珈琲が呼ぶ 片岡義男 2019.2.15.
2019.2.15. 珈琲が呼ぶ
著者 片岡義男 1939年東京都生まれ。作家、写真家、翻訳家。74年に『白い波の荒野へ』で作家としてデビュー
発行日 2018.1.20. 初版1刷発行
発行所 光文社
Ø 一杯のコーヒーが100円になるまで
およそ考えられること全てを考えて100円になったコンビニの淹れたて珈琲と、従業員の誰もが何一つ考えていない(ホテルのティーラウンジ)のコーヒーとの間に、1000円を超える格差のあるコーヒーが、東京には存在
Ø 「珈琲でいいや」と言う人がいる
Ø Titanium Double Wall 220mg
アウトドア用品のブランドにスノーピークというのがあり、そこのマグカップは、真空の2重構造で熱が伝わりにくい
Ø 喫茶店のコーヒーについて語るとき、大事なのは椅子だ
Ø 4つの署名、1967年12月
ビートルズ
Ø 去年の夏もお見かけしたわね
Ø ミロンガとラドリオを、ほんの数歩ではしごする
Ø なにか冷たいものでも、という言いかた
Ø 白いコケインから黒いカフェインの日々へ
Ø いいアイディアだと思ったんだけどなあ
Ø さてそこでウェイトレスが言うには
Ø ただ黙ってうつむいていた
Ø 小鳥さえずる春も来る
Ø ボブ・ディランがコーヒーをもう1杯
Ø マグとマグの差し向かいだから
Ø ほんとに一杯のコーヒーだけ
Ø ブラック・コーヒー3杯で、彼女は立ち直れたのか
Ø 知的な判断の正しさと、絶対的な安心観
Ø アル・クーパーがブラック珈琲を淹れた
Ø モリエンド・カフェ
Ø Coffee Bluesと、なぜだか、コーヒーブルースと
Ø なんとも申し上げかねます
Ø 5時間で40杯のコーヒーを飲んだ私
Ø ある時期のスザンヌはこの店の常連だった
Ø 午前3時のコーヒーは呑気で幸せなものだった
Ø さらば、愛しきディマジオよ
Ø ほとんど常にくわえた煙草だ
Ø 昨日のコーヒーと私立探偵
Ø テッドはコーヒーを飲むだろうか
Ø しょうこりもなく、オールド・ヒストリーを
Ø それからカステラも忘れるな
Ø コーヒーと煙草があるところはかならず人がいる
Ø コフィとカフェの2本立て
Ø 東京と電車の関係を劇映画の中で見せる
Ø トラヴォルタのトイレット、ジャクソンのエゼキエル、ふたりのケチャップ
Ø ついに飲める1杯のコーヒ―
Ø 70年前の東京で日曜日の夕暮れコーヒー
Ø 「よくかき混ぜて」と、店主は言った
Ø コーヒー・バッグという言葉は英語だろうか
Ø ソリュブル・コーヒーへとその名を変えた
Ø 辰巳ヨシヒロ、広瀬正、三島由紀夫
Ø 砂糖を入れるとおいしくなるよ、と彼は言う
Ø ときには森さんの席にすわることもあった
Ø 万年筆インク紙
Ø 午後のコーヒーから生まれた短編小説について反省する
目眩を誘うコク深いエッセー 片岡義男「珈琲が呼ぶ」
この記事の連載は・・・・・・ 売れてる本
コーヒーの話で本を一冊。意外や、片岡義男が出す初の“珈琲(コーヒー)エッセー本”である。この著者なら並のコーヒー本ではないな、と読む前に確信した。
喫茶店に入って「コーヒーでいいよ」と注文する人に思いを巡らす文章が、45編からなる本書の最初の方にある。問題は「で」だ。ビールでいいや。おまえでいいや。日常で多用される「で」に違和感を覚えたらどうするか。「コーヒーがいい」だ。「が」には「それを選んで特定した」気配がある。
戦後すぐの東京で、男女がデートする場面を撮った映画。ふたりとも金がない。暗い顔の男は「みじめな自分が嫌だ。世の中はこんなだし」と嘆く。「戦争にいく前のあなたにはもっと夢があったわ。自分たちの店を持って、おいしいコーヒーを出したいという夢」。戦争は人の心を変える。政治的な言葉でなく、片岡義男は映画の台詞(せりふ)から読み手に伝える。
音楽や映画に登場するコーヒーを描くシャープな短文も読ませる。その一方で、ザ・ビートルズ来日公演などに材をとった、長めのフィクション味を帯びた文章もコクがある。
京都のスマート珈琲店は、幼い美空ひばりが太秦の撮影所に来ると必ずホットケーキを食べに来た。10歳の「僕」も母に連れられコーヒーを飲む。店を出ると「ひとりの少女が立って僕を見ていた」。少し年上に見える彼女が「去年の夏にもお見かけしたわね」と言う。私も少年と同じ軽い目眩(めまい)を覚えた。
東京・世田谷の邪宗門という喫茶店でレコード会社の美人ディレクターと会う話も印象に残る。森茉莉さんが通いつめた店だ。美空ひばりの歌がよく流れた。美人ディレクターが「ひばりさんの歌ばかりかかるお店なのね」と言う。その後の展開が素晴らしく、夢のようだ。
コーヒーの飲みかたと意味も価値も変わった日本と東京。しかし変化しない路地や店もある。珈琲を通し、経済と嗜好(しこう)と日本語を考察した贅沢(ぜいたく)な本だ。
◇
光文社・1944円=5刷1万2千部。1月刊行。担当編集者は「この本で初めて片岡義男を知った20代や30代の読者が、著者の過去の作品を買い求める『逆流現象』が起きている」。=朝日新聞2018年11月24日掲載
喫茶店に入って「コーヒーでいいよ」と注文する人に思いを巡らす文章が、45編からなる本書の最初の方にある。問題は「で」だ。ビールでいいや。おまえでいいや。日常で多用される「で」に違和感を覚えたらどうするか。「コーヒーがいい」だ。「が」には「それを選んで特定した」気配がある。
戦後すぐの東京で、男女がデートする場面を撮った映画。ふたりとも金がない。暗い顔の男は「みじめな自分が嫌だ。世の中はこんなだし」と嘆く。「戦争にいく前のあなたにはもっと夢があったわ。自分たちの店を持って、おいしいコーヒーを出したいという夢」。戦争は人の心を変える。政治的な言葉でなく、片岡義男は映画の台詞(せりふ)から読み手に伝える。
音楽や映画に登場するコーヒーを描くシャープな短文も読ませる。その一方で、ザ・ビートルズ来日公演などに材をとった、長めのフィクション味を帯びた文章もコクがある。
京都のスマート珈琲店は、幼い美空ひばりが太秦の撮影所に来ると必ずホットケーキを食べに来た。10歳の「僕」も母に連れられコーヒーを飲む。店を出ると「ひとりの少女が立って僕を見ていた」。少し年上に見える彼女が「去年の夏にもお見かけしたわね」と言う。私も少年と同じ軽い目眩(めまい)を覚えた。
東京・世田谷の邪宗門という喫茶店でレコード会社の美人ディレクターと会う話も印象に残る。森茉莉さんが通いつめた店だ。美空ひばりの歌がよく流れた。美人ディレクターが「ひばりさんの歌ばかりかかるお店なのね」と言う。その後の展開が素晴らしく、夢のようだ。
コーヒーの飲みかたと意味も価値も変わった日本と東京。しかし変化しない路地や店もある。珈琲を通し、経済と嗜好(しこう)と日本語を考察した贅沢(ぜいたく)な本だ。
◇
光文社・1944円=5刷1万2千部。1月刊行。担当編集者は「この本で初めて片岡義男を知った20代や30代の読者が、著者の過去の作品を買い求める『逆流現象』が起きている」。=朝日新聞2018年11月24日掲載
オススメ 編集部から
2018年3月11日05時00分
「コーヒーでも」と言って人と喫茶店に行く。目的はコーヒーの味か、交わす会話か、そこで過ごす時間なのか。多分、その全部である。片岡義男著『珈琲(コーヒー)が呼ぶ』(光文社・1944円)には、コーヒーの味そのものはあまり出て来ないのだが、著者の多年にわたる喫茶店体験から抽出されたエピソードや、映画、音
楽、小説に出てくるコーヒー、などなど多彩な話題が豊かに響き合い、深い味わいを醸し出す。

どこを読んでも飛ばしてもいい。ビートルズの4人の署名が入った1967年のポートレートの謎。美空ひばりがホットケーキを食べていた京都の喫茶店。ロバート・ミッチャム演じるフィリップ・マーロウは映画の中でコーヒーを飲んだか。ボブ・ディランにおける「コーヒーをもう一杯」の含意……挙げていけばきりがないが、著者はいわゆる「コンビニの百円コーヒー」は飲んだことがないらしい。それぞれの話題に沿う写真がたくさん入っていて楽しい。(大上朝美)
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