英語の品格 Rochelle Kapp/大野和基 2024.1.13.
2024.1.13. 英語の品格
著者
Rochelle
Kapp 経営コンサルタント。1964年、ニューヨーク州生まれ。シカゴ大学経営大学院修了(MBA)。現在、ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社の社長を務める。『製造現場の英語表現』(ジャパンタイムズ)などの著書がある。朝日新聞GLOBEで連載も行う。女性
大野和基 国際ジャーナリスト。1955年、兵庫県生まれ。東京外国語大学英米語学科卒業。コーネル大で化学、ニューヨーク医科大で基礎医学を学ぶ。医療問題から経済まで幅広い分野の取材執筆を行う。『代理出産―生殖ビジネスと命の尊厳』(集英社新書)、『マイケル・ジャクソン死の真相』(双葉社)などの著書がある。
発行日 2017.8.12. 第1刷発行
発行所 集英社インターナショナル (インターナショナル新書)
カバー袖裏
Please,
whyなどを安易に使うとトラブルに! グロービッシュのような今流行の簡略化した英語では真意が伝わらない
英語は、決しておおざっぱでストレートな言語ではなく、日本人が考えるより、遥かに繊細で豊かな表現にあふれている
日英両言語とその文化に精通した著者が、ビジネスや日常生活ですぐに役に立つスキルを分かりやすく伝授。相手を思いやる婉曲表現、人間関係を円滑にする丁寧で気の利いた言い回しなど、ちょっとした工夫で、品格のある英語が自分のものになる
イントロダクション Rochelle Kapp
l 英語を話せないと評価されないアメリカ
アメリカは言葉に重きを置く社会。幼稚園からshow and tellという実習があり人前で発表することに慣れている。学校に入ると、ディスカッション、論理的な文章の書き方、ディベートなどの教育を受け、自己表現力を体得するので、話が下手な人は能力不足と判断される。大学入試でも語彙力は大きな割合を占め、洗練された難しい表現がその人の教養レベルや知的レベルの指標になっている。外国人が外国語を話すことの難しさを理解できないまま、英語のレベルによって人を評価する。相手の使う言葉に非常に敏感
l 間違った英語で取り返しがつかなくなることも
英語を積極的に使いながら間違いや軋轢を防ぐには、まず重要なのは、多くの日本人が英語や英語習得に関して持つ誤解を解くこと。本書では、日本人があまり知らない英語の特徴――間接的な表現、単語力をつける方法、ネイティヴらしい特別な文法構造、丁寧な決まり文句、社会的ルールを守った言葉の選択――を紹介した上で、身についた「英語の品格」をさらに上げるために必要なことを紹介
l 「品格のある英語」でよりよいコミュニケーションを
英語は、様々な言語が混じり合ってできたので例外が多く、一貫したルールが少ない
それだけに柔軟で応用性があるともいえる
第1章
日本人英語の非常識――ネイティヴが驚く不自然な英語を正す
日本人が考える英語の常識と自然な英語表現との間のギャップを考える
l ネイティヴが聞いてびっくりする表現
①
病気で休んでいる人に電話をかけて Please get well.
②
アメリカ人が自分の家に来たときに Please take off your shoes.
いずれも英語としては正しいが、言われた方はいい気がしない
l Pleaseをつけると常に丁寧な言い方になるのか?
①
I hope you
feel better soon.
②
I would
appreciate it if you……/Would you mind……
l 英語は日本語よりもストレートな言語である、という誤解
①
「できない」「したくない」ことを伝えたい場合――ストレートな言い方はしない
We
cannot do it now. → I
would rather not do it now, maybe later.
丁寧に断る婉曲表現
I’m
afraid that…./Unfortunately, it would be too difficult…/We don’t think that
it’s feasible./We need to take a pass on this one.
②
賛成できないことを伝えたい場合――相手の気持ちを傷つけないような表現
I have a
different opinion. /I’m thinking of it in another way.
③
Noやnotは非常にきつい拒絶の言葉――婉曲表現を心掛ける
Notを使う場合でもwouldn’tといったり、I would do it differently.といえばnotと使わなくても同様のことがいえる
④
Mustは脅迫的に聞こえる
Must>have to>had better>should>need toは強さが大きく異なる。Had better やmustは脅迫的な響きがあり、大人同士ではほとんど使わない
You must
do this by tomorrow. は、You
need to do this by tomorrow. が適切
⑤
Youを主語にして相手を批判すると個人攻撃になる――Iを主語にして主観的なニュアンスにすれば反発されなくて済む
You made
a mistake.より I found
a mistake. /I found what seems to be a mistake.
⑥
Whyを使って理由を聞くと非難がましい――客観的に理由を聞くための婉曲表現
Why did it
happen? より、How
did it happen?
l 様々な依頼の仕方
部下や目下の者に対して依頼や注意するときにpleaseをつけることが多いので命令的なニュアンスが拭えないため、ネイティブが日常的に使うのは、
Could
you possibly plan to get here before 3 pm?
Would
you be able to stop by our office when you are in Tokyo next?
Could I
trouble you to take this to the post office for me?
Would it
be possible to meet you while we are in New York?
l Policyを使ってさりげなく依頼・命令を行う
相手に失礼がないよう頼む場合に使われるのがpolicy。客観性があり受け入れられ易い
It’s our
policy that all guest must remove their shoes when entering the temple.
House
ruleでもいいし、everyoneを主語にしたり、動作を主語にした間接表現でも
l Would(Do) you mind if….? を使って許可をもらう
相手の許可を得ようとするときは、ネイティヴが使うのはMay I….?よりも
Would it be alright if I took a
bottle of Coke?
Do you mind if I take a bottle of
Coke? カジュアルではDo
youを省略することも
問題なければ答えはNot
at all. 問題あればI
would appreciate it if you didn’t.
l 無理なお願いをする方法
Would it
be possible to switch our meeting to Tuesday?
l 出来ないことを伝えたい場合のコツ――「ハンバーガーの公式」
英語で大切なのは、丁寧さと分かりやすさのバランス。失礼がないよう相手に気を配った婉曲表現で、誤解がない様にはっきり伝える。Mest pattyをBun(バーガー用の丸いパン)と調味料で覆いかぶせる。答えの最初にポジティヴな文章を持ってきた後、
I’m
afraid that…/Unfortunately…./I’m sorry to have to tell you….などの言葉を添えて結論を明確に話す
l 賛成できない場合
相手の意見や提案に全面的に反対しているわけではなく、それに伴う困難から賛成できないとのニュアンスで答えると角が立ちにくい
I
anticipate some difficulties implementing that approach in our organization.
l 同感の意を伝えたいときに品格を上げる言い回し
I can’t agree
with you more. /I second that. のほか、definitely, wholeheartedly, completelyなどを添える
l アメリカ社会の構造を知る必要性――どの程度丁寧な表現を使うかの判断基準として
平等な社会なので、相手の身分や地位に拘らず丁寧な表現を使う、婉曲表現が役立つ
SATでも、語彙力は大きな役割を占めているように、アメリカ社会で成功するためには、難しいことや言いづらいことをうまく表現する言語能力が非常に重要
第2章
自然な英語を目指して――語感から理解する本物の英語
英語本来の発想を学ぶとともに、豊かなボキャブラリーが不可欠
l 自然な英語とは何か?
ネイティヴが普段会話に使っている英語を使うよう心掛ける
職業はoccupationだが、職業を聞く時は What kind of work do you do?
l 日本語の発想をそのまま英語にしない
l リンスは英語ではない――単語レベルでの間違い
l Getだけでいいのか?――洗練された単語を使いこなす
英語は動詞の数が圧倒的に多い言語で、状況に応じて使い分けることで品格が上がる
アメリカ社会では、地位が高い人ほど語彙が豊富なので、意図的に難しい単語を織り交ぜると効果的
l 日本の擬態語や擬声語をどう表すか?
動詞そのものが変わる
歩く――plod(とぼとぼ歩く)、stride(闊歩)、stroll(ぶらぶら)、toddle(よちよち)
笑う――chuckle(含み笑い)、giggle(クスクス)、grin(にっこり)、titter(忍び笑い)
驚く――stunned(あぜん)、amazed(目を丸くする)、taked backed(不意を突かれる)
怒る――livid(激怒)、choleric(怒りっぽい)、wrathful(怒りに燃えた)
l 英単語のイメージを掴む
ネイティヴの成人は2~4万語。文脈によって意味が変わるので要注意
Available――時間がある、物が空いている、都合がいい
Engage――起動させる(Engage your brain.)、雇う/手配する、(名詞)労働意欲
Expect――かなり強い期待(普通の期待ならlooking forward)
Integrity――人格者(a man of –)、道徳心(lack of -)、信頼性(brand –)
Doubtとsuspect――doubtはネガティブに疑うこと、suspectはポジティブに疑う
Foreignとalien――foreignは「馴染みがない」で、alienは「(性に)合わない」
Think,
assume(仮定),
presume(推定)の使い分け
l 差別や軋轢を防ぐための中立的な表現
身体障碍者――(以前)handicapped/disabled、(現在)physically challenged
失業者――(以前)unemployed、(現在)between jobs/in transition
貧しい――(以前)poor、(現在)in reduced circumstances/disadvantaged
解雇する――(以前)fire people、(現在)downsize/rightsize/restructure
l 語彙を増やす方法
①
言葉のニュアンスを深く知るための辞書活用法――和英辞典で出て来た単語を英和辞典で引き直す。例文を載せた辞書が有効
②
類語辞典thesaurusを使う――ネイティヴも活用。同類後の組み合わせかたも重要
③
微妙なニュアンスを出す句動詞phrasal verb(シンプルな動詞を前置詞、副詞などと組み合わせて特別な意味を表すフレーズ)を覚える――文脈によって意味が変わるので要注意
Make up――作り出す/捏造、(損失の)埋め合わせする、化粧する、編集する、決心する
Make out――まとめあげる、ふりをする、うまくいく、愛撫し合う
④
洗練された表現や単語を使う――簡単な単語の組み合わせでもできる
I could
have done nearly as well. 足元にも及ばない
フランス語由来の単語を使うと品格が上がる――chickenよりpoultry、bon appetit
Word of
the dayのようなサイトを活用して単語を覚える努力が必要
NY Times紙のサイト:https://www.nytimes.com/column/learning-word-of-the-day
Wordsmith.org(http://wordsmith.org/words/today.html)
第3章
品のある英語に仕上げるためのスパイス――ビジネス実践編 1
言いたいことを論理的に説明するスキルが必要
l Spell it (all) out(詳細に説明する)の重要性
例1:問題を指摘するとき――全体の評価から入った上で、問題点を指摘
例2:ミスの注意――叱るのではなく、問題点を説明した上で何をしてほしいのかを説明
例3:謝罪するとき――できなかった理由をしっかり説明する
l 短くぶっきらぼうではなく、完結した文章で会話することが大切
l What if…?(代わりに…..したらどうですか?)を使いこなす。動詞を過去形にする
Why can’t
you make fewer mistakes? より What if we adopted new checking procedure?
l 提案の方法
提案して、その理由を説明する
l 仮定法を使いこなす
間接的で押しつけがましくない印象を与える
If I
were you, …./If I were in your shoes(place), …./If it were me, I would….
l ネガティヴなニュアンスの強い単語を使うと品格が下がる
Hateやstupidのような強い言葉を使うのは品が良いとは言えない。柔らかい表現を使う
l 客観的な言い方をする
相手の気持ちを苛立たせないことは、品格のある英語の条件
l 疑問文を平叙文でいうと品格が上がる
依頼事をするとき直接疑問文で聞かずに、I’m wondering if you… と平叙文にする
l 表現を和らげることは品格に繋がる
ネガティヴなことを言わなければならない場合は、婉曲的表現を使う
This is
a problem. よりは、There
seems to be a problem.
l 英語で「本音」と「建て前」にあたるものはあるか?
「建て前」に相当するものはあるが、その「言葉」にあたる単語はない
Honesty(誠実さ)を大切にし、相手が聞きたくない否定的な情報でも躊躇なく言うが、相手との衝突やぎくしゃくしたくない場合には建て前を利用する
Little
white lie――善意からつく小さな嘘で、恋愛でつく嘘など
Bending
the truth――反対語はtelling
it like it is
Political
correctness――差別的な意見を持っていてもそれを口にせず、社会で「正しい」と思われている言葉を使う
Being
diplomatic――否定的な情報を控えめに言う、角を立てずにうまく話す
Stretching
the truth――事実を誇張する
Being
vague on purpose――わざと曖昧に言う
第4章
品格のある英語で好感度を上げるコツ――ビジネス実践編 2
l 話しにくいことを切り出す方法
まずそれを認める言い方をする
I realize
that this is a sensitive topic, …/This is hard for me to talk about, ….
その上で、「どうしても話さなければならない」ということを伝える
….but I
do think that it’s important to discuss this.
l 本題に入りたいとき
Let’s
not beat around the bush. /I think we should focus on ….
l 言い換えたい場合
Let me
put it another way. /In other words, …../What I mean by that is….
l 「….ということにしましょう」と言いたい場合
内密の情報交換などの場合、最後に付け加える言葉
I didn’t
give it to you. /I didn’t say that. /Let’s pretend I didn’t hear anything.
l 急ぎではないと伝える場合
It’s not
urgent. /It can wait. /Let’s set this aside for the time being.
l 急ぎたい場合
Let’s
prioritize this. /Let’s make sure this gets done first.
l 確認の仕方
Let me
make sure that I got that right.
Let me …..は、相手の許可をもらいたいときにとても便利な表現
l ゆっくり話してもらいたいとき
Please
don’t forget, I am not a native speaker of English. I would appreciate it if
you could please slow down a (little) bit.
l 話の脱線を指摘したいとき
That’s a
bit off the topic. /I’m afraid that you’ve gone off on a tangent.
l 「また会いましょう」「ご無沙汰しております」と伝えたいとき
I hope
we cross paths again soon. /Let’s stay in touch. /It’s been a long time.
I’m
sorry to have been out of touch for so long. (ご無沙汰しています)
Speak of
the devil.(噂をすれば影、偶然出会ったようなとき)
l 気の利いた表現で会話を豊かにする
Just give
me a heads-up on the 9th when you want to drop by. (heads-upは「注意」や「警告」だが、giveをつけて「事前に教えてほしい」の意)
I’ll touch
base with you after my business trip. (連絡する)
After I wrap
up things here atathe office I plan to go to gym. (片づける)
l うまくいかなかったときの英語
Things
just didn’t work out./It didn’t go as well as expected./It wasn’t a good fit.
l Noを使わない否定
“Yes,
but ….”は非論理的
I see
your point. But(However) …./I like this least of all. (否定を表す婉曲表現)
l プライバシーについて
That’s
personal.と言われたときはそれ以上追及してはいけない
l 間違えたと思ったときに言い直す方法――真意が伝わらない場合や誤解を解く方法
Did I
say something strange? /Was there a problem with something I said?
l なんとかします
We’ll
take care of it.
l 「明日までに仕上げてよ」と言われて、出来そうにないとき
Unfortunately,
I don’t think that’s realistic.
l 「今日はこれでおしまいにしましょう」と言いたいとき
Let’s
wrap things up for today and continue this discussion tomorrow.
l 感謝の表し方
ネイティヴはappreciateを多用
l 成果を上げたときに褒める表現
What you
did is making a difference. /What you did was very meaningful.
l 褒められたときの答え方
素直にありがとうと受け入れる Thanks,
I’m glad you think so.
l 「昇進祝い」はどう言うか?
This is
a big accomplishment for you. /You should be proud of yourself.
l 「頑張って」をどう言うか?
Good
luck! /Do your best! /Go for it! /I’m crossing me fingers for you.
l 仲間内での挨拶
What’s
up? /What have you been up to?
l 品のない英語への対策
What the
hell! → What
the heck! /damn(くそっ)
→ darn(しまった)/bullshit(でたらめ) → garbage(ゴミ)/asshole(バカ者) → jerk(嫌な奴)/shit(くそっ) → rats(しまった)
l 話題を変えたいとき
Let’s
talk about something different.
l 交渉のための英語
Don’t
like …. → don’t care for …./like…better → would prefer/語尾にsomehow
l 値段の交渉をしたいとき
That’s a
little more than I was planning to spend. /Let me think about it.
l クレームcomplaintのつけ方
It doesn’t
work properly. /I changed my mind.
l 学歴を聞くには――何を勉強したかを聞く方が適切
What did
you study in college?
l 出身地の聞き方――移民が多いので要注意
聞くとしても Are
you from around here originally? 程度か
l 名前の由来を聞けるか? ――要注意。打ち解けてから聞く
l 立食パーティの英語
切り上げる3ステップ――感謝する、切り上げる口実、今後も関係を保つ意を伝える
l お悔やみの表現と手紙
Die → pass away, pass on
死因を言うのが通例。お悔やみを送るのは重要
集英社インターナショナル ホームページ
コミュニケーション力がアップする品格のある英語があなたのものに!
pleaseを使うと丁寧になると思ってはいけない!
whyやmustを安易に使うと、相手が気を悪くしてしまう!?
英語は大ざっぱでストレートな言葉ではなく、繊細で豊かな表現にあふれている。この一冊で、ビジネスや日常生活ですぐに役立つ、品格のある英語が自分のものになる。
小林克也(DJ、タレント)推薦。
「何十年もかけて手に入れたと思った英語の心。この本に全部集約されていました――こんな本なかった!」
ロッシェル・カップさん、大野和基さんコメント
映画などの影響で、ストレートで下品な英語を使ってしまい、ビジネス等で失敗することがよくあります。この本を執筆したのは、英語に対するそんな勘違いがなくればいいと考えたからです。今まで学んだ英語が、より正しく洗練され、品格のあるものになるスキルをお教えします。
担当編集者より
著者のロッシェル・カップさんは、経営コンサルタントとして、各種セミナーで日本のビジネス・パーソンにアドバイスを行っています。とてもきれいで丁寧な日本語を話します。「敬語」「本音」「建前」など、日本語・日本文化にも精通しており、日本人に最も合った方法で、品格のある英語を教えてくれます。
もう一人の著者・大野和基さんは、テレビ出演でもおなじみですが、英語と関西弁を流暢に操り、世界をまたにかけて活躍するジャーナリストです。子供の頃から英語に親しみ、独学・留学を通して英語をマスターしました。本書では日本人に特有の間違いや勘違いを指摘しています。分かりやすい説明には、まさに目から鱗が落ちる思いがします。本書で使われている単語は基本的なものが多いので、辞書なしで大丈夫です。読み終えると、気の利いた英語表現をすぐに試してみたくなります!
アルク ホームページ
英語ってこんなにも繊細な言葉なのか!
「英語は繊細な言語だ!」グローバルな経営コンサルタントと世界を股に掛ける国際ジャーナリストが、そのノウハウを結集し、ビジネスで通用する「丁寧な言葉遣い」を伝授。60のシチュエーション×3パターン=180の例文があなたの仕事を成功に導く。
ベストセラー『英語の品格』(2017年、集英社インターナショナル刊)を、フレーズ学習用にアルクがリメイクした「実践編」。「自己紹介をする」、「都合の良い日時を聞く」「部下の仕事ぶりを褒める」「話しにくいことを切り出す」……など、ビジネスシーンで実際に頻出する「60のシチュエーション」においてどのような英語を話すべきか、NG例、品格レベル初級、品格レベル中級、品格レベル上級の4つの例文を挙げながら解説。相手を思いやり、人間関係を円滑にし、ビジネスを成功に導く「繊細で、丁寧な」英語が身に付く。例文の音声はダウンロード全て可能。
Newsweek
日本版
日本人が知らない「品格の英語」──英語は3語で伝わりません
MUCH TOO
SIMPLE
2019年4月2日(火)16時25分
井口景子(東京)、ウィリアム・アンダーヒル(ロンドン)
イラスト内のセリフ(*1)(*2)の解説は本文の最後に記載 ILLUSTRATION BY TAKUYA NANGO FOR NEWSWEEK
JAPAN
<日本で人気の簡易版英語は、世界の現場で役立たず。「品格のある大人の英語」が不可欠な時代がやって来た。言語学研究に基づいた本当に通じる英語の学習法とは?>
※4月9日号(4月2日発売)は「日本人が知らない 品格の英語」特集。グロービッシュも「3語で伝わる」も現場では役に立たない。言語学研究に基づいた本当に通じる英語の学習法とは? ロッシェル・カップ(経営コンサルタント)「日本人がよく使うお粗末な表現」、マーク・ピーターセン(ロングセラー『日本人の英語』著者、明治大学名誉教授)「日本人の英語が上手くならない理由」も収録。
◇ ◇ ◇
必要な単語は1500語のみ、複雑な時制や受動態は避け、短くシンプルな文で押し通す、比喩的表現や慣用句はご法度――そんなルールを掲げ、21世紀の国際コミュニケーションの新基準と期待を集めた新種の英語があった。IBM出身のフランス人実業家ジャンポール・ネリエールが提唱した「グロービッシュ」だ。
グローバルとイングリッシュを掛け合わせた造語であるこの簡易版英語は、グローバルビジネスの最前線で苦労する非ネイティブ話者の救世主ともてはやされ、2010年頃に世界的なブームを巻き起こした。
「通じればOK」のグロービッシュが国際ビジネスの共通語になれば、難解な構文やネイティブ流の発音を必死で学ぶ必要はなくなり、英語の壁は消え去るはず──。
だが、そんな未来は訪れなかった。「それ以前のあらゆる簡易版英語の試みと同じくグロービッシュは機能しなかった」と、イギリスの著名な言語学者デービッド・クリスタルは言う。単純な語彙や文法で十分という考え方は「日常会話で使われる表現を過小評価している。ビジネスコミュニケーションに至っては話にならない」。
残念なことに、消え去るはずだった英語の壁はこの10年でむしろ一段と高くなった。新興国も巻き込んだ経済のグローバル化が加速し、共通語としての英語のニーズと、求められる英語力の水準は高まる一方だ。
世界最大級の留学・語学教育企業イー・エフ・エデュケーション・ファーストが毎年行っている英語力比較調査では、世界全体の英語力が上昇傾向にあることが明確に示されている。
2018年には非英語圏の88カ国・地域のうち、英語力が5段階のうち一番上の「非常に高い」とされた国が過去最高の12カ国に(日本は下から2番目の「低い」)。業種間の英語力の差も縮小しており、あらゆる業種で英語ニーズが高まっていることが分かる。
l 「通じればOK」は高リスク
各国の英語教育業界は、こうした流れに後れを取るまいとスキルアップに励むビジネスパーソンで大盛況だ。ただし彼らのゴールは、格調高いネイティブ英語を完璧に操ることではない。
今や世界の英語話者のうちネイティブはわずか2割ほど。国際ビジネスの現場でも大多数はアジアや欧州、中南米などで生まれ育った非ネイティブだ。そこでの共通語はグロービッシュのようなブロークンな英語と比べればはるかに高度で洗練されているが、一方でネイティブ英語そのものでもない。
発音に多少の癖があっても、相手への敬意や社会常識がにじみ出る、品格のある英語。完璧な言い回しばかりではないが、その道のプロフェッショナルとして顧客の信頼を勝ち取り、交渉をまとめられる英語。
そうした「新しい形のグローバル英語が標準になっている」と、BMWやボッシュといった多国籍企業に研修を提供する英ファーンハム・キャッスル社のクリス・マッシーは言う。「英語はもはやネイティブ話者だけのものではない」
英語に苦手意識を抱える日本人にとっては、ネイティブ英語とは別の意味でハードルの高い目標かもしれない。
日本でも英語ニーズの高まりは明らかだろう。本格的な英語力を要求されるのが外資系企業や商社ぐらいだった時代は遠い昔。自他共に認める「ドメスティック人材」が企業合併や取引先の見直しによって突然、外国人とのテレビ会議や海外出張に駆り出されるといったエピソードは後を絶たない。
一方、こうした変化に呼応して「ポスト・グロービッシュ時代」に求められる英語力の習得が進んでいるかと問われれば、答えは微妙なところ。
英語が必要な人の裾野が広がるなか、むしろ最近は意味さえ伝われば正しい英語でなくても構わないと割り切った、ある意味でグロービッシュと似た発想のアプローチが人気を集めている。
書店では「3語でOK」「中学英語で通じる」といったうたい文句の書籍がいくつもベストセラーリストにランクイン。「最小の努力で最大のリターンを得られそうな『レバレッジ』の効いたキャッチフレーズに引き付けられる人が非常に多い」と、ビジネスパーソンの英語教育事情に詳しい東洋大学の佐藤洋一准教授は言う。
限られた語彙で大丈夫というアプローチは確かに、ミスを恐れて何も言えなくなりがちな人にとっては心強い後押しになりそうだ。だが手持ちの初歩的な知識で何とかなるという発想は、必死で英語力に磨きをかける各国のビジネスパーソンの動きに逆行している。
そうした安心感が独り歩きすれば、地道な努力を重ねて英語力を高める必要はないという誤ったメッセージにもつながりかねない。「中学レベルの語彙や文法を学び直すことに意義があるのは事実だが、そこで止まっていいという意味ではない」と佐藤は言う。
それどころか、「通じればOK」という簡易版英語は、仕事上の不利益をもたらすリスクさえはらんでいる。幼稚な印象を与えて人事評価が下がった、パワハラと誤解された、品のない言い回しで人間関係が悪化した......。しかも文化の違いが障壁となり、何が問題だったのか自分では気付かないケースも多いから厄介だ。
【関連記事】英語は「複雑で覚えにくい」、pleaseで失礼になることもある
書き言葉の間違いが致命傷に
例えば、着席を勧めるときに使いがちな「Please sit down.」。中学校で必ず習うこの命令文は文法的には正しくても高圧的に指示するニュアンスが強く、特に仕事の場ではふさわしくない場合が多い(佐藤によれば「Have a seat./Take a seat.」のほうが適切な表現)。どの言語でも、丁重に依頼したり遠回しに断る際は文が長くなり、文法も複雑になる傾向がある。
仕事における最終的なゴールは相手に何かを伝えることではなく、ビジネス上の結果を出すこと。
「ビジネスコミュニケーションの世界では(自分の好感度を上げる)印象マネジメントがカギとなる。そのためには失礼にならない大人の英語が必須だ」と、佐藤は言う。「多様な民族や宗教が共存する欧州の人々は、そうした点に日本人よりずっと敏感だ」
コミュニケーション方略と呼ばれるこうした知識は、日本の英語教育ではほとんど教えられない。「学校の教科書は間違いだらけだ」と、日米のビジネス作法の違いに詳しい経営コンサルタントのロッシェル・カップは言う。
英語はストレートな言語だから回りくどい表現は不要という誤解も、コミュニケーション方略をないがしろにする風潮に拍車を掛けているのかもしれない。
実際には英語にも多様な婉曲表現が存在し、遠回しな言い方を好むイギリス人はもちろん、自己主張が強いと言われるアメリカ人でさえ丁寧で軟らかい表現を使いつつ、意思を明確に伝えられるよう工夫を凝らしている(具体例は本誌28ページ記事参照)。
でも、非ネイティブ同士ならそんな気遣いは不要では? いや、そんなことはない。例えば中国人は押しの強いイメージがあるが、相手の面目をつぶさないことを重んじるため、ストレートに命令する表現を敬遠する傾向がある。
カップによれば、相手を思いやる婉曲表現や、繊細で上品な言い回しが日本以上に期待される文化も少なくない。「常識の異なる人同士が対話するのだから、悪い印象を与えないよう細心の注意を払うのは当然のこと。相手をイラつかせたら、それだけでビジネスにとって大きなマイナスだ」
注意が必要なのは会話の場面だけではない。書き言葉は知性の尺度と見なされるため、そこでの失敗は話し言葉以上に致命傷になりかねない。
日本人は会話のときには些細なミスも恐れる一方、書き言葉でミスを犯すことへの警戒心がとても薄いと、カップは指摘する。実際、ビジネスメールやプレゼン資料から町の看板まで、至る所にスペルや文法のミス、おかしな論理構成が日本にはあふれている。
特にアメリカ人は外国人を潜在的な移民と見なし、誰もが英語習得に努力するものと無意識に考えているため、「推敲が可能な書き言葉での間違いは、改善の努力を放棄しているように映り、評価を大きく下げてしまう」。
l 「ネイティブ講師」幻想が消滅
グローバルビジネスの最前線で働く人々は、こうしたプレッシャーを日々、肌で感じている。彼らの危機感は相当なもので、文字どおり人生を懸けて英語習得に取り組む人も多い。
切実な声に応えるべく、日本のビジネスパーソン向け英語教育業界にも大きな変化のうねりが起きている。
ネイティブ講師と週1回、英会話レッスンをするだけで英語で仕事ができるようになるという幻想は薄れ、各社とも現場のニーズに合わせた多様なコースを提供。コミュニケーション方略を含めた指導を行う企業研修も増えつつある。さらにITを活用し、自宅で受講できるオンライン英会話や隙間時間に学べる語彙アプリも人気を博している。
なかでも最近のキーワードはコーチングだ。英語教育やタイムマネジメントのノウハウを持つ専門のコーチがマンツーマンで付き、2~3カ月間にわたって徹底的に伴走する短期集中型プログラムが相次いで登場し、「駆け込み寺」として注目を集めている。
こうしたプログラムの中には、第二言語習得研究の成果を積極的に取り入れたものも多い(本誌26ページに関連記事)。効果的な学習順序からリスニングの鍛え方、単語の覚え方まで科学的に理にかなった指導により、TOEICスコアの大幅アップや海外赴任の実現などの成果が多数報告されている。
「漫然とやっていても何も変わらないと気付く人が増えているのだろう」と、短期集中型プログラムの1つであるプログリットを提供するGRIT社の岡田祥吾社長は言う。「語学はスポーツと同じ。楽して一流選手になれる方法はないが、効率のいい方法でたっぷり練習すれば目標に近づける」
決して楽な道ではない。それでも、仕事に英語が必要だという強いモチベーションがあることは中学・高校時代とは違う大人ならではの強みだ。
まずは中学レベルの基礎を確認したら、そこで立ち止まらず、一歩ずつ前へ。その努力はきっと報われるはずだ。イギリスがEUを離脱しても、アメリカの覇権に陰りが見えても、国際共通語としての英語の地位は当分変わりそうにない。そして、そこでの主役は非ネイティブ話者なのだから。
※記事冒頭のイラスト内
*1:Please see this. 「こちら(スライド)をご覧ください」と言いたいのだろうが、これでは極めて不自然だ。Please look at this slide.と言い換えよう。
*2:We are cheap. 「値段は下げられます」と伝えたいのかもしれないが、「私たちはケチです」という意味に。We can lower our prices.などがいいだろう。
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