ブリッランテな日 マリアンジェラ・ラーゴ & 関孝弘 2015.4.6.
2015.4.6. ブリッランテな日
――マリアンジェラのイタリア流しあわせ術
著者
マリアンジェラ・ラーゴ イタリア・ブレーシャ生まれ。ミラノ大学卒。1989年結婚し来日。耳の不自由な子供たち、重症心身障碍児などのための「音楽と医療」の研究にも尽力。現在、東京音楽大学講師
+ 関孝弘 東京生まれ。東京藝大、同大学院修了。1979年よりイタリアのブレーシャ国立音楽院に留学。以来、国内外で活躍し、イタリア・ピアノ音楽の普及に貢献。2011年イタリア政府より文化功労勲章コッメンダトーレ章受勲。現在、日伊音楽協会理事、パルマ・ドーロ国際ピアノコンクール審査委員長
発行日 2015.3.20. 初版
発行所 晶文社
まえがき
マリアンジェラ(M) 生きていることがとても幸せ。悩みも苦しみもあるが、生まれてきて、今、生きていることが本当に幸せ
関孝弘(T) イタリア留学生活で最初に驚いたのは、誰に聞いても「100%幸せ」と言い切ること。自分に素直になれば誰にでも簡単に感じられる幸福感だが、わかるのに5年かかった
イタリア語で「幸せ」はfelice ⇒ Si, sono molto felice.(とっても幸せ)
Capitolo1. 急がば遊べ? のイタリア教育
M: 毎夏イタリアに家族で向かい、故郷のリズムを家族揃って取り戻す
イタリアの夏休みは6月中旬から9月中旬まで。薄い問題集1冊だけが宿題で、それを終えた後は思いっきり遊ぶので、休みの終りにはフル充電された力が開花する
T: 子供たちが自分からよるようになるまで待つのがイタリア式教育法
M: イタリア人は、家族がより豊かに生活できるように仕事をする。仕事と割り切って、職場にいる間でも楽しく過ごそうとするのがイタリア流。家族も仕事に首を突っ込み、一緒になって同僚の家族のことにまで関心を持つ
T: 自分だけの純粋な時間を持つことが必要、その間に人生を豊かにするものが芽生える。イタリア人に個性と創造性の豊かなファンタジスタが多いのは、自分の時間を作りだせる自信と余裕があり、豊かに楽しむ能力があるから
M: ソステヌートは音楽用語で「音を保って」と訳されるが、本来は「下から上に支える」という意で、下からしっかり支えるという重要なニュアンスを含む。子供の教育でもソステヌートが重要で、それは自分の学びにもつながるし、大人の世界でも同じ
T: 子供の良いところを見つけて、とにかく褒めて伸ばす
M: イタリアの教育では、いかに人と違った発想をして、その素晴らしさをアピールできるか、というところにその人の真価が問われる。日本の音大でイタリア語を教えながら、学生にはもっとイマジネーションを広げるよう指導、多様な発想を期待するが、なかなか応えてもらえない
T: 音楽用語は、ほとんどイタリア語で書かれている。それはイタリアが18世紀までヨーロッパ文化全般を牽引する中心的存在であり、音楽の公用語がイタリア語だったという歴史的事実から来る。いまでも日常で使われている生きたイタリア語が大半
「アッレーグロ」に「速い」と言う意味はない。本来の意は、「楽しい」「陽気な」という表情をあらわす言葉で、楽しくなればテンポも上がるところから、一般的には速めに演奏する
「ラルゴ」も「遅く」と訳されるが、本来は「幅広い」の意で、横の広がりを意味する言葉で、広々とした雄大な空間では遅めのたっぷりとした速度で演奏することになるだろう
「フォルテ」は、本来「筋力・精神の強さ」であって、音量の強さは意味しない
「モレンド」は、「音量と速度を減じて」と訳すが、本来は「死んでいく」の意で、「死ぬ」の意をどう表現するかが重要
日本人のピアニストに対して、ヨーロッパでよく言われている言葉が「タイピスト」。音楽の最も大切なイメージ、ファンタジーが欠如しているのは残念
作曲家が残したメッセージから、言葉の持つ意味を素直に受け取り。そのまま伝えるのが演奏家の責務
M: 大学の授業でクラスを静かにさせる最も効果的な方法は、質問をさせようとすれば、みな黙ってしまう
ミラノで初めてクリスティアン・ツィメルマンに会って、シューマンの《謝肉祭》を弾いてアドバイスを求めた時の彼の言ったことが僕を開眼させた。「欠点は絶対になくならない。だから欠点を直すより長所を大きくして欠点を隠せばよい」
Capitolo2. イタリア人の価値観――徹底した自分軸をもつ
M: 薔薇の種を育てて胡蝶蘭にしようとしたら、それは悲劇の始まり
T: 結婚するときマリアンジェラから約束させられたことは、「絶対、音楽のサラリーマンにはならないで」「音楽の才能は選ばれた人だけに天が授けるものなので、自分の信じる表現を自信をもって最後までやってほしい」
イタリア語で「個」を表現する言葉「イデンティタ」 ⇒ 大事な要素は「本人識別」であって、他者とは違う、人が1個の人格として存在し、自分の特質をはっきりと自覚するということを意味
間奏 家族になる
イタリアに結び付けてくれた恩人で世界のプリマドンナ、東(あずま)敦子先生から2つの約束をさせられた ⇒ 名前が忘れられないようにあまり長いしないことと、イタリア人女性とは結婚しないこと
Tの下宿した家の未亡人が、Mの母と同じ小学校で教えていた関係で、未亡人の食事会でTを引き合わされたが、その前からTのピアノの美しく澄み切った音に魅了され、高校生ながらに結婚を決めていた
Mの下宿の未亡人が、Mに何らかの愛情を抱き始め勉強に支障が出るたびに、Mの母親が間に入ってくれたばかりか、父親が病死した直後にもかかわらず、以後10年に亘ってTを家族同様に受け入れてくれた
89年結婚。長男ミケーレ、長女エレナ
Capitolo3. 家族は逃げ場所
イタリアのショパンと呼ばれた作曲家のヴェッキアート先生。30年に亘る家族ぐるみの交流がある。Tがイタリアに留学して初めて受けた「パルマ・ドーロ国際音楽コンクール」の創設者
Capitolo4. 友に巡り合えた人は宝を手に入れたのと同じ
M: 大学で、交通事故や家庭不和などのショックによって話せなくなった子供たちについて研究。ミケーレが生まれた直後に母親が交通事故に遭い瀕死の状況が続いた
鼎談 イタリア人の価値観 x 日本人の価値観
関夫妻とよしもとばななによる鼎談。よしもとばななはイタリアと縁が深く、初期の作品からイタリア語に翻訳している
附録 幸せになるための十戒
1.
自分自身を知り、信じること=自分の足の長さより大きな歩幅をとるな(イタリアの格言、以下同じ) ⇒ 他人と比較する必要はなく、自分の素晴らしさに気付いて自信を持つべき
2.
素直でいること=嘘は頭を極限まで消耗させる ⇒ 自分の本当の心をはっきり伝え、相手によって自分を変えない
3.
オッティミストであること=どんな雲の後ろにも太陽がある ⇒ 周りの出来事に対して良い面を見るように心がける
4.
自分の持っているものに満足する=満足を感じるものは喜びを得る ⇒ 価値観を物に置き換えるのは不幸の始まり
5.
逃げずに問題に向き合うこと=危険を恐れるより立ち向かえ ⇒ 強い気持ちで立ち向かったことが自信に繋がる
6.
人からもらうより、与えること=遅かれ早かれ自分に戻る ⇒ 親切を人に及ぼすことで、より大きな喜びを感じるのは受けた側よりも与えた側
7.
良い友達を選ぶこと=良い友は宝をもたらす ⇒ 本当の友を作る
8.
“今”を大切に生きる=明日の雌鶏より今日の卵 ⇒ 確実でない未来を心配して、現在の時間が犠牲にされていくのはもったいない
9.
やり過ぎないこと=やり過ぎは害になる ⇒ “心のゆとり”を心掛ける
10.
自分を大切にする=晴れた心を、神は助ける ⇒ 好きなことをする自分だけの時間を持つことが大切


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