下ネタ大全  堀元見  2026.6.17.

 2026.6.17. 読むだけでグングン頭がよくなる 下ネタ大全

 

著者 堀元見 1992年生まれ。北海道出身。慶應義塾大学理工学部卒。専攻は情報工学。作家とYouTuberのハイブリッドで、知的ふざけコンテンツを作り散らかしている。YouTubeチャンネル「ゆる言語学ラジオ」で聞き手を務める。著書に『読むだけでグングン頭が良くなる下ネタ大全』(新潮社)、『教養悪口本』(光文社)、『言語オタクが友だちに700日間語り続けて引きずり込んだ言語沼』(バリューブックス)など。

 

発行日            2025.5.15. 発行      2025.5.20. 2

発行所            新潮社

 

26-05 会話の0.2秒を言語学する』参照

 

愛は知の極点である――西田幾多郎『善の研究』

 

はじめに

知的な下ネタは、おもしろい

賢いものとアホなものの組み合わせから生まれるギャップが面白い。ギャップは魅力

下ネタは人を賢くする可能性がある。この本を通して、日本人の知的レベル向上に貢献したい

 

第1部        医学――医は仁術

I       自らのイチモツで実験した英雄たち。アリストテレスからガンディーまで

l  語られざる、ガンディーの禁欲実験

服従せずに戦い続けるガンディーの人生は、美しい英雄譚として語られる

理念は言葉ではなく、自分の人生で、自分の身体で実行して示すべきなのだ。それを示す言葉が、「私の生涯が私のメッセージです」

36歳から一切の性行為を拒む禁欲「ブラフマチャリヤ」生活を始めたが、かつて末期の病床にある父を看病していたところ、妻とのセックスの間に亡くなって死に目に会えなかったのがきっかけになって禁欲生活を始めたという

晩年、毎日のように若い女性を全裸にしてベッドを共にし、禁欲の実験をしていた

l  最高の外科医、ジョン・ハンター

「実験医学の父」と呼ばれるハンターの功績の1つが、医療効果の実験。プラセボや対照臨床試験の萌芽。瀉血や不必要な外科手術など、効果がない治療法を次々に否定

当時ロンドンは売春の都。ハンターは、蔓延する性病のメカニズム解明に取り組む

淋病と梅毒の違いを見極めるために、淋病患者の膿を自らの性器に塗り込む。暫くすると梅毒特有のしこりが出始め、「梅毒=淋病」の仮設の正しさを身をもって実証したと喜んだが、たまたま利用した患者が淋病と梅毒の両方に罹患していたために症状が出たもので、両者は全く異なる病原菌によるもの。ハンターはしばしばサンプル数の少ない実験結果から一般化した結論を導き過ぎるという批判を受けてきた

l  おちんちん実験は英雄譚にならない

数々の功績がありながらハンターの名が知られていないのは、彼の情熱を端的に表すエピソードがおちんちん実験だから

l  アリストテレスのおちんちん実験

子どもができる仕組みについて、自らのセックスから、男性は性交で快感を得るが女性は快感を得ないこともあるので、子どもは男性の精液のみから出来ると結論付けたが、自らセックスがヘタだったことを暴露したようなもの

l  おちんちん実験を語り継いでいく覚悟

世に知られていない同種実験を掘り起こしていくとともに、自らも実験に励む

 

II     古代ローマの「義務付けられたキス」と隠された医療ドラマ

古代ローマでは、夫は妻からキスを受ける権利があり、妻は毎日夫にキスすることが法律で義務付けられていた。「接吻制度」の目的は、妻の飲酒の発見にあり、酒を飲んだ女性は判断力が低下して姦通に走るという理屈。飲酒と姦通が同罪とされた。罰則は離婚

古代ローマはメンヘラやヤンデレの価値観が流通していた?

「メンヘラ」とは、心の健康(メンタルヘルス)が不安定で、情緒的な問題や精神的な依存傾向を抱えている人を指す俗語です。元々はネットスラング

ヤンデレとは、「病んでいる」と「デレデレ(好意を示す様子)」を組み合わせた言葉です。

l  あらゆるオジサンとキスをする

この制度は、夫以外の男性親族に対しても適用され、妻はあらゆる男性親族(はとこまで)と毎日顔を合わせると同時にキスをしないといけない。チークへのキスという習慣に残る

l  廃止された理由が賢い

接吻制度は、口唇ヘルペスの流行でAD30年ごろ廃止された

感染症の知識のない時代に、こういう対応がなされたのには驚くばかり

l  この廃止にはロマンがある

接吻制度の廃止は、観察と思惟による真理への到達として、人類の理性の力強さを描く一大ドラマ。デモクリトスの原子のアイディアも、ニュートンが万有引力を発見したのも、みな観察と思惟だけで到達している

l  結局、意外にロマンチックだった

一瞬ロマンチックに思える制度には、暴力的な裏付けがあったが、廃止の経緯を知ると意外に元に戻って、第一印象通りになった

 

III   ルソーも認めたオナニー害悪論と、その呪いからの解放

中学校の保健の教科書には、「自慰は悪いことではないから、我慢しなくて大丈夫」とあったが、奇跡のように素晴らしい記述であり、人類最高のバランス感覚の表現

l  オナニーは万病の元

数百年前から、オナニーは健康に甚大な悪影響を与えると考えられてきた。大量吐血の結果、死に至るとまで言われた

l  「オナニーはダメ」と学校で教えよう

19世紀中ごろ、学校で「オナニー害悪論」を教えるべきと言われ、貞操帯まで出来た

l  オナニー害悪論からの脱却と、シンジくんの罪悪感

20世紀になって漸くオナニーが正常なものとみなされるようになったが、『エヴァンゲリオン』の主人公は旧時代の感覚のまま

l  呪いから自由にしつつ、バランス感覚も失っていない

「害悪論」から脱却しながら、「礼賛論」にまで振れなかったところが、現代の教科書の賢明なところ

l  保健の教科書は最高の文芸復興

呪われた青少年を解放し、罪悪感から自由にしたが、バランスも失っていない

 

第2部        秘部――秘すれば花なり

I       ホモ・サピエンスの陰茎に骨がない理由。人類学者と聖書学者の視点から

l  「骨のあるヤツ」の「骨」は、陰茎骨

人間の骨はみな共通なのに、「骨のあるヤツ」という表現があるのは、あたかも人間にはない「骨」を持っているかのように見えるからで、他の哺乳動物と比べると、多くの哺乳類には陰茎骨が存在するが、人間にはない。唯一持っていた可能性のある人物はアダム

多くの哺乳類に陰茎骨があるのは、生殖競争に勝つため

l  アダムは「骨のあるヤツ」かもしれない

聖書の翻訳では、「あばら骨から1人の女を造った」とあるが、原語は必ずしも肋骨だけを指す言葉ではない。男性も女性と同じ肋骨は12対なので、1本抜けているはずがなく、陰茎骨だと考えれば、人間に陰茎骨のないことの説明がつく

女が男を「骨抜きにする」のも仕方ないこと

l  骨を取り戻そうとする、アダムの子孫

1948年には、勃起障碍の治療のために肋軟骨を陰茎に移植手術したのが成功したとある

 

II     「くぱぁ」全史。ヘロドトスが目撃した光景はいかにして現代に日本に蘇ったか

「くぱぁ」は、この30年で定着した新しいオノマトペ。女性器を指で開くときに使われる

l  紀元前5世紀の「くぱぁ」

紀元前5世紀にヘロドトスは、エジプトの祭りで「女が立ち上がって着物をたくし上げる」と書いたし、カタルーニャでは「女陰を見せれば海が鎮まる」と言われたりしたように、女性器を見せつけることは魔除けであり、英雄的であり、誇り高き行為であり、古今東西の文化に見られる行為

l  なぜ女性器を見せつけなくなったか?

キリスト教の普及により、禁欲的な生活が推奨され、快楽のための性交は禁止、女性器は覆い隠すものであるということになったが、性器露出の精神性は現代に至るまで生き残り、「くぱぁ」という形で現代に華々しく蘇った

l  「くぱぁ」が普及した理由

理由として考えられるのは、局部修正に関する規制緩和と、性交における男女の役割の変化で、今世紀に入ってからは女性上位や女性が主体性を持つアダルトコンテンツが増えた

l  神は死んだ(くぱぁが生まれた)

「くぱぁの誕生」と「神の死」が同じ現象

歴史上最も有名な局部修正は、ミケランジェロの《最後の審判》。原作は局部丸出しだったが、協会が局部隠蔽を決定、弟子によって腰布が加筆された

「くぱぁ」が普及した理由の2つともが、究極的にはキリスト教的価値観からの脱却であり、ニーチェが書いた「神は死んだ」の先に、「くぱぁ」の誕生があった

l  神が死んだ後の、「もう一度」

ニーチェは「永劫回帰」という概念を唱えた。何度も同じことを繰り返す虚無の世界で、それでも「もう一度!」と力強く生きる「力への意志」を持つことを肯定している

「くぱぁ」の誕生も、かつて世界中で定着していた性器露出が、キリスト教の勃興とともに消えて行き、そして神が死んだことで、もう一度復活した。ニーチェの言説とも一致

 

III   恐竜の研究史は、「巨人のキンタマ」から始まった

l  恐竜の発掘は、巨人のキンタマから始まる

1676年、人類が初めて発見した巨大な恐竜の骨のスケッチがキンタマに似ている

l  化石で神の御業に触れる

元々化石が古代の生物であるという発想はなかったが、17世紀に博物学者が「化石は太古の生き物の変質した姿」だと主張。そこから、ノアの洪水は本当にあったと確信した

l  そして発掘ブームへ

1725年、博物学者のショイヒツァーは骨格化石を発見し、人間のものだと推定

やたらに大きい骨の発見から、旧約聖書の「巨人」の存在が裏付けられ、発掘ブームに

巨人のキンタマだとされたものは、後に恐竜の大腿骨だったことが判明。「巨人の骨」とされたものも、すべて古代の大型動物の骨だった。とどめを刺したのは、仏人比較解剖学者キュヴィエで、18世紀末から徐々に事実が判明

l  巨人から恐竜へ。聖書から科学へ

キュヴィエは、大量の化石を比較・整理。「生き物は絶滅してきた」ことを発見、「絶滅」という概念を確立し、「絶滅種」という概念のなかった聖書の教えに真っ向から歯向かう

l  宗教によって、科学が進む

科学と宗教は相補的に助け合いながら進歩してきたとみるべき

理性(科学)も信仰(宗教)も目標は同じで、「世界とその中にいる自分」を説明する営み

逆説的だが、最も基本的な科学の知見のいくつかは、宗教のお陰で生まれたと言える

l  科学と宗教の交差を思い出すシンボル

巨大なキンタマの話は、宗教のお陰で注目された巨大なキンタマが多くの発掘を呼んで科学を進め、結局キンタマでないとの結論が出た。科学と宗教の相補的な関係をこれほどまでに体現しているものはない

 

第3部        聖水――奇蹟の液体

I       無限の用途がある尿。修道女の聖水から生まれた薬

スパイが不可視インクを切らしたときは、おしっこで代用できる――おしっこもあぶり出しが可能

l  おしっこの意外な用途

浙江省東陽市の伝統料理「童子蛋(どうじたん)」は、「少年の卵」の意で、思春期前の男児の尿で煮込んだゆで卵

l  童子蛋が生まれた理由

尿の薬効を活用したもので、李氏朝鮮では12歳未満の少年のおしっこを王が飲んでいた

l  あなたは童子蛋を笑えない

現代医学でも、童子蛋のような薬を重用している

血栓溶解剤のウナキローゼ製剤の原料は「ヒト尿」。水洗トイレの普及で、もっぱら中国からの調達に頼る

l  もう一つの薬「プレグニール」

閉経後の女性の尿には、排卵を誘発する物質が含まれているとされ、不妊治療に活用するために修道女の尿を集めて作った薬が「プレグニール」。1962年、初めて出産に成功

l  おしっこから生まれる奇跡

現代における処女懐胎の物語であり、修道女のおしっこはまさに「聖水」と呼ぶに相応しい

 

II     正岡子規も熱中した「おしっこ俳句」。深くて広い下ネタ詩歌の世界

髪洗ふシャワーカーテン隔て尿る  榮猿丸 (2014)

l  おしっこ俳句、実はポピュラーだった

裏畑の小便溜や梨の花  正岡子規

子規は、他にも「小便」を使った俳句を大量に書き残している

l  おしっこ俳句は考察しがいもある

猿殿の小便くさしいぶり炭  正岡子規

17世紀の錬金術師ブラントは、大量の尿を蒸発させてリンの分離に成功。リンは生物の代謝の基本要素であり、肥料の基本要素でもある

(猿の)尿が熱されるところから科学が始まった壮大な科学史に思いを馳せる一句といえる

l  「陰毛短歌」もある

「・・・・4本のうち1本は陰毛、どれが陰毛でしょう?」  現代歌人・谷川電話 (2014)

角川短歌賞受賞の『変人不死身説』の一部。意味不明、読み方も分からない

l  陰毛のカツラ「マーキン」

「マーキン」は、陰毛を剃っている女性が、股間につけるカツラ。誕生したのは15世紀、毛じらみ予防のため、主として貧しい女性たちが陰毛を剃っていたため、顧客にそれを見せないようにカツラをつけた

谷川の詩は、目の前の女性の出自を問うているという以上に、出自など正確に当てることなどできないのではないか、というメッセージを送っているのではないか

l  B’zのヒット曲も、排泄ソングだった

《いつかのメリークリスマス》(1992)では、恋人へのクリスマスプレゼントに椅子を買ったとあるが、違和感がある。椅子がロマンチックなプレゼントだったのは18世紀のフランス。座面に穴が開いた椅子で、そのまま排便ができる便利グッズとして重宝された

「いつかの」という表現も気になり、18世紀ごろの「穴開き椅子」を歌ったものと想像される

l  自由で楽しい、下ネタ詩歌の世界

下ネタ詩歌をきっかけに、文芸の世界の自由さと広さを感じる

 

III   女性の潮吹きの正体を探るために、色付きの水を膀胱に入れるということ

性行為の途中で女性器から液体が噴出する現象を「潮吹き」というが、その正体は不明2022年日本人医師が、「女性の潮吹き現象の解明」という論文を出す。膀胱に青い液体を注入して実際に潮吹きをしてもらったところ、青い液体が確認され、潮吹きは尿だったことが判明

l  実験の凄まじさにうち震える

論文の関連資料として動画も公開されているが、5名の女性の潮吹きが各10秒で次々に流れてくる。倫理上の問題も含め、大学や被験者がよく承諾してくれたものと思う

l  アイディアだけでなく、実行したのがすごい

この手の下ネタのアイディアは、大体実行せずに終わる

l  おしっこスペース実験

男性小便器で、隣との間隔や、隣に人がいるといないとで放尿に差があることを確かめる実験。被験者の承諾を取るのは難しい

l  たくさんの問題を突破する偉大さ

『走れメロス』をも凌ぐ偉大な実験

l  情熱で走り抜けた「MRIセックス実験」

セックスしている男女をMRIで撮影。直径50㎝のMRIチューブに入ってセックスするだけでも大変。MRI利用を認めてもらい、合計8組が挑み、結果は1999年権威ある医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルに掲載され、挿入時のペニスが湾曲しているなどの事実が分かった

l  走り抜けたメロスたちを称賛しよう

下ネタ実験にはいつも多くの壁が存在するだけに、最後まで諦めずに実行した人々を称賛しよう

 

第4部        房事――快楽の起源

I       正常位の呼び方には、人類史が宿っている。宣教師の体位に起きた革命

正常位は英語でmissionary position(宣教師の体位)

l  宣教師が性行為を見られたから、「宣教師の体位」?

と言われていたが、その話はデマ。「婚約した先住民カップルが手をつなぐ様子のことを先住民は宣教師流と呼んでいた」程度の話で、まるで読解力が不足していたが故の誤訳

l  中世で許される体位は一つだけ

中世ヨーロッパでは、性行為は生殖のためにするもので、一番懐妊しそうな体位として正常位が義務付けられた

l  最近まで続いていた「宣教師の体位」

1968年の雑誌にも、「別の体位を提案すると、即座に変質者、ブタなどの扱いを受ける」との記述がある

l  3000年の歴史が詰まった「宣教師の体位」

モーセの十戒に始まり、キリスト教の発展とともに、絶大な権力を振るってきた3000年の歴史が詰まった名称こそが「宣教師の体位」。民主主義の台頭が宣教師の体位から解放

l  「正常位」は人類史を反映している

日本語訳は実に適切な命名。「世界史の大部分において圧倒的な長期間、正常とされてきた体位」という意味だったのかもしれない

正常位という呼称は、押し付けられた秩序を受け入れていることに繋がり、革命の必要性を教えてくれる。「革命家の体位」に近いのは立ちバック。フランスでは立ちバックのことを「城壁のナポレオン」と呼ぶ。小柄で多忙なナポレオンにぴったりな体位だったからだろう。間違って肛門に入れてしまった場合は「ナポレオンのモスクワ入城」と呼ぶ。取返しのつかない過ちだから

 

II     性行為及びその場所の一般理論。牛車やバーチャル空間を例に

皇居前広場は、80年前はセックスの聖地

l  青姦スポットとしての皇居前広場

「壮大な恋愛道場」とまで言われた

l  高度1000ヤードのセックス

「マイル・ハイ・クラブ」は、「フライト中の飛行機でセックスしたことがある人達」の意味

上空でのセックスの初出は1785年。気球が飛び始めて2年後に、上空1000ヤードの気球の上でやったら賞金が出た

l  カーセックスの歴史も長い

平安時代にまで遡る。『和泉式部日記』に「車宿りの一夜」という一節がある

l  ガセ雑学「日本で最初にカーセックスしたのは伊藤博文」

女好きにかこつけての後世の創作

l  カーセックスの凋落と再興

カーセックスの歴史を文献で見ると、平安時代と明治時代に集中し、間が抜けている

その間は武家社会で、乗り物は籠となったため、物理的に困難だった可能性がある

l  バーチャル空間におけるセックス

バーチャル空間とは、VRゴーグルを装着し、コントローラーを操作することで、あたかも自分がそこにいるような感覚を得られる仮想的空間のことで、そこでのセックスはアバターという魂の姿で触れ合うので、ある意味リアルよりも「エッチ」だと感じる

l  あらゆる空間はセックスに使われる

「狭すぎる」という物理的制約がなければ、あらゆる空間がセックスの場所になり得る

 

第5部        公民――世を治め民を救う

I       クリントン大統領の不貞の言い訳は古代ローマ式。古代エジプト式ならよかったのに

l  苦しすぎるクリントン大統領の言い訳

クリントンの言い訳で最悪なのは、当初の全否定と明確な物証の出現

「性的関係は持っていない」と法廷で証言したが、フェラチオは「性的関係」にあたらないと言い逃れして弾劾裁判で無罪を勝ち取る

l  クリントン大統領の言い訳は古代ローマ式

古代ローマにおけるセックスの常識は、「男性が自己満足的な性行為をすべき」というもの

女性の権利はほとんど認められず、クンニリングスも性的タブーの最たるもの

l  フェラチオをめぐる罪と罰

クリントンは、法廷侮辱罪に問われ9万ドルの罰金で済んだが、ルインスキーは、周囲から無茶苦茶に軽蔑された。ネットの登場で、tart(あばずれ)slut(ふしだら)whore(売女)bimbo(尻軽)など、罵詈雑言が浴びせられ、自殺の直前まで行く

l  古代エジプト式ならよかった

古代エジプトでは神話がフェラチオを推奨していた可能性がある。フェラチオによって生命が呼び起こされたとの記述がある

その代表格がクレオパトラ。彼女には「大きな口」という渾名がついていた。現代でも一部の国では「クレオパトラする」という隠語が「フェラチオする」という意味で流通している

l  誹謗中傷の前に、一歩踏みとどまろう

罵詈雑言する前に歴史について思いを馳せる方がよほど生産的

 

II     財としてのオナニーに関する諸考察。ギッフェン財の存在証明

l  ギッフェン財とは何か

「値段が上がると需要が増える」財のこと

l  ギッフェン財は面白いが、実在するか分からない

提唱されてから130年、実在性が疑われ、未だに結論は出ていない

l  オナニーは代替財であり、補完財でもある

2022年の論文では、男性と女性では、セックスとオナニーの関係性が異なり、男子はセックス頻度が高ければオナニー頻度は低いが、女性はセックス頻度が高ければ、オナニー頻度も高い

経済学では、ある財がある財を代替し得るとき、その2つの関係を「代替財」という。男性にとってのセックスとオナニーは代替財

また、ある財とある財が相互に補完的な動きをする財を「補完財」という。女性にとってのセックスとオナニーは補完財

l  男性のオナニーはギッフェン財

l  仮定は奇妙だが、ソーセージとジャガイモよりマシ

l  ノーベル経済学賞かもしれないし、少なくとも教科書は書き換わる

 

第6部        技術――革新される性

I       マッサージものAVはタイムスリップ歴史ドラマ。「健全なマッサージ」は欺瞞ではない

l  「これは健全なマッサージですからね」は本当

マッサージもので男性マッサージ師によるこのセリフは定番だが、紀元前5世紀から19世紀まで、「ヒステリー」は「女性の性欲の発露」による病名とされ、治療法として「女性器のマッサージ」が推奨されており、マッサージものAVはタイムスリップ歴史ドラマそのもの

l  マッサージものAVは時代考証がすごい

中世におけるマッサージでも、様々な種類の油を性器に塗り込んでいる

l  特に考証がしっかりしたシリーズ

 

II     アダルトはスマートになるが、人はスマートにならない。乖離する知性のアイロニー

最先端の技術は、軍事とアダルトにある

l  アホそうなサイトと、新語の観測

Nudifyは辞書に載っていないが、「AI画像処理で人を裸にする」の意で、技術の発展が生んだ新語

l  既存の場所で迫害されるから、新天地を求めるしかない

アダルト産業は、既存のプラットフォームに迫害される哀れな業界ゆえに、新たなプラットフォームを求めて新たな技術が開発される。カクテルの文化が禁酒法の時代に花開いたように、禁止されることによって逆に花開くのは、人類普遍の現象

l  「スマート貞操帯」という発明

スマートロックのアイディアを応用した貞操帯で、遠隔操作が可能

l  スマートでない使用者、スマートでない事件

スマート貞操帯をハッキングされた話

l  アダルトはスマートになるが、人々はスマートにならない

アダルト業界では特に人間の愚かさが爆発しやすい

性的に興奮していると愚かな行動をとりやすいため、最先端の技術が取り入れられても、我々はそれを上手く使いこなせていない可能性が高い

 

III   コーンフレークは性欲を抑えるために作られた。食事と性欲の相関を調べた栄養学者

l  性欲を抑えるための食品

もっとも有名なのが「ケロッグ コンフロスティ」。ケロッグ兄弟が病院食の改善から発明したのがコーンフレークだが、そのモチベーションになったのが「みんなの性欲を抑えたい」

「性行為は健康を害する」という説がはやり、それに対し「穀物の全粒粉を摂取するとよい」と言われ、ケロッグ兄弟はそれを病院食に活かそうとした。試作の途中で、誤って茹でた小麦を放置したものをローラーにかけて焼いてみたところ、おいしいコーンフレークが出来上がった

l  なぜ、全粒粉は性欲を抑えるのか?

「刺激的な食べ物は性欲を刺激する」とされ、特に香料の多い料理、栄養に富んだ料理、肉料理などはよくないというのは古今東西に共通。日本でも修行僧は精進料理を食べる

l  道を違えた兄弟

コーンフレークができた後、砂糖を加えるか否かで兄弟は袂を分かち、砂糖を入れて甘美な食事にした弟の方が成功したが、兄のストイックな情熱も今のケロッグに「代替肉」のアイディアで生きている

l  「ヴィーガンは性欲が少ない」は本当か

双子の姉妹で実験した結果、ヴィーガン食に切り替えたほうが興奮レベルが4倍上がったとの報告があり、「肉食=性欲が強い」というイメージに疑念

l  ミルクボーイの漫才の真相

コーンフレークと思わせながら、死ぬ前の最後のご飯やお坊さんが修行の時にも食べると言われてコーンフレークではないとしていたが、まさにコーンフレークそのものであり、ケロッグの視点がもはや現代に受け継がれていないことを活かした視点ズレ漫才といえる

l  ミルクボーイの漫才の続き

ヴィーガン食実験の結果は、ミルクボーイの漫才の後なので、研究成果をネタに落とし込めば、「おかんの性欲がなくなるのであれば、コーンフレークではない」という話になる

 

第7部        交流――慇懃を通ずる

I       恋人へのプレゼントの最適解はディルド。あるいはおまる。我々はなぜ失敗プレゼントを贈るのか

l  真紅のバウボーン

「バウボーン」とは「張形」、現代風に言うと「ディルド」で、古代ギリシアでは最高の贈り物

ディルドとは、勃起した男性器を模して作られた性的なおもちゃ

l  深紅のポ・ド・シャンブル

「ポ・ド・シャンブル」とは「おまる」。ナポレオンが侍従長の娘に贈ったのは有名

l  魚料理とパン

中世ヨーロッパでは、愛する男性に贈るプレゼントとして、生きた魚を膣に入れて死ぬまで放置し、それを使った魚料理と、お尻で小麦粉をこねて作ったパンが使われたが、いずれもおまじないだったことが問題。おまじないは、「呪(まじな)い」となり、「呪(のろ)い」と同じになって、教会から厳しく罰せられた

l  舞踏会でプレゼントするリンゴ

19世紀オーストリアの農村では、好ましく思った男性と踊るときに、脇の下にリンゴの一切れを挟み、ひと踊して汗をかいた後にリンゴを男性にプレゼントする風習があった

l  我々はプレゼントから逃れられない

多くの動物には「婚姻贈呈」という行動があり、オスがメスに求愛する際に食べ物を与えるが、それは脳の回路に埋込まれた行動であり、遺伝子レベルでも進化してきたことが判明

l  変なプレゼントも許してあげよう

贈り物行動が遺伝子レベルの話であれば仕方ない

 

II     乳首責めの社会学。FANZAレポートが捉えた、日本人の上流階級化

FANZAは、日本最大手のアダルト動画配信サービス。ユーザー数は388万人

l  アダルト動画のトレンド調査

FANZAレポート2024』で面白いのは、検索キーワードのトレンド

l  大躍進の検索キーワード「乳首」

エロ検索ワードはほぼ不動のなか、2018年に16位だったが、2023年には1位に躍進

l  なぜ「乳首」なのか?

解く鍵は「キンゼイ・レポート」にあり

l  最古のレポート

1948年発表された史上初の性行動の大規模調査

上流階級の男性はほぼ全員がおっぱいを責めるが、下層階級の男性はあまりおっぱいを責めない

l  なぜ上流階級は乳首責めを好むのか

レポートによれば、上流階級の男性は、『結婚の手引き』などを読んで、女性はイクのが大変だと学習し、女性の体のすべての部分を手で刺激する。また、AV界の「ハウツー系」を通して学習しようとしている。日本のAV視聴者も上流階級化していると言える

l  上流階級化するアダルトビデオ業界

上流階級の男性が乳首責めをするのは、学習意欲が高く、性行為をマニュアルによって学んでいるから

ほかにもFANZAレポートのトレンドワードは、如実に上流階級化がみられる。「中出し」がランクを下げたのも、下層階級は挿入に重きを置くので、挿入に関する検索ワードの筆頭でもある「中出し」のランクダウンは、上流階級化の証左

l  四十八手で唯一の乳首責め

菱川師宣の『表四十八手 恋の睦言四十八手』に唯一存在する乳首責めが「後懸(うしろがかり)」。授乳中の女性に対して後背位で挿入する男性が描かれている。乳首責めを主体的に実施する発想は乏しく、授乳によって偶発的にニーズが満たされていた

l  自然現象から人工物へ

乳首責めは、かつては授乳という自然現象で制御不能だったが、今や人間の営為によって生み出されるようになった。ということは人工物に変わった。制御不能な自然現象を、制御可能な人工物に置き換えるのは、人間の知性の発展がなせる技であり、文明の本懐

l  乳首責めを讃えよう

検索ワードで「乳首」がトップに出たということは、文明の進化の証でもある

 

III   「寒くなりましたね」はセクハラ。うっかり言いがちなトラップ下ネタ10

古代ギリシアではフェラチオさせることを「一杯ごちそうする」と表現していた

l  セクハラになり得る要注意表現

気づかずにハマってしまう落とし穴みたいな下ネタをトラップ下ネタと呼ぶ

l  「外で食事しない?」もダメ

「外で食事をするeat out」は、現代英語における「クンニリングス」の隠語

l  アボカドを注文してはならない

アボカドの語源はナワトル語(古代アステカ文明の言語)の睾丸

トマトもまずい。トマトジュースを飲むことによって精子の運動率が上がるという研究結果がある

l  大体のメニューが危ない

「蟹」は、古代インドにおける正常位の一種

アーモンドは両性具有の女神アグディスティスの切り取られた男根から生えた植物

卵は、フィンランド語や中国語などでキンタマを表す俗語

アルコールを飲むことによって性欲が増す「ビール・ゴーグル効果」が広く知られているので、アルコール全般もNG

l  天気の話も危ない

「寒くなってきましたね」は、「私は女体に魅力を感じています」というアピールになり得る。ポーランドの人類学者の研究によれば、男性は寒くなるほど女性の身体に魅力を感じていたことが判明。一種のコントラスト効果で、寒いと厚着になって女体のパーツが日常的に見えなくなり、その分希少価値が上がって魅力的になるという

l  体調の話も危ない

「飲み過ぎて胃腸の調子が悪い」というのも、古代中国の『王房秘訣』によれば、身体の不調は大体セックスすれば治るとある

l  「アクメ」はOK

日本では「性的絶頂」の意で用いられるが、英語のacmeは単に頂点の意。語源は古代ギリシア語で「頂点」を意味する語akme。仏語のacmeも「最盛期」の意

 

 

 

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教養なき下ネタは去れ。令和に棹差す珠玉の金言集、完成。

コーンフレークは性欲を抑えるために開発された? 「正常位」の名には人類史が宿っている? アリストテレス、ガンディー、フロイト、正岡子規、医学者、性科学者……先人たちの飽くなき探究と実験により得られた性科学的知見の数々。著者ならではの考察と多角的な視点から生まれた、下ネタの〈総合知〉と称すべき賢者の書。

 

 

 

「ゆる言語学ラジオ」相方より

水野太貴

 幸運なことに、著者の堀元さんは面白い雑学を見極めるセンスと、それを適切に配列し、良質なコンテンツに変える構成能力に長けている。ところが不幸なことに、彼はその才能を余すところなく無駄遣いした。端的に言うと、『読むだけでグングン頭が良くなる下ネタ大全』はそういう本である。
 堀元さんとの付き合いは長い。YouTubePodcast番組「ゆる言語学ラジオ」「ゆるコンピュータ科学ラジオ」をふたりで始めてもう3年以上経つ。同番組でも、その嗅覚と構成力はいかんなく発揮されている。
 僕もゆる言語学ラジオの台本を構成することがあるのだが、面白い研究や知識というのは諸刃の剣だと常々思う。それ自体が面白すぎると、構成をついサボってしまうからだ。「女性器が開くオノマトペ『くぱぁ』の原形は紀元前5世紀にあった」(第2Section II)という事実があれば、それをまっすぐ紹介しているだけでもそれなりに面白いコンテンツになる。ところが堀元さんはサボらない。この話をあくまで導入とし、各国の文化を比較。しまいにはキリスト教の歴史と「くぱぁ」を並べてみせるのだ。バカげている。実にバカげているのだが、その飛躍が心地よい。
 各章こんな調子なので、出てくる雑学のクオリティと密度は過去の著作である『教養(インテリ)悪口本』(光文社)、『ビジネス書ベストセラーを100冊読んで分かった成功の黄金律』(徳間書店)に比べて段違いに高い。自分が感心したものをざっと並べてみると、「恐竜の大腿骨の化石は、18世紀には巨人のキンタマだと思われていた」(第2Section III)、「コーンフレークは性欲を抑えるために開発された」(第6Section III)、「中華料理には、思春期前の男児のおしっこで卵を煮込んだ料理がある」(第3Section I)……。テーマがテーマなだけに、感心したというのも憚られるが、意外な事実であることは間違いない。そしてこれらが広く知られていない理由のひとつは、下ネタだからだろう。これまで語られていなかったがゆえに、堀元さんのリサーチ力とストーリーテリング力は金玉(きんぎょく)のように輝く。
 さらに「巨人のキンタマ」「性欲抑制コーンフレーク」「おしっこゆで卵」もまた、どれも一発ネタではない。こうした雑学はあくまで枕。どの章もそれぞれ興味深い議論が展開されており、とにかく飽きさせない工夫がちりばめられている。
 ゆる言語学ラジオにしても『下ネタ大全』にしても、堀元さんの目指す理想は変わらない。この本を読み終わって思い出したことがある。彼は何かにつけて「ふざける」というワードを使うのだ。実際、noteのプロフィールには「知識を使ってふざけることで生活しています」とあるし、ゆる言語学ラジオのコンセプトを固める上でも、かなり初期の段階で「ふざける」というワードを使っていた。正直なところ、僕は初めてこのコンセプトを聞いたとき、彼にどんな勝算があるのかイマイチわからなかった。しかし今、彼の言わんとしたことはよくわかる。世の中には思いのほか、面白い知識をユーモラスに、明るく語るコンテンツがないのだ。だいたいは知識×非ふざけ(=interestingに全振り)か、非知識×ふざけ(=funnyに全振り)のコンテンツだ。彼は4年前にその構造を看破し、ぽっかり空いていたポジションを占めた。
 その意味で、この本は作家・堀元見のひとつの完成形と言えるだろう。下ネタほど、彼のポテンシャルを引き出せる題材はないからだ。冒頭で「才能の無駄遣い」と述べたが、むしろ逆で、これほど彼の才能を引き出す素材はないと、いちファンとして思う。
 同書の中で、VRを例にして「テクノロジーが発展するきっかけは性愛だ」と主張する箇所がある。僕はもうひとつ、性愛が人類の発展に貢献した分野を知っている。それが芸術だ。例えば官能小説に、独特のレトリカルな比喩があることをご存じだろうか。『官能小説用語表現辞典』(永田守弘編、ちくま文庫)を開くと、女性器の比喩として「極楽鳥花」「安達ヶ原の黒塚」「かげろうの羽根」が実例とともに挙げられている。こうした大げさな比喩が生まれた背景は、意外にも政治的な圧力だった。戦後間もなく官憲によるエロチェックが復活し、直接的な表現をすると作家や出版社が警察から呼び出されるようになったのだ。そこで官能小説の作家たちは、検閲に引っかからない程度には間接的だが、読者には何を描写しているかわかるような表現をひねり出した。そうした背景が忘れ去られた今もなお、官能小説は独自のレトリックを進化させ続けている。
 下ネタは、使い方によっては不快感を与える。でも人類が性とともに進歩してきたことは紛れもない事実で、『下ネタ大全』はその奥行きを余すところなく活写した、堀元さんにしか書けない本なのだ。この本のタイトルを聞いて、鼻で笑った人もいるかもしれない。でも僕は思う。この本を読んで「グングン頭が良くなった」と思うかどうかは、逆説的だが、その人の教養の深さを反映しているのだと。

(みずの・だいき 編集者)

波 20256月号より
単行本刊行時掲載

 

 

担当編集者のひとこと

 コンプライアンス全盛のこの時代、今どき下ネタなんてと思いますよね。ですが、人類史と深く結びついた下ネタは知れば知るほどおもしろく、教養へとつながる。思わず、そう実感してしまう一冊です。
「コーンフレークは性欲を抑えるために開発された」、「修道女の聖水から生まれた奇跡のような薬がある」、「実験医学の父、ジョン・ハンターの知られざる性実験」といったように、本当だろうかと疑いたくなる意外な事実の数々。それらの背景には歴史的、宗教的、あるいは医学的な要因などがあると示すだけにとどまらず、古来、人間の営みはいかに興味深いかという議論へと発展していきます。
 著者は若い世代に人気のYouTubeチャンネル「ゆる言語学ラジオ」で話し手を務める堀元見さん。理系ゆえ、エビデンスのない説やデマは採用しないのが信条。卓越した下ネタを書くためとはいえ、ここまで執念深く様々な文献や海外の論文にあたった著者は、きっと他にいないでしょう。
 明日話したい下ネタを知りたい人も、知的下ネタの深淵をのぞきたい人も、タイトルに偽りなしと実感できること請け合いです。(出版部・YS

2025/11/27

 

 

 

 

 

 

 

 

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