に覆う齢(よわい)につるゝ盆心

    (七月人事 除盂蘭盆、八九月人事)  七夕や桂によれは突落し

    (雑人事)  嵐雪のその唐錦角力見ん

    ()  画讃 名月や影四ツ橋の橋柱

    (稲妻、露)  稲妻の衣を透す浅茅(あさじ)

    (天文 除月電露)  秋風や蔦もたのまず濱庇

    ()  あの男行かば立つべし小田の雁

    (鹿、魚、河鹿)  閑にたへて酒酌めば月鹿も鳴く

    (動物 除鳥、鹿、魚、河鹿)  蟲の音や月ははつかに書の小口

    ()  鐘の聲鐘の聲桐の一葉落つ

    (萩、芒、菊)  宮城野や萩の下露川なさん

    (花草 除萩芒菊)  朝顔に瘧の落し内儀哉

    (草 除花草)  秋篠に朝風渡る堤哉

    (時候)  十月の桜つぼめる木節哉

    (人事の内 神佛事、冬籠)  達磨忌に見やる経師か障子哉

    (煖器)  埋火や鼾の中のほの明り

    (人事 除神佛事冬籠煖器)  朝川や鷹野の体を鳥の影

    (雪と天文、生物、地理)  かいきえて又あらはれつ雪の鹿

    (雪 除天文生物地理)  橋の雪舟やり過し顧る

    (雨、霰)  初時雨たかはぬ空となりにけり

    (天文 除雨霰雪)  凩に笠一蓋もほだしなる

    (地理)  猪の篠根ほりくふ枯野哉

    (動物)  羽箒のふいと悲しく千鳥鳴く

    (木)  住めばかく茶の花垣ぞうらやまし

    (草)  旅寓 草枯や風空さまに背戸の山

      芭蕉翁讃 松嶋をよく見て句なき翁哉

 

79.    名古屋 久村曉台 (きょうたい。享保17(1732-寛政41201792)。尾張藩士を辞して脱藩。名古屋前津に竜門と称する庵を結んだ。出生時は岸上、養子後は加藤姓が本名)

    (歳旦、春日)  振袖のやまとに長し日の始

    (時候 除歳旦、春日)  春の夜や何事もなき三輪の杉

    (人事)  太箸(ふとばし、祝箸)や後にひかへし檜山

    (天文 雪、風、雨)  春の風夜は嵐にみだれけり

    (天文 陽炎、霞、月)  夕雨や花のあたりをうちかすみ

    (地理)  鳥の羽を見れば行越春の水

    ()  けふはとて初音鶯ねくらせよ

    (鳥 除鶯)  夜のありか又鳴かはす雉哉

    (動物 除鳥) 白魚の骨身を透す篝(かがり)

    (梅 紅梅ナシ)  灯ともせば裏梅がちに見ゆるなり

    ()  青柳に山路の心はなれたり

    (桜 花ナシ)  かけすむやうくひ流れて散る桜

    (花 桜除)  土佐か絵の顔に扇や花の幕

    (木 除梅柳桜)  紅梅やてる日ふる日の中二日

    (花草)  菫摘は小さき春の心哉

    (草 除花草)  松陰に竝びてうたへ若菜摘

    (時候)  月は月夜は短夜と別れけり

    (更衣、鵜飼、納涼)  幸のうたひ講なり衣かへ

    (人事 更衣鵜飼涼み除)  十符菅(とふのすげ) 笠にかさす菅一もとのやどり哉

    (器用、衣服、飲食)  帷子に松葉さゝるゝ空音哉

    (天文、地理)  佐渡金北山 炎天の北斗ゆひさすいはほ哉

    ()  時鳥嵐にかゝる夜のこゑ

    (獣、鳥、魚 時鳥除)  ほろゝゝと夏の落葉や閑古鳥

    (蟲)  蚤を追ふ心や唐のよしの迄

    (木、竹)  花七分藤紫に若葉刺

    (牡丹、芍薬、水草類)  花暮れて月を抱けり白牡丹

    (紫陽花、芥子花、夕顔花)  紫陽花やよれは蚊の鳴く花のうら

    (草 除紫陽花芥子夕顔牡丹芍薬水草類)  隻林寺西行庵懐旧 麦藁にわれたる笛の聲も哉

    (初秋、秋暮、晩秋)  日くらしのけさしも鳴ぬ秋は来ぬ

    (時候 除初秋秋暮晩秋)  椎の実の板屋をはしる夜寒哉

    (人事)  星逢や世は大かたにまさな事(つまらないこと)

    (名月、後月)  堪すしも薄雲けふるけふの月

    (月 除名月、後月)  杜若又咲く水の月夜哉

    (天文 月除)  秋風やよるもかひなき竹柱

    (動物)  二日見る佛のめしやきりゝゝす

    ()  散柳すこし夕の日の弱り

    ()  何草のうら枯草そ花一つ

    (時令)  初冬や二つ子に箸とらせける

    (定期人事)  屋敷から梅もらふたり夷講

    (冬籠)  冬こもりとかくして世の情に落

    (三冬人事)  暁や榾(ほた)たきそへる山颪(おろし)

    (時雨)  つらゝゝと杉の日表行しくれ

    ()  霜満つる夜たゞ梓の匂ひ哉

    ()  きのふ見し木下も去らす雪の鹿

    (天文 除時雨霜雪)  冬の情月あきらかに霰ふる

    (地理)  出づる日の拍子もなくて枯野哉

    (千鳥、鴛鴦、鴨)  濱千鳥雪の中よりあらはるゝ

    (動物 除千鳥、鴛鴦、鴨)  水鳥の巴になりて狂ひけり

    ()  落葉落そめて夜を鳴く鳥悲し

    ()  何思ふ冬枯川のはなれ牛

     雨中華厳滝 雨日出て雲に末なし瀧千丈

 

80.    五升庵蝶夢 (ちょうむ。享保17(1732)-寛政81225(1796)時宗俳人。名は九蔵。号は洛東・五升庵など。京都の出身。宗屋門下に入る。蕉風俳諧の復興を志した。やがて住職を辞して京都の岡崎に五升庵を結び、芭蕉顕彰事業に注力)

      曲られし枝直しとや梨の花

      麦うちや夕日を招く竿の先

    (時候、植物)  朝寒や関のとひらの開く音

    (除時候植物)  遠里や稲葉の末の高燈籠

      片隅に古佛立けり年の市

 

81.    高桑蘭更 (らんこう。享保11年(1726-寛政10531798)。名は忠保。庵号は李桃亭など。商家鶴瓶屋に生まれ、伊勢派に学ぶ。蕉風復古を唱え、芭蕉顕彰に着手。花の下宗匠の号を二条家から与えられた)

    (時候 正月春日ナシ)  元日や松静かなる東山

    (正月、春日)  正月や都の町に松の聲

    (人事)  今年は東西に行脚の志ありけれは 我恵方ひろし松嶋厳嶋

    (天文 霞、風、月)  のほる日や霞隔し松の中

    (天文 除霞風月)  御降に猶寝よけなる二日かな

    (地理)  鶏のよこれ来にけり春の水

    ()  鶯や筆取る我に啼向ふ

    (雉子、雲雀)  雉笛やきのふもけふも野に遊ふ

    (鳥 除鶯雉子雲雀)  砂はむと浦人いへり春の雁

    (動物 除鳥)  蛤の聲きくや夜の走り下

走り下(はしりした):船の床板の下を流れる水、あるいは建物の縁側や廊下の下を勢いよく流れる水を指します。夜の静寂の中で、水がサラサラと流れる音が際立っている情景

    (梅と天文生物)  夕暮や飼猿下りて梅の月

    (梅 除天文生物)  梅が香や思ふことなき朝朗(あさぼらけ)

    (柳、桃)  柳のみ見えて鳩啼く門の内

    (桜花と天文、生物、地理)  磯山や桜かたゆく釣小舟

    (桜花 除天文生物地理)  七十賀 百迄は稀にもあらじ花に杖

    (木 除梅柳桃桜)  散りそめて幾日になるぞ松の花

    ()  疾く消える雪も命の若菜哉

    (時候 暑涼ナシ)  高からぬ花となり行卯月哉

    (暑、涼)  暑き日やふればふるぞと言なから

    (神佛事、端午、鵜飼)  産湯かけし佛にうつる旭哉

    (衣服、納涼)  畳にも杖つく人や更衣

    (人事 除神佛事端午鵜飼衣服納涼)  蚊屋を出て見に行く河原面哉

    (天文)  風薫るさとや千尋の竹の奥

    (地理)  馬柄杓(うまびしゃく)の錫そゝぎ行清水哉

    (時鳥)  空にある心しつめよ杜宇(ほととぎす)

    (鳥 時鳥除)  山もとや市に聞ゆる閑居鳥

    (蠅、蚊、蝉)  我夢も驚かされぬ蠅叩き

    (動物 除鳥蠅蚊蝉)  初松魚かねはほこりと見えにけり

    (木、竹)  花のために佛もぬるゝ卯月哉

    (牡丹、罌粟(けし))  白(はく)牡丹墨つく札のあまり哉

    (水草類、野禾)  藻の花に吹殻落す船頭哉

    (夏草 除牡丹けし水草野禾)  日に動く葵まばゆき寝覚哉

    (時候)  お文きく末の露より秋立ぬ

    (魂祭)  魂棚や見かへれば我影ばかり

    (人事 除魂祭)  わかれ星ひよくは何を鳴やらん

    (風、雨)  秋風やことに寝あまる舟の音

    (月、霧)  酒折(さかおり) 燈ともしの神も愛らん月今宵

    (天文 除風雨月霧)  胸あはぬ布織る露の軒端哉

    (鹿)  鹿の角それもうらむる聲なるか

    ()  初雁や地に鳴くものゝよわる頃

    (動物 除獣鳥)  秋の蝉昼より末の聲弱る

    ()  うちそよぎ柳散りかゝる舞の袖

    (萩、蕣、女郎花)  萩原や濡れて沈める月の様

    (草 除萩蕣女郎花)  月ちらゝゝ臥家吹こす尾花哉

    (時候)  冬されや足にこたゆる貝の殻

    (十月、十一月、十二月人事)  ある人の時雨會にまねかれて しくれ来て翁に竝ぶ舍(やど)り哉

    (人倫)  松風や膝に波よる網代守

    (三冬人事の内 暖器)  月にさへ糊のはなるゝ紙衣哉

    (三冬人事 除人倫暖器)  偽や雲井をおりて薬喰

    (時雨)  行く雲のはし乱れつゝ初時雨

    ()  霜氷る草の葉いたき夜道哉

    (雪と天文、生物)  雪のけしき白雪の中に居るが如し

    (雪 除天文生物)  白浪を左右に雪の洲崎哉

    (天文 除時雨霜雪)  凩や白雲すぐる月すごし

    (地理)  氷り行く厓をはなれて鳰(にお)の聲

    (水禽)  水鳥や水鳥の腹くゞりゆく

    (動物 除水禽)  壁くろや鼠引きあふ鷦鷯(みそさざい)

    ()  名も知れぬ木は猶あはれ帰花

帰り花(かえりばな)とは、晩秋から初冬(11月頃)の小春日和の温かい日に、桜やツツジなどの草木が季節を間違えて再び花を咲かせる現象、またはその花のこと

    ()  かれゝゝや竹の中なる草の蔓(つる)

    日表も日うらも照ら宮居哉

 

82.    京 三宅蕭山 (享保3(1718)-享和元年414(1801)。本名は三宅芳隆、号は葎亭・碧玉江山人など。妻は松尾芭蕉門下の俳人・望月木節の孫。京都質商、学者、俳壇の重鎮。俳諧に関する評論など、和漢雅俗のあらゆる分野に通じた文人。「質直寡言」「矜厳自持」と評される謹直な人柄で、人々からの信望も厚い。元禄期俳諧への回帰を唱えて名声が高まる)

      五十になりし春 見返れば跡かくれけり初霞

      糺森(ただすのもり、下鴨神社境内の叢林) 松陰やこゝにおくとも冷し瓜

    (時候、人事)  秋の暮反橋越て戻りけり

    (天文、地理、動物)  もみあふて朝日に霧のこぼれけり

    (植木)  散りそむる柳やかくて冬迄も

    (時候、植物)  寒き夜や肉そがれたる豚の聲

    (人事)  口切や羽柴明智の膝頭

口切り(くちきり)とは、容器などの封を切ることや、物事の始まりを意味する言葉です。また、日本のお茶や茶道の世界では、初夏に摘んで壺に詰めておいた新茶の封を11月の立冬の頃に初めて切り、使い始める重要な行事を指す

    (天文、地理、動物)  屋根へ打つ天狗礫や小夜時雨

 

83.    大阪(かが) 不二庵二柳 三四坊 (じりゅう。1723-享和3年(1803)。加賀出身。本姓は勝見、名は充茂、別号には二柳庵、三四坊など。芭蕉の風雅(蕉風)の復興・発展に尽力し、江戸時代中期における大坂中興俳壇の中心的な存在として大きな足跡を残した)

春    春の月汐さすかたは曇りけり

      難波津の昔を忍ふ夏書哉

      渋柿にけふも暮れ行く烏哉

      さひしさは吹ぬ日にある木葉哉

 

84.    浪花 安井大江丸 (享保7(1722)-文化2318(1805)は安井(やすい)。隠居名が宗二。通称は大和屋善右衛門、江戸店での屋号は嶋屋佐右衛門。晩年に号した大伴大江丸で知られる。大坂出身。飛脚問屋・嶋屋の主人。作風は京都の蕪村派の影響)

    (天文地理除)  元朝の少しひまある美人哉

    (天文、地理)  夕霞とれか女のふまぬ山

    (植物除)  向ひ同士ものいふ夏のはしめ哉

    (植物)  白緑(しろたえ)のうら吹かへる若葉哉

現代語訳(意味): 風が吹き抜けて、若葉の裏側がひっくり返り、一面が白っぽく(白緑色に)見える

    (植物除)  秋の日のくれて馬呼ふとほし哉

    (植物)  青梨や薄刃わたせば秋の水

    (天文除)  吹立る鴻の上毛の寒哉

    (天文)  風ふけば木にも萱にも時雨哉

 

85.    かが 斗入 ((むら)斗入。金沢出身の行脚(漂泊)俳人です。別名・俳号:夢幻斗入。別所温泉の俳人・倉沢乙堂宅(現在の老舗旅館「柏屋別荘」)にて客死)

    (天文)  春雨にちひさき人と遊ひけり

    (植物)  ほしろ程早きものなし梅の花

    (天文植物除)  はらゝゝと霰こほれて松の春

      日のくれは淋しきものよ衣かへ

    (天文、時候)  稲妻に懐寒き馬上哉

    (生物)  山畑や淋しくなりて雁一つ

      日は水に入て聲寒し筏人

 

86.    井上士朗 (寛保2(1742)文化9(1812)516日。医師。加藤暁台門下で名古屋の俳壇を主導。尾張国守山村の生れ。専庵と号し医師として独立。尾張藩御用懸)

    (時候 余寒春夜暮春ナシ)  何事もなくて春立つあした哉

    (人事)  筑前山鹿の里秋枝氏需に応して若夷といふ事を 釣の絲も香に匂ひけり梅の花

    (霞、月)  舟人のひとり立たり朝かすみ

    (天文 霞月除)  雪けしの雨かふるなり鈴鹿山

    ()  鶯に霞のかゝる夕哉

    (鳥 除鶯雉子雲雀呼子鳥)  錫杖にふり出す軒の燕哉

    (動物 除鳥)  山鳥に一夜はならへ猫の恋

    (梅と天文、生物)  たくひなき花も咲くらん月と梅

    (桜花と天地生物)  世をすてにありく桜の山路哉

    (桜花と器物、衣冠、神人、建築、飲食、肢体)  山寺や花より上はまた寒し

    (桜花 除天文生物地理器用衣冠神人建築飲食肢体)  満ちゝゝてよりもつかれぬ桜哉

    ()  若菜摘は鳩なくところゝゝゝかな

    (時候 除短夜夏夜涼)  伊勢の神宮に詣ける世竹里棠に贈る 眞丸に神馬の肥る四月哉

    (人事 五月)  幟()見や雲行松の川添に

    (人事 除五月)  けふこそは父のもの著ん更衣

    ()  卯の花に祓串はさまる垣根哉

    (芥子、撫子、蓮)  白芥子に窮屈もなき住居哉

    (草 除芥子撫子蓮竹苔花夕顔)  とやゝゝと牡丹つり込塀の内

    (時候の内 初秋、秋夕)  秋立つと人はいはねど小野の奥

    (時候 除初秋秋夕)  秋もはや目には団扇の鼠くひ

    (人事、器用)  燈籠の油流るゝ榎かな

    (名月)  良夜清光 明月に露の流れる瓦かな

    (盆月、十六夜、後月)  水草にむかへて来たり盆の月

    (月と天文、生物、地理 除名月盆月十六夜後月)  走り出て月に雨はく小庭哉

    (月 除名月盆月十六夜後月天文生物地理)  月の夜は門迄出ても面白し

    (天河、露、霧)  むらきゆる雲の中より天の川

    (天文 除月天川露霧)  稲妻や終に涼しき庭の松

    (地理)  枯れて久しき松こそ見ゆれ秋の山

    (鹿) 鹿鳴くや外山の葛家二つ三つ

    ()  鳰の音初雁とまでに成りにけり

    (動物 除鹿鳥)  蜻蛉の芒はなれぬ嵐哉

    ()  月宵々芙蓉日にゝゝ花の露

    (蕣、萩)  蕣(あさがお)の動くよ人の訪ふたびに

    ()  陽炎の秋にもあへり花薄

    ()  白露の知らでありしか黄菊哉

    (草 除蕣萩薄菊)  女郎花都はなれぬ名なりけり

    (時候)  雲はあれど時雨もたねば只寒し

    (定期人事、鉢叩、冬籠)  桜屋は月の頃なり夷講

    (無定期人事 除鉢叩冬籠)  峰の雲宇治の炭舟下りけり

    (時雨と天文、生物)  大かたの夜はしくれ来る月夜哉

    (時雨 除天文生物)  初時雨野守か宵の言葉哉

    (雪と天文、動物)  雪や来ん三日月冴る山の上

    (雪 除天文動物)  雪見舞茶焙じ張て戻りけり

    (凩、霜)  凩の吹きやむ鳴子やしき哉

    (天文 除時雨雪凩霜)  あくまでも閑に出たり冬の月

    (地理)  今日の日も入りぬ枯野の水たまり

    ()  三河 生海鼠干す袖の寒さよ鳴く千鳥

    (動物 除鳥)  浮き出てゝうきともなかぬ生海鼠哉

    (落葉)  藪の中にも一木ある落葉哉

    (木 除落葉)  茶の花に何の香がある聞て来よ

    ()  芒にてありけるものを枯尾花

      倉澤 今日も見えゝゝけり不二の山

 

87.    升六 (黄華庵升六(こうかあんしょうろく。?-文化10(181393日没。 大坂の人。芭蕉3代となり、正風道場と称する。通称は升屋六兵衛。別号に無衰庵など)

    (時候、動物)  十月や梅の木立のかゝり藁

    (人事、地理)  旅といへば神の上にも時雨する

    (天文、植物)  初時雨今年も雁は時雨鳥

 

88.    建部巣兆 (たけべそうちょう。宝暦11(1761)-文化111117(1814)。実姓は山本、後に藤沢、通称は平右衛門。倭絵師を自称、父の知る与謝蕪村俳画を指向して江戸蕪村と渾名された。三大俳画家。化政期を代表する俳人の1人で、松尾芭蕉も欽慕。江戸本石町生まれ。桑名屋または山本屋として醤油屋を営んでいた。加舎白雄八弟子の1人。王子権現の神主に就任)

      山里のつゝみこまれし桜かな

      葛咲や裏の山から這て出て

      明月や汐濱よりの文使ひ

      小笹吹風も何やら神無月

 

89.    栗田樗堂 (ちょどう。1749文化11年820(1814)。松山城下出身。商人。本名は政範。家業の酒造業で財を成したほか、長年にわたり松山藩の要職を務めた。加藤暁台に学び、近世伊予第一の俳人といわれた)

    (時候)  けさの春とこそに誰そ草枕

    (人事、天文、地理)  やすらひの花にも人よ西東

    ()  鶯の心になつて聞きにけり

    (動物 除鳥)  猫の恋逢ふ夜がちにてあはれなり

    (木 桜ナシ)  一日も捨てる日はなし梅の花

    (桜花)  花の戸や月のいるまでさしわすれ

    ()  遊ぶには足らず寒さの梅若菜

    (時候、天文)  重ねて嵯峨に遊ぶ日 夏の来て夏はや深き嵐山

    (人事、地理)  引きよせて松葉さしけり蚊帳の穴

    (時鳥)  老いぬれば初音も遅し時鳥

(動物 除時鳥)  行基菩薩は一生杖にも柱にもこの木を用ひたまひしとて翁ある山中にて世の人の見付ぬ花と聞えしも 西の木の栗に寝るかよ閑古鳥

    (植物)  庚申庵の小池をめくる 杜若花にかくれん老の顔

    (時候、人事)  来る秋も寝もせず荻と遊ひけり

    (天文 月ナシ)  秋風の下に寝て居る漁村かな

    ()  春夏に来ぬ人来たり初月夜

    (地理、動物)  烏帽子著た船頭はなし 都鳥こゝらの水の秋もしれ

    (植物 四草(しそう)ナシ)  此春のさし木の柳散りにけり

    (四草)  朝顔のけふもめてたし花の上

    (時候)  十月や桜は花の木なりけり

    (人事)  榾つむや梅を相手の古畠

    (動物)  時雨凩間なく時なく孤客腸尤寒し 加茂川や菜の葉流れて啼く鵆(ちどり)

 

90.    江戸 夏目成美 (せいび。寛延2(1749)-文化131119(1817)。別号に四山道人、随斎など。寛政三大家、江戸四大家と称される。本業は蔵前札差浅草瓦町の生まれ。特定の流派には属さず「俳諧独行の旅人」と自称)

    (時候)  おろかにも惜しみし年を君か春

    (人事、地理)  やぶ入やあしき茶の香もなつかしみ

    (霞、月)  茶の羽織著ても見よかし一霞(ひとつがすみ、一筋の霞)

    (天文 除霞月)  陽炎や牛の顔出す破れ垣

    ()  鶯の薄黒くなる夕哉

    (鳥 除鶯)  魚提げて松山行けは雉の聲

    (動物 除鳥)  白魚の少しまがりてのどかなり

    ()  野の杭の人とも見えて梅の花

    (桜花と天文、生物、地理、器衣)  西日さす桜の影の膝の上

    (桜花 除天文生物地理器衣)  あわたゞしけふ花咲くと人はいふ

    (木 除梅桜)  青柳に隠れよとての小家哉

    ()  菜の花や横に一筋夕日さす

    (時候、地理)  涼しさや百合も芒も手にさはる

    (人事)  耳のなる事も忘れて更衣

    (天文)  腹たゝく音のひろがる夏の月

    ()  ちらゝゝと見しかとぞ思ふ時鳥

    (動物 除鳥)  隠すものないぞいくら蛍来よ

    ()  小山から辷り落ちたき若葉哉

    ()  白牡丹崩れんとして二日見る

    (時候)  初秋や何の煙も目にかゝる

    (人事、器用)  七夕に願ひの一つ涼しかれ

    ()  明月も葎(むぐら、雑草)の宿に帰りけり

    (天文 月除)  我帰る家は見ゆるそ露の中

    (動物)  牛の尾にうたるゝ秋の蛍哉

    ()  世をこめて鼠はちきに一葉落つ

    (朝顔、女郎花、芒)  蕣のはや此秋を咲きへらす

    (草 蕣芒女郎花除)  飯櫃や下葉折れこむ風の荻

    (時候)  傘張が門の菊咲く小春哉

    (十月十一月十二月人事)  十夜 酒売の十聲一聲たのみあり

    (三冬人事)  炭つむも物気に入らぬ浮世哉

    (雨、月)  人行けばやがてしくるゝ野中哉

    (雪、霰)  雪に猶けしきもてとや鐘が鳴る

    (天文 除雨月雪霰)  椎の葉に多くはもらん凩の

    (地理、動物)  悼 蓑笠の枯野を人のまこと哉

    (植物)  散る木の葉幾重の下の我ならん

    鼠子も今や眼をあく嫁の輿

 

91.    倉田葛三 (かっさん。宝暦12年(1762-文政元年6121818。通称は久右衛門。別号に騎鯨、黙斎など。信濃国埴科郡松代城下の生まれ。信州や関東地方を精力的に行き来し、東北地方九州へも遊んだ。鼠屋と号する豪商とも、松代藩士とも。加舎白雄創立の春秋庵、相模大磯宿の名門鴫立庵、松代の虎杖庵主を兼任)

    (動物、天文)  鶯に橘多き小里かな

    (木の内 梅、桜)  梅の香や宵に夜半の新しみ

    (植物 除梅、桜)  青柳や画にかゝれたる天窓数(あたまかず)

    (天文、生物除)  長閑さや潮に洗ふ小俎(こまないた)

    (生物)  蚊くひ鳥蚊を不足にも思ふべし

蚊くひ鳥(かくいどり):コウモリの古い俗称。夕方に飛び回り、蚊などの虫を食べる

    (生物除)  栴檀のほのめく雨の卯月哉

    (時候)  初秋や北野を出でし朝心

    (七月人事)  七夕や昔ひいきの諷(うた)ひもの

    (八月九月三秋人事)  八朔や冠著山の夜明ぶり

八朔:旧暦の81日。この時期は台風の襲来や早稲の収穫期にあたり、古くから豊作を祈る大切な節目(節句)。秋の季語。

冠着山(かむりきやま):長野県千曲市と筑北村の境にある標高1,252mの山です。古くから月の名所として知られる「姨捨(おばすて)」の地であり、文学的にも非常に由緒ある歌枕です。

    (地理)  秋の野や鳥打たんとて行く袂

    (天文 月)  名月や本意とげ顔に竝ぶ人

    (天文 月除)  星の秋琵琶の池田に寝て起し

    (動物 蟲ナシ)  闇の鹿力を入れて鳴くならめ

    ()  まぎれ行く夕の空や石魚(かじか)鳴く

    (木、菊)  鎌倉の松魚も啼くか柳散る

    (七草、野禾)  蕣の夕や雨の洗ひ箸

    (草 除菊七草禾)  狂ひ女の芭蕉の陰に入りにけり

    (時候 十二月時候ナシ)  十月や幕を見かけて笠懸野

    (十二月時候)  碓氷にて雪を踏まざる師走哉

    (十月十一月人事)  神送りあとどことなく風はげし

    (十二月人事)  臘八や爪先あぶる薄草履

臘八とは128日のこと。お釈迦様(釈尊)が長い苦行の末に、128日の明け方に明星を見て、35歳で悟りを開いた(成道=じょうどう)日

  (三冬人事 暖器衣服飲食ナシ)  人のまね是はそむかじ冬構

    (暖器、衣服、飲食)  人の来て人の帰りぬ桐火桶

    (天文)  たの()うだる宿の候(そうろう)初しくれ

    (地理、植物)  小男鹿(さおじか)の迯げおほせたる冬田哉

    (動物)  夜明けてはどちらへも飛ぶ千鳥哉

      またといふ命を咲へ筑紫不二

辞世  六月や十日暮らせし一手柄 身の上の夏や蓮の一枚葉

 

92.    住江戸(奥州人)鈴木氏、村上氏 金令舍道彦 (鈴木道彦。宝暦7(1757)-文政296(1819)。名は由之。別号に金令、金令舎、十時庵等。仙台生まれ。医師の家系に生まれ、道彦も医師となった加舎白雄と縁を持つ。白雄の死後白雄門の中心となった。寛政三大家。道彦の作風は洞察力や感性、趣向表現に優れており、また連句の名人、俳文も優れていた

    (時候、地理)  正月は皆が足袋はく月夜哉

    (人事)  鰒(ふぐ)に来し顔を洗ふて御慶(ぎょけい)

    (天文)  枯荻も東風をもてなす春へ哉

    (動物)  鶴亀の鶯聞て居りにけり

    (木 除桜花)  とりわけて荒れたる宿の柳哉

    (桜花)  あかるみへ出過ぎて淋し初桜

    ()  夕かけや折るほとになる蕗の台

    (時候、天文、地理)  五月雨も湊になりぬうつほ草

    (人事)  築たての庭や祭りの小昼前

    (動物)  時鳥啼て江上数峰青シ

江上数峰青シ:ただ青い山の峰々が川面に写っているだけだ、という夏の静寂な風景を描写した句。 中国唐時代の詩人銭起の「湘靈鼓瑟」と題する詩の一節「曲終わりて人見えず江上数峰青し」

    ()  庭にして卯の花見はや田一枚

    (水草類、野禾、蓼、罌粟(けし))  朝朗(あさぼらけ)露ゆりすゑて蓮匂ふ

    (草 除水草類野禾蓼けし)  芍薬や籠に鶸(ひわ)なく(啼く)日かけ家

    (時候)  秋の日や柿喰過て腹のへる

    (人事、地理)  妻星にたのまれてしや灯取蟲

妻星(つまぼし)とは、七夕伝説における織女星(こと座の1等星ヴェガ)の別名

灯取虫(ひとりむし・ひとりむし)とは、夏の夜に灯火や炎などの明かりに吸い寄せられて飛んでくる虫、特に蛾(が)の総称

    (天文)  磯近くなれはあかるし天の川

    (生物)  紅葉ふむ鹿は昼さへ鳴にけり

    (時候、地理)  冬の日や何か振舞ある小家

    (人事 除器用衣服飲食)  芝生まて聞えて寒し年の市

    (器用、衣服、飲食)  蒲団著て寝るや小楯(こだて)に持仏堂(じぶつどう、仏壇)

    (天文)  番雁(つがい)の畔(あぜ)もちかねる時雨哉

    (動物)  千鳥には嶋の木の葉のなりつらめ

    (植物)  死れたる和尚は損よ冬椿

 

93.    素檗 (藤森素麦のち素檗。宝暦8(1758)〜文政4(1821)。上諏訪町油商の家生まれ。本名は由永、通称太郎右衛門、素檗は俳名。俳諧を尾張の加藤暁台などに学び、俳画も蕪村を模したが、のち独自色を発揮した。地元では「諏訪の俳関」と敬われ、当時小林一茶をしのぐ人気を誇った。寛政から文政期にかけての俳人番付では常に最上位(第一段)にランクインし、全国的な人気を集めた

      初空に向ふたまゝの山家哉

      下手とても同じ顔なる鵜飼哉

      (あさがお)や蠅もかゝらぬ草の宿

      四方から日のさす雪のあした哉

 

94.    白石 松窻乙二 (亘理乙二、本姓岩間清雄、号は松窓(しょうそうおつに)。宝暦5(1755)文政679(1823)陸奥白石の修験の子。当時東北の俳壇四天王/奥羽の四雄の一人。全国レベルで名を馳せた。漂泊の旅人生活を送りながら俳句を詠む。蝦夷地の箱館へ転じ、斧の柄社を結成して俳壇の指導にあたった。作風は、故郷や芭蕉蕪村を尊敬したことで、重厚でかつ温和であったとされる)

    (時候)  睦月閏のある年 元朝の不二二つ見ん羨まし

    (人事)  逢隈川の流れ入るゆり上の濱はこのものを多くゆり上る處にて 穂俵や芒の芽には波も来ず

逢隈川(おおくまがわ/あふくまがわ)とは、阿武隈川の古称・別称

    (天文・地理)  乙の子の生まれ日暮れて春の月

「乙(おつ・きのと)」の意味:文化12年の干支が「乙亥(きのとい)」であったことから、その年の生まれであることを表しています。また、「乙(おつ)な子」=「かわいらしい子、風情のある子」という親バカ的なニュアンスのダブルミーニング(掛け詞)とも解釈されます

    (鶯、燕、雉)  鶯の初影うつる紙帳かな

    (動物 除鶯燕雉)  野の空をうけてありくや春の鹿

    ()  梅の花やがて日暮れぬ山の上

    (桜花)  さりとては齢(よわい)かたむく桜哉

    (木 除梅桜)  七草の七朝過ぎし柳哉

    ()  七草の露を見たしや雪の上

    (時候、地理)  鶯のうしろ見らるゝ暑さ哉

    (四五六月 人事)  袷著て参り居るなり文使

    (三夏 人事)  鮒鮓に藻をかり初の宿り哉

    (天文)  舟の子のひだるき顔よ風かをる

    (獣、鳥)  鹿の子ゝゝゝ山風吹くぞ寝に返れ

    (動物 除獣鳥)  蚊一つに青空遠き夕哉

    (木、紫陽花、水草類)  若葉風吹くや提げ行く馬の沓(くつ)

    (草 除水草類紫陽)  ものゝ露落つるも嬉し牡丹越し

    (時候、地理)  立秋のまことしからぬ六日迄

六日迄:立秋(87日頃)からの6日間(秋の最初の節気である「処暑」までの期間)を指す

    (七月人事)  七夕やさもなき門の絲薄

    (人事 除七月人事)  間にかゝり居る中に心覚えのみよしも見えずなりて 菊の日に逢はで行けんつくし舟

    (名月、後月、秋月)  清光に乗して吟歩するにおよへの濱も見えわたりて 名月の夜にも炭焼く煙哉

    (月 除名月後月秋月)  さわかしき句心直る月夜哉

    ()  小鼓の伝授すんだり露の闇

    (天文 除月露)  秋雨のくれにとりつく雫哉

    (動物)  鹿の聲風より月の出づるなり

    (木、菊)  ひなびたる聲と荒れたる宿と並居たる人の涙と一つ所にあつまりたる哀をさしのそきて 木槿咲けゝゝゝゝとや梓呼ぶ

    (六草、野禾)  うらむとは小萩が申葛のこと

    (草 除六草菊野禾)  錦木をおつとり巻きぬ草の花

    (時候 寒歳暮ナシ)  龍膽(りんどう)はどこの山根の初冬ぞ

    (時候の内 寒歳暮)  竹の葉の世にうつくしき寒哉

    (暖器、芭蕉忌)  埋火といふ名を持てり星一つ

    (人事 除暖器芭蕉忌)  亡人の来る夜近かれ冬籠

    (時雨)  山人は木祭すらし初時雨

    (雪、霜)  初雪や雄嶋の蜑(あま)は子もあらで

雄嶋(おじま):宮城県の松島にある霊場・修験の島です。古くから歌枕として知られ、世俗を離れた人が隠棲する寂しい場所というイメージ

    (天文 除時雨雪霜)  箱館 凩のこりよとばかり旅寝吹く

    (地理)  鬼の面かぶりて通る枯野哉

    (水禽)  水鳥やこんな奥には菊と我

    (動物 除水禽)  歯のぬけし今朝とも知らず鷦鷯(みそさざい)

    (植物)  米澤高畑にて 飴つゝむ庭の木の葉も冬けしき

    舟中 氷雨ふりし雲をさまらす最上川

 

95.    小林一茶 (文政十年)

    (時令、地理)  元日や上々吉の浅黄空

    (器用、人事、飲食)  大聲や二十日過ての御萬歳

    (天文)  陽炎や手に下駄はいて善光寺

                         軽井澤 笠てするさらはゝゝゝやうす霞

    (動物)  鍬(くわ)の柄に鶯なくや小梅むら

                         雀の子そこのけゝゝゝゝ御馬か通る

    (植物)  花の木に雞寝るや浅草寺

    (人事、器用、時令)  下谷一番の顔して衣かへ

    (植物、天文、地理)  渋柿のしふゝゝ花になりにけり

    (動物)  大江戸やおめすおくせす杜宇(ほととぎす)

                         やれうつな蠅が手をする足をする

 

96.    成田蒼虬 (そうきゅう。宝暦11(1761)-天保13313(1842)。名は利定。通称は彦助・久左衛門など。別号に槐庵、南無庵、芭蕉堂二世。加賀金沢藩士の子。高桑闌更の門下に入、彼の死後は東山芭蕉堂を継ぐ。のち京都の八坂に対塔庵を結び、天保俳壇のリーダーとして活躍。天保の三大家)

    (時候、人事、地理)  花の春影なきものはなかりけり

    (天文、動物)  いつくれて水田の上の春の月

    ()  青柳や橋も昔の町はつれ

    ()  若草の志賀も過しぬ舟の春

    (植物ナシ)  炎天も限りと見ゆる野山哉

    (植物)  卯の花と共にぬるゝや垣の幣(ぬさ)

    (時候、天文)  吸殻の道にけふるやけさの秋

    (人事、生物)  これ程の砧は聞かす石部山

    (時候、動物)  十月や帰る處ある松葉掻

    (人事)  大根曳志賀は人気も揃ひけり

    (天文)  御降といはん二見の初時雨

    (地理、植物)  桐の実の落る頃なり厚氷

 

97.    越前角鹿 六庵嵐外 (辻嵐外。明和7(1770)-弘化2(1845)。越前の生まれ。名は利三郎。通称は政輔。別号は六庵、北亭など。敦賀にて呉服商を営むが後に甲府に移り住む。俳句を高桑闌更、加藤暁台、五味可都里にまなぶ。甲府では俗世を離れ風流を愛し、自らも多くの門人を育てた)

    (生物ナシ)  元日は何國も春の名所かな

    (動物)  鶯や杉の実落てうしろむく

    (植物)  知らす六十に成ぬしらす明日又いつれにかならん 俎や薺(なずな)をのせて珍しき

    (生物ナシ)  更衣傾城尼になりにけり

    (動物)  鶯も老る田面の椚(くぬぎ)かな

    (植物)  魚売のことつかりけり杜若

    (天文生物除)  今年また誰に数そふ麻木箸

麻木箸(あさぎばし / あさがらばし)とは、麻の茎の皮を剥いだあとの芯(麻幹・おがら)で作った臨時の箸のことです。お盆の際、ご先祖様や亡くなった方の霊(精霊)に供える一膳飯(御霊飯)に添えたり、刺したりして使われます

    (天文)  てゝれ干す竿のはつれや天の川

    (生物)  ちる柳稲の匂ひの登る日よ

    (生物、地理、時候)  四方から落葉の中や善光寺

    (人事、人倫、器用)  山里や人あるかきり麦をまく

    (天文)  材木にふさかる木屋のしくれ哉

 

98.    櫻井梅室 (ばいしつ。明和6(1769)-嘉永5101(1852)加賀国金沢升形の生まれ。天保の三大家。前職は加賀藩研師。京都大坂江戸金沢を渡り歩きながら活動。二条家から花下宗匠7世襲名の打診があり、免状を得た)

    (時候の内 新年)  元日や玉に角ある人心

    (時候 除新年)  春寒し荒神松の深緑

荒神松(こうじんまつ):台所の神様である「荒神(こうじん)様」にお供えする、一対の松の枝のことです。関西を中心とした西日本の風習でよく見られます

    (人事の内 新年人事の内人倫、飲食)  萬歳や昔の絲の奈良鼓

    (人事の内 新年人事の内新年行事、門飾類)  下郎程慇懃目立つ御慶哉

    (新年人事 除人倫飲食行事門飾類)  若水の湯気に曇るや手行燈

    (人事 除新年)  山々の眠りさますや御忌の鐘

御忌(ぎょいき):浄土宗の宗祖である法然上人の忌日法要のこと。本来は旧暦125日前後だが、現在は京都の知恩院などで4月(新暦)に大規模に行われる。俳句では春の季語

    (天文 月雨陽炎ナシ)  三日始めて晴れて青天紅日をのぞむ 西山の雪紫に初日かな

    (天文の内 雨、月、陽炎)  御降やこゝそと開く朱傘

「御降(おさがり)」とは、元日の初めに降る雨や雪を指す新年の季語です。神様からの恵み(お下がり)として喜ばれ、その年が豊作になる吉兆とされていました

    (地理)  春の山窓から見ても時うつる

    (鳥 鶯燕雉鶬(まなづる)ナシ)  初雞やねくらに帰る狐啼く

    (鶯と天文、生物、地理、器物)  鶯もおとろく昼の時計哉

    (鶯 天文生物地理器物なし)  口まねも鶯聞きし匂ひ哉

    (雉、雲雀)  虹の輪の真只中や雉の聲

    (燕、蛙)  奥山や雪ある門へ来る燕

    (動物 除鳥蛙)  うかれ出て顔洗ひ初むる牡猫哉

    (梅と天文、生物)  捨舟に乗れば見ゆるや梅に月

    (梅と地理、器物)  今日見れば掃除してある野梅哉

    (梅 除天文生物理器物)  実を取ると聞けば酸し梅林

    (柳と天文・・・・人品)  上坐して柳の雨をかふりけり

    (柳 除人品等)  四ツ橋に一木ありたき柳哉

    (椿)  子福者のゆすり落すや赤椿

    (桜花と天文、生物)  藪こし(越し)の月夜にあへり初桜

    (桜花と地理、器物)  桜折る音一谷にひゞきけり

    (桜花と衣冠、人品、宮室、飲食、橋梁)  陸尺(ろくしゃく、六尺)の大袖振て花見哉

    (桜花 除飲食等)  木陰にははや栞あり初桜

    (木 除梅柳椿桜花)  蓑蟲を押しのけて出る木芽哉

    (若菜、七草)  もらふても済むべきものを摘む薺(なずな)

    (蕗台、菜花、菫(すみれ))  見て置て探しにやりぬ蕗の台

    (草 除七草若菜蕗台菜花菫)  色かはりなくてめてたし福寿草

    (短夜、涼し)  短夜や浮巣に似たる木津の宿

浮巣(うきす)とは、カイツブリ(鳰・にほ)という水鳥が、沼や湖の水面に水草やアシを集めて作る、水に浮いたような状態の巣

    (時候 除短夜涼し)  鶯のかほよくみせる四月かな

    (人事 四月)  魚売の見込て来るや青簾

    (五月人事 田植、帷子)  手にこゝろ有とも見えぬ田植哉

    (五月人事 除田植帷子)  菖蒲の日水の心をえたりけり

    (六月人事の内 涼み、土用牛)  足先てかたはみなふる涼み哉

    (六月人事 除涼み土用牛)  烏帽子著た心てくゝる茅輪(ちのわ)

    (人事 扇子、団扇、鮓)  うつしても扇しめるや糺川

糺川(ただすがわ)は、京都の下鴨神社(賀茂御祖神社)の境内にある「糺の森(ただすのもり)」を流れる小川(御手洗川・泉川など)のこと。古くから和歌や俳句で「清涼」や「神聖さ」を象徴する歌枕(名所)として知られる。夏でもひんやりとした木陰と、清らかな湧き水が流れる絶好の避暑地

    (三夏人事 除扇子団扇鮓)  唐崎と矢ばせをかやの釣手かな

    (五月雨と天文、生物)  五月雨やくる野の町は雲のなか

    (五月雨 除天文生物)  入梅はれや先見る山の大文字

    (夏月、夕立)  付て来て我田のうへに夏の月

    (天文 除五月雨夏月夕立)  文字かく香の煙や風かをる

    (地理)  池越て清水に入りぬ鳥一羽

    (鵑と天文、生物)  麦くはぬ鳥なれはこそ時鳥

    (鵑 除天文生物)  棧(かけはし)を空足ふむや時鳥

    (閑古鳥、蝙蝠、青鷺)  見しらねと聲はたしかにかんこ鳥

    (鳥 除閑古鳥蝙蝠青鷺時鳥)  見たやうてまたみぬ鳥や行々子

行々子(ギョウギョウシ)とは、鳥のオオヨシキリの別名です。初夏になると川辺の葦原などで「ギョギョシ、ギョギョシ」と非常に騒がしく鳴き立てます。

    (蛍と天文、生物、地理)  磯くさき松からもとるほたる哉

    (蛍 除天文生物地理)  竹の戸に妾ちらつくほたるかな

    (蚊、蝉、灯取蟲)  昼の蚊や机の下のかくし酒

    (動物)  庖刀(ほうちょう)の血をみせ申す初かつを

    (若葉、卯花)  雪折れを健気にかくす若葉かな

    (木 除若葉卯花 木実ナシ)  紅葉より赤くてそれも若楓

    (木実、竹)  麗しき玉の緒なれや桜の実

    (牡丹、菖蒲)  等閑(なおざり)に牡丹提げけり僧の供

    (水草類 除菖蒲)  逢坂や針する水にかきつはた

    (芥子花) 白けしや散るまて待す消る色

    (草 除竹牡丹罌粟(けし)水草類)  麻刈ればつれなく折る蓬(よもぎ)かな

    (時候、植物)  姫川にて 秋暑き中立切て水寒し

    (除時候植物)  接待にやとはれたまふ佛哉

    (時候、生物)  捨舟に雨たまりけり神無月

    (人事、地理)  我子等が笛も身にしむ神楽哉

    (天文)  昼うたふ雞や凩踏こたへ

      伊勢 ぇふの命はしめてうれし神路山

辞世 ひとしづくけふのいのちぞ菊の露  石の戸にいつまで草の紅葉かな

 

 

俳家全集 乙号(没年不詳分)

1.       岐阜 一髪 (芭蕉門下の各務支考が興した美濃派(獅子門)の俳人。美濃派の句集『あら野』などに名を残す)

      梅折てあたり見まはす野中哉

      蚊屋臭き寝覚うつゝや時鳥 (代表作)

      松蟲は通るあとより鳴きにけり

      一葉つゝ柿の葉皆になりにけり

 

2.       蘆本 (浦田蘆本(うらだろほん)。寛文4(1664)〜享保21(1736)。伊勢国山田に居住。岩田涼菟の門下。通称は藤兵衛。別号に葎門亭、東向斎。自筆の句集・発句巻『蘆本自筆四季発句巻』)

      穂薄をたはねよするや秋の畑

 

3.       路通 (八十村路通(やそむらろつう)。慶安2(1649) 元文38(1738)。美濃国出身(または近江国)。もとは神職の家柄。若い頃から乞食行脚しており、草津で乞食をしながら句を詠んでいたところを松尾芭蕉に見出され、弟子となる。奇行が多いが、芭蕉はその天分や人柄を深く愛し、破門された時期もありましたが晩年には勘気が解かれた。本姓は斎部、または八十村。名は伊紀、通称は与次衛。近江蕉門に属した。江戸に戻って俳諧勧進を思い立ち、『勧進帳』初巻を刊行。内容は選集として一流。『百人一句』に江戸にて一家を成せる者として季吟・其角・嵐雪等と共に路通の名があり、俳壇的地位は相応に認められていた)

      摘みすてゝ踏みつけ難き若菜哉

              肌のよき石に眠らん花の山

              元朝や何となけれど遅桜

              鶯に口きかせけり梅の花

                つつくりと 物言わぬ日も 桜花

      播磨の書寫にて 遠慮なう雲を鄰の涼みかな

「播磨 書寫」は、かつての播磨国にある名刹、書寫山圓教寺、またはそれが位置する書写山を指す言葉です。創建は、 966年に性空(しょうくう)上人によって開かれた天台宗の別格本山。別名「西の比叡山」、比叡山や立木山などと並ぶ重要な修行・信仰の霊場として栄えた。花山法皇や西行法師、武蔵坊弁慶ゆかりの地としても知られ、中世には文化や芸能の発信拠点だった

                この陰や 雀も屈む さくら麻

      今年竹淋しき秋のはしめ哉

              残菊はまことの菊の心かな

              蘆の穂や招く哀れより散る哀れ

              はせを葉は何になれとや秋の風

                日にたつや 海青々と 北の秋

                名月や 衣の袖を ひらつかす

                射らぬなよ 那須の野の鶉 十ばかり

                白壁の 日はうはつらに 秋よさて

      火桶抱て頤臍(おとがいへそ)をかくしけり

              初雪やまづ草履にて鄰まで

               鳥共も寝入てゐるか余吾の海(長浜市)

 

4.       尾張 桑流下巴静

      猿楽に入らであはれや猿廻し

猿楽(さるがく)とは、能と狂言の古い呼び名。奈良時代に中国から伝わった「散楽(さんがく)」をルーツとする日本の伝統芸能

      桐の花遊ばせうなら尾長鳥

 

5.       カガ 生駒万子(まんし。承応3(1654) - 享保4(1719)加賀藩士。通称は伝吉、藤九郎、万兵衛。別号に此君庵など。はじめ談林派に学ぶ。芭蕉の三友と言われた。経済面で俳友を助けた。各務支考の庇護者)

      武家家督相続 鑓梅や接穂の末も芳ばしき

 

6.       牧童 (立花牧童。享保初年(1716)頃没か。加賀藩の御用を務めた刀の研師(研屋彦三郎)。芭蕉の門人。立花北枝(#32参照)の兄。はじめ談林俳諧に親しんだが、芭蕉の加賀来遊の時にその門に入った。北枝とともに加賀蕉門の中心をなした)

      春立やさすか聞よき海の音

      蓋すれば出て行蠅の羽音哉

      河骨にかゝる匂ひや早稲の花

河骨(こうほね)とは、スイレン科コウホネ属の水生植物(水草)のこと。夏(6月〜9月頃)に、水面から茎を伸ばして黄色の可愛らしい花を咲かせる。水底にある白い根茎(地下茎)が、葉が落ちた跡の節によってゴツゴツと骨のように見えるため、「河の骨(かわほね)」と呼ばれ、それが変化して「こうほね」になった

      しくれけりやかて其まゝ春てなし

 

7.       凡兆 (野沢凡兆。? - 正徳4(1714)。姓は野沢、越野ともいうが定かでない。別号に加生、阿圭。加賀国金沢の人。に出て医を業とした。俳号は初め加生と称し、在京の芭蕉に師事。芭蕉より抜擢され、向井去来と『猿蓑』の共撰を命じられ、芭蕉をも超え作者中最多となる発句41句が入集。自我意識の強い人物で、師の芭蕉にすら批判的な態度を示し、やがて芭蕉から離れた。零落した晩年を過す

近代に入り、際立って客観的、印象鮮明な句風であったとして注目された。正岡子規は、凡兆の《門前の小家もあそぶ冬至かな》の句評に際し、「一句のしまりてたるみ無き処名人の作たるに相違無く」などと「名人」の語を用いて評した

      鶯や下駄の歯につく小田の土

              竹の子の力を何にたとふべき

              灰すてゝ白梅うるむ垣根哉

              花ちるや伽藍の枢落し行く

      わたりかけて藻の花覗く流れかな

              市中はものゝ匂ひや夏の月

      世の中は鶺鴒の尾のひまもなし

セキレイは絶えず尾を揺らす習性があり、昔から「恋知らず鳥」「尾を振る鳥」などと言われてきた。世の中の慌ただしさや、人の世の絶え間ない動きを巧みに表現した句

              灰汁桶(あくおけ)の雫やみけりきりゝゝす

              初汐や鳴門の波の飛脚舟

              上行と下くる雲や秋の天

              (もず)なくや入日さしこむ女(め、赤松)松原

      捨舟の内そと氷る入江哉

              呼びかへす鮒売みえぬ霰哉

              長々と川一すぢや雪の原

              しぐるゝや黒木つむ家の窓明り

              禅寺の松の落葉や神無月

              猪の首の強さよ年の暮 (罪ある人に連座した獄中の作)

 

8.       松露庵柳居(鷗心亭長水) (佐久間柳居。貞享3(1686)〜延享5(1748)。名は長利、通称は三郎左衛門。別号に松籟庵・長水など、のちに松露庵を号す。父は幕府御家人。初め貴志沾洲に学び江戸座の俳風に親しむが、それに飽き足らず、中川乙由に師事して蕉風の復古を志した。江戸における松露庵の初代庵主として多くの弟子を育てる。水間沾州門の重鎮として、大場咫尺、長谷川馬光、松本蓮之、中川宗瑞と共に『五色墨』を編纂。「五色墨運動」の中心的人物)

     

    (植物ナシ)  雛鶴の口あく方や薄霞

    ()  古寺や間毎に見せる梅一木

    ()  温泉山の烟みじかし初わらび

     

    (天文地理植物ナシ)  袖を引く男の町を袷かな

    (天文、地理、植物)  白毫は梢の上や青嵐

白毫(びゃくごう)とは、仏様(如来など)の眉間のやや上にあるとされる、右巻きに丸まった白い長い毛のこと。伸ばすと15(4.5メートル)もある

     

    (生物ナシ)  鶯一羽立て見せけりけさの秋

    (生物)  蜻蛉や花なき杭に住みならひ

     

    (人事植物ナシ)  綿出してから尻馬の寒さ哉

    (人事、植物)  爐開きや屋敷久しき松の聲

 

9.       江戸 池田利牛 (りぎゅう。江戸の越後屋両替店の手代(番頭とも)元禄7(1694)志太野坡(しだやば)等と共に芭蕉監修で江戸蕉門の撰集炭俵」を編集、刊行。通称は利兵衛、十右衛門。蕉門の中では若い層に属し、芭蕉が晩年に提唱した新風「軽み(かるみ)」に積極的に従う)

      麻の種毎年ふまる桃の花

      時鳥啼々風が雨になる

      柿のなるもとを子供のより所

 

10.    荷兮 (山本荷兮(かけい)慶安元年(1648)-享保元年(1716)。名は周知、通称は武右衛門、太一(太市)。号は加慶、一柳軒など。晩年は連歌師として昌達と号して、法叔に叙せられる。名古屋城清水に生まれる。尾張藩士。医業が生業。『野ざらし紀行』の旅の松尾芭蕉を迎え、芭蕉門に入る。当初は芭蕉と親しかったが、蕉風を批判。古典に憧れた素朴な古風を喜び、茶人的な趣味な世界に遊ぶ句風が特徴)

     

    (植物ナシ)  春めくや人さまゝゝの伊勢参

    (植物)  しんゝゝと梅ちりかゝる庭火哉

      紫陽草は笹りんたうを鄰哉

     

    (天文ナシ)  閑居増恋 秋ひとり琴柱はつれて寝ぬ夜哉

    (天文、地理)  稲妻に大佛拝む野中哉

      玉しきの衣かへよと帰り花

         木枯に二日の月の吹きちるか (代表作、「凩の荷兮」と賞された)

 

11.    かしく (江戸時代中期の大坂北新地で、その美貌から非常に有名だった遊女「かしく」(身請け後の名は八重)。日頃から大酒飲みで、酒乱の果てに兄を殺害してしまい、寛延2(1749)に死刑(獄門)に。この事件は当時、江戸や大坂の歌舞伎・浄瑠璃で「かしく物」として次々と劇化され、大きな評判を呼んだ)

      ふらこゝの戯れはやせ猿廻し

      鷭の巣や行くもとまるも水のまゝ

(ばん)とは、ツル目クイナ科に分類される水鳥の一種

      偸盗戎 ひろはじな主なき風も椎のから

「偸盗戎」は、一般的に仏教の戒律である「不偸盗戒(ふちゅうとうかい)(または「不偸盗戎」)を指す。文字通り、「他人のものを盗んではいけない(盗みを働いてはいけない)」という戒め

仏教の戒律(十重戒)をテーマに詠んだ連句(あるいは発句)の一部とされており、この句は「妄語戒(もうごかい:嘘をついてはならないという戒め)」に割り当てられる。

解釈: 「椎の殻(実が落ちて空っぽになった殻)」は、中身のない虚しいものの例えデス。持ち主のいない(=実体のない、あるいは責任の所在がない)風が吹いてきて、椎の殻をただ虚しく転がしていく。その様子を、真実の中身がない「嘘の言葉(妄語)」や、実体のない世の儚さに重ね合わせて詠んだものと解釈さる。

 

12.    蓮之 (松本蓮之(まつもとれんし)。俳諧集『五色墨』の編者の1(#8参照)。江戸時代中期(享保期)に活動。蕉風復古運動を目指した。別号松木珪琳(けいりん)勝負にこだわらずに自由に俳諧を楽しむ素人仲間の一人として知られている)

      萬歳や黒きめてたき台所

      武蔵にも淀橋あるそほとゝきす

      (あさがお)やをしまれなから散もせす

      しくるゝや傾城町も神無月

 

13.    白兎園宗瑞 (フォームの始まり

フォームの終わり

中川宗瑞(そうずい)貞享2(1685)-延享元年(1744)幕府の為替両替用達商。其角に学び、杉山杉風の門人。平明な句をこころざし『五色墨』を刊行(812参照)俳壇に影響を与えた。江戸出身。通称は三郎兵衛。別号に風葉、白兎(はくと)園。「白兎園宗瑞」の名は代々継承され、多くの門人を育てた。芭蕉や杉風ゆかりの古跡の保存や俳諧の普及に尽力」

      年玉の菜もなつかしみ親の里

      米つきにこぼれかゝるや花卯木

      秋来ぬと見て通りけり魚の店

      閼迦桶の草に縫ふたり初氷

閼伽桶(あかおけ)とは、仏様に供える清らかな水(閼伽水:あかみず)を汲んで持ち運ぶために使われる、小型の手桶(仏具)のこと

 

14.    乙州 (河合乙州(かわいおとくに)明暦3(1657)頃~享保5(1720)頃。近江蕉門近江国の人。俳人河合智月(智月尼)の弟で姉の養子となった。義仲寺の無名庵や幻住庵に滞在中の芭蕉の暮らしを姉智月尼と共に世話をした。乙州は芭蕉晩期に提唱する『軽み』をよく理解していた門人の一人とされ、家業による旅が蕉風の良き伝播者ともなった。蕉門における乙州の立場は今で言う事務局長的役割を勤め、芭蕉からは厚い信頼を得て、芭蕉逝去に際しては看取り、葬儀万端の準備

      こきませる柳の枝や絲さくら

         寝くるしき窓の細目や闇の梅

         見る所思ふところや初さくら

      暁の目をさまさせよ蓮の花

         すゝ風や我よりさきにゆりの花

         螢飛疊の上も苔の露

         森の蝉凉しき聲や暑き聲

      蟲よ蟲鳴て因果か盡るなら

         はせを葉や打かへし行月の影/はせを葉の打かへされし月夜哉

         有明に三度飛脚の行くやらん

      馬かりて竹田の里や行しくれ

 

         亀の甲煮らるゝ時は鳴もせず

 

15.    加賀 句空 (鶴屋句空(くくう。加賀蕉門の人。元禄2(1689)に『奥の細道』の旅の途中で金沢を訪れた 松尾芭蕉に面会し、門人となりました。柳陰軒(りゅういんけん)と称す)

      壁土に道せはめけり花盛

(夏の誤り)    麓の里を見下して 衣かへせしや綿干す谷の家

      聖霊(しょうりょう)やけふこよろきの磯の波

こよろぎの磯:大磯の海岸の古称、古くから歌枕(和歌の名所)として知られる風光明媚な場所

      はくあとも木の葉はもとの庵哉

 

16.    浪花(題叢)京 竹巣月居 (江森月居(げっきょ)。化政期を代表する高名な俳人。別号(俳号)として竹巣(ちくす)、些庵(さあん)など。京都生まれ。宝暦6(1756)〜文政7(1824)与謝蕪村の門人。宗匠として畿内を中心にその勢力を広めた。二条家俳諧において右方宗匠に就き、「俳諧之達者中興之器」の称を許された。「日本の宗匠は月居」と江戸で評判となり、鈴木道彦、尾張の士朗と共に大宗匠として名を馳せた。付合の技量に優れ、擬古文調の俳文にも優れた

題叢(だいそう)とは、江戸時代後期に椿丘太筇(つばきおかたいこう/青野太筇)が編纂した代表的な俳諧の類題集・句集である『俳諧発句題叢』の略称、あるいは同種の句を集めた書物のこと

      畑ぬしは香に心なし梅の花

      妻や思ふ子や思ふもろこし船の更衣

      山里はきのふ侘けん初時雨

 

17.    大阪 諷竹(之道) (槐本諷竹(えのもとふうちく)。万治2(1659)?-正徳2(1712)。俳号:初期は東湖(とうこ)、のちに之道(しどう)、晩年に諷竹。本名は伏見屋久右衛門。大坂の道修町で薬種商を営む。大坂における最初の芭蕉門人、大坂蕉門の重鎮として中心的な役割を果たす。芭蕉の最期を看取る)

      鶯も小首ひねるや梅の花

      思ひよる涼み處や皆ひとつ

(秋の誤り)       (ひぐらし)や山田を落つる水の音

      逢坂て行き違ひけり初しくれ

 

18.    彦根 汶村 (汶村(ぶんそん)? - 正徳2(1712)。江戸時代前期から中期にかけての俳人であり、近江国彦根藩藩士。芭蕉の高弟であり「蕉門十哲」。彦根藩士の森川許六(きょりく)に俳諧や絵画を学ぶ。師の許六と共に彦根の俳諧界をリード。姓は松井()。字(あざな)は師薑。別号に九華亭,野蓼斎)

      苗代を先づあてにして帰る雁

      暖簾(のうれん)の顔にまつはる暑さ哉

中国語が元。禅寺で簾(涼簾)に布を掛けたものを「暖簾(ノウレン)」と呼んでいたものが転訛して「のれん」になった

      かんせきに四足そろゆる小鹿哉

      柊の花に明け行く霜夜哉

 

19.    江戸 小泉狐屋 (小泉孤屋(こおく)。松尾芭蕉に学んだ門人。通称小兵衛。江戸の人で、越後屋の手代を務めたのち、京都に住む。松尾芭蕉の監修のもと、『炭俵』の編集に参加。芭蕉風の軽みや蕉風の普及に貢献した俳人)

      雛立てぬ家も女は住まれけり

      見る内の罪もとまらぬ競馬哉

      (こおろぎ)や箸で追ひやる膳の上

      初雪の青みかちなり麦の畝

 

20.    秋之坊 (生年不詳- 享保3(1718)松尾芭蕉の門人。加賀国出身。もとは加賀藩士。『奥の細道』の旅路で金沢を訪れた松尾芭蕉と出会い、門人となる。武士を辞めて剃髪。別号を寂玄とし、金沢の蓮昌寺境内などに隠棲して俳諧に生きる。極めて貧しかった)

      太箸や太鼓の役の持はしめ

         夕くれや浮世の空の鳳巾(いかのぼり、凧)

         鳥の巣に三月盡の嵐哉

      松の葉をすゝりまぜけり心太(ところてん)

      遠山や蜻蛉つい行きつい帰る

      月夜にも闇にもなさで吹雪哉

         凍つけは凍つきながら笹の風

         灯火の口のわれたるさむさ哉

辞世   正月四日よろづ此の世を去るによし

 

21.    山店(虚栗集) (蕉門の俳人。江戸に居住していたため「江東住」「江都住」などと記録されてる。『猿蓑』や、『芭蕉庵小文庫』に多くの句が残されている)

·       「」(『古句を観る』等で紹介される観察眼の光る一句

 

      たんほゝや春とはぬ宿の忘れ菊

         木瓜あざみ旅して見たく野は成ぬ

      夕やけやきらゝゝと飛ぶ鵑

         時鳥水戸街道も夜船なり

      乳母か来てまた泣き出しぬ魂祭

         張声や籠のうづらの力足 (『古句を観る』等で紹介される観察眼の光る一句)

 

22.    山川

      女奴江戸鬼灯や色このみ

 

23.    加賀金澤 暮柳舎希因 (暮柳舎希因(ぼりゅうしゃきいん)。元禄13(1700)〜寛延3(1750)。本名和田希因または大越。加賀国金沢で活躍した俳人。酒造業(綿屋)。蕉門の立花北枝、各務支考、桜井乙由らに師事。北陸地方における伊勢派俳人の第一人者・重鎮。門下からは優れた俳人を輩出。居を「暮柳舎」と号す)

     

    (植物ナシ)  春立つや氷柱の鉾の雫より

    (植物)  たふとさよ扇子にたまる桜まで

      抱籠や一年ふりの中直り

抱籠(だきかご)とは、夏の夜に抱きかかえて涼をとるための、竹や籐(とう)を円筒形に編んだ道具です。別名で「竹夫人(ちくふじん)」や「添寝籠」とも呼ばれる

      秋風や草は喰はれて馬の髪

      桐の実の吹かれゝゝゝて初時雨

 

24.    江戸 亀翁(其角門) (多賀谷亀翁(きおう)。通称は万右衛門。其角門下。其角の門人であった俳人・多賀谷岩翁の息子。江戸俳壇(江戸座)の周辺で活動。江戸の粋や軽妙さを重んじた其角の気風を受け継ぎつつ、若くして確かな描写力を持った俳人)

      物見より桜なけこめ遊山幕

         春風にぬきも定めぬ羽織哉

      不断著は無紋もよしや衣更

     

    (時候、人事)  遊行寺 秋の暮鳥に宿かす林かな

    (天文、動物)  月の船けふはいさ出合へ雁の聲

    (植物)  御向松 柿売りやおむかひ松の下やとり

      とり分て殿の威を見る鷹野哉

         茶の湯とてつめたき日にも稽古哉

 

25.    江戸 史邦

 

中村史邦(ふみくに)。通称荒右衛門。尾張犬山の出身。若い頃には中村春庵と名乗って、犬山藩の侍医。京都蕉門の一人。去来や丈草らと入魂。仙洞御所仕え、のちに京都所司代の与力。元禄期を代表する蕉門の俳人。芭蕉からの信頼も厚く、多くの書簡や交流の記録が残されてい。別号には五雨亭などがある。

     

    (植物ナシ)  草先や追鳥狩のむさうわな

    (植物)  野畠や鶴追たてて摘む若菜

     

    (地理生物ナシ)  牢人して東武へ下る日粟田にて すゝかけを著ぬはかりなる熱哉

    (地理、生物)  石竹に雀すゝしや砂むくり

     

    (生物ナシ)  加茂詣 月影や拍手もるゝ膝の上

    (生物)  帷子は日々にすさまし鵑(けん)の聲

    (時候、天文、地理)  打出濱眺望 嶽々(がくがく)や鳰とりまはす雪けふり

    (人倫)  芭蕉忌と申そめけり像の前

 

26.    美濃大垣(尾城) 如行 (近藤如行(じょこう)。?~宝永5(1708)。美濃国大垣藩士。芭蕉の初期からの門人であり、大垣における最初の門人の一人で蕉門の重鎮。通称は源太夫。芭蕉の訃報に際しては、如行が中心となって正覚寺で追悼の供養や俳筵を行うなど、大垣俳壇の中心的役割を担う)

      羽二重の心になるや花の春

      鵜の影や鮎は河原へ飛び上り

      名月や西にかゝれば蚊帳の月

      世の中は胸から上の師走かな

 

27.    常矩 (田中常矩(つねのり)。寛永20(1643)-天和2(1682)。 はじめ北村季吟門、のち西山宗因傾倒。京都談林派の有力作者となり、おおくの門人を抱えた。「蛇之助(じゃのすけ)五百韻」の巻頭句から、蛇之助常矩とも称された。名は忠俊。通称甚兵衛。別号に敝帚子。法名は真斎。編著に『俳諧雑巾)

      花ありて犬のそたゝぬ里もなし

      蚊柱を煙のけづる夕かな

      はなれかたし星に七夕牛に蠅

      馬子やとき飛脚や遅き橋の霜

 

28.    豊後日田 四方郎朱拙 (坂本朱拙。よもろうしゅせつ。承応2(1653)?~享保18(1733)頃没。豊後国の医師。通称は半山。別号に守拙、四方郎、四野人。中村西国に談林風の俳諧を学び、のちに江戸へ出て其角らとも交流を持つ。九州における蕉風の伝播や発展に大きな役割を果たす。広瀬惟然の影響で蕉風に転じた。九州蕉門の先駆者)

      きろゝゝと鴉見て居る帰る雁

      絹笠の頤(おとがい)見やる祭かな

 

29.    咫尺 (大場咫尺。しせき。享保期に活動。江戸座の俳人。当時の商業化・形式化した江戸座の点取り俳諧に不満を持ち『五色墨(8参照)を刊行。当時の判者(採点者)に阿る風潮を批判し、本来の俳諧のあり方を守ろうと試みた)

      萬歳やはるゝゝ来ぬる日本橋

      山蔵のつたなき陰に牡丹哉

      吉原の灯をさげすむか高燈籠

冬    達磨忌や箔をつかはぬ(飾り気のない)朝朗(あさぼらけ)

 

30.    氷花 (『俳人名家録』などで、「江戸判者(点者)の祖」の系譜に「江戸の俳諧の宗匠・審査を行う人物の流派」の連なりとして登場。すぐ後ろに「蝉吟(伊賀上野藤堂家ゆかりの俳号)や、その息・親族とされる「探丸」などの名前が並ぶことから、蕉門あるいはそれ以前の貞門・談林派など、江戸俳諧の草創期〜隆盛期に活動した俳人の1人と推定」

      柳の芽毛の生えたるも美しき

      鉄砲の稽古の跡や閑古鳥

      秋のくれ女房のほくろ見付たり

      今更に釣られて鳴くか鰒(ふぐ)の聲

 

31.    江戸 百明 (杉坂百明。ひゃくめい。?-天明4(1784)。上総国出身白井鳥酔に学ぶ。鴫立庵主通称は志蔵(忠蔵)別号に土竜庵)

     

    (時候、天文)  元日も雑煮の腹のへりにけり

    (除時候天文 植物ナシ)  初午や江戸は一木も森の数

    (植物)  菜の花や庵一つある寺のあと

     

    (時候、人事、地理)  闇くらく葉柳黒き五月哉

    (天文、動物) 民こそつて拝む僧あり夏の雨

    (植物) 卯の花や池上ももう五六町

      長き夜や若きは若き夢見るか

    (時候、地理、植物)  飴売よ小春の蠅の飴につく

    (人事)  麦蒔や死なぬつもりの親父達

    (天文、動物)  凩や蓑に帯ゆく馬の綱

 

32.    ミノ大垣 谷木因(白桜下) (たにぼくいん。正保3(1646)〜享保10(1725)美濃国の人。別号木端・白桜下など。家は代々大垣船問屋。季吟に学び貞門、のち談林を経て、蕉門に帰し、大垣蕉門の中心となって活躍。芭蕉の高弟)

      片枝を築地の分くる桜哉

      綿ぬきや柳の花のちりあるく

      妻におくれし人のもとへ ない影はうつらで寒き鏡哉

 

33.    近江 木導 (直江木導。もくどう。寛文6(1666)-享保8(1723)近江蕉門。名は光任、阿山人とも号す。近江国彦根藩士。最晩年の弟子の一人)

 

      鶯やまん丸に出る聲のあや

春風や麦の中行く水の音 (独吟歌仙に記載された木道の発句に因み命名。師芭蕉から「景曲の後代の手本たるべし」と激賞され、褒美に「かけろふいさむ華の糸口」と云脇され、当時一躍名声を博した)

指折の これや家中の はつさくら

         雛賣の ほめて通るや 初櫻

      時鳥門は胡桃の茂りかな

      口解や今年作りし瓢とも

         白水の 流も寒き 落葉哉

         さびしさや 尻から見たる 鹿のなり

      鮫あらふさゝらの音の寒哉

 

34.    江戸 仙化 (蕉門の一人。 江戸の人。生没年は不詳。貞享3(1686)に俳諧集『蛙合』を編纂・刊行)

      花の雨鯛に鹽する夕かな

      一枝はすげなき竹の若葉かな

 

         一葉散音かしましきばかり也 (芭蕉の選集『曠野』に所収)

 

35.    江戸 釈専吟(似春門、寛永4年後に没) (蝉吟は、寛永19(1642)の生まれなので別人?)

      花の春障子明たる座敷哉

      時鳥地震に似たり縁の人

      粟切や鶉となつてこつそこそ

      隠れ家や片耳かけて角頭巾

 

 

【俳書年表】

           観応2(紀元2011/1351)    都のつと 僧宗久観応中作 1

           文和2(1353)    小嶋の口すさみ 1巻 後普光園摂政関白良基公作

仙伝抄 1巻 作者不詳 奥書云三條殿御秘本云々本年富阿弥相伝云々

尊氏     延文元年(1356)    莵玖波(つくば、日本の古称)集 二條太閤良基公選

           貞治6(1367)    太平記文保2(1318)より本年迄の事記をす

           応安5(1372)    連歌新式追加 後普光園摂政関白良基公本年作

                                     筑波問答 後普光院摂政関白良基公本年奥書有之

           至徳2(1385)    石山百首

良基     嘉慶2(1388)   

           応永元年(1394)    後小松院御独吟和漢聯句 1212

           応永24(1417)  梵灯庵主返書梵灯69

           応永25(1418)  なくさめ草花 洛清巌山科正徹本年作

雅縁     正長元年(紀元2088/1428)

           永享4(1432)    富士紀行 藤原雅世 富士御覧日記 釈宗長

                                     富士紀行 釈堯孝

後小松院 永享5

           文安2(1444)    文安千句 815

親富(智蘊か) 文安5

           宝徳3(1451)    三代集作者百韵 於一條殿御會

                                     いろは百韵 815

秀吉     慶長3(紀元2258/1598)

           慶長13            鎌倉千句 兼如独吟

           天和3(1683)    虚栗(みなしぐり)集 其角撰

           貞享元年               冬の日 芭蕉撰七部集の内

飯袋子  貞享3(1686)    蛙合せ 春の日七部集の内 春の暁 芭蕉編

           貞享4              笈の小文 本年より翌年へかけて作芭蕉著

           元禄2(1689)    奥の細道 本年記

           元禄3              其袋 嵐雪撰

           元禄4              猿蓑 芭蕉撰

           元禄7              別座敷 杉山杉風撰

           享保16(1731)  五色墨(記載なし)

           明和8(1771)    去来発句集 蝶夢撰本年序

           安永2(1773)    明烏(蕪村七部集内) 本年序

道彦     文政2(1819)    おらか春 一茶本年作

           明治24            俳諧一萬集

 

【たね本】

l    人名

          曾呂利  武帝

          馬琴    素堂    浮舟    文覚

          良雄    徐福           桃青    玄賓    惟茂    惟光

          路通    小督

          東坡    利休    為朝    蝉丸    夕顔    堯舜    文王    孔明

祇女    五郎    高尾    四行    玉菊    木曾殿  運慶    屈原    晴明

          平家    源氏

 

l    女流

       ()  瞽女                  内侍    賢女         貞女           あこめ

          ()  叔母                  内儀    女郎         鴇母(ヤリテ)    私窠子          

          ()  乳母    袈裟    (ワラワ) 母御    娼妓(オヤマ)  女の子       比丘尼          

          ()  下女    祇女           女房    遊女         狂女           叔母御          

(四音)

           傾城         媵女(カイゾヘ)   小原女

(カンナギ)  石女         (織工ハタオリ)    二の尼             楊貴妃

(五音)     

思者        待女郎      (イトシ)

圍者        一夜妻      舞乙女

(六音)

昔女        女書生      江口の君      

女役者      女乞食      地獄大夫

(七音)

(義太夫語) 紫式部     

(八音)

橋本の遊女             

 

l    人倫(除女流)

              婿       叔父    あこ           親父    役者    舍人    酒屋          大夫    歩兵               桶匠

              (アマ)  祖父    わこ           従弟    戸長    和尚    六部          船頭    騎兵               主人

 

l    時令

              去年    朝開    或夜    (アシタ)   正月  行秋    上元    終夜          朝未開  二百十日

              今日    歳暮    一夜    (ユフヘ)   元日  行春    中元    小夜月     八ツ下リ    十一月

 

l    肢体

                                   乳房           痩腕  

                            (アゴ) 近眼    (タテカミ)         粟粒    鼻の先

 

l    獣類

           牝鹿(メカ) (マシラ)  女牛         小狸    膃肭(アサラシ)  猫の子   膃肭(オットセイ)           しながどり

              驢馬               女馬         小狐    狛犬          犬の子   (ハナレ)  手追猪

 

l    鳥類

              (ヒヨトリ)      雉子    駝鳥       葭鳥    雁金   色鳥                 時鳥      閑古鳥          麦鶉

(カチョウ)      (ヒワ)         千鳥    媒鳥       荒鷲    山鳥    山鳩                 稲雀     行々子          春の鷹

 

l    魚類

       (ハヤ)  雑魚(サコ)          小魚          鹽鮭           桜鯛

鯉            烏賊        鰻     闘魚(メタカ)    煎鱆(ウテタコ)  楓鮒

 

l    爬蟲類

                     蓑亀      (ヒキカエル)      青大将

                           銭亀     

 

l    蟲類

(カイコ)       (ウンカ)  毛蟲       芋蟲     蓑蟲     秋の蝶   屁ひり蟲             鼓蟲(マヒマヒムシ)

                       蜻蜓(トンホ)    蜻蜓      松蟲      衣蝉         茶立蟲                    蠅取蜘

 

l    植物

         枇杷           柳        植木  二葉    熟柿  紫苑      嫁菜     尾花  覆盆子

         合歓                    並木  浮葉    蜜柑  茅針      三ツ葉     根芹  雞脚菜(トサカ)

 

l    飲食

      蕎麦            (カレイ)  饂飩  柚味噌        濃汁  鍋焼  牛乳      心太 納豆汁          初鰹 韮雑煮

      味噌                     刺身  柚餅子(ユヘシ) 香ノ物 甘干  豚汁      鮎鱠 一夜酒          鰻飯

      河豚  (サイ)     (ナマス)  新酒                   鮟鱇  渋柿  白粥      草ノ餅       一夜鮓  牛ノ乳

 

l    服装

                       足袋           脚絆      博多      烏帽子

              (ヒタ)    羅紗           襦袢      小倉

 

l    器物

(一音)

                                                 (オ、カラムシ)                      

(二音)

(楽器)        (武器)      (文書)        (宝芥)        (佛神)        (舟車)                (什器)      (雑具)

        (フミ)         注連 珠数   (トモ)                   引板      

 

l    天文

            野分  夜風  大空  三日月    朝霜  初虹  有明  初嵐  雪曇   雪模様    稲ノ妻       星月夜

               吹雪  夕日  青天  五月雨    初霜  日当  彦星  玉霰  夜ノ雪  雨模様    稲光 夜這星

 

l    地理

                                                 土地           奈良          土佐   

                                                 土手           宇治          伊勢

 

l    宮室

(一音)

                                  

(二音)

       家            屋根                         部屋   

 

l    人事

          (シチ)  (ラク)    反吐                       (テカラ)  茶ノ湯        昼寝  麁怱(ソコツ)          底意

                          慈悲    (タクミ)                     涅槃        無病  非職                 夜打

 

l    色彩

                       黄色         薄紅    桃色         鶯茶    薄茶色          薄紫

              (ハナタ)  茶色         薄赤    (エヒ」色   縹色    猩々緋(ショウショオウヒ)         浅葱萌黄

 

l    無形名詞

                        遠音    様子    正味              是彼      中々 裏表 預リ物

   程     西               最期    音締    調子    (タミ)     真中      片隅     大景色        家ノ間

 

l    数字

五位    四大          五行      七曜    千丈    十二支    家二ツ     十三里          十八町        八百八町

二度    六片(ムヒラ)    三ツ子     七段    幾度    十二羽    小一年    四畳半          六十歳        千本通

 

l    形容詞

(三音)

       (ニカ)                       (ヒヤシ)     いとし                        

(四音)

はるけし     重たし      気高    いとほし     恐ろし      むつかし

 

l    副詞

(二音)

(三音)

遥か    夙に    疎ら 哀れ    あらは    はつか    殊に    つぶら      新た

 

l    自動詞

(一音) 

(二音)

行 言 呼 宣(ノル) 合(アフ) 干(ヒル) 減(ヘル) 似 去(イヌ) 立 除(ノク) 有 漏 反(ソル) 寝

 

l    助詞

かう      いま      どれ      さて      やれ      かつ      なぜ      たゞ

もとが    やつと    いつも    さても    ながら    すこし    さては    かくて

 

l    他動詞

(二音)

(イル)  (イル)                                                   こぐ         

(三音)

(イレル)          (マセル)     (シメル)    (イトム)    (ハヤス)                     (カモス)    (ツマム)    

 

【飲食考】

無機物性食物

動物性食物

植物性食物 木の実草の実などの食事に縁少なきは省く

飲料

 

l 

万葉集巻十六

乞食者詠二首

 

l  いしぶし(石臥)

源氏物語常夏巻=(六条院釣殿にて) したしき殿上人あまたさふらひて、にし川より奉れるあゆ、ちかき川のいしぶしやうのもの、おまへにててうじてまゐらす

() 亭子院の御集に云、(以下「鮒」と同じ)

いしぶし(石伏・石斑魚)とは、川の底の石の間にじっと伏せている、カジカやヨシノボリ、ウキゴリ、ドンコといったハゼ科などの小さな淡水魚の古称・方言です。秋の季語

 

l  ちくわ

近世事物考=かまぼこも魚の肉をすり棒へ付けたる形、蒲の花に似たる故、ほこと見なしてかまぼことは名付しなり。後に板に付たるが出来てより、まぎらはしきにより元のかまぼこは竹輪と名付たり。竹輪こそ実のかまぼこなれ。今の板に付たるを蒲ぼこといふは名のうつりたるなり

余が郷里(松山)にては竹に付たるをちくわといひ、板に付たるをくづしといひ、藁にて巻きたるを簀巻(すまき)といふ。蒲鉾といふ者なし。因て思ふに初めちくわは西国の称呼にして、蒲鉾は東国の称呼なりしものが、東国にも蒲鉾二種出来しより、一をちくわと呼びて西国語を用ゐ、之を区別せしには非るか(自注)

 

l 

万葉集巻十六

乞食者詠

 

l  堅魚

吉原雑話=或時紀文重兵衛にいふは、ことしは初松魚是非に此里にて喰ひたきものなり、其方がはたらきにて誠に江戸に一本も見へぬうち料理してくふべしと申付ける。かくて重兵衛肴問屋残らず頼み置き、前金をうち、初日入来りたる船をは悉く買もとめて、頓て迎ひの人を遣し紀文入来りける。鰹たゝ一本を料理して出しける。大勢の牽頭末社あとをはやくゝゝゝと聲を掛れとも、唯一本出したるのみなり。かくてはもとかしきとて紀文直にはしごより下り、もはや魚はなきかと云時、重兵衛庭の大半切二つ三つ蓋をとり、是程御座候得共初鰹はめつらしきが賞玩なり、あとは家内の者近所の人々にふるまひ申すべしとて一向に出さず。其時当座の褒美として金五十両くれ云々

 

l  からもの

源氏物語若菜巻上=つばいもちひなしかうしやうのものともさまゝゝにはこのふた共にとりませつゝあるを、わかき人々そぼれとりくふ。さるへきからものはかりして御かはらけまゐる

() からものは肴なるべし

()   ほしたる魚の肴の事歟()

 

l  蒲鉾

近世事物考=(「ちくわ」と同じ)

 

l 

万葉集巻十六

詠酢醤菻(ひる)鯛水葱歌

醤酢(ひしほす)爾菻都伎合而(がてて)(たひ)願吾(もがも)爾勿所見水葱(なみせそなぎ)乃煮物(あつもの)

 

l 

万葉集巻十六

嗤咲痩人歌二首

石麻呂爾吾物申(まをす)夏痩爾吉跡(よしと)云物(いふもの)()武奈伎(むなぎ)取食(とりめせ)

 

l  鰻の内 蒲焼

近世事物考=当世うなぎをさきて焼たるをかばやきといふ。其製昔とは変れり。昔は鰻を長きまゝ丸()でくしに竪にさして鹽を付焼たるなり。その形河辺なとに生(はえ)たる蒲の花のかたちによく似たる故に、かはやきとは云しなり。今世の製はいと近き頃より初る。今の形にては名義に叶はねとも名は昔のまゝに呼ふなり

 

l 

万葉集巻十六 詠香塔厠屎鮒奴歌

宇津保物語(國ゆつり中)=一籠にいしぶしこぶないれさせ、あらまきなどそへさせて、おとゞおまへに人々めしててうせさせ給ふてけうしてまゐる

万葉集巻四上 高安王裏鮒贈娘子歌一首

万葉集略解=藻ふしつか鮒は藻に臥る一つかほどの鮒といふにて源氏物語に石臥(いしぶし)といふ類也

 

 

l 

源氏物語常夏巻=(六条院釣殿にて) (「いしぶし」と同じ)

() にし川は桂川也。此川禁野と云ごとく禁川也

 

l  鹿

万葉集巻十六

乞食者詠二首の内 (「鹽」と同じ)

 

l  小螺(しただみ)

万葉集巻十六 

(「鹽」と同じ)

 

l 

万葉集巻十六

恋夫君歌一首

 

l  蓮の実

源氏物語手習巻=(小野の尼を中将の訪ひし處) 君にもはすのみなどやうのものいだしたれは、なれにしあたりにてさやうの事もつゝみなきこゝちして云々

() 蓮実也。()蓮子さかつき也

 

l  柑子

源氏物語若菜巻上=(桜咲く頃なり) (「からもの」と同じ)

 

l  かゆ

源氏物語手習巻=(小野の家の尼どもなり) いびきの人はいととくおきて、かゆなどむつかしきことゞもをもてはやして、おまへにとくきこしめせなどよりきていへど、まなかひもいと心づきなくうたてみしらぬ心ちして

長明四季物語正月=十あまり四日の夜からばかりもなく法師ゆきあかれつとめては御厨子所の御粥奉れる七種の御羹(あつもの)も今日まで留め置きて、ひとつ御粥にて疾()うしなして奉れは、しるしはかり御息(おんいき)触れさせ給ヘリ。この事推古の御代よりある事にて、赤きは陽の色を假らせ給ふ御事にて、小豆の御粥賜はらせ給ふとそ。冬の陰の余気を陽徳にて消させ給ふ御心なるべし。山上憶良といふ人の奉る歌に

         春くれは赤きおもののあつものも めくみにもれぬ御世に逢ふらし

とよめり。赤きおもの小豆の御粥なるべし

 

l  蕎麦

吉原雑話=奈良茂或時友達相方のもとへつき合にて行とて、蕎麦箱たゝ二つもたせ行けるに、あまりに軽少なる故彼友達其外まで蕎麦を尋ねけれとも、其日一日は前より申付吉原五町山谷田町其外近辺の蕎麦屋のこらす買上け、たゝ二つの蕎麦を持行趣向に奈良茂かみな買上けしゆへ一向なかりけるとなり

近世事物考=そばうどんは寛永以後元禄の初迄は皆菓子屋にて拵へたり。尤商ふ家も稀にて、下人なと常に喰う事は少かりしなり。元禄の末の草子に二八の看板初て見えたれは、漸此頃よりそばうどん商ふ家とては別に出来たるなり

 

l 

万葉集巻十六

詠酢醤菻(ひる)鯛水葱歌 (「鯛」と同じ)

 

l 

万葉集巻十六

詠行騰蔓青食薦屋樑歌

 

l  菜の内 若菜

源氏物語若菜巻上=正月二十三日子の日なるに左大将殿の北の方わかなまゐり給

() 正月の子日四十賀若菜を調和一つとしてかはる事なし

() 左大将殿の北方は玉かつら也。賀の時若菜を用る事常の事也。「古今」「君かため春の野にいてゝ若菜つむ我衣手に雪はふりつゝ」の歌の例也

源氏物語若菜巻上=御かはらけくだり(「からもの」と同じ)若菜の御あつ物まゐる

 

l  七くさ

長明四季物語正月=(「かゆ」と同じ)

 

l  奈良茶飯

近世奇跡考金龍山奈良茶飯/西鶴置土産(元禄年板本)にいふ。近き頃金龍山(聖天町)の茶屋に15分づゝの奈良茶を仕出しけるに、器物(うつはもの)の綺麗さ色々とゝのへ、さりとはすゑゝゝの者の勝手のよき事也。中々上がたにもかゝる自由なし云々。事跡合考に云、明暦大火の後浅草金龍寺(待乳山)門前の茶店(さてん)に始て茶飯豆腐汁煮染(にしめ)煮豆等を整へて奈良茶と名づけて出せしを、江戸中はしゞゝよりも金龍山の奈良茶くひにゆかんとて、事の外珍しき事に興じけり。それよりおひゝゝさまゝゝの美膳店(びぜんみせ)出来しより、いつしか彼聖天の山下の奈良茶衰微に及ひたり云々(案るにこれ江戸にならちゃめしを売るはじめなるべし)

 

l 

 

源氏物語若菜巻上=(桜咲く頃なり) (「からもの」と同じ)

 

l  饂飩

近世事物考= (「蕎麦」と同じ)

 

l  饅頭

吉原雑話月見の事=紀の國屋文左衛門江戸町二町目大松屋松が枝が許にて月見をせし時、其の大勢の見物群衆せし時、何やらんはしこの口にてたちさわく故、何ならんと見る處に階子の上り口の板をはなし、手すりをこほちて大なる饅頭たゞ一つ台にのせて持来れり。是は紀文が朋友より今宵の送り物なり。家内見物の大勢膽をつふし、只まんちうを見てあきれ居たるに、暫して

 右まんちう一つ折箱に入台付にてさなだ紐にて結ぶ、此饅頭一つ代金70両にて誂へたり

やうゝゝと紀文が桟敷の前へ荷(になひ)よせけれは、是はゝゝと大勢打寄りかの饅頭を中より割れは、其中にことことく常の饅頭全体かすゝゝあり、蒸籠のかはりに上の大まんちうを作るとて、兼て深川釡屋へ大釡をあつらへむしこしらへる、蒸籠道具まで皆新規に拵へさせ、其夜俄に持込、二階の上り口をことゝゝと板梁をこぼち、即時に大工数十人にて其跡を作らせ、衆人の目を驚かす趣向を思ひよりしなり

 

l  ゆづけ

源氏物語夢浮橋巻=(横川僧都のもとを薫大将の訪ふ處) 御物語などこまやかにておはすれは、御ゆづけなと参給

 

l  (ひる)

万葉集巻十六

(「鯛」と同じ)

 

l  ひきほし

源氏物語夢浮橋巻=(小野の尼君なり) 尼君たちもはしに出ゐたり、たがおはしますにかあらん、御前などいと多くこそ見ゆれ、昼あなたにひきぼしたてまつれたりつる返事に、大将殿おはしまして御あるじのことにはかにするをいとよき折とこそありつれ

() 海草なるべし

() うつほにひ色のをしき四してひきほしくたものなどゝ云り

本居翁云、拾遺かむかうべし

 

l  餅の内 椿餅

源氏物語若菜巻上=つばいもちひなしかうしやうのものともさまゝゝにはこのふた共にとりませつゝあるを、わかき人々そぼれとりくふ

() つばいもちゐは鞠場にて用ゐるもの也

()   椿餅は椿の葉につゝみたる也云々。椿の葉を合せてもちゐの粉にあまづらをかけてつゝみたるものを、鞠の所にて食する也。そつほ(國ゆつりの上)大臣どのゝ御かたより檜破子(ひわりご)三季捧餅なと奉り給へり

 

l  水飯

源氏物語手習巻=(小野の尼を中将の訪ひしところ) 人々にすいはんやうの物くはせ、君にもはすのみなどやうのもの云々

同常夏巻=(六条院釣殿に大殿の公達参りし條) さうゝゝしくねふたかりつるをり、よくものし給へるかなとて、おほきみまゐりひみづめして、すゐはんなととりゝゝにさうどきつゝくふ

() 水飯

() 今の世にもありてひめと云物也

(哢さえずる) 干飯などの類水づけ

() ひめは飯をあつくして冷水にてあらひて冷汁にて食也

 

l 

万葉集巻十六

(「鯛」と同じ)

 

l 

源氏物語常夏巻=(六条院釣殿に大殿の公達来りし處) さうゞゝしくねふたかりつるをり、よくものし給へるかなとて、おほみきまゐりひみづめしてすゐはんなととりゝゝにさうどきつゝくふ

同若菜寒上=(源氏四十賀) 御かはらけくだり若奈の御あつ物まゐる。御まへにはちんのかけばんよつおほんつきどもなつかしくいまめきたる程に云々

同=御使にも女房してかはらけさし出させ給てしひさせ給(朱雀の御使へ紫より酒のませ給也)

同=さるべきからものはかりして御かはらけまゐる

同賢木巻=中将御かはらけまゐり給ふ(歌略)ほゝゑみてとりたまふ(源氏盃を也)

万葉集巻三下 太宰師大友卿讃酒歌十三首

 

l  醬油

万葉集十六 (「鯛」と同じ)

 

l 

万葉集巻十六 (「鯛」と同じ)

 

編輯後記

不審なのは、召波の名がないこと。居士は1900年『俳諧叢書』の一篇として『召波樗良俳句集』を編纂、樗良は勿論、太祇、蕪村、几菫、青蘿他、天明の諸家の句は皆収めてあるのに召波がないのは不可思議

『俳書年表』は『俳句分類』などと同時に企てられた事業

1892年の書簡に、【俳諧年表】と『日本人物過去帳』の2種編纂中とあり、前者は多少調べたが、後者は死亡年月を年表にしたもので緒に就いたばかりとある

『たね本』は、『俳書年表』よりも前のものだろう。一種の俳句熟語辞典。『俳句分類』や『俳家全集』のような研究的なものではないので、居士自身この書については語っていない

『飲食考』は、全然俳句に没交渉な点、比較的後年に企てられた点において、著しく他と異なる

筆跡から見ると明治30年以降に着手したようで、1900年の『病牀読書日記』に、『土佐日記』など食物の記事多き日記は他にないといって、食物に関する語を抜き書きしているのは注目

未完成の『俳書年表』、自家備忘の『たね本』、着手したばかりの『飲食考』を本巻に収めて公表したのは、子規が単なる句作者、歌よみでなくまた研究心の盛んな学者であった一面を伝えようとするためで、長生きしていたら、居士の事業はどこまで発展したか想像だに及ばない

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