子規全集第11巻 俳家全集 壱  正岡子規

 2020. 子規全集第11巻 編著 壱 (非売品)

 

著作者     故・正岡子規

発行日     大正131125日 印刷       1130日 発行

発行所     ()アルス   発行者 合資会社代表者 北原鐵雄

 

国立国会図書館 デジタルコレクション参照

 

(いずれも最初に掲載されている句を記載。複数記載してあるのは、Googleで代表句とされているものか、人口に膾炙した句)

 

【元亀~元禄時代】 (没年順)

1.      毛利元就 (元亀2年林鐘(陰暦6)14日没)

      鶯に春をわくてふ深雪哉

夏    一聲はせめてきかしを時鳥

      薄霧やまかきの花の小萩原

      初雪はしくれのつもる行くへ哉

 

2.      松永貞徳 (俳諧を文学に変えた貞門の祖。承應21115日没)

      よめならば見とりにせはや柳髪

      夏咲はげにねち藤の花心

      雁金は秋風楽のことち哉

      鬼は外ふくは春風年の内

 

3.      野々口立圃 (雛屋立圃、江戸初期の京都の絵師俳人は野々口、名は親重。立圃と号す。絵師としては狩野派。寛文9930日没)

      ゆづり葉や次第に家の大飾り

      富士垢離(こり)やいつくも雪の流れ川 (富士山に登る信仰(富士講など)において、登山の前に川や海に入って罪や穢れ(けがれ)を洗い流す潔斎(水垢離)の行事で、いつの間に積もったものか、富士山に降り積もった万年雪や残雪が解け、伏流水となって麓の川へと湧き出し、勢いよく流れている様子。AIでは各務支考(蕉門十哲の1)の作とされる)

秋    山の鳥も立およぎせり霧の海

      庭にさへさぞな落葉は東山

 

4.      安原貞室 (貞門七俳人の一人。松江重頼と双璧。別号は腐俳子(ふはいし)・一嚢軒(いちのうけん)。京都の紙商。延宝元年没)

      これはこれはとばかり花の吉野山

      いざのぼれ嵯峨の鮎くひに都鳥

      須磨 松影や月は三五夜中納言 

芭蕉の『鹿島紀行)』の冒頭の一節です。正しくは「松にすめ月も三五夜中納言」の記憶違いとされ、十五夜の月と須磨に流された在原行平を重ねた雅な句

      跡の月はみよしのゝ雲(古選:)や不二の雪 

         跡の月(あとのつき)は旧暦913日の夜の月(十三夜)のこと。または、中秋の名月(旧暦815日)の後に訪れる、名残の月。みよしのゝ雲(みよしののくも):奈良県の「吉野山」にかかる白雲。吉野は古来より桜の名所であり、その白く広がる桜の花を「雲」に見立てる伝統的な表現(見立て)とも重なります。不二の雪(ふじのゆき):富士山に降り積もる真っ白な雪

日本の美の象徴である「雪月花」(富士の雪、跡の月、吉野の桜=雲)を巧みに一つの世界に詠み込んだ、非常に優美で壮大なたたずまいを持つ句

 

5.      松江維舟 (本名は重頼、通称は大文字屋治右衛門。京都の商人から松永貞徳に学び、貞門派の重鎮。延宝年629日没)

      やあしばらく花に対して鐘つく事 

         おい、待ってくれ。満開の美しい花に向かって鐘を撞かないでくれ、散ってしまうではないか

      順礼の棒はかり行く夏野哉

      落ち行くやここは浮世の嵯峨の鮎

      ふじの雪見のつけに返すふもと哉 

富士山の美しい雪景色(雪見)に見とれていると、突然の激しい風雪に覆われ、まるで麓へと追い返されてしまうかのようだ)

自然の対比: 「雪見(風流な雪景色)」という穏やかな美しさと、富士山特有の「激しい風雪」という厳しい自然のギャップを表現しています。

芭蕉の旅: 芭蕉が旅の途中で仰ぎ見た富士山の、刻一刻と変わる荘厳な姿への畏敬の念が込められています。

言葉の妙: 「返す」には、天候の急変によって「旅人を追い返す」という意味と、連句(俳諧)において「挨拶や次の句を返す」という意味が掛け合わされているという解釈もあります。

 

6.      西山宗因 (江戸前期の俳人連歌師。別号として一幽・西翁・梅翁・野梅など。「軽口」と「無心所着体」を旨とする作風により談林派を立ち上げる。天和2328日没)

梅翁発句集序 安永10年春 江戸誹諧談林7世 一陽井素外述

当派の始祖梅花翁宗因誹諧のあやある言葉に其香隠れなく陽春の色を見せしは寛文延宝の頃にやはしめは西山豊一とて時の肥後候の藩中8代の加藤正方に属し文雅につけても覚えめてたかりしに寛永9年太守さることの有りてはからすも武門を遁れ身を雲水の行方に任せ心を花月に詠にととむ一たび伏見に寓居せしう湖東の縣に遊び宿りをも重ねし程にしるよしの君よりかりに庵にすべき地を望めよとの命を蒙り

         (ここ)にせう梅あり山あり川もあり   (せう梅:しょうばい/小梅、小さな梅の木)

然りし後また東風に吹誘はれてや浪速江のあしまめに杖を曳きしか天満の霊社に宿縁やありけん正保のはじめ鶯の宿に鄰れる住所を得て爰につらね歌の事をあつかるいよよ神心に叶ひけるにか南枝に花の詞をひらき北窻に雪の力を添へて筑紫潟しらぬ人なく吾妻路迄とりはやす事になんなりにきさりや武陽に下りては誹諧の談林をひらきて世俗の眠りを覚させ花洛に登りては同総本寺を建て末派の商量をはげましめ年々益々盛なりしに老後鳴滝の秋風等風義を乱すに及びて犬桜の唫ある将楊梅の一句に口を閉ちて世を連歌に終る貞享元禄の間に一変せし後の諸書にも我租翁の名を挙げ句を載せさるは稀なりされども誹句は徒活発にいひなして自の稿なければ星歟河辺の影さたかに數をとゝめず予此末をくみ其匂ひをしたへど幾とし月の春を経しかは闇夜に探り雪中に求むるが如く漸今230余章を得たりこれ生涯の吟詠万株の一朶(た、えだ)なるべけれども香に匂ふ昔風俗をいたづらにひめ過さむも本意なく桜木をかりてあらはし鳥の跡長くとゞめんと絲もて縫ふてふ冊子となす猶洩れぬるは時を待ち日をまちて満花のさかりを備へんとしか願ひ侍るな

     

(時候)      新春の御慶は古き言葉哉

              老いなはますゝゝかつてんかてん   七十や何ほとの事千世の春

              六十の年の元日   十六の若文字かへす今年哉

還暦を迎えて年齢の十の位と一の位を「かへす(ひっくり返す)」と、ちょうど「十六」になります。まるで16歳の若々しい若者に生まれ変わったかのような、新鮮で晴れやかな気持ちで迎えた今年(元旦)であることよ、という意味が込められています。

若文字(わかもじ):「若い文字」「若々しい筆跡」という意味のほかに、元旦に初めて毛筆で文字を書く「若水(わかみづ)で墨をすって書く書き初め」のことも掛けられています。60歳にして、再び16歳の若者のような初々しい気持ちで、新年のめでたい墨書きに筆を走らせている様子が浮かび上がります

(人事、天文、地理) 古歌に曰(いわく)千とせそ見ゆる鏡餅

(動物)      からし酢にふるは泪かさくら鯛

(桜、花見他)  法華妙満寺にて  更にまた法の花ふれ普賢像(ママ)

(ただでさえありがたい仏の教えが説かれているこの地で、)さらにもう一歩進んで、仏法の慈悲の雨のように、あの美しい「普賢象」の桜の花よ、ハラハラと美しく舞い散っておくれ。

法の花(のりのはな)とは仏教の教え(仏法)のことです。「法の花」は一般的に、仏教の最高峰の経典である『法華経(ほけきょう)』を指します。

同時に、仏の教えが人々の心を開かせる様子を、美しい花に例えています。

普賢象は、室町時代から知られる八重桜(サトザクラ)の有名な栽培品種です。

花の中心から2本の緑色の雌しべ(葉化雌蕊)が突き出ており、その先端がくるりと曲がっています。その姿が、普賢菩薩の乗る「六牙の白象」の鼻や牙に似ていることからこの名が付きました。

「ふれ」には、「降れ」と「振れ(花を揺らす、あるいは触れる)」が掛けられています。桜の花びらが雪のように「降る」情景を表します。

(花)     京を京と誰かいはする花の陰

満開の桜の木の下(陰)で、この素晴らしい桜の美しさに包まれていると、ここが騒がしい「京都」であることなど、一体誰が言うだろうか(いや、誰も言わない。まるで桃源郷にいるようだ)。

(植物 桜花なし)    (ここ)にせう梅あり山あり川もあり

     

(時候、飲食)  短夜や彼五文字(かのいつもじ)にあかし潟

夏の短い夜のこと。あの人のことを「恋しい」とか「逢いたい」などと、わずか五文字の言葉(あるいは名前など)を心の中で何度も繰り返しているうちに、すっかり夜が明けてしまった。この明石の潟(あるいは明るくなってきた干潟)のように、私の心も(または夜の闇も)すっかり明けてしまったことよ。

短夜や(みじかよや):夏の季語。夏は夜が明けるのが非常に早いことを意味します。

彼五文字に(かのいつもじに):「彼(かの)」は「あの」という意味です。

「五文字」が何を指すかには諸説あります。一般的には「こいし(恋し)」「あいた(逢いた)し」といった恋の言葉、あるいは「おもかげ(面影)」や特定の「人の名前(五文字)」など、割り切れない想いを込めた言葉と解釈されます。

あかし潟(あかしがた):夜が「明かす(明ける)」と明石の潟をかけた掛詞。

(天文、人事)  江戸店や戸さゝぬ御代の下涼

江戸店(えどみせ):江戸の賑やかな街並み、あるいは辻々に立ち並ぶ夏の夜店や出茶屋を指します。

戸ささぬ御代(とざさぬみよ):防犯のために「夜も家の戸を閉める必要がない」ほど、治安が良く平和に治まっている時だい(徳川の知性)を称える表現です。

下涼(したすずみ):夏の夕暮れや夜に、風通しの良い場所で涼しさを楽しむことです

(器物類、地理 除飲食)  うつりゆくやはや紙鳶(いかのぼり)紙幟

やはや:「早くも」「もういつの間にか」という意味の感嘆を含む表現。

紙鳶:「凧」のこと。主に関西方面での古い呼び名。現代では冬〜正月の季語ですが、当時は春の遊。

紙幟(かみのぼり):端午の節句(5月)に立てる「紙製ののぼり(五月幟)」のこと。夏の季語です。

季節が移り変わっていくのは本当に早いもので、ついこの間まで空に舞っていた春の「いかのぼり(凧)」の季節が過ぎ去ったと思ったら、早くも初夏の「紙のぼり(端午の節句の幟)」が立つ季節になってしまったなぁ。

「いかのぼり」と「かみのぼり」という、どちらも紙で作られた「のぼり」という言葉の響き(韻)を重ねて、季節がリズミカルに、かつあっという間に移り変わる様子を軽妙に表現した名句です。

(時鳥)  ともかくも申すは古し杜字(ほととぎす)

ホトトギスについて、あれこれと言葉を尽くして風情を語ることは、もう昔からやり尽くされていて今さら古くさい(あるいは、今さら何も言う必要はない、それほど格別なものである)。

(動物、時鳥除)  水辺を付はなれ行く蛍哉

水辺に沿って飛んでいた蛍が、水面を離れたりまた近づいたりしながら、やがて水辺を完全に離れて闇の奥へと飛び去っていくことよ。

「付はなれ(つきはなれ)」の絶妙な描写。「付く」と「離れる」が合わさった言葉です。蛍が水面に近づいたり(付き)、離れたり(離れ)しながら、不規則に明滅して飛ぶリアルな動きを表しています。

()  思ひこめて見るへき花の若葉哉

これから咲くであろう花(桜)のことを心に深く想い描きながら、今は目の前にある初々しい若葉を眺めるのが、なんとも趣深いことよ。

一般的に桜は「花(花見)」の時期が最も注目されますが、その後に青々と茂る「若葉」にも深い美しさを見出しています。今はまだ葉の段階である姿に、将来咲き誇る花の姿を重ね合わせる、繊細な美意識と自然への深い洞察力が表現された名句

()  茂り行く草津の姥や餅の情

    (時候)  きのふまで水に立てしか葛の葉の

    (人事、器物、飲食、地理)  かけまくもかしこや爰の踊哉

    ()  天王寺にて 彼岸桜秋は月こそ西にあれ

    (天文 月除)  天にあらはひよこの羽根も星の妻

    (動物)  雁に伝へん白河一書二所の関

    (植物)  大阪出船の人に 追風や一葉万里いまの梶

     

    (天文、生物除)  革足袋も昔は紅葉ふみわけたり

    (雪)  雪をこそと落すや昔雪男

    (天文 除雪)  一順の四句(しく)めふりなり一(ひと)しくれ

    (生物)  鴨の足は流れもあへぬもみち哉

 

7.      加賀: 一笑 (加賀の俳人、姓は小杉。葉茶屋を営み、加賀俳壇を担う。元禄元年冬没)

      さし柳たゞ直なるも面白し

      夕顔に馬の顔出す檐端(のきば?)

      灯籠のなき墓人に拝まれん

      灯とほして幾日になりぬ冬椿

 

8.      岡田野水 (埜水とも。尾張名古屋の呉服豪商で町役人。尾張歌壇を支える。元禄2年没)

     

    (植物ナシ)  曙は春のはしめやたうふくら

たうふくら(だうぶくら):豆腐汁(お味噌汁や、すり流しなどの汁物)を意味する言葉

    (植物)  風の吹くかたをうしろの柳哉

夏    雲の峰腰かけ所たくむなり

      送別 月に行脇差つめよ馬の上

      凩もしはし息つく小春哉

 

9.      エド 岡村不卜 (別号・一柳軒。石田未得門。30年俳壇で活躍。元禄449日没)

      そぼふるや猶傘さして山櫻

夏    ものすごく男ばかりの。田植哉

      摺子木の音はしたなき砧哉

      煤取て寺はめてたき佛哉

 

10.   京 高村和及 (元禄5年春没)

      初桜八重の一重の好みなし

      行く程に最早山なし子規

      我ながらりゝしく成りぬけさの秋

      初雪のつヾかば人にあかるべし

 

11.   松倉嵐蘭 (蕉門最古参の門人。江戸浅草在住。三百石取りの武士だったが、44歳で官を辞し、俳諧専一の生活に入った。老荘思想の持ち主。元禄6827日没)

      初市や雪に漕来る若菜船

      衣かへそこつに帯を解きにけり

      初汐や細いところに帆かけ船

      小夜しくれ鄰へはひる傘の音

 

12.   北村湖春 (北村季吟の子。名は季順。京から江戸に移住し幕府歌学方に奉仕。元禄10年没)

      七草や拍子とる手の握り箸

      はつかしや蓮に見られて居る心

      名月や茶通ふ童ねぬ返事

      天地の咄ときるゝしくれ哉

 

13.   佐分利越人 (元禄15314日没)

    (植物ナシ)  御覧せんことさら民の庭竈

    (植物)  山吹のあふなき(あっけない)(そば、崖)の崩れかな

      君が代や筑摩祭も鍋一つ

近江国の奇祭「筑摩祭(鍋祭り)」の無骨な行事と、天下泰平を寿ぐ「君が代」という対照的な景を、ユーモラスに一つの鍋で煮込むように並べた見立ての句

      貧家 魂祭柱にむかふ夕かな

      行燈の煤けて寒き年のくれ

 

14.   越中 井浪浪化 (江戸中期の浄土真宗俳人越中国瑞泉寺の第十一代住持。京都の出身。江戸前半の越中俳壇を代表する人物。父兄弟はいずれも北村季吟の門人、初め季吟に師事、のち向井去来に学び、その紹介で芭蕉に師事。元禄16109日没)

    (時候)  宵の気をすてヽ起こるや花の春

    (人事、天文)  汲みそめて若水分る鄰かな

    (動物)  鶯に旭さすなり竹格子

    (梅)  野亭題 きのふけふ風のかわきや梅の花

    (花 桜ナシ)  蓑といふものを身にまとはされて送らる  身におくも心のみのや花の雨

    (桜 除)  指折の桜を花の終りかな

    (木)  初春のおちつくかたや梅柳

    (草)  蕗のめや梅を尋る一つゝき

    (時節、天文、地理)  松風にほそみの出る四月哉

    (人事、器用、飲食)  中喰に鵜飼のもとる夜半哉

    (動物)  時鳥雨のかしらを啼てくる

    (木)  橘に夏うくひすや媒鳥(おとり)

    (草)  高岡麥古廓之感情 升かたも乱れぬ草の茂哉

    (時候)  秋たつや鷹のとや毛のさし残り

    (器用、人事)  秋もまた切籠(きりこ、切籠灯籠)の四手の涼み哉

    (月)  名月や筵をうつす檐(ひさし)の牙(が?)

    (天文 月除)  七夕前夜 三句 かさゝきのふみかへさしと天の川

かささき(鵲)は中国の七夕伝説において、77日の夜に天の川に翼を並べて橋(鵲の橋)を架け、織姫と彦星を逢わせるとされる鳥

ふみかへさし(踏み返さじ)とは「(足で)踏んで引き返したりはしないだろう」「踏み直して引き返すまい」という意味の古風な表現です。

    (動物)  鳥にまつ色をそへたる野山哉

    (木、菊)  はれゝゝと雞うたひけり菊の中

    (艸 除菊)  蕣(あさがお)の花や惣ね(そうね、すべて・一斉に)に雨の後

    (時候、器物)  いひ出すもけふの佛の寒さ哉

    (地理、人事、人物)  染ものゝ中ゆふわりの氷かな

    (天文)  司晨楼 初雪や形さまゝゝの烟(けむり)出し

    (生物)  茶の花や鶯の子の鳴ならひ

 

15.   風國 (伊藤風國。京都の医師。通称は玄恕。芭蕉の作品集の最初の書である『泊船集』の編者として蕉風の伝承に貢献した功労者でもある。元禄11年以後没)

      夕月に面白過よ梅の花

      雞の砂にすりこむ暑さ哉

      駕籠かきの佛見事や玉まつり

      物売の急に成たる寒さかな

 

16.   蕉門 草壁挙白 (芭蕉早期門人。其角「馬蹄二百句」を編集芭蕉の「奥の細道」にその名がみえ,其角編の「虚栗」にも作品がはいっている。元禄9年死去。元禄中没)

      勝声も()いかに苦しき鶏合

      独り寝や紙帳(しちょう、紙の蚊帳)の中のへらず口

      白露のおかではおかぬ千草哉

冬                  何方に行て遊ばんすゝ払ひ

 

17.   (セヾ)堂珍碩(タイ) (濱田洒堂(しゃどう)。1737没。膳所藩医師。芭蕉に入門。『ひさご集』刊行。元禄中没)

    行春をまたゝひの葉や待まうけ

    吹かねとも風もつ芥子の身そせはし

    名月の海より冷る田蓑哉

    鶏や榾(ほた)焼く夜の火のうつり

 

18.   内藤丈艸 (犬山領主成瀬家家臣の長子。蕉門十哲宝永元年224日没)

 

    (動物)  のら猫やうかれ行ほと松の中

    (桜、花)  水壺にうつるや花の人出入

    (植物 桜花除)  酒売の戻りは樽に野梅哉

    (生物除)  背戸(せど、裏手)中は冴返りけり田螺(たにし)

    (生物ナシ)  帷然(広瀬?)行脚を送りて 炎天に歩行(あるき)神つくうねり笠

    (鳥)  子規なくや榎も梅桜

    (生物 鳥除)  血をわけし身とは思はす蚊の憎さ

   

    (天文)  名月や雨にはりあふ風光

    (動物)  啼はれて目さしもうとし鹿の形

    (植物)  早咲の得手を桜の紅葉哉 (早咲の桜が、秋には真っ先に紅葉する)

    (天文、生物除)  送り火の山に上るや家の数

    (時雨、霰、凩、冬月)  風雲やしくれをくゝる比良おもて

    (雪、霙、霜)  雪空や片隅淋し牛の留守

    (動物、器物)  背戸口の入江に上る千鳥哉

    (天文、動物、器物除)はせを翁7回忌 待ちうけて経書く風の落葉哉

 

19. 去来全集 (儒医の二男として肥前国生まれ。蕉門十哲。『猿蓑』刊行。嵯峨野落柿舎に住む。宝永元年910日没)

    (動物)  鶯や内のもなけば野からくる

    (桜、花)  花に今眼入りけり志賀の浦

    (植物 桜花除)  やせはてゝ香にさく梅の思ひ哉

    (時令、人倫)  人間の始まりしれや寅の月

    (生物、時令、人倫除)  春風に吹き出されけり水の胡蘆(ころ、瓢箪や夕顔)

    (時候、地理、食物)  たまゝゝに三日月拝む五月哉

    (天文、人事、器用)  馬の子のかけ違けり夏の月

    (動物)  よしのにて逢れうものか時鳥

    (植物)  武士の子の生長を祝いて 笋(たけのこ)の時よりしるし弓の竹

    (月)  のりながら秣(まぐさ)はませて月見哉

    (天文 月除)  露落て尻こそはゆき木陰哉

    (動物)  奥山や五声つゝく鹿をきく

    (植物)  手打した下から笑ふ西瓜哉

    (天文、生物除)  筑前 七夕をよけてやたゝが舟踊

やたた:「おたた」とも呼ばれ、当時の漁村で魚などの行商をした漁夫の妻や娘たちのことです。

舟踊り:夏の雨乞いのために、船の上などで囃子にあわせて踊る民俗行事です。

内容:七夕の晴れやかな行事をよそ目に、村の女性たち(おたた)が切実な願いを込めて雨乞いの舟踊りを行っている、当時の夏の日の生々しい生活や季節の情景を伝えています

    (時雨)  鳶の羽もかいつくろひぬ初しくれ      

    (天文 時雨除)  松本にて 初雪や四五里へたてゝ比良の嶽

    (生物、人事)  盗人におひの銭とも鰒(ふぐ)の銭

「わずかな利益のために、身を滅ぼすほどの大変な危険を冒すこと」のたとえ

    (時節、器用、人倫)  木曾墳に参りて 船馬にまた泣よるや神無月

船馬(ふなうま):川で「船」を引っ張るために、岸から網を引く「馬(厩馬・曳き馬)」のこと。あるいは船と馬という、当時の主要な交通・運送手段そのものを指します。

泣き寄る(なきよる):哀れな声をあげて近づいてくる、または悲しげに身を寄せ合う様子。 

    (雑)  大宰府奉納 幾年の白毛や神の光哉

 

20.    猿雖 (窪田猿雖(くぼた えんすい)は、江戸前期の伊賀上野の富商、芭蕉を支えた高弟・俳人。本名は惣七郎、号は意専。伊賀蕉門の最古参。宝永元年11月没)

      得にげずに踏こまれたる田にし哉

      かるき身の蝉は子もなし親もなし

      いさよひは闇の間もなしそばの花

      節分は我年とひにくる子哉

 

21.    北村季吟 (歌人俳人、和学者。出身は近江国野洲郡北村。医学を修めた。はじめ俳人安原貞室に、ついで松永貞徳について俳諧を学び、貞門派俳諧の新鋭といわれた。元禄2年には歌学方として500石にて子息湖春歌人俳人、和学者。出身は近江国野洲郡北村。医学を修めた。はじめ俳人安原貞室に、ついで松永貞徳について俳諧を学び、貞門派俳諧の新鋭といわれた。元禄2年には歌学方として500石にて子息湖春と共に幕府に仕えた。以後、北村家が幕府歌学方を世襲。俳諧は貞門派の域を出なかったが、句集「いなご」などは特筆される。柳沢吉保、松尾芭蕉山口素堂など優れた門人を輩出。宝永2615日没)

      おれにいはしや先(まず)御代をこそ千々の春

       放時鳥 鳥籠のうき目見つらん時鳥

      月の顔に犬の子するや雁の文字

冬    信章(山口素堂)江戸より下るに いや見せじ富士を見た目に比枝(比叡山)の雪

 

22.    江東堅田 遍照寺李由 (河野李由(こうの りゆう)。俳人近江蕉門浄土真宗本願寺派の彦根明照寺(光明遍照寺)14世住職、律師。伊予河野氏の末裔、かねてから松尾芭蕉の風雅を慕う。芭蕉と李由の師弟関係は「師弟の契り深きこと三世仏に仕ふるが如し」と伝えられている。宝永2623日没)

    (天文、植物ナシ)  宝引(ほうびき)に夜を寝ぬ顔の朧かな

    (天文、植物)  陽炎やあとの淋しき小大名

    筍やくひ残されし後の露

    菜畠の一うるほいや秋の雨

    初雪や奥の洞屋(洞爺湖?)の雪なたれ

 

23.    尼智月 (河合智月は、江戸初期の女流俳人近江蕉門京都に生まれ近江国に住む。夫と死別し尼となり、後に自身の弟乙州を河合家の養嗣子とした。蕉門きっての女流俳人。芭蕉を自宅に迎える機会が多く、「幻住庵記」を形見に贈られた。智月は膳所滞在中の芭蕉の身辺の面倒を見た。宝永3年没)

      白雪の若菜こやして消にけり

         我年のよるともしらず花盛

         山つゝし海に見よとや夕日影

      有と無と二本さしけり芥子の花

         広庭にゆたかに開く牡丹哉

         雲の間の星見て居るに時鳥

         昼まではさのみいそがず時鳥

         歌かるたにくき人かな時鳥

         麦わらの家してやらん雨蛙

      年よれは声もかるゝそきりゝゝす

      見やるさへ旅人寒し石部山

 

24.    服部嵐雪 (別号雪中庵など。松尾芭蕉の高弟。雪門の祖。服部家は淡路出身の下級武士。其角と実力   は拮抗し、芭蕉をして「両の手に桃と桜や草の餅」と詠んだ程で、芭蕉没後は江戸俳壇を其角と二分する趣があった。宝永4年1013日没)

     

    (時令、天文、飲食)  元日やはれて雀のもの語り           

    青精飯 桐柳民こまやかに菜飯哉

青精飯(せいせいはん)の風習; 中国の古い風習(寒食節など)において、桐(きり)や柳(やなぎ)などの若芽・若葉を摘み取り、その汁で米を染めて炊いた、緑色の「青精飯」という食べ物がありました。この句における「桐柳民」とは、そうした桐や柳の美しい新緑の季節に、自然の恵みをいただきながら慎ましく、かつ豊かに暮らす市井の「人々(民)」を指している、あるいは「桐や柳の若葉を摘む人々」を優雅に表現した言葉

    (器物、人事、地理)  行脚惟然へ申遣 木の枝にしばしかゝるや凧(いかのぼり?)

    (動物)  鶯や書院の雨戸はしる音

    (梅、桜)  夢嵐窓 夢さつて又一匂ひ宵の梅

梅一りんゝゝゝほとの暖かさ

殿は狩ッ妾(めかけ)餅売る桜茶屋

    (植物 梅桜除)  ぬれ縁や薺(なずな)こほるゝ土ながら

         其角墓参 山吹の実を穴掘の歌一つ

     

    (天文、地理、時候)  五月雨や硯箱なる唐辛子

    (器用、人事、人倫、飲食)  鹽(しお)魚の腹干す日なり更衣(ころもがえ)

    (動物)  其角追善斎(とき)を設く 経の偈(げ、仏の教え)は連歌ときゝぬ時鳥

    (植物)  古庭にあり来りたる牡丹哉

    (天地生物除)  七夕は降と思ふか浮世かな

    (天文、地理)  妙法の火 経をたく火の尊さや秋の風

    (動物、木)  常燈や壁あたゝかにきりゝゝす

    ()  また夏の心ならひや鶏頭花

(天文、動物)  義仲寺 此下にかく眠るらん雪仏 芭蕉死去の報を聞き、一門を参集して芭蕉追悼句会を開き、桃隣と一緒に芭蕉が葬られた膳所の義仲寺に向か詠んだ句

(天文除、動物除)  古暦ほしき人にはまゐらせん

       蒲団著て寝たる姿や東山

辞世     一葉散る咄ひとはちる風の上

 

25.    河合曽良 (信濃国下桑原村の生まれ。長島藩に仕え、芭蕉に入門し『奥の細道』の旅に随行。将軍の命により幕府の巡見使随員となり九州を廻る。蕉門の俳人としては才能に恵まれず。宝永610月没)

      くりかへし麥の畝ぬふこてふ哉

      翁の墓 拝みふして紅しほる汗ぬくひ

      (なで)付し白髪のはねる秋の風

      伊賀 なつかしや奈良の鄰の一しくれ

 

26.    ミノ 梅花鳥落人(廣瀬氏)惟然 (美濃国生まれ。別号は、素牛、鳥落人など。芭蕉が岐阜に逗留した折に芭蕉の門下に。芭蕉の発句を和賛に仕立てた「風羅念仏」を唱えて芭蕉を追善行脚。宝永7527日没)

    (植物ナシ)  南部に年をこえて 二本松 まづ米の多いところで花の春

    (木 桜花ナシ)  梅咲くや赤土壁の小雪隠

    (桜花、草)  かう居るも大切な日ぞ花ざかり

夏  我寺の藜(あかざ)は杖になりにけり

    (天文、植物ナシ)  のどかなる秋とや蛸も壺の中

    (天文、植物)  待つ宵や流浪の上の秋の雲

    きりぎりすさあとらまへたはあとんた

    (時候、地理、植物)  看病 引はりて蒲団ぞ寒き笑ひ声

    (人事、天文、動物)  臘八やけさ雑炊の蕪の味

臘八(ろうはち/ろうはつ)とは、12月の別名である「臘月(ろうげつ)」の8日、つまり128日のことです。仏教ではお釈迦様が悟りを開いた「成道会(じょうどうえ)」の日

         水鳥や向ふの岸へつういつい

         水さつと鳥はふはゝゝふうはゝゝ

 

27.    森川許六 (蕉門十哲の一人。五老井など多くの別号。近江国彦根藩の藩士で、絵師正徳5826日没)

    (時候、天文)  春立つや歯朶(しだ、正月飾りの添え物)にとゝまる神矢の根

    (人事)  伊勢海老の鏡開きや具足櫃(ぐそくびつ)

    (動物、草)  大阪討死50回忌 首どもは再び生えず春の草

    ()  ちるもはやはせ売る里の梅の花

    (人事、生物ナシ)  甲斐郡内を過ぎて 道はたに繭干すかさの暑さ哉

    (人事)  群烏賊や世は白妙に更衣

    (生物)  四五月の卯波さ波や時鳥

                  卯の花に蘆毛(あしげ)の馬の夜明哉

    (天文、植物ナシ)  鵠(かささぎ)の橋や絵入りの百人一首

    (天文、植物)  血をこぼす手負の鹿や花芒

    (時候、天文、地理、植物)  行年や多賀造営の訴訟人

    (動物、人事類)  寒声は葬礼が来てしまひけり

 

28.    江戸住 岸本調和 (陸奥岩代生まれ。石田未得の門人。芭蕉の台頭によって調和の作風は衰退。宝永・正徳期における代表的な俳人。正徳51017日没)

    (時候、動物)  唐ものはあへて用なし神が春 「唐のものさして用なし君が春」がイ

    (人事)  きのふこそ雪菜(ゆきな)分しか雑煮物

    (天文、地理)  すゝけ障子日影も遅し朝霞

    (桜、花)  葉隠れの花や隙もる翠簾屏風  

葉隠れの花:生い茂る青葉の陰に、隠れるようにしてひっそりと咲いている(あるいは散り残っている)可憐な花のこと。

隙もる(すきもる):わずかな隙間から、光や風、あるいは中の気配が漏れ聞こえたり見えたりすること。

翠簾屏風(すいれんびょうぶ / みすびょうぶ):屏風の各扇の中央をくり抜き、そこに「御簾(みす:細く割った竹などで編んだすだれ)」をはめ込んだ、主に夏に用いられる調度品です。

    (植物 除桜花)  年中の無事よ静な梅の花

    (人事、植物ナシ)  夏の夜や胡桃の油敷居の風

    (人事、植物)  きのふこそ痃癖(げんぺき、肩こり)かろし更衣

    (時候、人事)  中納言関吹きこゆる今朝よ秋(秋の)

    (天文)  かすや背游キ人形天の川

    (生物)  秋の蝉けしきの森やから大名

    (天文ナシ)  日本紀や銀杏に埋む神無月

    (天文)  番匠童(ばんしょうどう、大工の見習い)凩重き夕哉

 

【享保~明和時代】

29. 小西来山 (薬種商を営む六左衛門のもとに生まれる。俳諧の点者。禅を南岳悦山に学んで法体となる。西鶴らに一座して『飛梅千句』を興業する。雑俳点者として活躍。大坂の雑俳書で来山に無関係のものはほとんどないとされる)

    (植物 桜ナシ)  重たくと雪つけて来い若菜売

    (時候、天文、地理、動物)  郭公ぬれて帷子(かたびら)ひとつなり

    (人事、器用、植物)  甲人形人に後を見せさりけり

    (天地)  雪迄のなしみを竹の時雨哉

 

30.    伊勢 神風館涼菟 (岩田涼菟(いわた りょうと)。神職伊勢の生まれ。「伊勢派」と呼ばれる平明で新しい作風の俳諧を生み出した。享保24月没)

    (植物ナシ)  鶯の音にはねかへる雪の竹

    (植物)  花盛旦那落して来るもあり

     

    (時候、衣服)  外宮 涼しさのまことは杉の梢なり

            内宮 拍手の袂も涼し木の雫

    (人事、人倫、器用)  我宿やつい投げあげてふく菖(あやめ)

ふく菖(あやめふく/しょうぶふく)」とは、端午の節句(55日)の前夜である54日の夜に、家々の軒先に菖蒲(ショウブ)や蓬(ヨモギ)を挿す(葺く)日本古来の行事・風習のことです。漢字では「菖蒲葺く」

    (動物、天文)  ?時鳥々々とて寝いりけり

    (植物)  君達か手習ひの間や若楓

    (天文生物ナシ)  両国橋 人声を風の吹きとる花火かな

    (天文、動物)  名月や鞭て問よる草のかと

    (植物)  神妙に秋海棠の咲きにけり

    (天文生物ナシ)  鴨一羽帯にはさむや年の市

    (天文、生物)  来かゝつて袴ながらや雪丸め

      小夜中山 駕籠かきの武士を泣かする昔哉

 

31.    山口素堂 (甲斐国巨摩郡生まれ。芭蕉とは友人として交流。漢詩文の素養が深く中国の隠者文芸の影響を受けた蕉風俳諧の作風と評されている。享保28月没)

    (植物ナシ)  宿の春何もなきこそ何もあれ

           とくゝゝの水招かは来ませ初茶湯

    (植物)  筬(おさ、機織り)の音目を道ひくや藪椿

    (植物ナシ)  御祓 みたらし(手洗い所)や半ば忘るゝ年忘れ

           鎌倉一見の頃 目には青葉山ほとゝぎす初松魚

    (時候、人事、動物)  めでたさや星の一夜も朝顔も

    (天文)  独楽 我舞て我に見せけり月夜影

    (植物 除蕣(むくげ)、芒、菊、茸)  石山 雲なかば岩を残して紅葉せり

    (天文、植物ナシ)   烏巾を贈る 唐(もろこし)のよしのゝ奥の頭巾かな

    (天文、植物)  天の原よし原不二の中行(なかゆく)時雨哉

 

32.    加賀 趙北枝 (立花北枝。蕉門十哲の一人。加賀国小松町の生まれ。刀研ぎを業とした。『奥の細』の旅で金沢を訪れた芭蕉に兄牧童とともに入門。享保3512日没)

    (生物ナシ)  元日や畳の上に米俵

    (動物)  田を売りていとゞ寝られぬ蛙哉

    (植物 桜花ナシ)  七草や唱歌ふくめる口の内

                         問ひ残す歎きの数や梅の花

    (桜、花)  白妙に花や桜の枝くばり

          焼にけりされとも花は散すまし 

(1690、金沢に大火があり、類焼した際の句。「かゝる時にのぞみ、大丈夫感心」と、芭蕉らから称賛)

    (動物なし)  破鐘(われがね)のひゞきもあつし夏の月

    (動物)  時鳥啼いて入りけり南禅寺

                         さひしさや一尺消えて行く蛍

    (天文)  垣越の山や松たけ露しくれ

                         子を抱いて湯の月のそくましら哉

    (植物)  蕣(あさがお)はさきならへてそ凋(しぼ)みける

                         川音や木槿さく戸はまた起す(まだ起ず)

    (天文、植物除)  魂祭甥のゐたらば茶のかよひ

                         さむしろやぬかこ煮る夜のきりゝゝす

    (天文)  しくれねば又松風のたゞおかず

    (天文除)  買ひに来る人はこなすや大根畑(だいこんばた)

辞世  書いて見たりけしたり果はけしの花

 

33.    紫藤軒言水 (池西言水(いけにし ごんすい)「木枯の言水」とも呼ばれ、彼の凩と海の句にならって、夏目漱石芥川龍之介も凩と海の句を詠んでいる。大和国奈良に生まれる。享保49)

    (時候、器物、飲食)  元日や聟(婿)の肴の網代守

    (人事、人倫)  歯固やとは云さして水の恩

歯固めとは:お正月に鏡餅や大根、干し魚などの硬いものを食べ、歯を強くして長寿を願う宮中の年中行事が民間へ広がったものです。

言葉を「言いさした」理由:お正月のめでたい行事をお祝いしようとしましたが、ふと「そもそもこの食べ物も、私たちの命も、すべては水のおかげで成り立っている」という根本的な自然への感謝の念(水の恩)が湧き起こり、言葉を途中で止めて感嘆している様子を描いています。

    (花 除桜)  神帰り其座や袖の花鎭

花鎮(はなしずめ)とは、桜の花が散る頃に疫病の流行を防ぐため、神様をまつって悪疫を鎮める古代からの伝統的な祭祀(鎮花祭)のこと

    (春草)  福寿草一寸ものゝ始なり

                         菜の花や淀も桂もわすれ水

     (時候、器用、人倫、衣服)  君来()すは翌(あす)吹蚊帳の不二颪(おろし)

    (動物 鵑除)  玉水や榮螺(さざえ)から啼閑古鳥

    ()  忘れ草後家の寝覚や若牛房

忘れ草(わすれぐさ): ヤブカンゾウなどの植物のことで、身につけると「憂いを忘れる」という伝説があります。ここでは、夫に先立たれた「後家(未亡人)」の寂しさを象徴しています。

若牛房(わかうぼう): 初夏に採れる若いゴボウのことです。みずみずしく、力強い生命力を感じさせる秋の季語

    (天文)  白露のしらけ仕舞や淀の水

    (植物)  七草に酢味噌のがれて秋の花

    (人事、人倫、器用)  (ろ、囲炉裏)の眠り波こそ聞かね須磨明石

凩の果てはありけり海の音

 

34.    久松蕭山 (松山藩家老。俳諧を松山に広めた。後に、子規から「伊予未曾有の俳人」と評される。享保41025日没)

      出替に都司王丸の葛籠(つづら、荷物入れ)

出替(でがわり):江戸時代、奉公人の交代は主に3月(旧暦)に行われ、春の風物詩

都司王丸(つじおうまる):説経節の『石童丸(いしどうまる)』や、謡曲『苅萱』に登場する幼子の名前(一般的には石童丸として知られますが、別名やバリエーションとして都司王丸とも呼ばれます)。父を探して高野山へと旅をする、哀れで健気な子供の代名詞です。

      留別(りゅうべつ、旅立つ人の別れの言葉) 目にのこる桐の葉分のなこり哉

 

35.       天野桃鄰 (伊賀上野生まれ。芭蕉直門で芭蕉の血縁者とされる俳人。芭蕉の従兄弟か甥。杉山杉風とともにかるみの句を求めた。享保4年12月没)

      七草のあとの拍子や鳥の骨

      祓川 欲垢(よくあか)のをちこち人やはらひ川

      道くたり拾ひあつめてかゝし哉

      初雪や人のきげんは朝の内

 

36.    膳所 曲翠 (菅沼曲水。本名は菅沼定常、通称外記。膳所藩の重臣。近江蕉門の俳諧師の中で、最も芭蕉に信頼された門人。膳所藩の中老中。享保5720日没)

      梅咲くや臼の挽木(ひきぎ、取っ手)のよきまがり

         念入れて冬からつほむ椿哉

      若楓茶色になるも一さかり

         思ふ事たまつてゐるか蟇(ひきがえる)

         夏山や 庵を見かけて 二曲り

      剃立(そりたて)しつふり(つむり、頭)あはれに秋の風

      水仙や練塀われし日の透間

 

37.    江左尚白 (医師近江蕉門。本名は江左大吉。伊勢の生まれ。近江蕉門の古老として活躍享保77月没)

    (天文植物ナシ)  雉の尾に春風ゆらく日影哉

                                鶯や 雑煮過ぎての里つヾき

                                北はまだ雪であらうぞ春のかり

    (植物、天文)  山桜三里あなたは都なり

                         一枝は折らぬもわろし山桜

                         山里に喰ひ物しひる花見哉

    (地理生物ナシ)  此頃の肌著身につく卯月かな

                         此頃は小粒になりぬ五月雨

    (地理生物)  小川にもならで流るゝ清水哉

                         時鳥けふに限りて誰もなし

      新米のもたれ心や秋のくれ

         をさな子やひとりめしくふ秋の暮

         菜畠や二葉の中の虫の聲

    (人事、植物ナシ)  十月や余所へも行かず人も来ず

                                凩や里の子覗く神輿(みこし)部屋

                                道ばたに多賀の鳥居の寒さ哉

    (人事、植物)  餅染めて是そ信あり御命講

御命講(おめいこう):日蓮宗の開祖である日蓮聖人の忌日法要(1013日)のことです。

餅染めて:御命講のお供え物として、赤や緑に染められた「お会式(えしき)の餅」を作る様子

是そ信あり:これこそが厚い信仰心の表れである、という意味

 

38.    伊藤信徳 (京都の優雅な商人の子。貞門派の門人。後に談林派に転じ江戸にて芭蕉素堂らと親交。京都における代表的な俳諧師に。享保7(元禄11)11月没)

      若やかん嫁菜になれて干大根

      涼しさは葛のいろなり水茶碗

      名月は豆麩売る夜のはじめ哉

      (据え)風呂や庭にしばしの冬構

 

39.    本願寺千那 (三上千那。近江蕉門浄土真宗本願寺派住職。享保84月没)

      逢坂のかたまる頃や初桜

         それゝゝの朧のなりや梅柳

         痩藪やつくり倒れの軒の梅

      しからきや尉か家督の山いちこ

信楽の伝統的な焼き物である「尉(じょう、翁)の面(または置物)」の古びた、渋いイメージを「家督」(家の中心)と表現しました。そのモノトーンで寂れた背景の中に、自然の恵みである野生の「山苺」の鮮やかな赤色がぽつんと光る、見事な色彩の対比を描いています

         南都旅店 誰のそく奈良の都の閨の桐

         軒近き岩梨折な猿の足

         舟引の妻の唱歌か合歓の花

      山鳥をやすめて鷹の別れ哉

         高燈籠昼はものうき柱かな

      忍ぶ夜の踵こそはき木の葉かな

「踵(くびす)」はかかと。「はき」は「掃き(集める)」と「履き(踏む)」が掛けられている。静まり返った夜、誰にも見つからないように歩こうとすればするほど、カサカサと鳴る木の葉の音が大きく聞こえる心理的な緊張感を見事に捉えた一枚の絵のような句

         いつまでか雪にまぶれて鳴く千鳥

         しくれ(時雨)きやならびかねたる魦船(いさざぶね)

         水涕に誠見せけり御取越

水涕(みずはな):寒さなどで垂れてくる、サラサラとした鼻水のこと。

誠(まこと):嘘偽りのない本心の信仰心、真心のこと。

御取越(おとりこし):浄土真宗で、宗祖・親鸞の命日(報恩講)を、本山より一足早く各寺院や家庭で日を繰り上げて(取り越して)行う法要のこと。主に冬の季語

 

40.    竹青堂正秀 (水田正秀。近江蕉門菅沼曲水の伯父。江左尚白に師事。金銭面などで芭蕉を支援。義仲寺内の「無名庵」は正秀が中心となり支援し建てたもの。享保8年没)

      刀さす供もつれたしけさの春

         なくりても萌立つせわや春の草

         春の日や茶の木の中に小室節

         畴道(あぜ?)や苗代時の角(つの)大師

     

    (人事、動物なし)  日の岡やこかれて暑き牛の舌

                         夕立や中戻りして蝉の聲

    (人事、動物)  黙礼にこまる涼みや石の上

                         猪にふきかへさるゝ照射哉

「照射(ともし)」は、夏の夜に篝火(かがりび)を焚いて鹿の目を光らせ、そこを狙って捕らえる昔の鹿狩りの方法を表す夏の季語

                     月待つや海を尻目に夕涼

      精出すや月の名残を鳴くいとゞ

「いとど」とは:現在でいうカマドウマやキリギリスの仲間を指します。暗く湿った場所にいる地味な虫ですが、それが「精を出す(一生懸命に力を尽くす)」と表現されることで、小さな生命の力強さと哀愁が際立ちます。

       蔵売りてさはるものなき月見哉

自分の蔵が類焼した際正秀が「蔵焼けて さはるものなき 月見哉」と詠み平然としていたことを松尾芭蕉が聞き、「是こそ風雅の魂なれ」「その者ゆかし」と言い、便りを行き来することになり、師弟の契りが結ばれた

       飛入りの客に手をうつ月見哉

       澁糟や烏(からす)もくはず荒畑

      (やり)持の猶ふりたつるしくれ哉

 

41.    園女 (斯波園女(そのめ)伊勢国出身。剃髪後は智鏡。前句付けの雑俳点者として活躍。享保11420日没)

      色あひもわかつに春の夜明哉

         緑子(みどりご)を頭巾て抱ん花の春

      當麻の曼陀羅を拝みて 衣がへ自ら織らぬ罪深し

         衣更えわざと隣の子をだきに

      はつれゝゝゝ粟(あわ)にも似さる薄哉

      ある程のだて(お洒落)しつくして紙子(紙の衣服)

         大根に実の入旅の寒さ哉

辞世 秋の月春の曙見し空は夢か現かなむあみだ仏

 

42.    水間沾徳 (せんとく。号は合歓堂。享保期の江戸俳壇の中心)

     

    (人事、器物、動物)  引付は是薬なり医師の格

    (桜、花)  菜をくひにこんといひつゝ初桜

     

    (植物ナシ)  身にしむと妻や云出て天の川

    (植物)  朝顔や筆匂ひなき松花堂

     

    (時候、天文)  冬立つや御所柿の手にひゆる程

 

43.    琴風 (難波出身。享保1227日没)

    (生物ナシ)  若衆かな袖は鎧へ花の春

    (生物)  旅行恋 乗掛にそゝろうけとや猫の娵(よめ)

      ふんぬいて風邪引夜半そ時鳥

      鑓持のふりまはさるゝ野分哉

      葛枯れて壁をぬりたす菴哉

辞世   一息にこの味はひぞ春の水

 

44.    高野百里 (江戸の魚問屋芭蕉,嵐雪師事享保12512日没)

      くゝ立や五條あたりの妾(かこいもの?)

      やね洗ふものとさめきや祇園の会

      (朝顔?)や片庇なる玄関前

      かたまらぬ風に足あり薄氷

 

45.    服部土芳 (享保15118日没)

 

芭蕉と同郷の後輩で、蕉門十哲1人に加えられることもある。土芳を中心に伊賀蕉門は大きく発展。

 

 

      七色に若菜つみ出す雪間哉

      卯の花の葉は持ちなから笹の垣

      曙や稲妻戻る雲の端

      冬梅の一つ二つや鳥の声

         小男(さお)鹿の重なりふせる枯野哉 (『猿蓑』に所収)

 

46.    支考全集 (各務支考。蕉門十哲の一人。美濃国出身。後年、美濃派の育成に努めた。芭蕉の遺書を代筆。享保1627日没)

    (植物除)  梅か香の筋に立よる初日哉 (『炭俵』所収)

                         鶯の肝つぶしたる寒さ哉 (『続猿蓑』所収)

                         春雨や枕くつるゝ謡ひ本 (『続猿蓑』所収)

    (植物)  椿ふむ道や寂寞たるあらし

    (時候、天文、飲食)  鶯や笠出来かねて四月まで

    (人事 除飲食)  西行も娘持ちてやころもがえ

    (動物)  子規なくやちらりと鏡山

    (竹、木)  子規きかす顔にや若楓

    (草 竹除)  里の子か燕握る早苗哉

    (天文)  秋風もまだそよめかすばかりなり

    (動物)  帷子(かたびら)の重ね著したか秋の蝶

    (植物)  黍(きび)の葉もそよきて浦の朝茶哉

                         野に死()は野を見て思へ草の花 (『越の名残』所収)

    (天文、生物除)  燈籠やいつくしま山波の花

    (天文)  初霜や蘆折れちかふ濱堤

    (天文除)  はせを忌 年々や御意得るたびに初時雨

      歌書よりも軍書に悲しよしの山

 

47.    鯉屋杉風 (杉山杉風蕉門十哲の一人。通称は市兵衛。名は元雅。別号は採荼庵など。隠居して一元。江戸日本橋の魚問屋の長男。家業は幕府御用を務めた富商で、屋号は鯉屋。蕉門における最古参格であり、芭蕉の後援者として、所有する深川六間堀の芭蕉庵を提供するなどの経済的援助をした。享保17613日没)

    (植物除)  春雨や鶯はひる石燈籠

            ふり上る鍬の光や春ののら

 

    ()  紅梅は娘すまする妻戸哉

    ()  風なくて静過たり藤の花

    (植物除)  蝉の声やおさへて通る山颪(おろし)

    (植物)  橘や定家机のありところ

                     うの花にはつとまはゆき寝起哉

      我立り螽(いなご)飛野(とびの)の犬かくれ

かつくりとぬけ初()る歯や秋の風

    (時候、天文)  年のくれ破れ袴の幾下り(いくくだり、襞)

襟巻に首引き入れて冬の月

    (時候、天文除)  冴初める鐘そ十夜の場の月

 

48.    陸奥 内藤露沾 (ろせん。内藤義英。陸奥国磐城平藩世嗣。俳号は露沾。麻布で隠居生活を送る。享保189月没)

      就中やしほの見ゆる木芽哉

         梅咲て人の怒の悔もあり (『猿蓑』所収)

      名聞(みょうもん、世間体)をはなれずもあり更衣

      初鮭や九重の空を最上川

      鎌倉の僧事とはん冬の梅

 

49.    椎木才麿 (しいのもとさいまろ。本姓は谷氏か。大和国生まれ。井原西鶴に師事。生涯を大阪で過ごす。大阪俳壇での地位を固める。元文312日没)

      病中 つくゝゝと絲遊や気のむすほゝれ

      衣かへ壁に詩を書く御浪人

      月に親しく天帝の壻(むこ)に成たしな

      時雨ふり黒木になるは何々そ

 

50.    平泉鬼貫 (上島鬼貫(うえじまおにつら)。晩年は平泉惣右衛門と名乗る。摂津国伊丹郷でも有数の酒造業者・上島宗次(屋号・油谷)の三男。西山宗因の談林派に入門。河東碧梧桐が忌日の「鬼貫忌」を秋の季語とした。元文3年閏82日没)

    (天文、地理、人事、器用) 骸骨を乞て郡山を立出る名残に たよりなや笠ぬく後の春の雨

    (時令)  春立や星の中から松の色

    (動物)  鶯が梅の小枝に糞をして

    (花 桜除)  花の頃扇さいたり諸職人

    (桜 花ナシ、梨、桃)  日よりよし牛は野に寝て山桜

    (植物 桜、花、梨、桃除く) 高砂住の江を写し蒔たる盃に のめやうたへ神の連理の若緑

    (時令、人事、器物、飲食)  冬はまた夏がましぢやといひにけり

    (天文、地理)  五月雨たゝなるものと覚えけり

    ()  3人をかきたる画に 時鳥馬追船頭お乳の人(おちとのひと、乳母)

    (動物 除鳥)  我昔ふみつふしたる蝸牛

    (植物)  はせをの庵を尋ねて 我に喰せ椎の木もあり夏木立

    (時候)  なんで秋の来たとも見えず心から

    (人事、地理)  人の親の来るとはかりや魂祭

    (天文 月ナシ)  によつほりと秋の空なるふじの山

    ()  影法師に心をわくる月見哉

    (動物)  行水のすて處なき蟲の聲

    (植物)  桐の葉は落ても下にひろかれり

    (天文、地理)  しくれても雫短し天王寺

    (生物)  なんと菊のかなくられうそ枯てたに

    (天文、地理、生物除)  大磯 虎御前今はつめたし石の肌

曽我兄弟の仇討ちで知られる曾我祐成の恋人・遊女虎御前が、のちに石と化したという伝説のある「虎が石」に触れ、冷たくなった石の肌(感触)に、虎御前の悲しみや時の流れをしみじみと感じている句

 

51.    志多野坡 (しだやば。蕉門十哲1人、「軽み」の俳風では随一。越前福井の生れ。蕉風を上方や九州に普及させるため、積極的に行脚を行った。元文元年1月没)

    (植物除)  春立や捨しは捨し世に似たり

    (梅、桜)  恋 振袖のちらと見えけり闇の梅

    (植物 梅、桜除)  五人扶持とりてしたるゝ柳哉

      郭公顔の出されぬ格子哉

      盆の月寝たかと門を叩きけり

      此頃の垣の結目や初しくれ

 

52.    尾張名古屋 露川 (藤屋。ろせん。名古屋蕉門の一人。澤氏。通称藤屋市郎右衛門。伊賀友生村の出身、名古屋に出て、数珠商として財をなす。季吟の門下から、蕉門に入る。芭蕉の死後、剃髪して諸国行脚を始め、蕉門拡大に腐心。享保3年没)

      笠ぬひの里いそがしや帰る雁

      時鳥夜や明け残る藪のうら

      草の葉に出て鳴け壁のきりゝゝす

      (ほた)の火やあたゝかに啼く蟋蟀(きりぎりす、当時はコオロギのこと)

 

53.       盧元坊里紅 (本名は佐野与兵衛。各務支考の門人。美濃派(獅子門道統)三世。美濃国生まれ。美濃から越前・加賀・能登・越中に俳諧行脚。延享4510日没)

      鶯のいくつもすてゝ初音哉

     

    (生物ナシ)  濱屋浦 あをむけは鳥うつむけは釣すゞし

    (動物)  掃いて待つけしきや雲に時鳥

    (植物)  橘の香は窓近し茶の通ひ

      世を蔦の葉ともはゝでや平家蟹

平家は壇ノ浦の戦いで滅び、その怨念が蟹の甲羅になったという伝説があります。しかし、目の前を生きる平家蟹そのものは、過去の悲劇や世の無常(蔦の葉)などどこ吹く風で、ただ自然のままに力強く生きています。その対比がユニーク

      朝起の火打に飛ふやみそさゝい(極小の鳥)

 

54.    菊岡沾涼 (俳人、作家。伊賀国生まれ。祖父伝来の婦人薬女宝丹、二日酔い薬清酲散を販売して生計を立てる傍ら、内藤露沾門下で俳諧を学び、江戸座で精力的に俳諧活動を行った。しかし、露沾の死後俳壇で孤立し、後世にはむしろ『江戸砂子』等の地誌、説話集の著者として名が知られる。延享310月没)

      うき立つや花のうろこのしのゝ梅

      人の和はすぐなり竹の若ざかり

      駕籠かゆるふり分け坂や蔦かつら

      ぬか星のこほるゝ音か遠千鳥

辞世   葉は茎はよし枯るとも薄の根

 

55.    素丸 (溝口素丸。幕臣,書院番。長谷川馬光の門人其日庵(きじつあん)3代をつぐ。葛飾派の勢力をきずいた。門人に小林一茶ら。江戸出身。宝暦元年51日没)

      土べたに子を這せおく菜摘哉

      足軽の見附を出たり衣がへ

      星合や母のつたへし硯箱

      干網は時雨のさきのくもり哉

 

56.    羅人 (山口、京都で出版を業とする。松木淡々にまなぶ。近江出身通称は柊屋甚四郎。別号に蛭牙斎(しつがさい))

      冬そ来ぬ障子に雨の影法師

 

57.    千翁不角 (立羽不角。松永貞徳の流れを汲む岡本不卜門下、貞門派を一歩進めてより通俗的な句風を志向。他派からは化鳥風と揶揄された。法橋の地位を賜った。宝暦3621日没)

    (植物ナシ)  天を父とし地を母とす我末子人にしたししたし 雨露甘し驕かさるゝ親子草

    (植物)  三日月は梅にをかしきひすみ哉

      時鳥様と申つめといひつ

     

    (天文ナシ)  初秋を脈の動きにしられけり

    (天文)  稲妻にかくさぬ僧のやとり哉

      初雪よ寒いと申咄なし

辞世   空蝉はもとの裸に戻りけり ほか

 

58.    前田青峨 紫子春来 (江戸の人。鴛田(おしだ)青峨門人2代青峨をつぐ江戸俳諧の伝統誇示古風復活をはかって「東風流(あずまぶり)」を編集,刊行。別号に春来,紫子庵。宝暦9416日没)

      元日や田面をかけて鳥の声

      葛飾に住て 葛飾の蚊にまかせたる此身かな

      荻野澤之亟追善 関ならば帽子の人目澤桔梗

      月か梅か夢かとばかり雪の影

 

59.    京 田川移竹 (京都の人。向井去来に私淑。天明調先駆者別号に初来川,烟舟亭。宝暦10913日没)

      行雁の足からこぼす涙哉

      福禄寿自讃 夕立は人より早き天窓哉

      旅中佳節 馬の背の高きに登り蕎麦の花

      抱た子に手拭掛くる時雨哉

 

60.    浪花 松木淡々 (実家は大坂西横堀の阿波屋。江戸に出て立羽不角および榎本其角に師事。その後、京都や大坂において半自庵流と呼ばれる俳諧風で人気を得た。宝暦11112日没)

    (歳旦)  臘月17日立春 年の内に日光はさぞはつ霞

    (時候 除歳旦)  恢復の吟 日を積や帆を待つ四海浪の春

    (人事、器用、飲食、地理)  今日買んむくらか(粗末な)宿の雑煮椀

    (天文)  春風や苫をも明の寒山寺

    (動物)  寝ぬ夜寝て榊に雞の初音哉

    (梅と天文、生物、地理) 大般若ふもとはうつゝ梅の花

    (梅 除天文、生物、地理)  髪小袖そしり初めや所々の梅

         梅の花こたへて曰く梅の花

淡々が門外不出とした句。「梅」が「有無」の問いに答えている(有無=うむ=梅)という言葉遊び・掛詞の意が込められており、死後にその深意が知れ渡りました。

    (桜 花ナシ)  言水御霊奉納 御霊(みたま?)たるゝや町と山桜

    (花と天文、生物、地理、除桜)  二軒茶屋にて つまくしの眞葛たまりや木々の花

    (花 除桜、除天文、生物、地理)  伊勢日記 僻言のなくてそ見たし木々の花

    (桃、李)  けふ咲む加田の伏家の桃の花

    (木 除梅、桜、桃李)  道明寺奉納 天の道明のつゝみや松の花

    ()  探題 寄空草 初窓を見るや福寿の草枕

    

    (時候 暑、涼ナシ)  伊勢参宮 法楽五月吟 幣とれば額に余る寒さ哉

    (熱、涼)  南紀分光父におくれたるに 蘆暑くわかれの浦と月や見ん

    (人事、天文)  月の芽も春脱く山の衣哉

    (器用、衣服、人事、飲食、地理)  寒垢離(かんごりの行)の人に戻りて袷哉

    (鵑と天文、生物、地理)  子規たゞ雞の羽音かな

    (鵑 除天文、生物、地理)  一聲を聞くや四月のもゝの味

    (動物 除鵑)  蛍谷船中 掃よせて折るや蛍の花もみち

    (木、竹)  妾薄命 実は採られ剪るゝ梅の茂り哉

    (草 除竹)  茹毛一周忌 松阪の産生涯好色の人なり 此人の伊勢物語苔の花

    (時候)  残暑 蒸殺す飯にもならず女郎花

    (人事)  から崎や松に妻こず星一夜

    (天文 月ナシ)  鹿の耳はしめて立か天の川

    (明月と天文、生物、地理)  名月や花も紅葉も浮きさゝる

    (明月 除天文、生物、地理)  病夜 おほつほの近江の君と月見哉

    (秋月と天文、生物、除名月)  暗夜船中吟 又床し月の病のひとつまつ

    (秋月 除名月、除天文、生物)  74日未土用也三本木の水閣に遊ぶ

         探題 神楽岡半月         初月や夜は夏なれや短山

    (動物、木) 蜘(くも)柳また散る桐の船あそび

    (草 芒、菊ナシ) 題蕃椒(とうがらし) 喰ならふ王昭君(中国古代の四大美女の一人)が泪かな

    (薄、菊)  うれしさの五寸に足るや花薄

    (時候 歳暮ナシ)  力なく花見る鹿の寒さ哉

    (歳暮と天文、生物、除師走)  卵胡桃ともに道あり年の坂

    (歳暮 除師走、除天文、生物)  袋絵の襞なき年も一夜哉

「袋絵(ふくろえ)」: 七福神(特に大黒天や恵比寿)が描かれた袋や、大晦日の夜に枕の下に敷いて良い夢を見るための「宝船の絵(獏の絵などが入った袋)」などを指す。

「襞(ひだ)」: ここでは絵に描かれた神様の顔の「シワ」や、衣服の「折り目」を意味。

    (人事、器用、天文、地理 時雨雪ナシ)  

             瓢の炭取に名を付山賊と號く 炭二人留守預るや駒か家

    (時雨と天文、生物)  ふり向きし鹿を包むやむらしくれ

    (時雨 除天文、生物)  嗅洞の藻蟲亭に遊ふ 我いろをこほして軒の時雨哉

    (雪と天文、生物)  偶成 蓮に羽の雪をはこふや風の鷺

    (雪 除天文、生物)  初雪や波のとゞかぬ岩の上

    (生物)  小春之唫() 木々散るや日の趣は若緑

     富士山の自画讃 月を呑み日を産む山の富貴哉

辞世   朝霜や杖で画きし富士の山

 

61.    活井旧室 (別号:笠家旧室。笠家逸志に師事し笠家旧室と名乗り、独立し活井旧室。江戸の人。江戸談林派中興に尽力。奇行で知られ逸話が多い。明和2年冬没)

      日本紀や天地一枚明の春

      ()のうすひ峠や時鳥

      (森岡?)貞佐一周忌 佛手柑(ぶしゅかん)や去年の砂糖もから衣

      しくれきやこの葉かれひのうら表

 

62.    八楽庵米仲 (江戸座の俳人。本名は岡田米仲。江戸の俳諧で宗匠として高い人気を誇り、数多くの足跡を残す。明和3615日没)

     

    (生物ナシ)  元日や殿を見はやす烏帽子折

    (生物)  梅かゝや草紙に風のふくみやう

     

    (動物なし)  山くちにつもる煙や五月雨

    (動物)  けふ有てなしの一字や初鰹

     

    (天文、動物)  貞佐一周忌 おく露の主は卒都婆の垣ね哉

    (天文、動物除)  伊達染めの四つ過なるに踊哉

     

    (天文、生物、地理)  今年より疝気(せんき、下腹部の痛み)覚えて初しくれ

    (天文生物地理除)  世の中の木綿羽織や夷講

 

63.    小菅蒼狐 (こすげそうこ、江戸の人。亀戸天神15000句を奉納し、五千堂と称す。明和3116日没)

     

    (地理植物ナシ)  聟(むこ)えらば春立つけふの人通

    (地理、植物)  波風は松に乾かぬ汐干哉

     

    (生物ナシ)  息次に柳の見ゆる夏野哉

    (生物)  口たゝくものゝ淋しき水雞哉

      又招く源の内侍(ないし)や枯尾花

     

    (天文動物ナシ)  一夜つゝ十夜はさゆる月夜哉

    (天文、動物)  片時雨小春の色を染分けぬ

 

64.    白井鳥酔 (ちょうすい。本名は喜右衛門信興。上総国埴生郡の郷代官から帰農。剃髪して江戸に出る。芭蕉関係の資料発掘や紹介に勤し、鴫立庵と称して移住。五七日に集った門人たちは鳥酔の遺歯を分け合って、鳥酔と関わりのあった土地に供養することをそれぞれ約束し、現在でも鳥酔の供養塚がゆかりの地に残されている。明和544日没)

     

    (生物ナシ)  海近し朝日のもとは江戸の春

    (生物)  ある時は根笹にあけて猫の恋

     

    (生物ナシ)   我膝を叩いて見たる袷哉

    (生物)  雨雲にもまるゝ夜あり時鳥

    (生物ナシ)  稲妻や野中の杉に行きあたり

    (生物)  鹿の聲ある夜は川を越えて来る

      海までは色なき野なりけさの雪

 

65.    不夜庵太祇 (炭太祇(たん たいぎ)。出身は江戸。島原遊郭(京都)の桔梗屋呑獅の庇護を受け、不夜庵を営んで芭蕉を祀る。明和期には与謝蕪村の三菓社結成に参加。秋の島原を舞台に灯籠を飾る行事を復活させたとされる。明和889日没)

     

    (時候)  目を明いて聞て居るなり四方の春

    (正月の人事の内 年玉、七草、やぶ入、萬歳)  年玉や杓子数そふ草の庵

杓子数(しゃくしかず): 1ダースが12個であるように、杓子(おたまやしゃもじ)は昔、1束「60本」を単位として数えられていました。そのため「杓子数」は「60」という数字の隠語・お決まりの表現(数え方)です。

    (正月人事 除年玉、七草、萬歳、やぶ入)  朱を研や蓬莱の黄精人間に落つ

蓬莱山(仙人が住むという伝説の霊山)に生えている、不老不死の霊薬である「黄精(おうせい)」が、こちらの人間世界(俗世間)に落ちてきた。まるで、その霊薬をすり潰して、鮮やかな朱色の絵の具を研ぎ出しているかのようだ

    (二月人事 雑人事)  出代や朝飯すわる胸ふくれ

    (三月人事)  花喰や雛に対して酔狂ひ

    (天文の内 風、雪)  東風吹や道行人の面にも

    (天文 除風、雪)  つきねふの山睦しき霞哉

つぎねふの:「山背(やましろ/のちの山城国、現在の京都府南部)」に掛かる枕詞です。山々が次々に連なっている様子に由来する

    (地理)  朽もせぬ落葉に澄や春の水

    (鳥獣)  鶯の目には籠なき高音哉

    (動物 除鳥獣)  蛙居て鳴くや浮藻の上と下

    (木 桜ナシ)  梅活けて月とも侘んともし影

    (桜、花)  ちる花の雪の草鞋(わらじ)や二王門

    (花 草)  小書院の此夕暮や福寿草

    (春草 除花草)  芹の香や摘みあらしたる道の泥

    (時候)  短夜や雲引きのこす不盡の山

    (定期人事)  新茶煮る曉起きや佛生會

    (人事の内 衣服、飲食)  いとほしい痩子の裾や更衣

    (人事の内 蚊帳類、扇類)  蚊屋に居て戸をさす腰を誉(ほめ)にけり

    (人事の内 田植、蟲干)  やさしやな田を植るにも母の側

    (人事 除定期人事、衣服、飲食、蚊帳、扇類、田植、蟲干)  能く答ふ若侍や青簾

    (五月雨、虎雨)  五月雨の漏りて出て行庵哉

「虎雨(とらさめ・とらがあめ)」とは、陰暦528日に降る雨のこと

由来は、同日、曽我兄弟が父の仇である工藤祐経を討ち果たしましたが、その際、兄・十郎祐成が討ち死にし、その恋人であった大磯の遊女・虎御前が彼の死を悲しんで流した涙が、毎年この日に雨を降らせるという言い伝えにある。

    (天文 除五月雨、虎雨)  橋落て人岸にあり夏の月

    (地理)  独り言いふて立ち去る清水哉

    (動物 蠅、蛍、蝸牛ナシ)  思ひもの人にくれし夜時鳥

    (蠅、蛍、蝸牛)  蠅を打つ音も厳しや関(関所)の人

    (木、竹、野禾)  高麗人の旅の厠や夏木立

    (草 除竹、野禾)  岩角や火縄すり消す苔の花

     

    (時候 秋夜、暮秋ナシ)  初秋や夕立長びく夜の雨

    (秋夜、暮秋)       長き夜や得手へもどりし無分別

    (定期人事、踊)  七夕や家中大かた妹と居す

    (人事 除定期人事、踊)  著ものゝ失てわめくや辻すまふ(相撲)

    (月、露)  名月や舟なき磯の岩つたひ

    (天文 除月、露)  月入て闇にもなさす銀河

    (地理、動物)  岩倉にて雨にあひ金亀寺大徳の情に一夜の舎り免され嬉しと這上りて

                            笠ぬけは鹿の聞度夜とぞなる

    (木、菊)  舟よせて見れは柳の散日哉

    (四草、蘭)  一夜とめしけさや板間のこほれ萩

    ()  大根も葱もそこらや蕎麦の花

(草 除菊、四草、蘭、禾)  (笠ぬけはの句の続き)南谷山人の書の額あり薬師の宝前に二種の草あり 南無薬師薬の事もきく桔梗

     

    (時候)  それゞゝの星あらはるゝ寒哉

    (神仏事、冬籠)  達磨忌や宗旨代々不信心

    (衣服、飲食)  紙衣著てはるゝゝ来たり寺林

    (蒲団、煖器)  蒲団著てこよひ寝初る汐路哉

    (歳晩人事)  夢殿の戸へな障りそ煤拂

    (人事、除神仏事、冬籠、衣服、飲食、蒲団、煖器、歳晩人事)  爐開や世に遁れたる夫婦合

    ()  狩人の鉄砲うつや雪の中

    (天文 除雪)  玄関にて御傘と申時雨哉

    (地理)  たのみなき若草生ふる冬田哉

    (動物)  帰来て夜を寝ぬ音や池の鴛(おし?)

    (植物)  掃けるか終には掃す落葉哉

        弥生の末雅因か嵯峨の新築を行き見るに元の竹林にあらずさまをかしう造りなしたり 住みけりな五器洗う水もありす川

 

66.    建部涼帒 (建部綾足。俳人小説家国学者絵師片歌を好み、その復興に努めた。別号に凉袋など。陸奥国弘前藩家老の次男として江戸に生まれる。父方の祖母は山鹿素行の娘。建部氏は吉良義央の遠縁。江戸浅草に吸露庵を構え、俳号を凉袋に改めて立机。賀茂真淵に入門。歌道の冷泉家に入門。安永3318)

      浦の春千鳥も飛ばず明けにけり

      こきまぜて桜も淋し枯柳

 

67.    千代 (加賀千代女。は草風、法名は素園。朝顔を多く詠っていることから、出身地の加賀国松任(現・白山市)では市の花に選ばれた。白山市では市民による朝顔の栽培が盛んで、同市が毎年開く千代女あさがおまつりで花の出来映えが競われている。白山市中町の聖興寺に、遺品などを納めた遺芳館がある。1,700余の句を残したといわれている)

    (動物、除鶯、雲、雀、燕)  蝶々や何を夢見て羽ねつかひ

     

    (人事、除四月人事)  降らいてもぬるゝ名のある菖(あやめ)かな

    ()  雞の聲つもりし耳や時鳥

    (草 除牡丹、杜若、紅、花、竹)  婦人の追悼 その別れ萍(うきくさ)の花芥子の花

     

    (時候)  是こそと何も見そめすけさの秋

辞世   月も見て我はこの世をかしく哉

 

68.    左簾 (笠家左簾(初代)。されん。江戸新吉原の娼家主人談林派に学ぶ。江戸宗因座の点者をつとめた。別号に鴨之,素湯庵)

      しら雪やつくゝゝ黒き鐘の聲

 

69.    無為庵樗良 (三浦樗良(ちょら)。別号に無為庵など。志摩国鳥羽城下の生まれ。伊勢派に近づき「我庵」で自風を確立。その後京都木屋町に無為庵を薄し、与謝蕪村周辺とも交流があった。中興期俳諧の一翼を担い、俳諧中興の六客の1人に数えられた。安永91116)

     

    (時候、人事)  歳旦 あめつちやけにもはえある春の色

    (天文) 相模の國片瀬の里に春を迎へ江の嶋山に神路山を思ひよせて ふるさとの伊勢猶恋し初日影

    (動物) 鶯の古聲したふ初音哉

    (梅と天文…建築)  谷口や心すゝしき梅の花

    (梅 除天文…建築)  白梅や春ことに見てめつらしき

    (桜花 天文…神人)  雨風のあらきひまより初桜

    (桜花 除天文…神人)  桜散る日さへ夕となりにけり

    (植物 除梅桜)  先つ春の心を染むる柳哉

     

    (時候)  剃髪 我袖にこよひ五月の嵐哉

    (人事)  春を惜む心の外に衣かへ

    (時鳥 除天文生物地理)  時鳥あやしく過ぐる初音哉

    (動物 除鵑)  世をいとふ我はつかしや閑古鳥

    (植物)  芥子の花間に雨ふる垣根かな

     

    (時候 初秋 暮秋)  かくこそとわかて今朝より秋の雲

    (時候 除初秋 暮秋)  最上川 秋涼し雨の過ぎ行く雄がみ川

    (人事)  逢ふ夜とてめでたき星の光哉

    (天文 月ナシ)  盂蘭盆 なき魂の我身にそふる秋の風

    (明月、十六夜、後月、三日月)  名月やけになさけありあはれあり

「後の月(のちのつき)」は、旧暦913夜の月(晩秋)を意味する、日本の伝統的な秋の季語

特徴:中秋の名月(旧暦815日)の約1か月後に巡ってくる月。満月の2夜前で少しだけ欠けていますが、十分美しく、昔から大切に愛でられてきた。

別名:十三夜、名残の月、豆名月・栗名月(収穫した豆や栗を備えるため)、女手形(十五夜の「男手形」に対し「女手形」「女名月」とも呼ばれる)。

    (月 除名月、十六夜、後月、三日月)  宇宙やくもりも果てず秋の月

    (動物)  秋の蝉すくる月日を鳴く音哉

    ()  あはれさに折て持ちけり花木槿

    ((あさがお)、菊)  朝顔や露もこぼさず咲きならぶ

    (草 除蕣、菊)  花桔梗名のみの色を咲きにけり

     

    (時候、植物)  玉摺のとぼし火寒き手もと哉

                         無為庵 我庵は榎ばかりの落葉かな

    (人事、動物)  十夜とてかしこき法のをしへ哉

浄土宗の年中行事である「十夜(じゅうや)法要」を詠んだもの。尊い仏の教え(法)を思い、厳かな法要の雰囲気に深く感じ入っている様子が表現

    (時雨)  初時雨たとはゞ梅の匂ひ哉

    (雪 天文生物地理)  枯杉の赤葉さまゝゝに雪薄し

    (雪 除天文生物地理)  よきほとをこえて雪ふる夕哉

    (天文 除時雨、雪)  初霜や飯の湯あまき朝日和

 

【天明時代】

70.    エド 馬場存義 (三浦家に仕える武士。俳諧宗匠、自身の流派(存義側)を率いて江戸座の重鎮として活躍。清貧の中で俳諧に生きる、天明21030日没)

      弘法のこゝにも一字山ざくら

      涼しさや扇流れぬ宵もなし

      今朝秋と知らで庭はく男哉

      四布(よの)五布(いつの、何枚も重ねたの意)みのかくれがの蒲団哉

      逃げながらわざともぬるゝ磯の浪

 

71.    尾張 横井也有 (尾張藩寺社奉行、国学者俳人。俳号が也有。横井氏北条時行の流れを組む家柄と称する。句には美濃派の影響が大きい。健康十訓がある。天明3616日没)

    (天文、地理)  雲からは雪で落ちてや春の雨

    ()  隠居せし巴水に贈る 鶯や籠をいでゝ竹に巣ごしらへ

    (動物 除鳥)  贈分平庵文 絵の中に動くものあり田螺取()

    ()  下駄の泥叩く垣ねや梅の花

    (桜 花ナシ)  今植ゑし桜や世々の春の雲

    (花 除桜)  須磨硯記 する墨や明くれ須磨の花曇

    (木 梅桜除)  上へまた延ぬでもなき柳哉

    ()  廻文 さく見つゝつまてまてまつ鼓草

    (時候、器用)  元日 田畠に人こそ見えね年の市()

    (人事)  三士挽歌 摘菜せし友を其野の烟とは

     

    (時候)  短夜や蚤郭公明の鐘

    (人事 器用ナシ)  姿見にうつる月日や更衣

    (器用)  蚊帳釣りて猶余りあり草の庵

    (天文、地理)  寝覚里 ちる物はなくて筏に青嵐

    ()  干物にたらぬ晴間や時鳥

    (動物 除鳥)  贈不及法師文 心とめぬ安さはしらじ蝸牛

    (木、禾菜)  山も皆真顔になつて若葉哉

    (草 除禾菜)  大井駅 木曾を出て始めて筍をくふ 筍にあふて家路も程近し

     

    (時候 秋暮、暮秋除)  かち渡りして 八月の川鵲の橋もなし

中国の伝説では、77日の七夕の夜に、織姫と彦星が会えるよう、鵲(かささぎ)という鳥が翼を並べて天の川に橋を架けるとされています。

句の解釈:7月の七夕が過ぎ、8月になった現実の川を見つめている。そこには当然、伝説のような「鵲の橋」など架かっていない。ただ冷ややかに、あるいは黙々と流れる現実の川があるだけ

    (秋暮、暮秋)  臍(へそ)頌 友とせん臍物いはゞ秋のくれ

    (人事)  打ちまぜて波にまけたる砧哉

    (器用、飲食、地理)  釣舟や案山子のり行く波の上

    (名月、後月、街宵、十六夜)  十六夜や欠くに手間とる宵の闇

    (月 名月、後月、街宵、十六夜除)  香木記 臼の香や月の兎はきゝ知らん

    (天文 除月)  馬はあれど牛や木幡(こはた)の星迎

    ()  壽亭記 松に鶴さて軒そはに雁の聲

    (動物 除鳥)  狩人に恋かさせたや鹿の聲

    ()  門番の直に掃たる一葉哉

    (五草)  蕣(あさがお)やまだ辻番の灯の光り

    (花草 五草除)  辻番も一もと菊のあるじ哉

    (草 花草除)  贈分平庵文 絵の中に動くものあり木綿取

     

    (時候 寒ナシ)  武蔵野やいつこを草の陰日向

    (寒さ)  名茶杓説 茶にたわむ竹や雪より猶寒し

    (大根引、冬籠)  贈分平葊(あん)文 絵の中に動くものあり大根引

    (人事 除冬籠大根引 器用ナシ)  麦蒔や思ひは遠きほとゝきす

    (器用)  榾(ほた)の火や炬燵は京の物語り

    (天文 凩、雪ナシ)  しくるゝや乞食と二人松の陰

    (凩、雪)  凩や海へとらるゝ鐘の聲

    (地理、動物)  僧は敲く茶に汲む水の氷哉

    (植物)  林間に風呂焚く迄の落葉哉

      富士の絵 白し青し共に不断のふじと三保

 

72.    江戸 加之舍今(ママ、吟)江 (寛政三大家の一人夏目成美の弟。名は庄兵衛。江戸の人。加之舎吟江と呼ばれた。天明37月没)

     

    (時候)  餅くふて酒飲でさて宿の春

    (人事、地理)  出代や所望しかぬる庭の花

    (天文)  精出して陽炎もゆる朽木哉

    (動物)  のら猫や妹がり行けば鼠鳴く

妹がり:「妹(いも)」は男性から見て愛しい女性(妻や恋人)を指します。「がり」は「〜の元へ」「〜の家へ」という意味の古語

    (春 木 桜花ナシ)  吉野のみか梅の杉田もこれはゝゝゝ

    (桜、花)  鬢くきに桜のかかる白さ哉

 ()  休みたるあとへ休らう菫哉

     

    (生物ナシ)  浙江亭に長坐して童の欠を聞く まじなひの箒もこけて風涼し

    (生物)  蚊一つに寝て居られずや人心

    (時候、天文)  八月や青い空から二日月

    (除時候、天文)  逢阪や通り合わせて駒迎へ

    (時候 歳暮ナシ)  思ひなしか頃も小春の朧月

    (歳暮)  赤土に日影せはしき師走哉

    (神佛事)  芭蕉忌やしぐるゝ塚の幾處

    (煖器、衣服、薬喰)  我ために夜光る玉の火桶哉

    (人事 除神佛事、煖器、衣服、薬喰)  阪道を雪車にのつてのさしづ哉

    (天文)  しがみつく枯葉の蔦や冬の月

    (地理、動物)  足音に鳥立つたる枯野哉

    (植物)  からゝゝと明かり障子へ落葉哉

 

73.    摂津 與謝蕪村 (文人画南画)家。本姓は谷口、あるいは谷。「蕪村」はで、名は信章。通称寅。「蕪村」とは中国の詩人陶淵明の詩『帰去来辞』に由来すると考えられている。摂津国(現:大阪府大阪市都島区)に生まれた。京都府与謝野町(旧丹後国)の谷口家には、げんという女性が大坂に奉公に出て主人との間にできた子供が蕪村とする伝承と、げんの墓が残る。天明3年1224日没)

     

    (時候 春夕、春宵、暮春ナシ)  歳旦辞 我門や松はふた木を三つ朝

    (時候 春夜、暮春ナシ)  肘白き僧のかり寝や宵の春

    (春夜、暮春)  ある人に句を乞れて 返歌なき青女房よ暮の春

    (畑打、養父入、出代、爐塞)  畑うちの目にはなれすよまやか嶽

    (人事器用、飲食 畑打、藪入、出代、爐塞除)  難波女や京を寒がる御忌詣

御忌詣(ぎょきもうで)とは、浄土宗の開祖である法然上人の命日に行われる法要(御忌会)に参詣すること

    (春雨上、句集の部)  春雨や身にふる頭巾著たりけり

    (春雨下、句集になき句)  春雨にぬれつゝ屋根の俅(いただき?)

    (春月)  女俱して内裏拝まん朧月

    (天文 除雨、月)  草霞み水に聲なき日暮哉

    (地理)  しのゝめに小雨ふり出す焼野哉

                         春の海ひねもすのたりゝゝゝ哉

    (鶯上)  鶯のなくやちひさき口あけて

    (鶯下)  低き木に鶯鳴くや昼下り

    ()  乙鳥(いっちょう、燕の別称)や水田の風に吹かれ顔

    (鳥 鶯燕除)  雉啼や御里御坊の苣(ちしゃ、レタスなどキク科の野菜)

    (蛙、若鮎)  連歌して戻る夜鳥羽の蛙哉

    (動物 除鳥、蛙、鮎)  伊勢武者のしころにとまる胡蝶哉

    (梅 紅梅ナシ)  白梅や誰か昔より垣の外

    (紅梅、柳、椿)  紅梅の落花燃らん馬の糞

    (桜 花と天文生物)  十四俳仙図 花散り月落ちて文斯(ふみこれ)にあら有難や

                                          雲を呑て花を吐なるよしの山

    (桜 花と地理、器物、衣冠)  翁百回忌に 空に降るはみよしのゝ桜さかの花

    (桜花 除天文、生物、地理、器物、衣冠)  旅人の鼻また寒し初桜

    (木 梅、柳、椿、桜除)  垣越にもの打語る接木かな

    (草花)  春景 菜の花や月は東に日は西に

    (草 除花草)  莟(つぼみ)とはなれも知らすよ蕗の台(ふきのとう)

     

    (短夜)  短夜や伏見の扉淀の窓

    (時候 短夜除)  居りたる船に寝て居る暑さ哉

    (四月人事の内 更衣、袷)  御手討の夫婦なりしを衣がへ

    (四月人事 除更衣、袷)  草の雨祭の車過ぎてのち

    (五月人事)  おくびなり席かしましき田植哉

    (六月人事の内 川狩、御祓、飲食)  川狩や帰去来といふ聲すなり

    (六月人事 除川狩、御祓、飲食)  網打の見えずなり行く涼みかな

    (夏人事の内 蚊帳、蚊遣)  僧とめてうれしと蚊帳を高う釣

    (夏人事の内 扇、団扇、鵜飼)  恋わたる鎌倉武士の扇哉

    (三夏人事の内 夏籠、鮓)  袂して払ふ夏書の机哉

    (五月雨上)  五月雨や大河を前に家二軒

    (五月雨下)  湖へ富士をもとすや五月雨

    (天文 除五月雨)  石陣のほとり過けり夏の月

    (地理)  水晶の山路分け行く清水哉

    (時鳥)  時鳥柩をつかむ雲間より

    (鳥 除時鳥)  親もなき子もなき聲や閑古鳥

    (魚、蝉、蝸牛)  初松魚観世太夫が端居哉

    (蟲 除蝉、蝸牛)  蚊屋の内に蛍放してアヽ楽や

    (花木)  卯の花や庵へ寝に来る小商人

    (若葉)  山にそふて小舟漕ぎ行く若葉哉

    (木 除花木、若葉)  箒目にあやまつ足や若楓

    (大草、茨)  笋(たけのこ)や柑子(こうじ、小さな蜜柑)ををしむ垣の外

    (牡丹)  紅を吐いて開かんとする牡丹哉

    (水草花類)  蓮の香や水をはなるゝ茎二寸

    (草 除牡丹、茨、大草、水草花。野禾ナシ)  学寮 芍薬に紙魚打はらふ窓の前

紙魚(しみ)とは、本や書類、壁紙などを好んで食べる、銀色で小魚のように素早く動く小さな昆虫(シミ目)のこと

    ()  病人の籠も過ぎけり麦の秋

             (うすづくや、臼で穀物を搗くこと)や穂麦か中の水車

    (野禾 除麦)  雷に小家は焼かれて瓜の花

     

    (初秋、夜寒、身に入)  貧乏に追付かれけりけさの秋

    (夜長、秋暮、晩秋)  常燈の油尊き夜長哉

    ()  小道行けは近く聞ゆる砧哉

    (案山子)  生命は何子か号はかゝし哉

    (人事 砧ナシ)  あちきなや蚊屋の裾ふむ魂祭

    (地理、食物)  初汐や朝日の中に伊豆相模

                                妙義山 立去事一里眉毛に秋の峰寒し

    (器用 案山子除)  恋さまゝゝ願ひいの絲も白きより

    (明月)  名月や兎のわたる諏訪の海

    (月 除名月)  水の月やよ望(もち、満月)にふる雪かとそ

    (天文の内 露)  白露や茨の刺に一つづつ

    (秋風、野分)  秋の風書蟲ばまず成にけり

    (天文 月、風除)  菊河に公卿衆泊けり銀海

    (獣、渡鳥、雁)  菜畑の霜夜は早し鹿の聲

    (動物 獣、雁、渡鳥除)  此森もとかく過きけり鵙(もず)おとし

    (木 紅葉ナシ)  朝顔にうすきゆかりの木槿哉

    (紅葉)  むら紅葉会津商人(あきんど?)なつかしき

    (萩、芒)  白萩を春わかちとる契哉

    (菊、蓼花)  村百戸菊なき門も見えぬ哉

    (花草 除萩、薄、菊、蓼。野禾ナシ)  夜の蘭香にかくれてや花白し

    (秋草 除花草、野禾ナシ)  物書に葉裏にめつる芭蕉哉

    ()  稲かけて風もひかさし老の松

    (蕎麦)  道のへや手よりこほれて蕎麦の花

    (野禾 除稲、蕎麦)  錦木をたてぬ垣根や唐からし

    (寒冷、冬され、冬至)  易水(えきすい)にねふか()流るゝ寒さ哉

    (時候 寒冷、冬され、冬至除)  初冬や日和になりし京はつれ

    (顔見せ、冬籠、薬喰)  題 恋 顔見せや夜著をはなるゝ妹か許

薬喰(くすりぐい)とは、肉食が禁じられていた時代に、滋養強壮や養生を目的として「薬」と称し、猪や鹿などの獣肉をこっそり食べる日本の食習慣のこと

    (人事 顔見せ、冬籠、薬喰除)  油灯の人にしたしき十夜哉

    (蒲団、衾)  頭へやかけん裾へや古衾

    (火桶、炬燵)  炭團(たどん)法師火桶の窓より窺ひけり

    (埋火、炭)  埋火(うづみび)や終には煮()る鍋のもの

    (器財)  鳥鳴て水音くるゝ網代哉

    (服飾、飲食)  此冬や紙衣(かみこ)著ようと思ひけり

    (人倫)  西念はもう寝た里を鉢叩

西念(さいねん)とは: 芭蕉の門人(弟子)であった、服部嵐雪(はっとり らんせつ)の別名、または芭蕉の周囲にいた実在の僧(西念坊)を指している

    (時雨の内、天文、生物)  古傘の婆娑(ばさ)と月夜の時雨哉

                         榎時雨して浅間の煙余所に立

    (時雨の内 除天文、生物)  しくるゝや蓑買人の誠より

    (雪の内 天文、生物、地理)  雨の時貧しき蓑の雪に富(とべ)

    (雪の内 除天文、生物、地理)  漁家(ぎょか)寒し酒に頭(かしら)の雪を焼

    ()  凩や何に世わたる家五軒

    ()  霜あれて韮を刈取る翁哉

    (寒月、霰、霙)  寒月や衆徒の群議の過て後

    (地理)  てらゝゝと石に日のてる枯野哉

    (千鳥、鴛鴦)  打よする浪や千鳥の横ありき

    (鳥 除千鳥、鴛鴦)  水鳥や枯木の中に駕籠二梃

    (河豚)  ふぐ汁の宿あかゝゝとともしけり

    (動物の内 除鳥、河豚)  傚素堂(山口素堂に倣う) から鮭や琴に斧うつ響あり

    (落葉、茶花)  西吹けは東にたまる落葉哉

    (木 落葉、茶花除)  をし鳥に美を盡してや冬木立

    ()  枯尾花野守か鬢にさはりけり

 

74.    藤原保吉 (江戸の馬具商。加舎白雄門屈指の高弟通称は万屋半兵衛。天明43月没。)

     

    (時候、人事)  春立つて遅き子の日ぞおもしろき

    (天文、地理)  江に向いて打つや霞の古羯鼓(こかっこ、古い太鼓)

    (動物)  鶯や嵐曇りに飛び鳴きす

    ()  取りあへず接穂(つぎほ)やしなへ夜の梅

    ()  里人のあらためて摘む若菜哉

     

    (時候、動物)  寝たりけり短夜たれか草枕

    (四五六月人事)  軒の草けふはあやめに名をかりよ

    (三夏人事)  鮓つけて誰待つとしもなき身哉

    (天文、地理)  青嵐瀧はたゞ落ちに落る哉

    (植物)  宗鑑の夏に定めつ杜若

     

    (時候、天文)  戸を漏るゝ月や長夜の細心

    (人事、動物)  客ふり(客の様子)のことばすくなし鹿の聲

     

    (時候、天文)  蝶凍て(いてて)うたるる霜の雫かな

    (人事、地理)  國さかひ旅人橋を捨にけり

    (生物)  世の中は余儀なや鷹のぬくめ鳥

 

75.    大嶋蓼太 (りょうた。本姓は吉川。雅号は雪中庵など多数。中興五傑の一人。信濃国伊那郡生まれ。幕府の御用縫物師。雪中庵を継承し三世となる。芭蕉への回帰を唱えてその研究と顕彰に努め、三千余人の門人を有した。また江戸座宗匠の旧態を批判し、一大勢力を築いた。天明797)

      元日や仏法いまだ注連(しめ)の外

     

    (時候、人事、天文)  すさましき長月頃の花火哉

    (地理、生物)  川海老や螽(いなご)も游く秋の水

     

 

76.    高几菫 (高井几董(きとう)京都の俳諧師の次男。与謝蕪村に入門した。中興俳壇の絶頂期をもたらした。三世夜半亭を継承。寛政元年1023)

井華集序、自序、跋

井華集(せいかしゅう)とは、江戸時代後期の俳人・高井几董による自撰(じせん)の俳句集

     

    (時候 永日、暮春ナシ)  正月や烏帽子かけたる木工頭(もくのかみ)

    (日永、暮春)  遅き日やひとへからける草履道

    (正月人事 三月人事)  粥杖(かゆづえ)や梨壺の五人打ちはづし

梨壺の五人:平安時代に、村上天皇の命で『後撰和歌集』の編纂や『万葉集』の解読(訓点付け)を行った、当時最高峰の歌人たち(大中臣能宣、清原元輔、源順、紀時文、坂上望城)

    (人事 除正月三月人事)  二日灸(きゅう)花見る命大事なり

    (朧月、霞、陽炎)  薄々春雲籠皓月 おぼろ夜や南下りに東山

    (天文 除朧月、霞、陽炎)  市陌(しはく、街路) 絵草紙に鎮おく店や春の風

    (地理)  春日晩望ナシ 日は落て増かとそ見ゆる春の水

    ()  鶯の卯時雨に高音かな

卯時雨(うじぐれ):初夏(卯月)に、まるで冬の時雨のようにさっと降るにわか雨のこと

    (鳥 除鶯)  田家 乙鳥や雪に撓みし梁の上

    (梅と天文、生物、地理)  狂雲妬佳月 梅が香に狂ふか如し月の雲

    (梅 除天文生物地理)  見くるしき畳の焦や梅の影

    ()  離別 恋々として柳遠のく舟路哉

    (桜花と天文、生物、地理)  こもりくの蜂にさゝれな絲桜

    (桜花と器物、人品)  夜は嵐の吹かぬものかは けふ来すて見ぬ友ゆかし山桜

    (桜 除天文、生物、地理、器物、人品)  咲をさへおとろくに散初桜

    (木 除梅、柳、桜)  画讃 紅梅に睡れり衛士の又五郎

    (草 花草ナシ)  まないたの七野に響く若菜哉

    (花草)  たんほゝや五柳親父(ごりゅうおやじ、陶淵明)かひたし物

     

    (短夜)  閨怨 短夜や妹かほむらの有あかし

    (時候 除短夜)  涼しさや遠く茶運ふ寺扈従(こしょう)

    (定期人事 飲食)  端五 髭黒の上手又出よくらべ馬

    (衣服)  五斗俵の地をはなるゝや更衣

    (器物 除定期人事)  二日とまるは下々の下の客 宗鑑が竹の挽香(ひきこう)を蚊遣哉

    (人事 除定期人事、飲食、器物、衣服。納涼、蟲干ナシ) たれこめて祭見る家や薰す

    (納涼、蟲干)  酒ゆるす医師も見えて夕涼

    (天文)  五月雨や船路に近き遊女町

    (地理)  あとさまに小魚流るゝ清水哉

    (時鳥と天文、生物、地理、器物)  月よりは上ゆくものか時鳥

    (時鳥 除天文、生物、地理、器物)  時鳥古き夜明のけしき哉

    (動物 除時鳥)  むら雨の音しつまれは閑古鳥

    ()  卯花に加茂の酢茎の匂ひかな

    (牡丹、蓮)  ある家にて 牡丹二代連歌は劣るあるじ哉

    (草 除牡丹、蓮。禾稼(かか、農作物の総称)ナシ)  沖塩のはやせを恋や蓼の雨

    (禾稼)  郊外 麦うたや野鍛冶が槌も交へうつ

     

    (初秋、秋夕)  暁の神鳴はれてけさの秋

    (時候 除初秋、秋夕) 市に隠る二百十日はきのふなり

    (角力、砧)  やはらかに人分行や勝角力

    (定期人事)  振袖の憂をはたちや星祭

    (人事 除定期人事、角力、砧)  嶋原や躍に月の昔顔

    (名月、十六夜)  月前懐古 名月や朱雀の鬼神たえて出す

    (月 除名月、十六夜)  八月十四日新居會 八九分に新酒盛へし庵の月

    (稲妻、霧)  電光石火の世を観する人あれは恋慕の闇に身を惑ふもの有 稲妻やみそか法師は老なりき

    (天文 除月、稲妻、霧)  野行ナシ 朝露や膝より下の小松原

    (獣、鳥)  矢背の釡風呂にある人を訪ひて 養生の夫婦別在鹿の聲

    (動物 除獣鳥)  蟲の聲()非一(ひとつにあらず)おほとのあふらしろき迄

    ()  乞食かへる徑(こみち)の木槿しほみけり

    (蕣、萩、芒、茸)  瘧(おこ)落て蕣(あさがお)清し幮(かや)の外

    ()  九日 けふの菊秋の泣顔洗ひけり

    (草 除蕣、萩、芒、茸、菊。禾稼ナシ)  桔梗なら女郎花なら露にぬれて

    (禾稼)  賭にして唐からし喰ふ泪哉

     

    (時候)  浅草寺前紫陌紅塵(繁華街の様子) 十月の春(小春)吹く風や海苔の屑

    (神仏事、飲食)  東武にありて深川芭蕉庵の正当會にあふ 芭蕉忌や木曽路の痩も此ためそ

    (煖器、頭巾)  まらう人(まろうど、客人)に炭挽姿見られけり

    (冬籠、歳暮人事)  

不騫公へはじめて召されけるに季吟芭蕉其角の三筆を御床にかけられたり 俳諧の三神こゝに冬籠

不騫(松平近儔):豊後国府内藩第6代藩主。俳人や絵画・書道にも優れた文化人。蓼太門下の俳人として「不騫」の号を名乗る

(人事 除神仏事、飲食、煖器、頭巾、冬籠、歳暮人事)  三阿法師か喫茶會に招かれしにあるしの風流有馬涼及の趣にさも似たり 口切の庵や寝て見る角田河(隅田川)

    (時雨)  初しくれ今日庵のぬるゝ程

(雪と天文、生物、地理)  (初雪にしるしのさをは立しかとそことも見えぬ越のしら崎)ナシ 初雪のしるしのさほや草の茎

(雪 除天文、生物、地理)  甲辰(きのえたつ)冬別荘におのゝゝを招き一夜俳諧催しけるに明方より初雪の降出しけれは 幸のこぼるゝ雪や草の戸に

    (天文 除時雨、雪)  ゑのしま 霜いたし草鞋にはさむうつせ貝

                         芝泉岳寺懐古 石寒し四十七士が霜柱

    (地理)  水落石出 冬川にむさきものはむ烏哉

水落石出(すいらくせきしゅつ)とは、物事の真相や隠れていた事実がすっかり明らかになること

由来:宋の時代の詩人・蘇軾(そしょく)が書いた漢詩『後赤壁賦(こうせきへきふ)』の中にある「山高月小、水落石出」

(動物)  成美あるしゝて墨水の流に舟を泛ふに冬枯のけしきいと閑に幽懐却客情を悩す 我舟におもて合せよ都鳥 (夏目成美 第12#90参照)

    ()  春坡が小松谷の別荘に遊て 紅葉散るこのもかのもの忘れ花

下村春坡。京都の大丸屋・下村彦右衛門の孫。絹店を営みながら、俳諧などの文芸活動を行った

    ()  義仲寺 枯々てひかりはなつ尾花哉

  善光寺の路人か家に客と成てかゝる尊き御佛の辺近く旅舎せし因縁のありかたさに 朝毎の法りや旅寝の一大事

 

77.    播磨加古川 松岡青蘿 (江戸生れ、のちに加古川に庵を結ぶ。姫路藩士の三男。賭博をとがめられ追放。美濃派に師事。 播州で盛んな俳諧活動を行う。二条家俳諧宗匠の職服を授けられた。芭蕉顕彰に尽力。寛政3617)

     

    (時候、地理)  鶺鴒の教へに来たりけさの春

    (人事)  蓬莱の上にや居ます親二人

    (天文)  初日影人に先さす恵哉

    (動物)  天地にけさ鶯の初音哉

    (梅、桜)  曽根社奉納 しら梅に散込られて心清し

    (植物 除梅、桜)  柳芽をふきて又一日はたいら雪

     

    (時候 天文、地理、植物)  短夜や夢さき川の朝わたり

    (人物、動物)  更衣うすき命を祝ひけり

      戸口より人影さしぬ秋の暮

      善悪の報い見せけり年の暮

      恋 片思ひ歯にも合さる鮑哉

けふよりは頭巾の恩も知る身かな (芭蕉忌に加古川の善証寺で剃髪。29歳。俳号である青蘿は、その際に東州和尚から授けられたもの)

 

 

編輯後記

『俳家全集』は子規居士一生中の大事業だった『俳句分類』の一部もしくは別動隊と見るべき。俳句分類が季題もしくは内容によって分類されたに対し、これは作者によって分類

『俳句分類』を断片的に『ホトトギス』に掲載した際、居士は、「できるだけ多くの句を収めるべき、完成の期限を区切っていない。自分が斃れた時が完結のときで、大成せざるを知ってやっている」と述べているが、居士の想像以上に健康が悪化して、仕事がはかどらなかったようだ

『俳句分類』は、居士の他方面の仕事に比して、内面的、潜在的なもの。非凡の精力を集中して編纂している

本全集の2巻を割いて居士の編著に充てようとするのは、この内面に潜在する事業を発表して、いまだ世に知られていない学者としての居士の一面を示そうとするに過ぎない

限られた紙幅で『俳句分類』を収めることは困難であり、一部だけ収めても無意味なので、一部ではあるが独立した意味を有する『俳家全集』を採ることにしたもの。従って『俳句分類』と同様、『俳家全集』も未完であり、作者によって項目があったりなかったりするものの、完成や完成に近いものが多く、作者別に編んだ代表的俳句全集は他に見当たらないので一俳書としての意味においても一巻を割くべき価値があると認めた

『俳家全集』は、毛利元就以降、各俳家を没年順に配列。没年不詳は「乙號」として添えた

芭蕉と其角が欠けたのは、芭蕉は『一葉集』、其角は『五元集』で、その家集が既に世に周布されていたためであり、太祇、樗良、几菫、浪化、涼菟などは、居士生前ないし没後に『俳諧叢書』として出版されたが、大部分は稿本のまま置かれたもの

季題の分類などは全て原本に従った。居士の分類法は普通とは違って、半紙1枚が単位。半紙2つ折りの片面に10句づつで、120句になるとさらに細かく分類。桜とか時鳥とか句数が多くなると配合物を異にするに従ってさらに分類するのが原則で、20句に満たない場合など、余白に書き込んだままになっている個所もあるが、それはあくまで例外

 

 

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