創始者たち Jimmy Soni 2023.11.11.
2023.11.11. 創始者たち
イ―ロン・マスク、ピーター・ティールと世界一のリスクテイカーたちの薄氷の伝説
The
Founders ~ The
Story of Paypal and the Entrepreneurs Who Shaped Silicon Valley 2022
著者 Jimmy
Soni 幼いころインドからアメリカに移住。2014年作家デビュー。2作目の『クロード・シャノン 情報時代を発明した男』で英国数学史学会ノイマン賞、電気電子学会ミドルトン賞受賞。3作目の本書は米国ベストセラーとなり、ニューヨークタイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、ニューヨーカー、エコノミスト、フィナンシャル・タイムズなどメディアや読書界で絶賛され、大きな話題に。ニューヨークのブルックリンで、本書の執筆を始めた時に生まれた娘のヴェニスと暮らす
訳者 櫻井祐子 翻訳家。京大経済学部経済学科卒。大手都市銀行在職中にオックスフォード大大学院で経営修士号取得
発行日 2023.5.9. 第1刷発行
発行所 ダイヤモンド社
カバー裏
最初は、わずか数人の会社から始まった。そこで育った者たちがやがて、シリコンバレーを席巻していく――
イ―ロン・マスク(スペースX創業、テスラ、ツイッターCEO)
ピーター・ティール(投資家)
リード・ホフマン(リンクトイン創業)
チャド・ハーリー(ユーチューブ創業)
次々とシリコンバレーの大物を生んだ[米国史上最狂ベンチャー]、ペイパルの驚くべき物語とは?
波乱に次ぐ波乱の展開で、ニューヨークタイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、エコノミストなど世界各紙誌で絶賛、読書界興奮の全米ベストセラー
新しい制度を率先して導入することほど、難しく、危険を伴い、成功が疑わしい企てはないということを忘れてはならない。なぜなら、革新を起こそうとする者は、旧制度でうまくやっていたすべての者たちを敵にまわしてしまうからであり、新制度で成功しそうな者たちにしても、冷めた味方にしかならないからである。こうした冷めた態度は、古い制度のもとで法を振りかざす敵への恐れから、また人間の懐疑心から生まれる。人間は経験を積むまでは新しいものごとを信じようとしないものなのだ――マキアヴェリ『君主論』
卓越した精密科学と呼ばれるものの助けを借りて、未知の世界の境目を歩くことを覚えた者たちは、純白の空想の翼に乗って、われわれの住む未踏の地の、さらに奥深くに到達できることだろう――エイダ・ラヴレス(バイロンの1人娘、世界初のプログラマー)
Introduction シリコンバレーの謎
l 「ペイパルマフィア」と呼ばれる人脈集団
ペイパルの創業者たちは、賛美者にとっては模範とすべき集団だが、批判者にとっては巨大なIT企業の諸悪の権化であり、絶大なる権力を握るテクノユートピア的自由至上主義者
l なぜ同じ場所から「世界を変える大物」が続出したのか?
話題に上るのはペイパル出身者のその後の華々しい業績だけで、踏み台とされたペイパルそのものの物語は語られることがなかった。最初の数年間を知れば成功の秘密がわかる
l ピーター・ティールとイ―ロン・マスクが手を組む
ペイパルは2つの会社が合体して生まれた――フィールドリンク(後にコンフィニティと改称)とX.comで、前者は1998年マックス・レヴチンとピーター・ティールが設立、ペイパルの枠組みを開発しイーベイの利用者に熱狂的に受け入れられる。イ―ロン・マスクの始めたX.comもメール送金サービスを提供、オンライン決済市場を狙い、死闘の後合併
当初4年間は規制勢力からの攻撃に晒され悪戦苦闘
l 世界制覇か死か――「世界制覇指数」を見つめながら働く
社内も混乱。当初2年はCEOが3人変わり、奇行や奇癖を積極的に受け入れていた
90年代末当時、オンライン商取引の電子決済比率は10%、個人情報の入力に抵抗
IPOの最終条件を詰めていた時に9.11勃発、テロ事件後初のIPO申請企業となり、厳しい市場環境などを乗り越えIPOを成功させ、同年イーベイに15億ドルで売却
l 「過酷な軍事作戦」のような毎日
マスクは、ペイパルの創造は簡単だったが、生かし続けるのが大変だったと回顧
ペイパルは、その後イーベイから分社化され、現時点では時価総額3000億ドルに巨大化
合併から上場までの2年間まるで戦場にいたような過酷な毎日だったと社員の多くが回想
l 「数百人の人生」が交差し合うストーリー
ペイパルの物語は、1人の天才の功績ではなく、様々なメンバーが会社を救う重要な突破口を開いた物語で、集団の生産的な切磋琢磨が珠玉のイノベーションを生み出した
l 苦難の中から現れた「新世代の起業家」たち
2社の合併話が難航し、決裂しかけたこと、ペイパルが重要な転機に何度も崩壊しかけたこと、ペイパルのインターネット技術が大混乱の中で生み出され、今日のインターネット環境をかたちづくるようになったいきさつ・・・・ 野心と発明、試行錯誤の物語が浮上
この苦難の時代が新世代の起業家たちを生んだ
第1部
大胆不敵 Sicilian Defence(チェスのオープニングの駒の動き)
1. ウクライナの天才――マックス・レヴチン、西に向かう
1986年、チェルノブイリ原子力発電所のために建設されたプリチャピにソ連邦各地から移住者が集まってきていたが、発電所爆発で、当時10歳のレヴチンは西に避難
l 「放射能測定」の実験室でロボトロンに出会う
母親は放射能測定実験室で働く物理学者。祖母も高名な物理学者。レヴチンは母親の職場で東ドイツ製のロボトロンと出会い、テトリスに夢中になると共に内蔵されていたコンパイラ(プログラム)に魅了
l 「反ユダヤ主義的な国家」の反骨のユダヤ人
ユダヤ人として、世に認められるために、様々な障壁に苦しめられながら、人一倍努力
91年、ソ連崩壊直前にユダヤ人難民支援団体の支援でアメリカに移住
l アメリカで「インターネット」を手に入れる
シカゴに落ち着き、親戚から贈られたコンピュータでインターネット接続を手に入れる
高校の学友エリック・クラインとジム・ケラスとは後にペイパルで一緒になる
93年、留学生としてイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校UIUCに合格
l コンピュータ技術の「世界的中心地」
UIUCは、数十年前からデジタル技術で世界を牽引し、世界初のソーシャルネットワークを構築。「モザイク」という新しいウェブブラウザを発表したところに入学
l 体制を歯牙にもかけない反逆集団
アメリカ計算機学会の学内支部は反逆集団。レヴチンは、ポーランドから亡命したルーク・ノセックやスコット・バニスターの起業のアイディアに関心を持つ
l すべての資金を「学生起業」に突っ込む
95年、3人で初めてのオープンキャンパス用のTシャツ制作の会社を興し、次いでウェブサイト向けの広告製作会社スポンサーネット・ニューメディアを立ち上げ。レヴチンは専らコード書きを担当したが、資金難からサーバーを稼働できなくなり頓挫
l 世界初の「ウェブブラウザ」が誕生
マーク・アンドリーセンもUIUC在学中に「モザイク」を共同開発し、卒業後ネットスケープを創業。『フォーチュン』誌は「モザイク」を94年の年間最優秀作品の1つに選ぶ
l 初めて「商業的成功」を手にする
レヴチンは大学に残り、ネットメリディアンというコンサルタント会社を興し、メーリングリスト管理ソフトの草分けとなる「リストボット」を開発し、最初の成功を手にする
l 陸軍向けに「アナログ風」の開発をする
プログラミングのアルバイトで資金を稼ぎ、起業した会社の資金不足を補う
l イグジットを果たし、一路カリフォルニアへ
リストボットの売却に成功、その収益で大学を辞めパロアルトへ
2. ビリオネア朝食クラブ――ピーター・ティールという男
ピーター・アンドレアス・ティールは、スタンフォードで学士号と法務博士号を取得。最高裁の法務事務官の面接で落とされた挫折から、ヘッジファンドを立ち上げ、テキサス出身のエリート、ケン・ハウリーを誘って起業
l 「掃除道具入れ」を本社にする
ドットコムブーム到来で、98年サンドヒルロード3000番の倉庫を本社に設定
l ファミレスの「ビリオネア朝食クラブ」
ティールの最初の投資先がルーク・ノセックの会社。バニスターも加えた仲間で朝食をともにしながら事業展開を議論、手帳をデジタル化した「スマートカレンダー」を開発したが、過当競争に遭って失敗。2人ともその後のペイパル開発に繋がる大きな教訓を得る
l レヴチンとティールの「運命の出会い
スタンフォードのキャンパスでティールの講義の告知を目にしたレブチンが、ノセックの友人と名乗ってティールに近づき、朝食会に加わる
l ホビーズで「売り込み」をする
レヴチンが携帯端末の暗号化技術を披露し、ティールがそれに投資を決断
l クイズで直観力を見抜く
2人はクイズを出し合って直観力を磨く――根底には後のペイパルの謎解きの文化の原型となる競争心が燃え盛っていた。正解することより、直観力を重視
l 「10年先」を行っていた男
98年、ティールはレヴチンの会社に10万ドルのシード資金投入。レヴチンは、モバイルプログラミングの仕事を請け負っていたモバイルコンピューティングのコンサルタント会社のジョン・パワーズを会長に招く。レヴチンのソフトウェアが拡散していく
l パームコンピューティングへの売り込み
携帯端末の第1世代が出たばかりで、拡散には限界
l ティールが「マインド・トリック」を発動
ティール、レヴチン、パワーズの3人体制が動き始めたが、パワーズの詩歌ごとの二重生活は限界に達し、ティールがパワーズを説得して、身を引かせる
3. 「正しい問い」は何か? ――イ―ロン・マスクの模索
80年代の終わり、マスクは弟とともに南アからカナダに移住、ノヴァ・スコシア銀行でインターンを志願。同行の経営幹部ピーター・ニコルソンと出会う
l マスク、銀行に勤める
インターンでマスクに与えられた課題は、中南米向け不良債権ポートフォリオの分析
l 「50億ドル儲かりますよ、いまこの瞬間に」
マスクは、主要投資銀行とコンタクトし、不良債権を証券化したブレイディ債の需給ギャップを利用すれば数十億ドル儲けられると提案。既に巨額の不良債権を抱えていたスコシア銀行は買い増しに難色を示したが、89~95年にかけて債務交渉が成功して債権が高騰。マスクも銀行の判断も正しかったが、マスクは銀行の無能を学び、ペイパルの取り組みでもこの時の経験を根拠に「銀行に勝てる」と信じて疑わなかった
l 物理学と、SF小説『銀河ヒッチハイク・ガイド』
マスクは奨学金を得てペンシルベニア大に編入、物理学とファイナンスの学位を目指し、ウォートン校の経営学を選択。マスクにとって物理学は、正しい問いを投げかける学問
l テック系スタートアップが次々と誕生する
スタンフォード大の材料科学工学の博士課程に合格したが、シリコンバレーで2つのスタートアップでインターン。スタンフォード大学院生がYahoo=Yet Anather Hierarchidcal Officious Oracleもう1つの階層構造の気が利くデータベースの略を、ベゾスがカダブラ(後のアマゾン)を起業
l 自分が「世界に最も影響を与える」には?
マスクは子供のころからコードを書き、ゲームを作っていた
95年、インターネットのめざましい急成長を見て、入学の1年延期を認めてもらう
l マスク兄弟、会社を立ち上げる
95年、兄弟がパロアルトで起業したのはオンラインのシティガイド制作会社
l 突然「350万ドル」もの出資を得る
ベンチャーキャピタルからの出資を得てZip2を設立、オンライン広告技術の提供を開始
l 壮大な構想から離れ、「広告屋」になり下がる
600億ドル規模の地域広告市場をめぐってマイクロソフトやAOL、Yahooなどと競合
96年汎用プログラミング言語Javaが公開されると、Zip2はすぐにJavaの開発環境に移行、JavaはZip2を最も強力な応用例だとして先進技術と実用性の融合を絶賛したが、マスクの理想は業績拡大よりも、消費者向け情報サイトの提供にあった
l 世界を根本的に変えてしまうもの
99年、Zip2は3.7億ドルの現金でコンパックに買収。マスクは27歳で21百万ドルを手にしてメディアの寵児となる
実業家はインターネットを20世紀最新のゴールドラッシュと見たが、マスクは世界を根本的に変えてしまうものと思った
4. ネット上で最もクールなURL――X.com誕生
マスクが構想したのは、オンラインによる金融のワンストップサービス
l 「秘蔵っ子」ハリス・フリッカー
スコシア銀行のニコルソンの秘蔵っ子が銀行界のエリートだったフリッカーで、マスクのアイディアに誘われパロアルトに向かい、投資会社にいたクリストファー・ペインを3人目の共同創業者に引き入れる
l 喜んで「ルール」を破る
最後の共同創業者になったのがマスクが誘ったエド・ホーで、コンピュータサイエンティスト。マスクはZip2の非競争条項に縛られていたが、ルールを楽しみながら破るのが常
マスクとホーが技術と製品を、フリッカートペインが財務、規制、業務方面を担当
l Xは「財宝のありか」である
社名は、マスクが「ネット上で最もクールなURL」と信じて疑わなかったX.comに
マスクは、シリーズA資金調達ラウンドの150万株と引き換えにURLを買い取り
簡単に入力できて、なおかつ同音異義語や類義語の心配がない
l 自ら「1000万ドル超」を会社につぎこむ
マスクは、Zip2の売却益の過半をつぎ込んだが、その必要もないくらいベンチャーへの投資が殺到するも、自己資金に固執
l 「銀行は何もわかっちゃいない」
ライバルはオンライン銀行と小売銀行だが、端から相手にしていなかった
l 「獲物は檻に入ろうとしている」――資金確保が先、説明はあと
X.comはすぐに規制地獄に陥るが、投資資金確保が最優先で、事業計画はいつでも変えられるとした
l 数学的分析より「物語」を重視
フリッカーは、認可を受けてから公開するのが筋だと抵抗したが、マスクは10倍もに大風呂敷を広げた物語を重視
l シリコンバレー陣営と金融陣営の社内闘争
マスクとフリッカーの論争は頂点に達し、マスクはフリッカーを解雇
l 4人の共同創業者の3人が去る
ペインもホーも辞める
l 「巨大な才能」の決別とその後
フリッカーはカナダの金融界に戻るが、マスクとの友人関係の決別を後悔
5. ビーマーズ――コンフィニティ、活路を見出す
レヴチンの携帯端末セキュリティの会社フィールドリンクは、ティールをCEOに据える
l ティール、フィールドリンクの開業を急ぐ
レヴチンの仕事は、エンジニア集めから始まる
l 天才レベルのIQの持ち主
UIUCに残っていたラッセル・シモンズと、IBMのユー・パンを誘う
l UIUC出身の凄腕人材が続々と集まる
4人が共同創業者に加わる
l 「自信」と「無限」を組み合わせる――コンフィニティ誕生
社名をコンフィデンスとインフィニティの掛け合わせた造語に変更。コンは詐欺も意味
モバイルセキュリティ分野の競合を嫌って方向転換を迫られる
l 未来を正確に予見した「事業計画」
99年、当初の事業計画で身内を中心に50万ドルの資金調達した後、消費者向けの「モバイルウォレット」計画をリリース。携帯端末と電子金融市場の成長に賭ける
l 「前史」がベンチャーの強さを決める
ベンチャーにおいては、会社を立ち上げる前から存在する仕事や友情の絆が重要で、あらかじめ信頼関係がインストールされているのが強み。議論が活発で決定が速い
l コンフィニティの人材に必要な条件
94~99年頃、インターネット業界の人材は高い専門性を持つようになり、引く手あまた
才気、反骨心、時間的余裕、不信の停止――これらがコンフィニティの初期のメンバーの特徴で、その後企業文化の基盤となる
l 暗号化機能の技術を何に使うか?
モバイルウォレットは、ユーザーネットワークが広がらずすぐ壁に当たる。代わりに考えられたのが電子小切手。最後に辿り着いたのが送金
l 未来的な「ビーム送金」のアイディア
既に開発されていた携帯端末の暗号化コードを活用し、パームパイロットに内蔵されている赤外線ポートを利用して金のやりとりをする。コンフィニティも政府発行の現金通貨から電子マネーへのシフトにより、通貨発行益=シニョレッジを得ることが出来る
現金を使わない、モバイル決済の世界を構想、パームパイロットが標準的な決済・送金手段となれば、2002年には年間収益25百万ドルが見込まれると予測(実際は8倍に)
l 「100回以上」の不毛なプレゼン
国際金融暗号化技術会議で事業計画を発表したが、反応は不芳。数々の電子マネーが華々しく失敗した直後でもあり、その後のプレゼンでも結果は同じ
l 「ノキア社長」に直接、売り込む
コンフィニティは、自分たちの方式がパーム経済圏の主要な決済システムになると豪語したが、携帯端末をビジネスにしているノキアでさえ引いたが、技術者のチームには魅力を感じ、自身のベンチャーキャピタルを通じてコンフィニティへの投資を検討
l 「航海」の不穏な始まり
ノキア・ベンチャーズの3社目の投資先となり、450万ドルの資金調達ラウンドを主導
ベンチャーズの社長マロイも取締役会に加わり、「ペイパル物語の縁の下の力持ち」となる
マロイは、起業家の技術屋連中を、ビームに夢中の「ビーマーズ」と呼んだ
6. 終わりだ――ユニバーシティ・アベニュー394番地にて
偶然にもコンフィニティとX.comは同じ建物の隣り合うオフィスを借りていた。お互い無関係だけでなく、お互い見当違いのことをしていると見ていた
l テレビ局を集めた「リアルタイム送金」イベント
マスコミの受けを狙って起業家の聖地でもあったバックス・オブ・ウッドサイドのレストランでビーム送金のデモをしたが、投資家の引き合いや求人の申し込みは来たが、ビーム送金の問い合わせは全くなかった
l 「ネーミング」には厳密な分析が必要だ
新開発のビーム製品のネーミングに当たっては、ブランディング会社に依頼
l 「ペイパル」という名前――ペイパルを採用すべき6つの理由
製品名を通して何を伝えたいのかを絞り込んで出て来たのがPaypal。お金、親しみやすい、身近、短く見た目が対称的、palは肩を組む相棒で心を和ませる、2つのpの破裂音が記憶に残りやすいなど
l 「間抜けな名前にもほどがある」
金融商品としてはふざけ過ぎだとの批判もあったが、ランチ代の割り勘の支払いに端を発したプロダクトの用途としてはぴったり、動詞形の使いやすさ(Paypalして!)が決めて
最終的に真ん中のpを大文字に直してPayPalに決定。手直しが誰のアイディアか不明
l グーグルの高給に負けずに「人材を集める」方法
紹介した社員にボーナスを払ってエンジニアの増員に努め、総当たり面接で相性をテスト
l 才能を次々と惹きつける特殊な「相性テスト」
求職者の方も、プロダクトの構想や成功の見込みよりも、チームそのものとの相性が会社を選ぶ決め手になった
l 異才チャド・ハーリーが仲間になる
ティールは早い段階で、非公式な「解雇なし」のルールを決める⇒会社が求める人材像のハードルは高くなる。曖昧で非効率だが、会社が素早く動くために意図的に設けられた
初めて「人脈外の人材」として入社したのがハーリー。メールで求人に応募し、グラフィックデザイナーの第1号となり、ロゴのデザインを担当
l 何人が「パームパイロット」を持っているのか?
パームパイロットの所有者は99年に500万人を超えたが、ビーマーはなかなか増えず、実際にレストランを回って調査しても1軒につき1人いるかいないかだと判明
パームパイロットを家に置き忘れて来た時のために、PayPalのウェブサイトからメール送金するシステムを考えたのが、後に世紀の大発見となる
l すべてを否定する男、現る
ティールは、コンフィニティとそのプロダクトについて折りにふれてマッキンゼーにいた友人デイヴィッド・サックスに意見を求めていたが、メール送金を優先するなら会社に参加するといってティールを説得。社内の反対にあって、メール版とビーム版を並行開発に
l すばらしくひどいアイディア
ビーム送金が話題になりだすと、不正送金やハッキングに関連した批判が巻き起こる
l バックアップなし、コードベース全消去
チームの経験不足が露呈。開発の技術者は複式簿記すら知らなかった
共有サーバーの容量が満杯になって新しいサーバーに移行する際、システム管理者が誤ってコードベースを全消去、バックアップを怠っていたために一瞬青くなったが、全ソースコードの複製があることが判明し、会社の破滅を免れる。システム管理者は「解雇なしルール」の稀な例外になった
l スタンフォード教授は「これは何だ?」といった
特に問題となったのは暗号化技術。技術顧問のスタンフォード大教授に暗号化セキュリティのチェックを依頼、製品デビューの直前まで修正作業を行う
7. 鬼気迫るイーロン――空想を現実にする方法
X.comの内部分裂後残ったのは5人、完成したプロダクトも無し
l 名門「セコイア」の投資を取り付ける
98~99年、インターネット系スタートアップへのベンチャー投資は急増
マスクも一流VCのお墨付きが欲しくてセコイアの名物ゼネラルパートナーのマイケル・モリッツに接近。モリッツはマスクが既存の大銀行に立ち向かう姿と社名に興味を引かれて500万ドルを投資、取締役に就任
l あらゆる金融取引の「世界の中心」になる
マスクの新規事業の構想は、銀行と証券、投資運用を全て組合わせた金融サービスの提供
ネットショッピングやオンラインバンキングがまだ初期の段階だったときに、インターネットの規模でサービスを提供するのはよほどの先見の明がなければできないが、アマゾンの場合は本やCDを販売することは法律で禁じられていなかったが、金融商品については少なくとも当時は銀行商品と証券商品の同時提供は政府によって禁じられていた
l 「スペシャリスト」をチームに引き込む
人員拡大を急ぐ。過熱状態のシリコンバレーで人を雇うのは大変だったが、X.comの動きの速さは際立っていた
l 「開発者」と「人間」の通訳
開発者と人間の橋渡しをするユースケース(システムの利用例をユーザー目線で表現すること)の責任者エイミー・ロウ・クレメントもJPモルガンから入社し、社内の緩衝材になり、7年務めてイーベイによる買収後も同社の最年少役員としてPayPal出身者を支える
マスクは彼女を「陰の功労者」と呼ぶ
l エンジニアを次々と採用
l 「われわれはどこにも負けない。以上」
チームはプロダクト開発を進め、仮設サイトをオープン。10週間で開発を終え、稼働を開始。バークレイズ銀行と提携し同行の投資信託の販売を開始、直後にコロラドの地銀を買収しFDIC保険対象となる(99年末グラス・スティーガル法廃止)。自社ブランドのデビットカードと小切手の発行が可能に
マスコミにも取り上げられ、低コストサービスを喧伝し、「どこにも負けない」と言い切る
l イーロン、社内を走りまわる
ローンチが近づくとイーロンは鬼気迫る形相で社内に檄を飛ばす
ローンチを早めるための出費を厭わず
l 「冒瀆的な選択」をする――なぜLinuxよりマイクロソフトなのか?
重要な点でシリコンバレーの常識から外れ、技術アーキテクチャの根幹にLinuxなどのオープンソースのOSを採用する代わりにマイクロソフト製品を利用していた
1から書き直せるLinuxに対し、マイクロソフトは多様なフレームワークを揃えていたので、マスクは柔軟性よりも効率性を重視し作業時間を短縮できたが、それはシリコンバレーでは冒瀆的な選択だとされていた
X.comのサービスは、99年の感謝祭休暇中に世界に公開され、ATMからの出金に成功
第2部
孤立無援 Bad Bishop(チェス用語)
8. 「破産まっしぐら」の名案――カネをもらうより配ってしまえ
X.comもコンフィニティも業務開始後の凄まじいまでのユーザーの増加への心構えが出来ていたとは言い難い。拡大は一旦始まると「山火事」のように広がる
不正アカウントが急増、クレームが殺到し、修正の必要なバグが山積み
l X.comの成長痛――システムの穴に大バッシングが巻き起こる
セキュリティの欠陥に関する新聞報道が出てパニックになりかけたが、最小限の損害だけで穴は塞がれ、顧客急増へと反転
l コンフィニティの成長痛――バグ、エラー、システムダウンが頻発
PayPalも徐々に顧客が増え始めたが、サイト拡大につれシステムエラーが頻発
l なぜ突然、2社に注目が集中したのか?
オンライン銀行やメール送金はX.comやコンフィニティの発明ではなく、進化に過ぎなかったにもかかわらず2社に注目が集まったのは、メールをサービスの根幹に据え、メールの爆発的普及の波に乗ったから
l 「メールのように手軽に!」と壁に貼りまくる
メール送金ではコンフィニティがX.comをリードしたが、それはデイヴィッド・サックスの采配のお陰であり、サックスは簡略化も推進
l 「俺をばかにしてるのか?」――お金をもらうべき相手にお金を配る
新規登録ユーザーへの現金ボーナスで勢いを増す――後にバイラル(ウィルス)・マーケティングの手法として絶賛されるが、新規ユーザーに10ドルの登録ボーナスを与える以外に、友人を紹介した時に友人に配る10ドルも与え、友人が実際にユーザー登録したらユーザーにさらに10ドル与えることにすれば、個人間送金を促す効果に繋がる。CFOは提案に難色を示し、「俺をばかにしてるのか?」とまで言った
l 「20ドルの損ではなく180ドルの得」と考える
10ドルを大金と感じる層がこのアイディアに飛びつく。当時銀行の新規顧客獲得コストは100~200ドルといわれたので、1/10のコストで新規顧客を獲得できるというのがIT企業の考え方で、X.comも同じように新規登録に20ドル、顧客紹介に10ドル配る
l 「怪しげな会社」の台頭
99年、ネット上でガラクタをオークションで売っていたイーベイが決済システムを求めてコンフィニティに接触したが、コンフィニティの方は「怪しげな会社」として距離を置く
l 「そうだったのか!」の瞬間――なぜイーベイで利用者が急増しているのか?
イーベイのユーザーが、自分のオークションのページに決済方法としてペイパルのボタンを載せ、クリックしてパイパルのサイトに飛べるようにしていいかと許可を求めてきたことで、オークションの決済にペイパルが使われていることを知ったコンフィニティは、それでもパームパイロットへの未練から動こうとしなかった
l 誰も想像していなかった急展開
イーベイではX.comの決済サービスも人気だったが、X.comもそれを知らなかった
イーベイのユーザーこそがボーナス・インセンティブに敏感に反応するユーザーだったことが判明、2社ともイーベイの牽引力を無視できず、その後のプロダクトの方向性を決定
l ホフマン、ティール、マスクの「選挙公約」
ティールは、2000年初めCOOに取締役のリード・ホフマンを迎えたが、2人は87年スタンフォードの学生自治会の評議員選挙に立候補し当選。マスクもペン大で立候補しているが落選
l リード・ホフマンを口説く――コンフィニティに存在しなかった社交家
ホフマンはオックスフォード大に留学後、カリフォルニアに戻ってSNSの草分けを起業、ティールに誘われて入社後は、外部との接触、特に政府関係者との折衝に力を発揮
l コンフィニティ、買収話が浮上
最初の買収申し出に対し、ティールが2億ドルを提示すると買い手は撤退
l 「10点満点」のCEOを招聘する
ティールは、雑事から解放されたくてCEOから降りようとしたが失敗
マスクも、99年末にはCEOから身を引き、後任に会計ソフト大手のインテュイットの元CEOビル・ハリスを新たなCEOに迎える。結果的に任期は短期だったが、苦難の合併の中で両社を繋ぎとめるかすがいとして不朽の足跡を残すことになる
9. シリコンバレーの世紀の激戦――X.comとコンフィニティ、ぶつかる
99年末、X.comとコンフィニティの2社は、メール決済に力を入れ始めて以降、ユーザーの激しい争奪戦を展開
l バトル開始――イーベイを戦場に死闘が始まる
イーベイではコンフィニティが先行して、ネットワーク効果を追求。そこにX.comが倍のインセンティブを謳って殴り込みをかけた
ネットワーク効果:ユーザーが1人増えるごとにネットワーク全体の価値が高まる現象
メトカーフの法則:ネットワークの価値は、接続された端末の2乗に比例して高まる
l 「やつらを殺せ。死ね。死ね。死ね」
数週間にわたって極限状態の死闘が繰り広げられる
l ティールの思考法――つねに「どうなったら失敗するか」を考える
マスクは、ティールとレヴチンの力をリスペクトし、資金力の余裕とセコイアのバックもあって余裕だったが、コンフィニティ側は独自のモバイル技術に自信を持つ一方でX.comが本物の脅威だと認識した不安の狭間で揺れる
l 「勝者総取り」になるか、「共倒れ」になるか?
イーベイ以外の事業開発でも両社は競合。12月には両社同時にYahooと協議を開始、どちらかの企業の買収を検討し始めたため、本格的な協議が始まる
同時に、インターネットの熱狂が常軌を逸していることにティールは懸念を抱く
l 波乱の休戦交渉――マスクの異常なオファー
X.comのビル・ハリスも共倒れの危機を察知、コンフィニティに正式な会合を要請
マスクが最初に提示した条件は、X.comが買収し、コンフィニティは合併後の価値の8%を受け取るというもの。コンフィニティ側は絶句したが、資金が枯渇しかかっていることを冷静に受け止めていたティールは合併を説得、交渉過程で比率の引き上げにかかる
l 「シリコンバレー史上、最も重要な合併になる」
お互いが実力を評価した結果、合併比率は55対45まで拮抗。マスクだけは元々合併自体に懐疑心を持ち、勝てる戦争での降伏と不満を漏らしたため、レヴチンが合併を拒否、ビル・ハリスが50対50にするとレヴチンを説得する
l ハリスが爆弾を落とす
ハリスは、反対するマスクに、CEOのポストを賭けて説得
10.
狂気のクラッシュ――捨てるより速くカネが消えていく
マスクが乗っていたのは、全米で7台しかないマクラーレンF1で600馬力
l マスクとティールの激しいドライブ
マクラーレンに初めてマスクとティールが同乗した際、ハンドル操作を誤って縁石に激突、2人とも九死に一生を得る。車はその後修復して転売され、現在でも動いている
l 最強の統一戦線――ネットワーク効果で市場を支配せよ
合併合意でネットワーク効果が生まれたが、同時に競合する模倣サービスも登場。イーベイも銀行と組んで独自の決済サービスに進出
l 屋上からカネをばらまいたほうがまし
顧客急増と並行してクレームも増加、政府当局も厳しく監視し始める
合併の業務にも難題山積――コンフィニティには資金の枯渇が、X.comには不良債の急増
合併後も現金燃焼率は高水準に推移、バランスシートを蝕んでいた
l 「水と油」を混ぜ合わせる作業
両社の社員にとっては寝耳に水の話、水と油だったが、最後は1つに
l 投資家が「莫大な資金」を浴びせかけてくる
合併公表当日、1億ドルの資金調達を実施。経済崩壊の危機直前で応募は大幅に超過
マスクには、X.comの5億ドルの評価額が「ばかげている」と気付くだけの良識もあった
l すべてが白日に下にさらされる――ついに死の天使が舞い降りた
今回の資金調達ラウンドを主導する投資家に選んだのは、ドットコムの熱狂から遠く離れたマディソン・ディアボーン・パートナーズ(本社シカゴ)で30百万ドルを出資、残る70百万を光通信を含む数社から調達。完了の数日後からドットコム・バブルの崩壊が始まる
l ティールが異次元的な提案をする
バブル崩壊の最中、ティールは調達した1億ドルの資金をティールが運営するヘッジファンドに移管し、株の空売りを提案したが、取締役会は却下。巨額の利益を逃す
11.
ナットハウスのクーデター ――新CEOビル・ハリスの苦難
2000年6月時点でイーベイのユーザーは、PayPalが売り手にも買い手にも圧倒的に支持
されていたが、苦情も山積、最初のうちは無視
l 苦情が爆発的に押し寄せる
使用を拒否されるケースが続出、マスクもスターバックスでの支払いを拒否され愕然
l 家族を「最強のCS部隊」に仕立て上げる
電話応対と苦情処理を外部委託したが機能せず、自らオマハに設置したコールセンターがうまくゆき、いまもPayPalはオマハ地域最大の雇用主の1つ
l 「おめでとう、1人で150万ドルの損害を与えたね」
スピードには代償が伴い、その代償を会社は進んで支払った。マスクは、2つの道があって、一方が明らかに優れていると言えない場合、どちらか迷っているより、どちらかを選んでやってみる方が、いい結果が出ることが多いし、間違ったらもう一方をやればいい、という。何かを成功させる前にしくじった方法を4つ挙げられない人は、恐らくそれに取り組んだ本人じゃないともいう
l 「特大のエゴ」を持つ4人の最高幹部
会社のメールシステムの統合すら数カ月かかる。その混乱が新たな競合や不正などの新しい脅威に拍車をかける。合併後の人材重複の問題がハリスに重くのしかかる
l 悪夢のシナリオ――ハリスの危うい決断
ハリスは、コスト削減に向け、X.comの紹介プログラムを廃止し、PayPalの登録ボーナスも半減すると決断。社内では批判が噴出、イーベイもその機に乗じてオークション出品無料デーを実施して攻勢をかけてきた
l 「収益化」の道が見えない
X.comは、送金で取り込んだユーザーを幅広い金融サービスに誘導して収益を上げようとし、PayPalは、決済されるまでの滞留資金の運用益で稼ごうとしたが、何れも収益化の計画は難航。特にX.comの口座の大半がクレジットカードに紐付けされていたため、顧客の支払いのたびにクレジットカード会社への手数料支払いが追い打ちをかける
ユーザーに手数料を課す意見も出されたが、元々手数料無料を打ち出していたので出来ず
l ティール、我慢の限界を迎える
2000年5月、ティールは所期の目的を達したとして、第一線からの引退を公表
l マスク、不信感を抱く
ティールの辞任がハリスへの不満にあることをマスクは見抜き、マスクも不信感を持つ
l アントニオズ・ナットハウスの密談
ハリスのリーダーシップに不満を抱くメンバーが集まり、現状打破を考える
l クーデター ――ハリスに「最後通牒」を突き付ける
ハリスは解任され、マスクのCEO復帰が決まる
l シリコンバレーのダークサイド
ハリスの辞任に驚いて「シリコンバレーの暗部を見せつけられたという人もいた
l 「金融機関というより学生寮のようだった」
ハリスは、学生寮のようだった会社にプロらしい品格をもたらそうとした。慎重でコンセンサス志向のハリスの管理スタイルは、X.comでは悪評を買い、士気低下に繋がった
l プロ経営者アレルギー ――創業者こそが創造の原動力
この事件により、「プロ経営者による管理」アレルギーが決定的となる。当時としては異例
グーグルのエリック・シュミットの成功例の裏には、アップルにおけるジョン・スカリーのような失敗例も同じ数だけあるのだろう
12.
1億ドルの賭け――有料化の危険なミッション
2000年6月、CEOに復帰したマスクがまずやったのは、フラットな執行体制の構築
l 小さなチームでスピーディに動く
主力エンジニアがプロダクトマネジャーと一緒に働くことになり、迅速な開発に繋がる
小さなチームによって短い開発サイクルを迅速に繰り返す、後に「アジャイル・ソフトウェア開発」と呼ばれる手法が導入され、官僚主義を除きイノベーションを起こしやすくした
l 大人数の会議を禁止
誰にも問題を与えるだけで、解決方法は自分で考えるしかなかった
l 真夜中の魅力――トップダウンの徹夜カルチャー
社員の満足より成果を出すことが優先され、性急な社風を生み出す。積極的かつ持続的にコードをリリースし、プロダクトをローンチし続けることが勝利の方程式だと信じられた
l 「敵意むきだし」のメールの応酬
夫婦や家族の関係にもしわ寄せがもたらされ、社内には激しいライバル関係が出来る
l クレジットカード戦争――カード会社との微妙な関係
2000年央に導入された画期的なイノベーションのお陰で。PayPalは口コミ頼みのプロダクトから採算性のある事業へと変身を遂げる――クレジットカード加盟会社になれないオークション出品者の中小事業者が、ネット上でPayPalを通じてクレジットカードでの支払いを受けられるようになったが、PayPalにとってはクレジットカード会社に高い手数料を支払わなければならず、PayPalの口座にクレジットカードの代わりに銀行口座を紐付けるようユーザーを促す課題が出て来た
l システムに「最大量の資金」を集める
この課題の解決策の1つは、「金融サービスの帝国を築く」というマスクの壮大なビジョンに見つかる――顧客がX.comの口座に資金を集中してくれれば、X.comは顧客の口座間で資金をコストゼロで振り替えるだけでよくなる。そのため、貯蓄口座に5%付利したが、一般口座の移行はなかなか進まず。また、銀行口座に紐付けた後自動引き落としをするためには、自動決済機関ACHという銀行のインフラを利用する必要があるが、そのためには銀行口座の認証という面倒なプロセスが不可欠
l シティバンク出身の異端人材
斬新な認証システムを開発してデジタル金融機関に不朽の貢献をしたのがシティバンクから移籍したサンジェイ・バルガヴァ
l シグナルとノイズ――どうやって本人確認をするのか?
杜撰な口座管理に対する批判を受け導入した本人確認方法は無効小切手の徴求だったが、シグナルとノイズのやりとりによって確認する方法を考える。銀行ではATMでデビットカードを利用する際の本人確認用に4桁の暗証番号を利用していることをヒントに、1回限りのパスコードを生成、X.comが1ドル未満の2つのランダムな金額(例:35セントと7セント)をユーザーアカウントに紐付けされた銀行口座に入金すれば4桁のパスコード(3507)を生成できる。ユーザーはそのパスコードを暗証番号としてPayPalのウェブサイトに入金すれば、X.comは銀行口座へのアクセスを確認できる
l 「ランダム入金」という革命的アイディア
登録ボーナスを紐づけられた銀行口座に振り込むためにもランダム入金の番号で本人確認する必要があり、劇的に紐づけが進み、新規ユーザーの3人の1人がX.comに銀行口座を登録。さらに、銀行口座とクレジットカードの両方を紐づけしているユーザーを、銀行口座決済に自動的に誘導するシステムを導入。ランダム入金は銀行業界全体に広まる
l 義理堅いユーザーたち
新しい認証システムによって振り込まれたランダムな金額を多くのユーザーが郵送で送り返してきたため、それをまたユーザーの銀行口座に戻す仕事が増えた
l 「摩擦」を極限までなくせ――「ボタン」に全精力を集中させる
イーベイへの依存を減らすために、オークション決済機能の改善に取り組む――ボタンの利便性を高め、インターネット全体に広く提供しネット全体の標準的な決済システムにすれば、ユーザーが自分のウェブサイトに埋め込んでネット上のどんな支払にも利用できる
初期の決済プロセスは2段階に分かれていた。ユーザーはまず「ペイパル」のボタンをクリックし、それから支払金額を入力して「支払う」のボタンをクリックした。この2つのステップを統合する。ユーザーが金額を入力してボタンを押せば、次のページでは支払金額が自動入力され、支払いが確定されるようにした (ボタンを2回押し1回金額を入力する動作は変わらないのでは?)
イーベイ上での独立系ネット販売業者や「パワーセラー」と呼ばれる有力出品者たちが、自分で通販サイトを立ち上げて販売し始めたが、そこではPayPalが頻繁に使われていたため、結果的にペイパルが有力出品者たちのイーベイ離れを加速させていた
PayPalのボタンを使えば自分のウェブページに決済機能を取り入れることができた
l 未来を示したサックスの「メモ」
デイヴィッド・サックスは、合併前からボタン製品の構想をメモに書き留めていた
ボタンの諸機能は、合併当初マスクの「X」ブランドに敬意を表して「Xクリック」と呼ばれていたが、後に「ウェブアクセプト」と改称。もともとペイパルにあった「マネーリクエスト」という機能があり、これを使えばメールにリンクを張るだけで送金をリクエストできたが、Xクリックはこの機能をメール以外のどこでも使えるようにしたもので、この機能は世界の全ウェブサイトのためのワンクリック決済システムになるとサックスは予言
ペイパルへのリンクがあらゆるウェブサイトに載れば、ペイパルのバイラル性が飛躍的に高まり、ネットワーク効果がさらに強化される
l 間違えると自殺行為になる――「永久無料」からどう脱け出すか?
ユーザー行動の分析から、ビジネスと個人を区分、個人の中には多機能を盛った「プレミア」アカウントを設け、ユーザーの選択に任せることにして、手数料導入に踏み切る
l ギャンブル――「有料版」のサイコロの目は?
お金を受け取る側に受取額の1.9%の課金を考えた――競合他社の半分以下
マスクも課金はギャンブルだと認識、「1億ドルの賭けだ」と公言。一部ユーザー限定で有料プランを発表したところ、多数の有料ユーザー登録があり、一般公開に踏み切る
l アカウント数が爆増、200万件を突破
イーベイ以外のサイトに初めてX.comのサービスが組み込まれ、インターネット界のアカデミー賞と呼ばれるウェビー賞で「人々の声賞」を獲得、レッド・ヘリングの「デジタル企業トップ100社」やフォーチュン誌の「アメリカで最もホットな新興企業」に選出
発表わずか2カ月でイーベイの全オークションの決済シェアは40%、200万件へと倍増
個人小切手は絶滅危惧種となり、ユーザーが急増しても苦情の問題は起こらなかった
l 「X-メン」(新作映画)貸し切りでジョブズに競り勝つ
社内の催し物で映画館を予約する際、ジョブズに競り勝ったと社内報で祝う
順風満帆の中、不正利用と手数料の支払いで損失を垂れ流していることに危機感を持つ者もいて、大きくなり過ぎた組織のなかで軋轢も増していた
13.
地獄のように働こう――波乱の「ペイパル2.0」プロジェクト
南ア名門出身の天才でX.comの未来のCFOロエロフ・ボサは、ゴールドマン・サックスでのインターンで個人向けインターネット金融に興味を覚え、99年末からの南アの金融危機の煽りで自らの生活資金を稼ぐ必要からマスクの誘いに乗る
l 頭上に剣がぶらさがっている
ボサは合併当日入社するが、直後にイーベイのCEOが寄生しているペイパルのは潰すつもりだといったのを聞き、「ダモクレスの剣がいつも頭上にぶらさがっている」と感じる
l 市場がなくなったから資金調達はもうできない
ボサの最初の仕事は、X.comの単純すぎる財務モデルを一から構築し直すこと
財務データから、様々なシミュレーションを行い、会社の健全度を総合的に予測
もはや資金調達は出来ないということを前提に事業計画を考えることを叩き込まれる
l 会社が終わりかねない「大問題」が発覚
事業損失を種類ごとに調査した結果、係争中の不正なクレジットカード取引のタイムラグを考慮に入れていなかったことが判明――不正利用の返金請求は2,3か月後に顕在するが、そのタイムラグを考慮に入れていないために引当金が不十分だった
l 「ペイパル2.0(V2)」始動――マスク肝煎りのプロジェクト
急拡大でサイトが頻繁にダウンするなか、マスクはペイパルのLinuxのコードベースをX.comのマイクロソフトのプラットフォーム上に構築し直そうと提案
l 「Linux対マイクロソフト」の深刻な戦い
99年には、マイクロソフトは単純化を武器に世界最大手のソフトウェアメーカになっていて、標準化されたソフトはシステムの安定性と効率性を生み出した
l 「マイクロソフト経営陣」との邂逅
マイクロソフトへの移行は、資源配分の効率化のためでもあったし、人材採用面でも有利でもあり、マスクは世界最強の開発環境を使うことが理に適っていると主張
マスクは、マイクロソフトのCEOスティーヴ・バルマーに会って、時代を超越した会社になるため、アーキテクチャの全面的な刷新を模索
l 「13秒ごと」に再起動が必要になる
レヴチンは猛反対。マイクロソフトの対象は小規模に企業で、オンライン処理性能で劣るとし、処理要求への応答が遅くシステムへの過剰負荷から頻繁な再起動が必要と非難
l 「必要ないもの」を書いて書いて書き直した
それぞれのOSに利点があるが、V2の取り組みは結局無駄骨に終わり、失われた時間は莫大。その間の不正利用による損失は数百万ドルに上る
l 「あのクソV2がうまくいくわけがない」
どちらのOSにするかは、特にLinexユーザーにとっては個人的信条の問題で、巨大企業の作ったクローズドソース・システムへの移行は受け入れ難く、士気はがた落ちに
l 「ペイパル2.0」に全リソースを投入せよ
マスクは、切り替えを早めるために褒賞プログラムを提案したが、それでも移行は進まず
l 分断の火種――「X」か「ペイパル」か?
V2への移行以外にも、「社名」の火種が燻り続けて、社内の分断を起こしかねなかった
決済件数の実績でも、市場調査の好感度でも、X.comよりペイパルの方が優位
l 「グランプリ」をめざさないのか?
マスクにとっては、ただの決済会社ではなく世界的な金融の中枢を目指すための社名が必要だが、レヴチンらの技術陣にとって目指していたものは違った
14.
ハネムーンを狙え――イ―ロン・マスク追放
マスクの野望に反論する者たちに、2度目のク-デターの動きが起こる
l 「みんな、僕を怖がっている」
2000年9月、マスクの新婚旅行の留守中に具体化
l マスクが機上の人になると同時に行動開始
2つの会社の亀裂が改めて浮き彫りになり、取締役会も改めて事の深刻さを知らされる
l 「マスク支持派」との軋轢
クーデターの切り札は、社員の集団辞職。弁論の機会も与えられないまま欠席裁判
l ティールとマスク、それぞれの全社向けメール
ティールは、全社員に対し、次の高みに引き上げるために新しい経験豊かなCEOを探すと通告、マスクもあとはピーターに任せ、いずれ新会社を立ち上げると惜別の辞を送る
l わが子を攻撃することはできない――周囲を驚かせたマスクの対応
マスクは、X.comのチームを家族のように思っていて、辞めたのもメンツを保つため
マスクの示した寛大さは周囲を驚かせたが、マスクは2人の女が子の母親を名乗って争う聖書の「ソロモンの裁き」を引き合いに出し、「あの会社はわが子も同然だ」といった
l 泣く者、歓喜する者、激怒する者――大混乱に対応する
社内にはマスクの支持者も多く、深刻な分裂が起こる
l 20年後、首謀者たちとそれぞれの思い
首謀者たちの多くが今もマスクと良好な関係にあり、マスクの多大な貢献に疑いの余地はなく、首謀者たちは自分たちの決定にも疑問を持ってはいない
l マスクの悔い――X.com最大の失敗
20年経ったいま、マスクは渋々ながらも反乱に敬意を表し、いくつかの教訓を学びながらも、自分のビジョンの正しさを確信し、金融界のアマゾンになり損ねたことを後悔
l 追放劇があったから、スペースXとテスラが存在する
幼い息子をSIDS(乳幼児突然死症候群)で亡くす。X.comから追放されたお陰でマスクには創造的なゆとりができ、宇宙開発と電気エネルギーという幼少期からの情熱に立ち返る
第3部
強行突破 Doubled Rooks
15.
不正者イゴール、現る――ペイパルは数人の不正で倒産する
新CEOには完璧すぎる人を求め、選任は先送りに
l CEOとして成功できる唯一の人物
結局適格者はピーター以外に見つからず、ペイパルの「プロ経営者」へのアレルギーをさらに強め、ティールを取締役会から外そうとしたセコイアのモリッツとの間は修復不能に
l すべての危機が「自分たちのもの」となる
会社に残ったメンバーで会社の危機対応を分担、全階層の社員に当事者意識と危機意識を持たせる――会社の手元資金が数か月分までに
逼迫、追加資金調達の見込みはほぼない
ティールは戦略を転換、不正対策に全力を注ぎ、ペイパルのプラットフォームに資源を集中してプロダクトサイクルを加速させ、X-ファイナンス事業は廃止すると決定
l 「不正」は歯止めが利かない
購入者による詐欺に対しては決済代行業者のペイパルが返金に応じ、事業を行うコストとして呑み込んだが、海外の転売サイトやペーパーカンパニーが絡む種類の詐欺はより深刻
当初は成長に弾みをつけるために不正を大目に見ていたが、プロの犯罪者の横行もあって、次第に寛容な方針が大きな重荷となる
l 人には簡単でもコンピュータには難しいことは何か?
不正行為を分析した結果によって開発した最先端技術でサイトを修正――歪んだ文字や隠れた文字、形が崩れた文字を人間は認識できるがコンピュータは文字認識が出来ない違いを利用して、不正アカウントを自動プログラムで開設する方法を撃退
l 「人間であること」を証明させる世界で唯一のサイト――チューリングテストを初めて大規模修繕に使う
OCRソフトを使って判読不能な文字を作ると不正は激減、ロボットによる不正アクセスをシャットアウト。世界で初めて商用利用されたCAPTCHA(コンピュータと人間を区別するための完全自動化された公開チューリングテスト)となり、ペイパルは、人間であることをユーザーに証明させる世界で唯一のサイト
l 安全性と使いやすさの「ダイヤル」を調節する
一定の使いやすさを保ちながら、不正が手に負えなくならないようにする事が重要
画像の表示に時間がかかってはいけないし、変形文字が読みにく過ぎてもいけない
l 「ボブインターン」と「インターンボブ」――非凡なインターンの活躍
入口の不正は止まったが、既設アカウントの不正を防ぐための継続的な監視の仕組みも必要で、パスワード管理の複雑度を高めたのは何人かのボブというインターンたち
l 「イゴール」という不正者
過去のデータから「不正のパターン探し」を行い、特徴を掴むごとに対応したが、本格化したのは国際的なハッカーに狙われてから
l 詐欺師ではなく「パターン」と戦う
個々の不正ではなく取引のパターンを探す――資金の流れを線で、決済額の大きさを線の太さで表し、異常な変化をチェックすることで不正を可視化。詐欺師を検出するのではなく、パターンを検出し、出てきたらその穴を塞ぐ。新検知システムを「IGOR」と名付ける
l 「機械学習」のアルゴリズムを応用する
複数の不正防止ソフトを組み合わせると、取引の不正度合いを精査することが出来る
当時は機械学習やビッグデータを利用した産業が生まれる遥か前のことだが、その基盤となる技術の多くを開発。ペイパルのランダムフォレストの活用も、機械学習のアルゴリズムを商用利用した世界初の事例の1つ。ビッグデータセキュリティ会社の先駆けとなったこのシステムを使えば、誰かが資金を動かしたときに、その資金が正当なものか不正に得られたものかを、非常に高い確度で瞬時に判別できる。のちには当局の調査にも利用
不正利用者たちは、攻撃の対象をペイパルから他に移し、ペイパルの優位はさらに高まる
l フレッザとの早すぎる別れ
不正率が急減し、金融サービス業界で最低水準を達成
レヴチンは、MITテクノロジー・レビュー誌の「世界的影響力を持つ35歳未満のイノベーター」に選ばれ、米国特許「オンライン取引を視覚化するシステムと手法」が付与
共同開発者の「ボブインターン」と呼ばれたボブ・フレッザは、付与直前に心不全で他界
16.
強制アップグレード――猛抗議に耐えきれるか?
収益拡大に向けた第2の取り組みは「アップセル」キャンペーンで、ユーザーに使用目的を訪ね、事業目的の場合は「ビジネス」か「プレミア」アカウントへアップグレードを促す
無料サービスの有料化は効果を発揮、会社に収益をもたらすことが判明
l 「これは新しい方針ではない」という理屈
「永久無料」からの転換は、イーベイでのほとんどのユーザーがネット上でのフリーマーケットを開いている感覚だったため、当初は最もアクティブなユーザーを対象に反応を試したが、猛抗議が始まる
l 「猛抗議」開始
不満を持つユーザーがメディアに情報を流し、掲示板を超えて不満が拡散
l 「最も楽観的な予測」をも上回る好結果
数日で風向きが変わるとネットワーク効果が出始める。最初のターゲットのうち予想を上回る20%が有料アカウントに切り替え。アカウントを閉鎖したユーザーはほんの一握り
アップセルキャンペーンは、需要が価格に対して完全に非弾力的であることを証明しただけでなく、ユーザー行動と乗り換えコストについても重要な発見をした。プロダクトやサービスをユーザーの生活の一部にしてしまえば、ユーザーはなかなかやめられなくなる
l ペイパル史上最もリスクの高い動き――アップグレードを強制する
2000年9月時点で有料アカウントは20万を超えたが、まだ70%はクレジットカード決済のままで、会社の収益状況が厳しかったことから、強制キャンペーンに切り替えを決断
l 「お金を受け取りたいかどうか」に話を変える
無料の基本サービスと、有料の高度な機能とを組み合わせた「フリーミアム」課金モデルが現れたのは2006年だが、当時はまだ直感と即興、試行錯誤に頼るしかなかった
ペイパルでは、強制アップグレードのコンセプトに「アップグレード」と「入金」の抱き合わせを考案――クレジットカード払いの代金の入金を6か月で500ドルに制限
l ペイパル社員、震え上がる――「うんざり」「恥を知れ」の大合唱
「率直な説明で不満を抑える」方針で臨むもボイコットや妨害の呼びかけが掲示板を埋める
l もっとほしがると金をとる――フリーミアムは麻薬か?
擁護者も現れ、便利なペイパルを存続させるために必要なこととして受け入れ
対象の個人アカウントの95%がアップグレードされ、「永久無料」の約束は完全に終焉
l ナップスターに敗れながらも笑う
最も大きな意味を持ったのは決済の構成比の改善――11月には遂に銀行決済と内部振り替えの合計がクレジットカード決済の比率に並ぶ。登録アカウントは500万越えに
ナップスターは、レコード業界から著作権侵害で訴えられた同情票でマーケティングの賞を総なめにしたが、翌年サービスを停止。彼らを尻目に最後に笑ったのはペイパル
17.
ハッカーたちとおかしな関係――オタクのスパイ大作戦
金融機関への攻撃を得意としたロシアのハッカー2人が、米企業にセキュリティコンサルティング・サービスを売り込んだところを、FBIの囮捜査で逮捕される
l 天才的ハッカーの入念なスキーム
2人は、ペイパルとイーベイで数百件の偽アカウントを作成し、不正を繰り返していた
l 「会社にロシア語が出来る人はいないか?」
FBIから情報を得たペイパルでは、レヴチンがロシア語でハッカーたちと交信
l ハッカーからのメッセージ――それで捕まえたつもりか?
ペイパルでは、別名で不正を繰り返す2人を追っていて、イタチごっこを繰り返していた
l これが相手の住所、人相、全証拠だ!――進まない捜査とペイパルの焦り
2人以外にもハッカーはいて、ペイパルはその証拠を収集して捜査当局に持ち込む
l 「完全無欠のセキュリティ」という信条
レヴチンは、システムダウンや顧客のクレームなどは差し置き、ハッカーがシステムに侵入して個人情報を盗むことだけは絶対に許さないことを基本的な信条としており、金融業界の情報セキュリティの甘さに失望し、高水準の完全な安全のシステムを構築
l ガードの緩いやつは「さらし者」
会社の「権限制御」のツールを作成。重要情報、特にユーザー情報へのアクセスを制限
ラップトップを社内に放置する大罪を犯した社員は「さらし者」に――そのラップトップから所有者になりすまして全社員宛に不面目なメールを送る
l 不正は愛である
デジタル犯罪との戦いは、「とても刺激的で充実感」のある仕事。不正対策の基本はアルゴリズムによる自動検出にあるが、最後は生身の人間との組み合わせが必要
l ハッカーの異例なその後
FBIの捜査官は、その後も「ペイパル不正」対策を連邦政府の優先事項として、両者が緊密に連携。政府の束縛を受けない世界共通の電子マネー提供を謳ったペイパルにとって、FBIと金融犯罪摘発で協力する姿は、ペイパルの歴史の転換点に
2人のロシア人ハッカーは、サイバーセキュリティ訴訟という新しい分野の画期的な判例となり、担当捜査官はFBI局長優秀賞を受賞。ハッカーは服役後強制送還されたが、1人はアメリカでエンジニアの仕事につき、異例のアメリカンドリームを掴む
18.
巨人との死闘――イーベイと果てしなく殴り合う
イーベイは躍進を続け、ビザカード決済の手数料を無料にしてペイパルに宣戦布告
l 勝つためにあらゆる選択肢を検討する
ペイパルの強制アップグレードへの方針転換を機に、イーベイが攻勢を仕掛ける――オークションの出品者に対し、手数料体系の見直しと3日間の資金滞留期間の廃止を提示
l 決済問題を後回しにしてきたイーベイ
イーベイは創業当初からオークションのユーザーを信頼、後払いの郵送で手数料をもらっていて、業容拡大後も、決済機関ビルポイント買収後も変えようとしなかった
l イーベイが大胆な一手を打つ――「即決購入」の真の目論見
イーベイの業容拡大は、ユーザー増加とオークションジャンルの拡大であり、決済収益は無視されたが、唯一工夫したのが「即決購入」制度で、出品者の設定した即決売却価格での購入者が現れた時は、自動的にイーベイのペイメント入力フォームが現れるように変更
l バグ――大混乱のサービス開始
即決購入は決済手数料を無料にして始まるが、ペイメントのバグが発生して大混乱に陥るが、やがて効果を発揮し始め、決済方法にビルポイントを使用する件数が倍増
l ペイパルとイーベイの「裏の外交ルート」
イーベイとペイパルの関係は、表で争っていても、お互い相手を認め合ってもいた
l ボストンマーケット(地元のチキンの店)の密談――デジタル外交官たちの冷静な論争
「ペイパル認証済み」のロゴを巡っても争いが勃発――ペイパルが銀行口座の本人確認を行ったイーベイの出品者に与えたもので、イーベイの購入者にとっては信頼性の証で、ペイパルにとってはユーザーをクレジットカード決済から引き離す戦略の一環だったが、イーベイにとってはペイパルが自社宣伝のためイーベイのサイトを汚していると映った
l 初めて正式な会合を持つ――2社は手を結ぶことが「可能」か?
11月、両社による初会合で協力関係の可能性を模索し始める。第3者のコンサルティング会社が両社の財務状況を精査。イーベイの最大の関心事だった不正問題は基準をクリアしたが、ペイパルの事業の安定性や収益性には疑問
l ペイパル、「闇市場」を支援する
イーベイオークションに占めるビルポイントの決済シェアは上がらず、逆にペイパルはイーベイのパワーセラーに対しデビットカードの提供を開始。さらに「ペイパルショップ」を開設し、イーベイ出品者のネットショップ開設を支援
l イーベイ、「一斉射撃」を浴びせかける
01年、イーベイはオークション出品者が出品の際の入力フォームに、ビルポイントでの決済が自動表示されるよう書式を変更し、ペイパルはユーザーに注意を喚起し、非難合戦に
l オーヴァーロード作戦――ペイパル独自のネットワーク構想
特にイーベイ依存度の大きいペイパルにとって、イーベイから追放されても生き残れるペイパル独自のオンラインオークション・ネットワークを作ることが真剣に検討された
l 「必要な機能」を聞いてはすぐにつくる
イーベイはユーザーの怒りに敏感で、ペイパルを締め出す案もユーザーを慮って、早くから実行しないと決めていた
ペイパルも、自らの磁力、特にパワーセラーを引き付ける磁力を強めようとし、彼等の欲しい出品を支援するための様々な機能を提供
l 「独占禁止法」を武器にする
98年、米司法省と20州の検事総長は、マイクロソフトを独禁法違反で提訴。世界中のテック界の幹部が震え上がる。ペイパルもイーベイの独禁法違反の証拠書類を作成し、ティールも連邦取引委員会にイーベイ告発の書簡を送るよう議員に働きかけ
19.
世界制覇――制覇は戦略的に
ペイパルは世界的拡大を模索。「カネは情報システムの一種」と考え、インターネットなどの世界的情報ネットワークを利用すれば、通貨交換の手間と手数料を排除できると考えた
l 世界中から資金を吸い上げよ
海外でのインターネット普及に乗って、イーベイのユーザーベースは90か国に及び、国ごとにオークションサイトを買収していく。それに従ってペイパルの活路も開ける
ペイパルは、海外進出を利用して、成長と資金調達という2大目標の達成を企図
l とりあえずヨーロッパに飛べ――ぶっつけ本番の拠点づくり
ペイパルは規制環境への知識も無く、まだ言語や通貨換算のための技術を持っておらず、ウェブサイトの大半を細かく複製する必要があった
l 海外をつなぎ止めつつ、国内でしのぎを削る
最初は海外ユーザーとアメリカのユーザーとの間の米ドル建ての資金のやりとり、次にペイパルで海外のクレジットカードが使えるようにし、最終的に各国の提携企業と協力して、言語や通貨換算、規制の問題を乗り越え、現地通貨建てでサービスを提供するという作戦
高額の海外送金手数料がネックだったが、米ドル決済の解禁により、海外の出品者がアメリカ市場になだれ込み、さらには結果として独自のサイト立ち上げまで手助けすることに
l もっと「シンプル」にせよ
海外でローカライズ版提供の方法を発見――EUの電子マネー免許プログラムに着眼、イギリスで免許を取得の上、各国に活動を拡大。通貨換算機能の開発を含め、まず「シンプル」を心掛ける。アメリカでのサービス提供から丸1年後には世界26か国で利用可能に
l 「ポルノ」「カジノ」の魅惑的な市場
マリファナの取引の決済に使うことは拒否。ポルノもネット上の全トラフィックに占める割合が群を抜いて高かったが、積極的な追求はしないことに決める。90年代末に始まったオンライン賭博市場の爆発的成長に対しては決済サービスを提供する金融機関がまだ現れない時点でペイパルは検討を開始。グーグルやヤフーは、酒・たばこの広告は拒否したがオンライン賭博の広告は掲載していた
l 相手の机には「銃」が置かれていた
98,99年にオンライン賭博で金を失った人々がクレジットカード会社を提訴して、カリフォルニアの女性はマスターカードとビザの債務帳消しを勝ち取ったことから、カード会社はオフショアカジノサイトでのカード利用を厳重に禁止したこともあって、ドル箱となるのは確実。すでに一部のペイパル・ユーザーはカジノを謳っていた。賭博はペイパル総収益の数%だが、利益率は通常のオークション決済を遥かに上回る20~30%にも上る
ペイパルでは、この事業リスクをイーベイという大きなリスクに対する「保険」と見ていたが、監視の目も強まり、カジノ絡みのあらゆる不正がネット上でも起こってくる
l ライバルの違反を「告げ口」する
一時期カジノの主要決済代行業者を買収して本格進出を計画したこともあったが、クレジットカード会社のオンライン賭博取引に関する規約違反を追求され断念、代わりに買収先をビザに告発して、被買収業者の決済代行業務からの駆逐を画策
l アマゾンに進出しない理由――ところかまわず降下しても世界制覇は出来ない
「囚人服を着るようなことはしない」というのがティールの鉄則だが、クレジット会社の利用規約のようなレベルの規則は平気でかいくぐる――収益基盤強化を狙い、常に新たな決済市場進出を目論むが、すでに定評を得ているアマゾンなどのサイトは「”レジ”をペイパルに外注したがらない」し、ピザハットのようなリアルの小売業者の決済代行も、既存の決済方法を超えるサービスが提供できるかどうかは不明として敬遠
20.
すべてを吹き飛ばすテロ――逆風の中の「逆張り思考」
大暴落した株式市場は回復期にあったが、テック企業のIPOへの関心を失い、アマゾンが出資していたペッツ・ドットコムは2000年2月にIPOを行い11ドルの初値が14ドルまで伸びたが、11月には19セントに暴落、1年未満で清算に追い込まれた
ティールは、黒字化によって投資家を引き付けようと、社員への無料軽食提供を廃止
l 主幹事にモルガン・スタンレーを起用
ペイパルの上場の最大の目的は資金調達。01年3月海外投資家から90百万ドル調達
モルガン・スタンレーはテック系IPOで高い評価。95年ネットスケープのIPOはドットコムブームの先鞭となる。01年8月S-1を提出し上場手続き開始、年末のIPOを目指す
社内には、第2次大戦の金言「口が緩むと船が沈む!」を引用した社内情報の緘口令発出
l 「上場企業なんて経営したくない」
IPOは会社の価格を算定する上でも役立つ。他社からも買収提案が増えるが、イーベイへの過度の依存体質が敬遠された――2度も買収を検討した請求書電子化サービスのチェックフリーも同じ理由で買収を断念し、07年他社に220億ドルで買収された
l ユーザーが「1000万人」を突破
01年8月末、ユーザーが1000万人を突破したが、黒字化はまだ実現せず
l モルガン・スタンレーと決裂
IPOを急ぐティールに対し、モルスタのチームは商品知識が欠如していた上にアナリストがさらに2四半期業績を見たいと言い出したために交渉は決裂。9.11の前日のこと
l 「9.11同時多発テロ事件」の勃発
テロによりIPO準備作業も中断
l 「これはペイパルへの攻撃でもある」――ティールの覚悟
ティールは、「グローバリゼーションや資本主義、アメリカに対する攻撃」だとして、現代西洋の資本主義が与えてくれた最高のもの、即ち、あらゆる人間の命の尊厳と価値の尊重であり、「アイディア、サービス、財の自由な交換」の周りに平和な世界共同体が築かれるという希望を信じて社業に邁進しようと全社員に呼び掛ける
l 最速で「支援体制」を築き上げる
ティールは、早く支援活動を立ち上げることが重要だと強調、当日の午前中には寄付を募り始めた。ペイパルサイトにも募金ボタンを設けメールでの寄付を募り、赤十字に送る
l イーベイ、囂々たる非難にさらされる
イーベイは、関連物品のオークションを禁じ、ニューヨーク州知事、市長からの直々の要請を受け、「オークション・フォー・アメリカ」を開催し、落札金額を寄付してもらって、慈善団体に均等に分配する。目標は100日間で1億ドルだったが、一般オークションの売り上げが落ちたことや、オークションの送料を出品者負担にしたこと、決済をイーベイのビルポイントに限定したことなど、様々な不満が噴出
l 誰もが反対だからこそやるべきだ
テロで市場が収縮するなか、ソロモン・スミスバーニーを主幹事にIPO準備再開
l 「凍てついた市場」に立ち向かう
市場では、収益化の遅れと、「大人の監督」不在が指摘されていた
21.
5時まで粘れ――IPOか強制終了か?
01年の第4四半期には、株式配分コストと2社の合併ののれん償却を除き、黒字化実現
株価も底値から反転し始め30%戻し、IPOの環境は好転
l 極度のプレッシャーが充満する
IPOが2月に内定すると、社内はコンプライアンスで息が詰まるようになる
l 破綻寸前の会社「サートコ」に訴えられる
ロードショーが始まると、投資家たちが業界をまたぐペイパルの分類に困惑し、経営陣の平均20代後半という若さに幻惑。さらにIPO直前になって破綻寸前の暗号化技術開発会社のサートコが特許抵触で提訴。アメリカの特許商標庁は、発明というよりはアイディアを保護する、「広すぎる」特許を与える傾向があり、特許侵害がネックとなってインターネットの価値引き上げの機会を損ないかねないとの批判が強い
l 「人を殺してから身代金を要求するのか」
特許侵害訴訟というのは一種のユスリだとして、和解を断固拒否。訴訟が起きるとSECに書類の再提出を求められるためIPOは1週間延期。IPOの遅れは大きなマイナス要因
l 「午後5時」までタンブルウィードを足止めにしろーー訴訟が次々と降ってくる
別の特許侵害訴訟や、業務妨害の損害賠償請求などがあり、タンブルウィードの件は訴訟提出を翌日に持ち越したため、IPO期日を決めることができた
l 「貧乏クジ」を引く――8回の目論見書再提出
SECは目論見書を精査、IPO阻止を自らの務めだと自任する調査官が担当したため、2億ドルの累積損失など、執拗に説明と提出書類の書き直しを要求
l イーベイを沈黙させる巧妙な手
イーベイを黙らせるだけのために再び買収交渉に入り、IPOの予想時価総額7~9億ドルに買収プレミアムを付けた10億ドルを売却提案価格としたが、イーベイのオファーは8.5億ドル。IPO決定まで両者に歩み寄りはなく、イーベイ経営陣は沈黙を守り続けた
l 突然の「サービス停止」勧告――逆境を立て直すティールの一言
IPO直前、ルイジアナ州から州内でのサービス提供即刻停止の勧告――「銀行」とは、預金の一部を準備金として中央銀行に預託し、残りを貸し付け(=部分準備金貸付)に回す信用創造の仕組みとされ、それに該当しないペイパルは送金ライセンスを取得せずにサービスを行っていたものと見做された。他州への波及を恐れたペイパルは当局の説得に成功
l あと1回食らったら、持ちこたえられない
IPOでは540万株を放出し、@12~15ドル、計81百万ドルの調達を見込んでいたが、訴訟など回避のため、ティールは公募価格を下げてでもIPOを急がせる
l 不安なバレンタインデー ――IPO前夜
02.2.14. AP通信が公募価格13ドルでナスダックに上場と公表(銘柄コードPYPL)
l スポットライト
ものの数分で18ドルに急騰、終値は20ドル9セント、初値上昇率55%は今年最高
インターネット関連株としては1年ぶりのIPOを果たす
l ティール、チェスで勝ちまくる
競争心剝き出しのお祭り騒ぎが始まる――ハイライトはティールの10人相手のチェスの早指し。デイヴィッド・サックスにだけ負ける
l マスク、ダントツの巨額を手にする
時価総額は10億ドル弱。うちマスクの持ち分は1/10超
22.
Tシャツ戦争――「最後の戦い」の勝者は?
ペイパル社員の間で新しい儀式が始まる――PYPLの株価チェック
イーベイは、1週間後にウェルスファーゴが保有するビルポイントの35%の株式を4,350万ドルで買い戻すと発表。ペイパルの1/8という少額での買戻しに市場はペイパルが高すぎるとみて株価が15%も下落。イーベイが独自の決済を完全所有したことにより、さらにペイパルとイーベイの統合の可能性が増す
l 戦い継続か、終止符を打てるのか?
02年3月、イーベイはペイパルに13.3億ドルでの買収を持ちかけ、ペイパルの取締役会は、「両社は良くも悪くも運命共同体であり、戦いを長引かせるよりは、イーベイに買収される方が好ましい」との結論に達し、交渉の継続を決めたが、黒字決算の発表で株価がさらに上がり始め、交渉は棚上げに
l 「Tシャツ戦争」を仕掛ける
イーベイのお祭りをぶち壊すために、ペイパルは参加者に自社のTシャツを配って会場をペイパルのロゴで埋め尽くす
l 本当にペイパルを撃っていいのか?
新たにイーベイの北米部門責任者となったジェフ・ジョーダンは、ペイパルとの不毛な戦いに辟易としていた
l 5発よけても、6発目が当たるかもしれない
イーベイとペイパルの相互依存は明らかで、ジョーダンは両者が手を結ぶべきことを痛感
ジョーダンは、ビルポイントをシティバンクに売却して、手数料の無料化まで検討したが、それよりペイパルを買収してイーベイに統合した方がメリットが大きいと判断
l 何度も壊れた交渉をどう進めるか?
過去の交渉決裂の戦犯である両社のトップを交渉から外す
l 魔神を壺に戻すのは難しい
ペイパルの市場価値は14億ドルになっていたが、マスクほかペイパルの取締役たちは、躍進はまだこれからとみて安値での売却に難色を示したが、最後の決め手となったのは、ペイパル経営陣と部下たちの忍耐が尽きたこと。超人的なレヴチンですら「もう潮時」と告白、取締役全員が買収に賛成票を投じた
l ハワード・シュルツが反対する
ジョーダンは、「イーベイはカートを持たないアマゾンだ」と取締役会を説得、スターバックスのシュルツだけが14億ドルは高すぎるとして反対、全会一致には至らず
l 「北極圏」(ペイパルの温度調節機が壊れた旧会議室の名前)での休戦の知らせ
02年7月、イーベイがペイパルを買収するとの第1報が流れる
売却価格は現行株価の18%アップ。当面は別個の会社として運営される
l ペイパルの野球帽をかぶったホイットマン(イーベイのCEO)
北極圏でのホイットマンの話は、手強い聴衆にあって、容易には受け入れられない
l 売却は「リスク回避策」の1つだった
お互いを破壊するのに費やしていたリソースを、事業の成功に使えるようになった
ペイパルは、イーベイを踏み台にして今の姿を築いたが、イーベイ以外の世界でまともに相手にされるには買収は避けて通れなかった――イーベイのデフォルトの決済業者になったからこそ、急拡大を遂げ、不正防止モデルの精度を素早く高め、イーベイ以外のサイトに導入を促すことができた。一方で金融システムの変革というペイパル不変の使命は霧消
l 「オフショア賭博」の時限爆弾
買収発表当日、ペイパルはニューヨーク州検事総長からオフショア賭博との関連で召喚状を受け取る。買収交渉の中で、イーベイは賭博事業の即刻中止を要求し、ペイパルも同意し、買収発表にもその旨明記。召喚状到着が買収発表後だったこともあって罰金で済む
l パロアルトから地球へ――ティールの呼びかけ
ティールはIPOを祝う全社員向けのスピーチで、パロアルトではグローバル経済を維持しながら、安全性を追求、この姿勢を地球に向かってメッセージとして送りたいと結ぶ
ペイパルの根底にあったこの政治的意図が、個人の能力を信じる会社の精神に表れていた
終章 ペイパルディアスポラ――ペイパルとは何だったのか?
全社的な移行計画の実行を指揮したのはCOOのデイヴィッド・サックス。買収完了は02年10月。その前から社員の離散が始まる
l すべてが全く違う会社の統合――マングース、処刑される
どちらの会社の経営陣も、2つの異質なチームの統合の準備が出来ていなかった
イーベイの全社的な重点課題である「効果的な目標設定」のシンボルとされたマングースのぬいぐるみが配布された時には元ペイパル社員の不満が爆発、磔や首吊りにされた
l 大企業の文化に苦しむレヴチン
レヴチンはおおかたの予想より長くCTOに留まり、会社を去ったのは同年11月
l イーベイで成長した人たち
人材が流出する中で、多くの優秀なペイパル社員が買収後にイーベイの経営に加わり貢献
l 物言う株主が「ペイパル独立」を煽り立てる――「ペイパルは至宝である」
マスクもティールもジョーダンも、買収後もペイパルは成長を続けると確信したとおり、2010年にはほぼすべての国でサービスを提供し、ユーザー数は現時点で3.5億人を突破、総決済額は2020年だけでほぼ1兆ドル。買収の10年後にはペイパルの収益が全社の1/2に達したが、ティールがペイパルのより大きな市場はイーベイの外にあるといったように、イーベイの物言う株主の投資家カール・アイカーンもペイパルの分社化を要求し始める
アイカーンは、「ペイパルは至宝であり、イーベイはその価値を隠蔽している」と非難
マスクも、グローバルな決済システムがオークションサイトの子会社だとは意味不明で、ペイパルの価値はイーベイ傘下で300億になったが、独立すれば1000億になると推定
l 2度目の上場を果たす――世界的な決済システムになる
2014年、アップルペイが始まりアリババのIPOでアリペイの認知度が高まったこともあって、モバイル決済への関心が広がった状況を踏まえ、イーベイはペイパルの分社化を発表。15年再上場を果たし、現在の時価総額は3000億ドルを超えている
l サックス、ハリウッドに進出する
創業者と最初期の社員たちも大成功している
イェルプに投資したのはレヴチン。レヴチンは研究者にも挑戦したが、次の起業のアイディアを探すだけで、研究者としては失格
サックスは、マスク等を誘って風刺映画を製作、07年ゴールデングローブにノミネートされた後、シリコンバレーに戻って企業向けSNSのヤマーを立ち上げ、12年に12億ドルでマイクロソフトに売却
l ペイパルマフィア――1枚の写真が生んだ波紋
2006年頃から、ペイパル出身者のネットワークがニュースで取り上げられるようになり、07年のフォーチュン誌の記事のタイトル「ペイパルマフィア」で呼び名が定着
全員が自分を異端と思っていて、それぞれに目指す方向も違い、変わり者のギーク集団で、マフィアというより「ペイパルネットワーク」の方が相応しい
l ユニバーシティ・アベニューから遠く離れて
「ペイパル出身」の肩書は、テック界で強力な信用状になるという声も聞かれる
2017年、マスクはX.comのURLをペイパルから買い戻す
l 先入観のない「未経験」の者たちを採用した
創業者たちは、当時は「企業文化」について多くを語らなかったが、ペイパルの文化がシリコンバレーのひと世代の人々の考え方に影響を与えたことは疑いがない。ペイパルを作った異端児たちは、今ではテクノロジーとエンジニアリングにおけるもっとも有力な正統派となり、今や彼等は企業経営者や投資家として、アイディアと野心、精力に溢れた新参者の売り込みを受ける側に回っている。多くのペイパル出身者は謙虚だが、彼等は才能豊かな異端児が業界全体を転覆できることを証明し、その手法をあらゆる分野で再現している
経験不足が強みと見做され、未経験者が積極的に採用された。先入観を嫌った
l 「最高の社員」の条件――なぜペイパル出身者がここまで活躍しているのか?
X.comとコンフィニティの創業メンバーは過半数が外国生まれ。移住は究極の起業家的行動であり、環境を作り変えるために起業家的行動をとり続けるのは不思議ではない
トップクラスの人材とは、「誰かの下で働くのはもうこれで最後にしよう」と思っている人たちで、それを採用基準にした
l 「プロダクト」に本気で執着する
もう1つの成功の要因が「プロダクト」への飽くなきこだわり。最高の顧客体験の提供に本気で執着した
l 「ぶつからない隕石」はチャンスを生む
ドットコムブームの絶頂期に誕生し、業界全体の低迷期に軌道に乗り始めた。ペイパルの経営陣の経験の大半はバブル崩壊後に起こったこと。高い現金燃焼率のせいで破綻寸前に追い込まれたギリギリの状況が素晴らしい結果を生み出した。手数料導入と不正との戦いの両方で迅速なイテレーション(一連の工程を短期間で繰り返す開発サイクル)を繰り返した
イーベイとの駆け引きでも闘志を生み新たな技術の開発を創出。これらの圧力こそが、ペイパルでの経験の際立った特徴
l 「正しい答え」に到達することだけをめざしていた
この経験から、起業家を選別する厳しい目も養う――ペイパル出身者は今では投資家として、様々な創業チームの持久力とアイディアの健全性について、判断を迫られる
学習するためにあえて失敗をする覚悟がないと、恐らく十分速く学ぶことはできない
緊張に満ちた文化は、真実の探究にあり、衝突は多かったが、互いに敬意を持ち、怒鳴り合いもしながら、高い基準の正しい答えに到達することだけをめざした
l 「困難で予測不能な状況」で大きなアイディアを実現する
もう1つの成功要因は――幸運。変化を耐え抜くことで自ら幸運を生み出した
インターネットが息を吹き返す直前に上場とイーベイへの売却を果たし、インターネットへの懐疑が高まる中で、ペイパル社員の多くがインターネットを信じたまま会社を去る。彼等は多くの企業がインターネットバブルの犠牲になるのを見た。だがペイパルは死ななかった。だからその後も迷わず「ウェブ2.0」の波に乗って次世代のインターネット企業を創業し、投資することができた
Epilogue ペイパルマフィアの余波
本書では、ペイパル出身者が1つの集団として現代に及ぼした影響を辿りたいと思った
「ペイパルマフィア」のフレーズは海外で人気を博し、ヨーロッパではレボリュートとモンゾ(イギリスのデジタル銀行)の成功が「フィンテックマフィア」を生み出したと騒がれ、カナダではワークブレイン(人材管理ソフト)の出身者も同様の注目を浴びた。アフリカのケニアではコポコポ(モバイル決済サービス)の創業者が「東アフリカのペイパルマフィア」になりたいと発言し、インドでは電子商取引大手のフリップカートの成功が「フリップカートマフィア」の台頭をもたらしたと言われた
「ペイパルマフィア」にまつわる最も興味深い物語は、シリコンバレーではなくITや起業ともかけ離れた世界で見つかる
l 人がばたばたと死んでいく街
1997年、ボルチモアの刑務所に服役する若者がいた。クラックコカインの流行が猛威を振るい多くのアフリカ系アメリカ人男性が暴力の餌食になっていた。若者も7歳から身を守るために床で眠り、10歳でパーティーに行くより葬式に行く回数の方が多くなり、14歳からは外出時に必ず銃を携行。母親の男友達に悪徳警官がいて、若者の目の前で母親をレイプし暴行を加えた。コンビニで2人の男に囲まれた時、遂に銃を発砲、1人を即死させ、終身刑を宣告、刑務所内で同部屋の9人からファックされ、わが身の不運を呪う
l 「マスタープラン」を書き上げる
同じ刑務所にいたもう1人の若者も同じく未成年で終身刑を宣告されたが、数学小僧でコンピュータに興味を持ち、差し入れられたプログラミングの本を読む。お互い似た境遇に興味を持って親しくなり切磋琢磨して、野心的な「基本計画=やりたいことリスト」を書き、終身刑を宣告した判事に送る
l 監房で猛烈に学び、ビジネスをする
2人は模範囚となり、刑務所の事務負担を軽減するためのプログラムを作るという条件でコンピュータ使用を許され、次々と刑務所内の改革の成果を上げ、16年で仮釈放
l 毎日背中を押してくれた「1枚の写真」
釈放後何年も経って成功した2人に会ってその理由を聞くと、基本計画達成のための自分
自身の努力の外に、フォーチュン誌の「ペイパルマフィア」の写真が励みになったと判明
l ポジティブなギャング集団
2人は、「ペイパルマフィア」の写真に興味を持って、彼等の人生と業績を塀の中で詳しく調べ上げ、出所後の目標とした
l 刑務所でペイパルを布教する
物語は2人の監房の外にも伝わる。2人が模範囚として担当した新入り受刑者向けの講座は、「ペイパルから何を学べるか?」と銘打たれ、多くの受講者の心に響いた
ソースと調査手法について
ペイパルとその前身企業のフィールドリンク、コンフィニティ、X.comについて書かれたすべての本、記事、学術論文、その他公開文献からなる膨大なアーカイブを作成。可能な限り1998~2000年代半ばまでに発表されたものに限定。ペイパルと最も深く関わった創業者や初期の社員のブログ記事、インタビュー、メディア出演を全てスプレッドシートにまとめ、金脈を探す。当事者の回想がとても重要だと判明
特に貴重な資料が、03年スタンフォード大で行ったマスクの講演と、04年同大でのティールとレヴチンの共同発表、Q&Aサイト「クォーラ」でのペイパル出身者たちのコメント
インターネットアーカイブに収集された情報にも助けられた。非営利のデジタルライブラリarchive.orgは縁の下の力持ち。この時期に送られたメールへのアクセスが出来たのも様々な瞬間のことをよりよく理解する上で役立つ
訳者あとがき
2022年ツイッターを買収する直前、なぜ買収するのかと聞かれたマスクは、「ツイッターはX.comの当初のビジョンの実現を加速させる」とツイート
ペイパルはいまやマスターカードとビザと並び、「決済業界のMVP」と称される巨大企業だが、草創期のペイパルは、破綻寸前のスタートアップだった
著者に、20数年前の物語を敢えていま書く理由について問うと、「単純に、当時のペイパルと創業者たちのことを知りたかったから」という。成功後に書かれた本は多いが、彼等の原点となる経験が培われたこの重要な時期について書かれた本はない。四半世紀を経たとは思えないほど克明で、生々しく、今日的な示唆に富んだこの本は、懐疑主義者のティールをして、Terrific book!と言わしめた
電子財布の提供を目指したコンフィニティと、あらゆる金融サービスを統合するハブを目指したX.com、どちらのアイディアも時代の先を行きすぎていた。生き残りを賭けて両社の行き着いた先が、電子メールによる送金
サックスらが本書の映像化権を獲得し、テレビシリーズ化に向けて動き出している
今ではスタートアップ界の定番となった戦略や手法には、この時期のペイパルでいち早く導入されたものが多い――迅速な方向転換(ピボット)、アジャイル開発、現金ボーナス、埋め込み可能なウィジェット、プロダクト・マーケット・フィット、フリーミアムモデルによる黒字化達成など、彼等が厳しい競争環境に対応するために手探りだ編み出した手法
ペイパル出身者と、彼等が関わった企業や投資先の一例:
マスク――スペースX創業、テスラ、ツイッターCEO
ティール――パランティアテクノロジー創業
レヴチン――スライド、アファーム創業
リード・ホフマン――(リンクトイン創業)
リチャード・カリム、チャド・ハーリー、スティーヴ・チェン――ユーチューブ創業
サックス――ヤマー創業
ジェレミー・ストップルマン、ラッセル・シモンズ――イェルプ創業
プレマル・シャー ――キヴァ創業
ロエロフ・ボサ――セコイア・キャピタルのパートナー
ダイヤモンド社 ホームページ
イーロン・マスクとピーター・ティールという二人の異端児のベンチャー企業が、たまたまシリコンバレーで隣り合うオフィスに部屋を借りた瞬間、シリコンバレー史上最大、誰もが驚く壮絶な伝説が始まった。いまの世界をつくっ
たとすら言えるペイパルマフィアとは何なのか? 映画以上に怒濤の展開の世界的ベストセラー!
好書好日
「創始者たち」書評 強烈な個性と起業家精神を描く
評者: 稲泉連 / 朝⽇新聞掲載:2023年07月15日
創始者たち イーロン・マスク、ピーター・ティールと世界一のリスクテイカーたちの薄氷の伝説著者:ジミー・ソニ出版社:ダイヤモンド社ジャンル:経営・ビジネス
ISBN:
9784478106792
発売⽇: 2023/05/11
サイズ:
19cm/653p
マスクとティールがたまたま隣人になった瞬間、世界を変える伝説が始まった−。次々とシリコンバレーの大物を生んだ「ペイパル」草創期の壮絶な4年間の足跡を追う。【「TRC MA…
「創始者たち」 [著]ジミー・ソニ
1990年代が終わろうとする頃、アメリカで創業されたペイパル――。
天才的な投資家であるピーター・ティール、プログラミングの鬼才マックス・レヴチン、そして、今も世界を騒がせ続けるイーロン・マスクといった強烈な個性が合流した会社は、後にYouTubeやリンクトインなど名だたるサービスを生み出す起業家たちの出身地となった。
では、「ペイパルマフィア」とも呼ばれる彼らの源流には、いったいどのような物語があったのか。本書はシリコンバレーの若者たちが始めたオンライン決済サービス会社が、イーベイに買収されるまでの激烈な4年間を描いたノンフィクションである。
創業の頃、ペイパルのオフィスの壁には一日の利用者数を表す「世界制覇指数」なるものが、「メメント・モリ」(死を想〈おも〉え)の言葉とともに掲げられていたという。
奇抜なアイデア、捨てるよりも早く消えていく資金、ハードワークと「問題解決」自体が生きる喜びであるかのような社員たちの狂気……。「おいおい、君のせいで屋根裏を引っかきまわす羽目になったぞ」というマスクの言葉から始まる本書を、数百人へのインタビューと膨大な資料を巧みに調理し、これほどまでに息詰まるストーリーとして仕立て上げる著者の筆力は圧倒的だ。
勝つことに異様なほどの執着を見せ、自由を希求する。そのために山のような失敗を積み上げながら学び、巨大なリスクを取る彼らは反逆的で荒々しい。起業家精神とはこのようなものなのか、と思う。
インターネットの個人向けサービスの黎明(れいめい)期、薄氷を踏む決断を重ねながらペイパルは膨らむように成長していく。「いま」よりも「未来」に関心を寄せる異端のイノベーターたち。彼らが激しく摩擦し熱を持って溶け合う様子は、あたかもテック業界の生命の起源を見ているかのようだった。
◇
Jimmy Soni 幼いころにインドから米国に移住。ハフィントンポスト勤務などを経て2014年に作家に転じた。
稲泉連(いないずみれん)ノンフィクション作家
1979年生まれ。『ぼくもいくさに征くのだけれど 竹内浩三の詩と死』で大宅賞。他の著書に『アナザー1964 パラリンピック序章』『「本をつくる」という仕事』など。2022年4月より書評委員。
Bookvinegar 公開日 2023年7月17日
創始者たち イーロン・マスク、ピーター・ティールと世界一のリスクテイカーたちの薄氷の伝説
ジミー・ソニ 著
発刊
2023年5月10日
ページ数
656ページ
読了目安
892分
推薦ポイント
16P
推薦者
ペイパルはどのようにして成功したのか
ユーチューブ、テスラ、スペースX、リンクトイン、イェルプ、パランティアなど、現代を代表する企業はペイパル初期社員によってつくられた。彼らは、ペイパルという会社で何を経験し、何を学んだのか。
ペイパルの創業から紆余曲折を経て成功するまでの過程を紐解きながら、ペイパルが成功した要因を解き明かしている一冊。シリコンバレーの企業文化にも多くの影響を与えたペイパルという会社のストーリーから、様々な教訓が得られます。
世界的な決済システム「ペイパル」
今知られているペイパルは2つの会社が合体して生まれた。一方の会社コンフィニティは、1998年にマックス・レヴチンとピーター・ティールという無名の2人が設立した。コンフィニティはやがてお金とメールを結びつける「ペイパル」の枠組みを開発し、オークションサイトのイーベイの利用者に熱狂的に受け入れられた。
だが当時、デジタル決済を手がける企業はコンフィニティだけではなかった。イーロン・マスクが最初のスタートアップを売却した直後に立ち上げたX.comもメール送金サービスを提供した。マスクはX.comを足掛かりに金融サービスに革命を起こそうとした。X.comを「すべての金融商品・サービスをまとめて提供し業界を支配する、アルファベット一文字のウェブサイト」として打ち出した。だが戦略転換後、金融サービス全体に切り込む踏み台として、コンフィニティと同じオンライン決済市場を狙うことにした。
コンフィニティとX.comは、イーベイでの決済のシェアをめぐって競争心を燃やし、死闘を繰り広げ、ついに苦渋の合併に至った。その後の数年間、合併後の会社は存続の危機にさらされ続けた。ペイパルは当初から訴訟や不正利用、模倣に苦しめられ続けたスタートアップだった。草創期には決済市場に新規参入した10社以上の競合と戦いつつ、ビザやマスターカードなどのクレジットカード会社や巨大銀行などの既存企業の参入にも耐えた。
そして、ペイパルは2011年、IPOを成功させ、イーベイへの15億ドルでの売却を果たした。その後イーベイから分社化され、現時点で時価総額はほぼ3000億ドルの巨大企業になっている。
ペイパルの成功要因
ユーチューブ、テスラ、スペースX、リンクトイン、イェルプ、パランティアなどの現代を代表する諸企業をつくったのは、ペイパルの初期社員だ。グーグルやフェイスブック、シリコンバレーの主要なベンチャーキャピタルなどの要職に就いた出身者も多い。ペイパル出身者はこの20年間、シリコンバレーのほとんどの主要企業の創設、資金提供、支援にあらゆる形で関わってきた。彼らは史上最強のネットワークを築き、その力と影響力は「ペイパルマフィア」という呼び名に表れている。
創業者たちは、当時は「企業文化」について多くを語らなかったが、ペイパルの文化がシリコンバレーの一世代の人々の考え方に影響を与えたことは疑いがない。彼らがペイパルでの経験をその後の取り組みに生かしているのは明らかだ。何より、彼らは才能豊かな異端児が業界全体を転覆できることを、ペイパルを通して証明した。その手法を、ビジネス向けSNSから政府契約、インフラ構築に至るまでのあらゆる分野で再現している。
「僕らがペイパルの経験から学んだのは、優秀な者たちが勤勉に働き、誰も見たことのないテクノロジーを駆使すれば、実際に業界に革命を起こせるということだ」とホフマンは語る。
ペイパル出身者は、経験不足を強みとみなすようになった。事務責任者のローリー・シュルティスは、ペイパルでは未経験者を積極的に採用していたと言う。「ペイパルでやる仕事に先入観を持って欲しくなかったから。全く違う角度から、自由な発想と新しい視点で考えられる人、どこそこの銀行ではこうやっていたからここでもそうすべきだ、なんて言わない人を探した」
レヴチンはペイパルの採用基準に一風変わった条件を加え、それがペイパルの成功と出身者たちのその後の活躍に一役買ったと自負している。最初期の社員の多くは、雇われ人であることを好まなかった。「どんな仕事のどんな職務についても言えることだが、トップクラスの人材とは『誰かの下で働くのはもうこれで最後にしよう』と思っている人だ。『この次は自分で起業する』と考えている人だ」とレブチンは語る。「そういう人材をできるだけ多く集めたことが、会社の成功を決めた。だからこそ、あれだけ多くの起業家が巣立っていったんだ」
とは言え、こうした社員の属性は、ペイパルの成功の一因でしかない。他の成功要因の1つは、プロダクトへの飽くなきこだわりだ。「僕らは可能な限り最高のプロダクトをつくることに徹底的にこだわった。プロダクトそのものが、巨大な営業部隊やマーケティングの仕掛けよりも、はるかに有効な販促ツールだった」とマスクは振り返っている。
そして、ペイパル出身者の多くが指摘する、大きな成功要因の1つが「幸運」だ。ペイパルが成功したのは「何を」提供したかだけでなく、「いつ」提供したかによるところも大きい。それに1億ドルの資金調達ラウンドが完了したのは、バブル崩壊直前だった。
ペイパルの登場もタイミングに恵まれた。すでにメールアドレスは普及し、インターネットは必需品になっていた。もし登場が1年前後していたら、この時代の数十社の決済スタートアップと同じく不発に終わっていた可能性は十分ある。また、ペイパルはイーベイを通じて活発で声高なユーザーを味方につけ、プロダクト普及に手を貸してもらうことができた。
ペイパルの成功物語の核心には幸運があったからこそ、ペイパル出身者は「成功すべくして成功した」という神話をきっぱりと否定する。成功するかしないかは、実際には紙一重の差だ。
Wikipedia
PayPal Holdings Inc.(ペイパル、NASDAQ: PYPL)は、電子メールアカウントとインターネットを利用した決済サービスを提供するアメリカの企業である。PayPalアカウント間やクレジットカードでの支払い、口座振替による送金を行う。イーロン・マスクが率いたX.comとピーター・ティールが率いたコンフィニティが合併し設立された。
概要[編集]
アメリカを中心に世界に広く普及している決済サービス。190の国と地域で利用でき、21通貨以上に対応。2021年時点で、世界中で4億以上のアカウントが開設されている。
金銭の授受をPayPalが仲介するため、取引先にクレジットカード番号や口座番号を知らせる必要がなく、安全なサービスであると謳われている。なお、日本を含む同社の国際部門は、シンガポール(PayPal
Pte. Ltd.)を拠点としている。
歴史[編集]
PayPalは、元々ピーター・ティール、ルーク・ノゼック、マックス・レヴチンが1998年に設立したコンフィニティで、翌年に決済業務をスタートした。1998年12月にPayPal
Inc.の社名でピーター・ティールとイーロン・マスクにより設立。アメリカのカリフォルニア州サンノゼに本社がある。2002年にeBayに買収されその子会社となっていたが、2015年7月にPayPal
Holdings Inc.の社名で独立した。
2021年9月に日本のオンラインショップ向けの後払い決済サービス「Paidy」を約3000億円で買収した。
PayPal(提供サービス)
日本ユーザーの利便性向上を目的に、2007年3月よりサイト全体の日本語表示が開始され、日本国内の電話問い合わせカスタマーサポートが新設された。
利用方法[編集]
準備
以下に述べるアカウント開設の手続きによって、準備が完了する。
パーソナルアカウントまたはビジネスアカウントを取得し、PayPalアカウントを開設する
クレジットカード情報やデビットカード情報または銀行口座(口座振替)を登録する。
アメリカ国内に限り銀行口座などからPayPalアカウントに入金が可能。なお、PayPalの決済ページでアカウント作成を行える。
支払い(オンライン店舗)
支払い後にクレジットカード、デビットカード、口座振替、PayPal残高から引き落とされる。
PayPalアカウントなしでもPayPalサービスを使用した決済を行うことができるサービスもある。
PayPalのサービスである「買い手保護制度」により商品に不備があれば条件付きでPayPalから返金を受けることができる。
個人間送金
送金には口座振替設定が必要
送金先のメールアドレスを指定、または送金リンクを使用してPayPalアカウント同士で送金を行う。登録された銀行口座から引き出される。
特定の条件で手数料がかかる。
Skype(3.2.0.53以降)ではPayPalアカウント経由で送金できる。
PayPalの「買い手保護制度」返金対象外
入金
日本では銀行等からPayPalアカウントへの入金が不可能。
振替(引き出し)
PayPalアカウントからの引き出しは、銀行口座への振込で行われる。米国内の銀行口座への引き出しには2~3日かかり、手数料は不要。
口座の種類
以下の2種類の口座がある。
パーソナル - 個人の支払い向け
ビジネス - 個人事業主・法人向け
どの種類でも、無料で即座にアカウントが開設でき、アカウント維持手数料も無料である。 パーソナルとビジネスの違いは
名称が事業者名かどうか
複数人のアクセスができるかどうか
他手数料や決済方法など
である。
パーソナルでは本人確認を完了することで10万円以上の取引が可能。 パーソナルの場合はPayPalアカウント間の振込手数料が無料なのに対して、ビジネスは有料であり、また、PayPal でクレジットカードなどから、売上を立てる場合、パーソナルの方が決済手数料が高い。
2010年4月1日より、資金決済法の改正によって、日本国内ペイパル同士及び日本から海外への個人間送金が一時的に不可能となった。クレジットカード現金化も参照。
ショップとの連動[編集]
ショップと連動させるためのサービスを利用可能。
決済ボタン
購入のためのリンクボタンをPayPalから作成することが出来る。かつてこの支払画面は英語のみだったが、現在は日本語を含め多言語に対応している。
購読と定期支払い
一定間隔で(1ヶ月など)定額を課金するタイプに使用できる。
API
ショップと高度な連携が必要な場合は、APIを使い、PayPalサービスと通信することができる。
不正取引への対応
利用者が不正な取引を当該取引から60日以内にPayPalに通知し、承認された場合不正取引分の金額が補償される。
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