GAFAxBATH 田中道昭 2020.3.9.
2020.3.9.
GAFAxBATH 米中メガテックの競争戦略
著者 田中道昭 立教大ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究所)教授。上智大卒後、シカゴ大経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長、ABNアムロ証券オリジネーション本部長等歴任。06年マージングポイント代表取締役(現任)。他業種に対するコンサルティング経験をもとに雑誌やウェブメディアへの寄稿、テレビ出演多数。大学教授x上場会社取締役x経営コンサルタントという独自の立ち位置を持ち、切れ味鋭い分析には定評
発行日 2019.4.9. 1版1刷
発行所 日本経済新聞出版社
はじめに
GAFAとBATHなしに未来は語れない ⇒ 多くの分野において中国メガテック企業が技術そのものやその社会実装という点で本家の地位を脅かす
本書は米中メガテック8社の分析をテーマとする ⇒ 分類と比較が特徴
分析の意義:
1.
「プラットフォーマーの覇権争い」が読める ⇒ 各社ともそれぞれの領域で独自の経済圏を拡大しており、今後のビジネスの最重要な部分を担う事業者
2.
「先駆的利益を創造する存在となった中国勢の動向」が読める ⇒ 模倣からスタートした中国メガテックが今や独自でイノベーションを起こし、新たな価値を創造
3.
「同じ事業ドメインから異なる進化を遂げる理由」が読める ⇒ 事業展開の方向性やスピードを左右する根底にあるものを考察
4.
「産業・社会・テクノロジー・あるべき企業の未来」が読める ⇒ 主要産業の動向や近未来の姿が読み解ける
5.
「日本の未来」が読める ⇒ 日本や日本企業の活路を見出す
序 章「5ファクターメソッド」でメガテックを分析する
~全体像の把握に最適なアプローチ
5ファクターメソッド ⇒ 孫氏の兵法に倣って、「道、天、地、将、法」を戦略の優劣を判定するカギとする
「道」とは、「企業としてどのようにあるべきか」というグランドデザイン ⇒ ミッション
「天」とは、外部環境を踏まえた「タイミング戦略」 ⇒ タイミング
「地」とは、「地の利」 ⇒ 事業領域
「将」とは、「リーダーシップ」 ⇒ リーダーシップ
「法」とは、「マネジメント」 ⇒ 事業構造、収益構造
第1章
アマゾン×アリババ ~ アマゾン経済圏とアリババ経済圏の戦い
両社ともEコマースから出発して、今や生活全般にわたる巨大プラットフォームを構築
アマゾンは、事業領域を拡大して、「エブリシングカンパニー」へと変貌
アマゾン・ウェブ・サービスというクラウドコンピューティングサービスが売上の1割
06年自社のために構築したITインフラをベースとして利用者に公開 ⇒ 「ビッグデータx IT」のプラットフォームを世界に提供
B to Cプラットフォーム「アマゾンマーケットプレイス」という出店サービスを提供
セラー向けには「フルフィルメントバイアマゾンFBA」という、独自の物流網を使ったサービスも提供。米国ではアマゾンロッカーの設置も進み、ラスト1マイル問題の解決策として広がりつつある
18年にはシアトルに無人レジのコンビニ「アマゾン・ゴー」出店
17年には高級生鮮食料品マーケット・チェーンのホールフーズを買収 ⇒ ネットとリアルの融合、ラスト1マイル対策
音声認識AIアシスタント「アマゾン・アレクサ」を開発・提供
金融サービスでは「アマゾン・ペイ」として、アマゾン以外のサイトに決済システムを提供し、法人セラー向けには「アマゾン・レンディング」という融資サービスを提供
既存ビジネスとのカニバリゼーションにも躊躇せずに新規事業に挑戦する
自社の技術をオープンにして、外部に活用させることによって、新しい製品やサービスを生んでいる
アマゾンのミッション(「道」)は、「地球上で最も顧客第一主義の会社」
「天」は、カストマーエクスペリエンスを向上させるテクノロジーの進化をビジネスの好機として捉え、すべてビジネスにつなげている
「地」は、「エブリシングストア」から「エビル寝具カンパニー」への事業領域の拡大
「将」ベゾスのビジョナリー・リーダーシップ
「法」は、「プラットフォームやエコシステムの構築」というビジネスモデルと収益構造
進化のカギは、①当社のミッション・ビジョンとカストマーエクスペリエンスへの拘り、②高度化する消費者ニーズへの徹底的な対応、③大胆なビジョンx高速PDCA
オンライン経験とオフライン経験をつなぎ目なく消費者に提供しながら、同時にビッグデータを収集し、それらをAIで解析し、カスタマーエクスペリエンス向上へつなげる
アリババグループ(阿里巴巴集団)
マーケットプレイス型が主体の「Tモール」(楽天のようなもの)と「タオバオ」(ヤフオクのようなもの)で、利用者をサポートするビジネスモデル
「フーマーフレッシュ盒馬鮮生」は、スーパーのリアル店舗だが、スマホアプリの会員登録を義務付けることにより、来店や購入履歴のデータを取得し、仕入れを最適化している
「農村タオバオ」は地域活性化事業で、ネット普及率の低い農村部で買い手と売り手の両方を対象にしたサービス ⇒ Eコマースの配送拠点であり、地元のコンビニでもある
物流ネットワークを担うのは、「採鳥(ツァイニャオ)ネットワーク」社で、現在拡大中
金融事業ではアマゾンを圧倒 ⇒ 「フィンテックの王者」であり、アリペイは市場を席捲
AWSに匹敵するクラウドコンピューティングサービスが「アリババクラウド」
アレクサに匹敵するオープンプラットフォームが、17年発表の「アリOS」で、自動車や都市をスマート化
アリババのミッションは、”To
Make It Easy To Do Business Anywhere”
「天」は、「社会的問題解決のための機会」であり、「Tモール」などを活用して「パパママショップ」と呼ばれる家族経営の零細小売店のデジタル化を手掛けるのもその1つ
「地」は、「ニューリテール、ニューロジスティクス、ニューマニュファクチャリングの構築」で、ニューリテールとはOnline Merges Offlineの台頭の象徴(フーマーがその典型)
「将」である創業者のジャック・マーは、「中国は、世界はこうあるべきだ」という社会的なミッションを掲げて人を巻き込んでいくタイプのリーダー
「法」のビジネスモデルは、「社会的問題を社会インフラ構築で解決するため、多くのプラットフォームを構築する」ことであり、主に中小企業支援のためのもの
第2章
アップル×ファーウェイ ~ プラットフォーマーとハードウエアメーカー。「ショック」をどう越えるか
アップルは、モノづくりの会社から始まって、新たなデジタルライフスタイルを提案しながら、高いブランド価値を築き上げ、世界中のアプリ開発者がアプリを提供・販売するためのプラットフォームを提供(販売額の3割を手数料として徴求)
アップルの持つ使命感は、「自分らしく生きることを支援する」ことへの強い拘り
「天」とは、「人がおのおのの視点を持ち、自分らしく生きることを支援する機会である」
「地」とは、独自のプラットフォームの構築、そのプラットフォーム上でのエコシステム(ビジネス生態系)の確立、というビジネスモデル
「将」のジョブズは、並外れたプレゼンターでありマーケッター
「法」の収益構造は、ハードウェア製品がベース
際立つのは、顧客のプライバシーを重視し、個人データの利活用をしないことを明言していること ⇒ AIで出遅れている原因でもあるが、逆に信頼性や安心感を高めている
アップルウォッチでヘルスケア市場を破壊するといわれている
ファーウェイ華為技術
世界最先端のテクノロジーを誇るハードウェアメーカー。移動通信設備では世界1位
クラウドサービスにも注力
次世代移動通信規格5G(高速・大容量、低遅延、同時多数接続を可能にする通信インフラ技術。最大データ通信速度が20ギガビット/秒と20倍に)で覇権を争う
ミッションは、「あらゆる人、家庭、組織にデジタル化の価値を提供し、すべてが繋がったインテリジェントな世界を実現する」
「天」は、デジタルデバイドの解消に継続的に取り組むこと
「地」とは、ICT(Information
& Communication
Technology)インフラとインテリジェントなデバイスへの注力であり、あくまでハードウェアメーカーとの位置づけ
「将」の創業者レン・ジンフェイ任正非は、人民解放軍に属していた経歴があり、87年国営企業から転じて創業したエンジニアで、ほとんどマスコミに出てこない
「法」である事業領域は、①通信事業者向けネットワーク事業(49%)、②法人向けICTソリューション事業(9%)、③コンシューマー向け端末事業(39%)、④クラウド事業
株主の98%以上が8万人の社員、輪番CEO制度(6か月ごとに3人の副会長が交代でCEOに)、ファーウェイ基本法に経営戦略が網羅され組織力の源泉になっている
今後プラットフォームやエコシステムの覇権争いにおいては、OSやソフト、アプリ等が最も重要な階層になると予想されるが、ファーウェイはこれらから距離を置いている
2018年、ファーウェイ・ショック ⇒ ジンフェイの娘で副会長兼CFOの孟晩舟がカナダで逮捕。同社製品を通じて不正に情報収集しているとの嫌疑がかけられ、米国司法省が23の罪状で起訴。米中の長い熱い戦いが始まる
第3章
フェイスブック×テンセント ~ 目的としてのSNSか、手段としてのSNSか
SNSを中心に置いたビジネスを展開しつつも、戦略が大きく異なる
フェイスブック
月1回以上ログインするユーザーMAU=Monthly Active Userは、23億で年9%の伸び
基幹ビジネスは、「フェイスブック」と「インスタグラム」(12年に10億ドルで買収)、メッセージアプリの「メッセンジャー」「ワッツアップ」(14年に218億ドルで買収)、VRヘッドセットの「オキュラス」(14年に20億ドルで買収)
ビジネスモデルは、「人と人が繋がるためのプラットフォームを提供し、より多くの人々を集めてデータを収集し、最適化した広告で稼ぐ」企業
ミッションは、”give
people the power to built community and bring the world closer together”(17年に変更)
「天」は、世界の繋がりをさらに密にする「機会」であり、閉じていく大国とは逆行し、国家を超える影響力を及ぼす
「地」である事業領域は、SNSが基軸、人と人の「つながり」こそがフェイスブックが提供する価値
「将」のザッカーバーグは、子どもの頃から一貫して人と人のつながりに傾注、自ら行動で示した
「法」は、上記のビジネスモデルそのもの
同社の文化は「ハッカーカルチャー」 ⇒ クリエイティブな問題解決と素早い意思決定に報いる環境(同社の本社所在地は1
Hacker Wayだし、社内の広場はHacker Square)
単なるSNSだけではなく、メディアとしての存在感の大きさへの理解が必要 ⇒ 選挙にも強い影響を及ぼす。ソーシャルメディアの使い方の巧拙が勝負を決める
故人情報漏洩問題 ⇒ 18年の米大統領選では、フェイスブックから不当に取得された個人情報を悪用してユーザー心理を操作した疑惑が浮上、ほかにも個人情報漏洩が続き、フェイスブックによるデータの寡占に対する懸念が高まっているのに対し、19年にザッカーバーグは、プライバシー重視のビジョンを公開し、オープンプラットフォーム型から、仲間内の交流を重視したメッセンジャー型プラットフォームへのシフトを宣言
テンセント騰訊控股
SNSを起点にしながら、幅広い事業領域に進出 ⇒ テクノロジーの総合百貨店
「QQ」「ウィーチャット」「Qゾーン」 ⇒ 「コミュニケーション&ソーシャル」部門
「QQ」は主にPC向けのメールサービス、「ウィーチャット」はモバイル向けのメッセージアプリ、「Qゾーン」はブログや写真を共有するSNSで、それぞれMAUが15億、10億、11億いることは、中国のほぼ全人口をカバー
SNSを梃に広げた事業分野は、ゲームや動画、ニュース、音楽といったコンテンツや決済サービス、アプリケーションのストアなどを提供し、一部で課金することにより売上高の2/3を稼ぎ出す。今後の注力分野は、「オンラインゲーム」「デジタルコンテンツ」「ペイメント関連・金融サービス」「クラウド」「AI」「スマート・リテール」
「道」となるミッションは、”improve
the quality of life through internet value-added services” 生活の質の向上が目的で、インターネットの付加価値サービスはあくまで手段
「天」とは、多様な産業に関連するテクノロジーの発達がビジネスチャンス
「地」となる事業領域は、上記の通り幅広くテクノロジー企業として展開
「将」である創業者ポニー・マーは、「常識人中の常識人」と評価され、チームワーク重視
「法」となる収益構造は、売上の2/3が課金サービス。利用者が1.5億人。広告収入は17%
今後の注目分野がAI戦略 ⇒ 医療と自動運転に傾注
コミュニケーションアプリを抑えていることの強みははかりしれない ⇒ 顧客接点が強くなる
アリババとの戦い ⇒ アリペイとウィーチャットペイのシェア争いに加え、アリババのフーマーでの「ニューリテール」とテンセントの「スマート・リテール」と呼ぶOMO戦略
第4章
グーグル×バイドゥ ~ 検索サービスから事業を拡大。狙うはAIの社会実装
2015年アルファベット設立、傘下にグーグルとOther Bets部門がある
より多くのリンクが張られているウェブサイトほど重要であるという考え方は「民主的」であるともいえ、この「民主的」であるということが、グーグルの価値観として重視され続けている
「ビッグデータx AI」が導入された検索サービスは、今までと意味が違う ⇒ 検索ワードを自分ですべて考えなくてもよくなり、表示する広告もより潜在的なニーズ、ユーザー自身が明確に意識していない欲求に対応したものになっていく ⇒ テクノロジーの先鋭化によりユーザーに対してより利便性が高い検索サービスを提供することにより、ユーザーのニーズを先鋭化させるとともに、広告の最適化も先鋭化させる
グーグルがアンドロイドを無償で提供するメリットは主に2つ
1つは、アンドロイド搭載のスマホユーザーが増えれば、グーグルのサービス利用者が増え、広告収入アップに直結
もう1つは、グーグルが運営するアプリストア「グーグルプレイ」によるコンテンツ販売
16年から開発方針を「モバイルファースト」から「AIファースト」に転換
グーグルのAIを象徴するものの1つが音声AIアシスタント「グーグルアシスタント」
競争優位性のあるAIを存分に活用できるのが完全自動運転 ⇒ 09年から実用化に向けて始動。16年独立した子会社ウェイモが18年には公道で実地試験。商業化で先行
「道」となるミッションは、「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」。情報の整理と広告ビジネスは表裏一体
「天」は、AIの発達。AI用半導体の自社開発に乗り出す
「地」に匹敵する事業は、「世の中の膨大な情報やコミュニケーション、行動等をデジタルデータ化し、それらを広告収入として収益化するビジネスモデルやプラットフォームの構築
「将」は、2代目のスンダー・ピチャイで、72年インド生まれ、マッキンゼー出身で04年グーグル入社
「法」である収益構造は86%が広告関連の売上
行動指針としての「10の事実」 ⇒ ユーザーに焦点を絞れば他のものはみな後からついてくる、1つのことをとことん極めてうまくやるのが一番など
OKR=Objectives, Key, Results ⇒ 会社内のあらゆる組織が、同じ重要な課題に全力で取り組むようにするための経営管理手法であると同時に、野心的な目標を実現する手段
「マインドフルネス」 ⇒ 社員の研修においてEQ(情報的知能)育成プログラムとしてマインドフルネスを取り入れ、そのプログラムは”Search Inside
Yourself” と名付けられている ⇒ 注意力のトレーニング、自己認識と自制、役に立つ心の習慣の創出
百度バイドゥ
検索、地図、翻訳のほか、「アイチーイー」という動画ストリーミングサービスがある
自動運転も含めたAI事業に注力
17年、戦略的な集大成として、音声AIアシスタント「デュアーOS」を発表
自動運転プラットフォームが「アポロ」 ⇒ バイドゥが持つ技術をオープンソース化することで多様なパートナー事業者が独自の自動運転システムを構築することを可能にする。17年発表から半年でダイムラーやボッシュなど内外1700のパートナーが参画
「道」となるミッションは、「テクノロジー基盤のメディア企業として、ユーザーが情報やサービスにアクセスするために多くのチャネルを提供し、検索機能のほか、企業が潜在顧客へリーチするために効果的なプラットフォームを提供する」から、「テクノロジーによって複雑な世界をシンプルにすることを目指す」に変更したが、具体性には疑問
「天」は、「経済・産業のスマート化のための機会」あたりが立ち位置化も
「地」となる戦略の骨子は、「検索サービスを通じて蓄積した膨大なデータをクラウドに載せ、AIで解析し、ユーザーごとに最適化したサービスを提供していく」こと
「将」の創業者ロビン・リーは、NY州立大でコンピュータサイエンスの修士号を取り、インフォシークなどを経て創業。プロの経営者というより優秀な技術者
「法」となる事業構造は、検索サービスを中心とした「バイドゥ・コア」と、動画ストリーミングサービスの「アイチーイー」の2本立て+クラウド/自動運転
音声AIアシスタントの「デュアーOS」は、「人々の生活にAIを」をコンセプトに始まるエコシステムの形成。「デュアーOS」を実装したスマートデバイスが今後登場、さらにその発展形としての「スマートシティ」実現を目指す
自動運転 ⇒ 17年、中国政府から「AI x 自動運転」事業を国策として受託。13年から開始した取り組みが実りつつあるのが、自動運転プラットフォームの「アポロ計画」。最も社会実装が進んでいる会社で、18年には自動運転バスの商業化スタート
第5章
GAFAxBATHの総合分析と米中の新冷戦
ミッションが事業を定義し、イノベーションを起こす ⇒ 実際に大切にされている使命感や価値観を重視
アマゾンは顧客志向、グーグルやアリババは社会問題解決志向、アップルやフェイスブック、テンセントは新たな価値提供志向、バイドゥとファーウェイは技術志向
8社に共通するのはプラットフォーム志向、「ビッグデータx AI」志向、それぞれの分野でデジタルトランスフォーメーションDXを先導、カスタマーエクスペリエンスを最重要視していることなどが挙げられる
縦軸に営業利益率、横軸に総資産回転率をプロットして分析するのが「ROAマップ」
総資産回転率
|
売上高営業利益率
|
ROA(総資産利益率)
|
|
アマゾン
|
1.35
|
2.31%
|
3.13%
|
グーグル
|
0.56
|
23.59%
|
13.25%
|
フェイスブック
|
0.48
|
49.70%
|
23.90%
|
アップル
|
0.73
|
26.69%
|
16.34%
|
アリババ
|
0.35
|
27.70%
|
9.67%
|
バイドゥ
|
0.34
|
18.49%
|
6.23%
|
テンセント
|
0.43
|
37.98%
|
16.28%
|
ファーウェイ
|
1.19
|
9.34%
|
11.16%
|
中国BATがより積極的に新規投資に資本を充当
総資産回転率では、アマゾンがトップであるのは小売企業故、同様なサービスのアリババが低いのは、もはや小売業ではなく、先行投資を積極化していることの裏付け。ファーウェイの高い数値は製造業をイメージすると意外
営業利益率では、アマゾン・ファーウェイ以外の6社の水準の高さには目を見張る。特に中国企業の高収益は驚き。アマゾンは短期的な利益よりは長期的な成長やキャッシュフローを重視と明言。ファーウェイはR&D重視の経営戦略を反映
ROAマップからは、事業ドメインが「製品型かプラットフォーム型か」「製品型かインフラ型か」「リアル中心かデジタル中心か」がはっきりする。プラットフォームやインフラの構築にはコストと時間がかかるが、成功した場合のリターンは大きい
アマゾンは、利益は出さずに投資にキャッシュフローを投入する経営/財務戦略が見える
フェイスブックは、「つながる」という事業ドメインに特化することで最も高い収益率を生む一方、相対的に最も積極的に新規投資を行っていることがうかがえる。特にAI、VR/AR分野が注目で、VR/ARのプラットフォーマーとなる可能性を秘める
アップルは、マップの中央に位置、特定商品にフォーカスしてきたことが高収益の要因だが、今後の展開が待たれる
グーグルは、本業の広告事業から様々な事業に投資をしていることがわかる
バイドゥは、BATの中では収益性や時価総額が最も低いが、音声AIアシスタントと自動運転の2分野でのAI投資に起死回生をかけている
アリババは、中国政府の支援を受け社会的インフラを構築してきたが、中国以外へのアリババ経済圏の拡大が課題
テンセントは、生活サービス全般に事業領域を拡大、緊密な顧客接点が強力な後発者利益を生み出しているが、5G時代の新たなコミュニケーションプラットフォームの誕生をどうこなしていくのかがカギ
ファーウェイは、米中戦いの縮図ともいえる存在として、アメリカから締め出された場合の自治域内で最先端テクノロジーを含めたサプライチェーンの構築がカギ
l 18年ごろから起こった、政治・経済・社会・技術等の外部環境の変化から8社に向けた逆風への対応次第では、存亡の危機を迎える企業も出てくる可能性あり
l データ規制包囲網 ⇒ 手放しにデータの利活用が進む展開に歯止めがかかるのは確実
l デジタル課税 ⇒ 新たな利益捕捉の動き
l 地域経済に及ぼす影響 ⇒ GAFAに対しては、地域での雇用を奪い、地域経済を衰退させているとの根強い批判がある
l 「巨大になりすぎて自らがコントロール困難」 ⇒ フェイスブックにおける不正アカウント問題はその一例で、新たなシステミックリスクの存在も危惧される
l BATHを襲う国内での調整 ⇒ 中国国内での調整や規制の動きへの対応
米中新冷戦の行方
政治 ⇒ 軍事や安全保障を含む国力の戦い
経済 ⇒ 米国式資本主義と中国式資本主義の戦い
社会 ⇒ 「自由x統制」の在り方をめぐる価値観の戦い
技術 ⇒ テクノロジー覇権の戦い
存亡の危機のカギを握るもの ⇒ 信頼・信用、社会性や持続可能性、プライバシーや消費者の権利への配慮
終 章 GAFAxBATH時代、日本への示唆
デジタルトランスフォーメーションの目的設置 ⇒ 店舗や人の再定義こそ生き残り策の要諦がある。メガテックの「無人レジ」は「商品を取り出して立ち去るだけ」なのに対し、日本の場合は消費者にレジを操作させているのは、コンセプトの根底が違うため
リアル店舗でなければ提供できない経験価値をいかに生み出すことができるかが大きなポイント。プロの持つ専門性やプロとの信頼関係を求めるニーズは高まるはずで、専門性や信頼性は最後まで店舗や人に残るべき最も重要なレガシー
米中メガテックへの逆風こそ、日本人の活路であり、本当の顧客志向に立脚したデジタルトランスフォーメーションを進めるべき
戦略の要諦 ⇒ 使命を明確にすること。何のために戦うのか、何をすべきなのか、より多くの国や企業を巻き込んだ政策の提言が必要
おすすめのポイント 日本経済新聞出版社
米中新冷戦時代、産業のルールをこの8社が塗り替える!
◎GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)
◎BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)
話題の米中巨大テクノロジー企業(メガテック)8社の全容と戦略を、1冊で平易に完全理解できる初めての本!
もはやこの8社なしにビジネスは語れない!
なぜすごいのか。何がすごいのか。
これならわかる!
[具体的には?]
●新聞やニュースでその名を見ない日はない、話題の、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)とBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)。
その事業形態と戦略を最新情報を交えて平易に分析します。
●「テンセントって中国のフェイスブックでしょ? 何がすごいの?」「ファーウェイ問題の本質はどこにある?」など、今さら聞けない“そもそも”から、「次なる各社の目論見は?」「日本の活路は?」など、“深層”まで読み解けます。
●8社を「分類→比較→分析」するのが本書の大きな特長。
著者独自の「5ファクターメソッド」を用いて、各企業の「道(戦略目標)/天(タイミング)/地(市場・業界構造)/将(リーダーシップ)/法(マネジメント・収益構造)/」を、丁寧に分析していきます。
[本書で見えてくるもの]
1.
プラットフォーマーの覇権争いの行方
2.
今や先駆者利益を創造する存在である中国勢の動向
3.
同じ事業ドメインから異なる進化を遂げる理由
4.
産業・社会・テクノロジー・あるべき企業の未来
5.
日本の未来、あなたの進むべき道
編集者より
「ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされるなど、「GAFA(ガーファ)」という言葉は2018年のビジネス界を席巻しました。そのGAFAに続き、話題を集めること必至なのが中国メガテックの「BATH(ビーエーティーエイチ)」です。
本書では、GAFAとBATHを比較し、分析しています。結果、まるでミステリーを読み解くかのように各社の戦略や思惑が結びつき、世界の産業の行く末を見通すことができます。これまで断片的に知っていた各社の状況を包括的に整理できて、スッキリする方も多いはずです。
自動運転バスの実車の感想、ファーウェイ問題の本音のところなど著者が実際に“足で得た”リアルな情報も随所に組み込まれ、臨場感とともに読み進めていただければと思います。
この本で、新聞やニュースがさらに興味深くなること請け合いです!
(2019.4.8)
GAFA 誰も無視できない 「個人の自由」確保が課題
昭和女子大学教授 湯川抗
日本経済新聞 朝刊 2019年11月9日 2:00
グーグルやアップルなど、世界規模でプラットフォームビジネスを展開し、様々なデータを収集する「GAFA」にはその影響力の大きさから様々な懸念が示されている。しかし、電子商取引やソーシャルメディアを通じた情報取集・発信が当たり前になった現在、GAFA同様の影響力をもちつつある企業は他にも生まれている。
●巨大データ活用
その一つは、今や世界最大のエンターテインメント企業とも評されるネットフリックスだろう。『NETFLIX コンテンツ帝国の野望』(牧野洋訳、新潮社・2019年)の著者、ジーナ・キーティングは、1990年代後半から2011年の間の同社の成長物語を緻密なインタビューを基に描いている。同社の成功は、データを活用することで、ユーザーの好みや行動は驚くほどの精度で予測可能だと証明した結果である。
著者は、創業当初から、同社がいかにデータやアルゴリズムを駆使して、ライバルを破綻に追い込み、アマゾンの脅威を跳ね返し、エンターテインメント業界を再編しつつあるのかを、経営チームの規律を中心に描いている。
また、田中道昭の著書『GAFA×BATH』(日本経済新聞出版社・19年)では、GAFAと同等の影響力をもちつつある、BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)の4社の中国企業をそれぞれGAFA各社と比較し、様々な観点から分析している。これら8社の共通点は、プラットフォーム思考と、「ビッグデータ×AI」思考である。各社共に、創業者のビジョンを重視することでカスタマーエクスペリエンスを向上させ、競争優位性を高めてきた。一方で、これらの企業が巨大になりすぎたことから、新たなシステミックリスクの可能性を指摘する。
GAFAの発展は企業のマネジメント以外にも、大きな環境変化が起こっているためであろう。高木聡一郎の著書『デフレーミング戦略』(翔泳社・19年)では、パッケージ化されていた商品やサービス等の要素を分解、再編成して、ユーザーニーズに応えることを「デフレーミング」と定義する。ユーザーへの提供価値を個別にカスタマイズしても、一度ソフトウェアで仕組みを実現すれば、追加コストは不要になる。多くのユーザーを惹きつけるほどデータが集まり、それをAIの学習データとすることで更なるカスタマイゼーションが可能になる。クラウドコンピューティングの時代にGAFAはこうしてユーザーを増加させてきた。一方で、データの特定企業への集中によって競争優位が長期的に固定化することが懸念される。
ソーシャルメディアの発展を自然界の生物に見られるパターンになぞって考察した、オリバー・ラケットとマイケル・ケーシーの共著『ソーシャルメディアの生態系』(森内薫訳、東洋経済新報社・19年)は、プラットフォームの成功は有機的にネットワークを成長させられるかに左右されると指摘する。ソーシャルオーガニズムともいえるこの生物の健康を保つにはユーザーのプライバシーを含む国民の自由の保障が重要になる。
●透明な枠組みを
国家の人口を超えるアカウントを管理するGAFAには分割論もある。しかし、既にGAFAに並ぶ企業が生まれ、今後も生まれる可能性を考えると、重要なのは国家や企業が個人データの扱いに関する透明で公正な枠組みを整備することだろう。個人データの保護は、個人にとっても、それを活用することで影響力を強めてきた巨大IT企業が繁栄するためにも重要なことである。
当時グーグルの会長だったエリック・シュミットらが著した『第五の権力』(櫻井祐子訳、ダイヤモンド社・14年)は、オンラインで繋がった個人が、立法、司法、行政、報道機関と並ぶ権力を手にしていると論じた。これはGAFAが切り拓いた世界ともいえる。これらの巨大IT企業には、今後は自らが与えた権力を獲得した個人が自由に活動できる世界をさらに広げることが求められている。
中国「BATH」は「GAFA」の模倣にあらず
本社コメンテーター産業・企業経営 中山淳史
本社コメンテーター産業・企業経営 中山淳史
自動車、電機など産業動向、経営トレンドに精通。編集委員、論説委員などを経て2017年2月より現職。「GEと東芝」「移動の未来」などで講演多数。2001年の米同時テロをニューヨーク駐在時に取材。アルゼンチン留学も。
2019/9/14 2:00 日本経済新聞
米中の大手IT(情報技術)企業を略してGAFA(アルファベット傘下のグーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップル)とBATH(百度=バイドゥ、アリババ集団、騰訊控股=テンセント、華為技術=ファーウェイ)というが、その「4+4」というくくり方でいつも思い出すのは1960年代の英SF映画だ。「決死圏SOS宇宙船」といった。
世界の時価総額でランキングでしのぎを削る米中IT
1
|
マイクロソフト
|
1兆520億ドル
|
2
|
アップル
|
9,422億
|
3
|
アマゾン
|
8,786億
|
4
|
アルファベット
|
8,246億
|
5
|
フェイスブック
|
5,297憶
|
6
|
バークシャー・ハザウェイ
|
4,971憶
|
7
|
アリババ集団
|
4,528億
|
8
|
騰訊控股
|
4,009億
|
・・・・
|
||
383
|
バイドゥ
|
364億
|
ファーウェイは非上場
地球と同じ軌道を回る未知の惑星が太陽をはさんで正反対の位置に発見された。だが、そこは何と地球と左右が逆になっただけのパラレルワールド(並行世界)だった……。
米中は「左右対称」の関係というわけではない。だが、太平洋をはさんで東西反対の場所に位置し、巨大IT企業を4つずつ持ってインターネット広告や電子商取引、クラウドコンピューティング、スマートフォンで独自の経済圏を構築している。
貿易摩擦で規制し合えば、両国企業はお互いの母国市場でさらに競争も提携もしなくなるだろう。このままいけば、パラレルワールドのように隔絶された関係はより現実のものになっていく。
最初はBATHがGAFAを模倣して学ぶ、という関係だった。10日にアリババ集団を退任した馬雲(ジャック・マー)元会長が典型であり、同氏が20年前の創業当初からしたこととは「中国のアマゾン」を創造することだった。
ビジネスの世界ではそうした手法を「時間差経営」「タイムマシン経営」と呼ぶ。米国で流行したビジネスやサービスは10年もすれば他の国々でも必ず普及する。だからそれを利用して自分の国や第三国に投資をし、花が開くのを待ち受けるわけだ。
中国は13億人もの人口を抱える巨大市場であり、効果は絶大だった。2019年3月期のアリババの総流通量をみると、その規模は90兆円超。単純なモノの流れだけでいえば、すでに世界最大の電子商取引企業だ。
だが、目を凝らしてみよう。BATHはいつまでもGAFAのコピーのままなのか。注意が必要なのは直近の実力と可能性だ。特に馬氏が成功させたアリババのキャッシュレス決済や、銀行、保険、クレジットカードをひとまとめにしたような「インクルーシブ」と呼ばれる総合金融ビジネスは世界に先駆けたサービス。GAFAにも刺激を与え、日本ではフィンテックブームを呼び起こしつつある。BATHも経営モデルを輸出する時代に入ったわけだ。
そうした独自性は株式市場の評価からだけではわかりにくい。同社の株式時価総額は4528億ドル(8月末、世界7位)で、アマゾン(3位)の約半分だ。だが、アリババが株式上場しているのは電子商取引と物流サービスなどの事業であり、世界で10億人が使うスマホ決済、つまり同社の価値と個性を最も示すはずの「支付宝(アリペイ)」が含まれていない。
「ミニアマゾン」でない理由は経営モデル改革にもある。同社は最近、BtoC(消費者向け)やBtoB(法人向け)の取引に使うプラットフォームを使い、ベンチャー企業の育成や投資に力を入れている。新興の電子商取引ベンチャーをそこに「誘致」し、物流や決済のインフラを使わせれば、「アリババはもう電子商取引ビジネスを自分でしなくてもよくなる」と馬氏はいう。模索しているのは、「コンビニ」のように加盟店からフランチャイズ料をとるイメージの新たな経営形態だ。
そうした革新性や実力の向上は他の中国勢にもみられる。バイドゥは自動運転のプラットフォームを日欧自動車メーカーに供給し、発言力を増す。テンセントはSNS(交流サイト)とゲーム、ファーウェイは5G技術ですでに巨大な存在だ。それらをコピー企業だという者はもういない。
BATHという呼び方自体がもう古い、との指摘もある。中国で聞くと、最近の注目企業はTMD(バイトダンス、美団点評、滴滴出行の頭文字)やPKQ(●(てへんに併のつくり)多多、快手、趣頭条の頭文字)といわれる一群だという。それらの一部をBATHの一部と様々に組み合わせたくくり方もメディアで目立つようになり、若い企業が続々と勃興している様子がわかる。
結局、米中企業の関係は10年前の日本車と韓国・現代自動車のそれに近いのかもしれない。現代は日本企業の目につきにくい市場で徐々に力を付け、気がつけばトヨタ自動車やホンダに肉薄している。そんな戦略を採っていた。
BATHもGAFAにはみえにくい市場で事業をするから、存在と実力を感じられにくい。だが実際は、GAFAのすぐ近くまで迫る巨大な存在にBATHはなっている、ということだろう。
教訓は2つある。一つはファーウェイを除けば、中国のIT企業にとって米中摩擦が追い風になる可能性がある点だ。パラレルワールド化が強まれば、GAFAとは今後も激しく競争しなくて済む。
もう一つは日本企業だ。時間差を使ったベンチャー企業は過去にも多数あった。だが、BATHのように地球規模で成功し、恐れられた企業は現れていない。
国内の成功に満足し、世界の最前線でしのぎを削るフロンティア精神を忘れてしまった懸念はないか。人口以外では日本企業も米中勢と遜色はないはずだ。和製のGAFAなりBATHをもう一度研究し、今から挑んでみても遅くはないだろう。
日本経営合理化協会 2018年6月号?
第108話 中国のBATHは米国のGAFAを凌駕できるのか?
経営コラムニスト紹介
沈 才彬 多摩大学 教授。1944年中国江蘇省海門市生まれ。中国社会科学院大学院修了。同大学院準教授、東京大学、早稲田大学、御茶ノ水女子大学、一橋大学などの客員研究員を歴任。三井物産戦略研究所主任研究員、同中国経済センター長などを経て、08年4月より、多摩大学経営情報学部教授、および、同大学院経営情報学研究科教授に就任。この間、天城会議(日本有識者会議)メンバー 、中国山東東亜研究所顧問、 国土交通省観光立国推進戦略会議WG委員などを兼務する。近著に『検証 中国爆食経済』『今の中国がわかる本』『中国沈没』『中国経済の真実』『中国黒洞(ブラックホール)が世界をのみ込む』など
アメリカのグーグル(G)、アマゾン(A)、フェイスブック(F)、アップル(A)という4大IT関連企業はそれぞれの頭文字を取ってGAFAと呼ぶことがある。一方、中国の百度(B)、アリババ(A)、テンセント(T)の3社の呼称であるBATに、ファーウェイのHを付け加え、私はこれら4社をBATHと名付けている。
BATHの成長は著しく、GAFAを猛追している状況だ。特に上場済みのBATの時価総額は2017年の1年間で倍増し、2017年12月末時点の額を合計すると1兆米ドルを超えている。
個別で見た場合、GAFAの時価総額に続くのは、アメリカ企業を除くと6位のテンセントと8位のアリババのみだ。米中企業以外を見ていくと、ヨーロッパ企業の最上位は18位のオランダのロイヤル・ダッチ・シェルで、時価総額は2746億米ドルである。トヨタは42位にランクインしており、時価総額は1891億米ドルだ。ヨーロッパ勢も日本勢も、米中のトップ企業からは大きな差をつけられていると見ていいだろう。
では、中国のBATHがアメリカのGAFAを追い越す日はやってくるのだろうか?次頁の表1が示すように、利益額ではすでにアリババはアマゾンを大幅に上回っている。時価総額ではアマゾンに及ばないアリババだが、いずれアマゾンを凌ぐことになるだろう。
テンセントの場合、売上額も利益額もすでにフェイスブックと大差がない。今のペースで成長が続けば、2、3年以内にテンセントがフェイスブックを超えることが現実的となる。
注目すべきなのは、百度とグーグル、ファーウェイとアップルの格差である。百度の2016年度の売上額と利益額はそれぞれグーグルの11%、8.6%に過ぎない。ファーウェイの場合は、研究・開発費はアップルを上回っているが、売上額と利益額はそれぞれアップルの36.4%、12.2%である。百度もファーウェイもライバル超えは短期的には難しいだろう。
表1 中国のBATHが米GAFAを凌駕できるのか
会社名
|
売上
|
利益
|
フォーチュン順位
(18年1月時点)
|
時価総額
(億米ドル)
|
百度
|
10,161
|
1,675
|
/
|
854
|
グーグル
|
90,272
|
19,478
|
65
|
8,168
|
アリババ
|
23,517
|
6,489
|
462
|
5,232
|
アマゾン
|
135,987
|
2,371
|
26
|
7,048
|
テンセント
|
22,870
|
6,186
|
478
|
5,630
|
フェイスブック
|
27,638
|
10,217
|
393
|
5,454
|
華為
|
78,510
|
5,579
|
83
|
/
|
アップル
|
215,639
|
45,687
|
9
|
8,517
|
出所: 沈才彬著『中国新興企業の正体』(角川、2018年)
現時点では、中国のBATHはアメリカのGAFAには勝てないが、日本のライバル企業に対しては圧倒的な強さを見せつけている。
配車アプリ、シェア自転車、ドローン、出前サイト、民泊、通信機器、ネット通販、検索エンジン、SNSなど、9大分野の日中トップ企業比較してみた。それをまとめたものが次頁の表2である。どの業種を見ても、中国企業に数字の上で圧倒的な差をつけられている。
結論を言えば、現時点でニューエコノミー分野では日本には中国のリーディングカンパニー9社に対抗できる企業は存在しないのだ。
分野
|
中国
|
日本
|
配車アプリ
|
滴滴出行
登録ドライバー 1,700万人
|
日本タクシー
登録台数 48,000台
|
シェア自転車
|
モバイク
投入台数 700万台
|
ドコモ・バイクシェア
投入台数 5,300台
|
ドローン
|
DJI
世界シェア 約80%
|
エアロセンス、エンルートなど
3社規模少
|
出前アプリ
|
餓了么
登録店舗 130万社
|
出前館
登録店舗 15,000社
|
民泊
|
途家
リスティング数 65万件
|
ステイジャパン
リスティング数 668件
|
通信機器
|
華為
売上8.5兆円、純利益6千億
|
富士通
売上4.5兆、純利益885億
|
ネット通販
|
アリババ
売上2.7兆円、時価総額56兆
|
楽天
売上7,819億、時価総額1.6兆
|
検索エンジン
|
百度
売上1.2兆円、時価総額9.2兆
|
ヤフー
売上8,537億、時価総額3兆
|
SNS
|
テンセント
売上2.5兆円、時価総額61兆
|
LINE
売上1,407億、時価総額1.2兆
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(記者解説)力強まる巨大IT企業 商売も情報も、独占的地位を利用 東京経済部・栗林史子
2020.3.2. 朝日
・独占的な地位にある巨大IT企業への規制が国内外で検討されている
・日本では出店者保護へ新法案が決定。海外ではプライバシーを軸に規制が進む
・規制は新しい産業の芽を摘みかねず、さらなる寡占を許すとの懸念も
◇
「このままではどれだけ売っても赤字だ」。ネット通販の「楽天市場」に出店する業者は嘆く。原因は、楽天が3月18日に導入予定の「購入額3980円以上は送料無料」プランだ。
楽天は出店者ごとにばらばらの送料を統一させ、「消費者にわかりやすくする」ことを目指す。「2千円以上無料」のアマゾンへの対抗策でもある。
しかし「送料無料」とした場合の商品価格をどうするかは出店者に任されている。送料分を上乗せできればいいが、競争が激しい中では難しい出店者も多い。価格据え置きのまま送料無料にせざるを得ず、出店者が送料分を負担することにもなりかねない。
楽天の方針が一方的だとして一部の出店者は反発し、公正取引委員会も独占禁止法が禁じる「優越的地位の乱用」にあたる可能性があるとして立ち入り検査をした。楽天は「送料込み」と言い換えたが、予定通り実行する方針で公取委と対立している。
■出店者に一方的負担
楽天やアマゾンなどのネット通販や、グーグルやアップルなどアプリストアを運営する大手IT企業は「プラットフォーマー(PF)」と呼ばれる。消費者の利用が多いPFへの出店は、出店者にとっては販路拡大のメリットが大きい半面、売り上げの多くを依存するようになる面がある。出店者からは「(PFから)不利な条件を押しつけられる」との不満の声も出る。
公取委の昨年の調査では、PFによって「一方的に規約を変更された」と回答した業者はアマゾンで73%、楽天で93%。「不利益な変更があった」はアマゾンで69%、楽天で94%だった。利用料の値上げや決済手段の強制などへの不満が多かった。
このため政府はまず、ネット通販やアプリストアを対象に規制に乗り出した。新たな規制法案を2月18日に閣議決定し、開会中の通常国会で成立させて2020年度内の施行を目指す。アマゾンやグーグル、アップル、国内の楽天やヤフーが対象になる見込みだ。
法案では対象企業に対し、出店者との契約を解除した場合の判断基準などの契約条件を開示することや、契約変更を事前に告知することなどを義務づける。守られない場合は勧告や社名の公表、改善命令などの行政処分をする。IT企業は自社の取り組み状況を年1回、自己評価したリポートを経済産業相に提出し、経産相側が評価した上で公表する。欧州連合(EU)でも透明性を向上する法律が策定された。
ただ新法で現状が大きく変わるかはまだ見通せない。契約条件はすでに多くの企業が開示しており、独禁法違反の疑いがある事案はすでに公取委が対応している。それでも楽天のように公取委の姿勢に関わらず方針を変えないケースも出ている。
IT企業の強大化とともに、様々な個人データが企業に集まり、その使われ方への懸念も強まっている。グーグルやフェイスブック(FB)などは、無料でサービスを提供する代わりに膨大な個人データを集める。データはユーザーの興味に合わせた広告表示や、新サービスの開発に使われている。しかし使われ方次第で、民主主義への脅威や差別の温床となりかねない。
■「同意が必要」と規制
大きな問題となったのが2016年の米大統領選での「ケンブリッジ・アナリティカ(CA)」問題だ。英選挙コンサルティング会社のCAと協力した大学教授がFB上で「学術目的」として性格診断アプリを提供し、試した利用者の個人情報が流出。CAはデータから政治的志向などを分析し、大統領選でトランプ氏が有利になる政治広告をFB上などで配信した。FBは広告収入で収益を得ており、個人情報保護の姿勢に問題がなかったか厳しく問われた。
日本でも、就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、就活生の同意を得ぬまま閲覧履歴などから内定辞退率を予測して企業に販売したとして、昨年8月、政府の個人情報保護委員会から勧告を受けた。
いずれも個人のデータが知らぬ間に分析され、意図しない結果や不利益につながりかねない形で利用された。
相次ぐ問題を受け、個人データの活用で本人の関与を強めようとする動きが世界的に進む。欧州では18年に導入された一般データ保護規則(GDPR)で、本人同意なしにはデータ利用ができないと定めた。閲覧履歴などの利用規制にも踏み込む「eプライバシー規則」も議論中だ。今年1月に施行された米カリフォルニア州の消費者プライバシー法(CCPA)でも、ウェブ上の閲覧記録を規制の対象とした。
日本でも公取委が昨年、独禁法で禁じられている「優越的地位の乱用」を、企業間だけでなくIT大手と消費者の間でも適用する新たなガイドラインをつくった。IT企業が利用目的を知らせずに個人情報を取得したり、利用目的を超えて取得していたりした場合は、法に触れる可能性がある。
今年改正される個人情報保護法でも、個人がデータの利用停止を請求できる「利用停止権」を拡大する方向だ。企業には個人情報の適正な利用についても義務づける。ただ、企業に対する課徴金は見送られ、欧米よりも緩やかな規制に留まっている。
■寡占化への動き続く
規制が強化される中、大手IT企業が新興企業を積極的に買収し、さらにデータを寡占しようとする動きが続く。フェイスブックはインスタグラムやメッセージアプリの「ワッツアップ」を買収。米マイクロソフトもビジネスSNSの「リンクトイン」を買収した。買収で市場の寡占が進むと、IT大手に対抗するのが難しくなり、新しい産業が生まれなくなる懸念もある。実際、米企業の開業率は過去40年で最低水準に下がっている。
公取委は昨年、企業買収審査の際、個人データがどの程度集積するかも考慮する方針を示した。国内ではLINEとZホールディングス(旧ヤフー)が今秋の統合を目指すが、公取委の審査の行方が注目されている。
■「グーグルやアップルの寡占、さらに進む」 国内IT勢が警戒
規制を強める政府に対し、IT企業側もデータ保護へ対応を進めている。
ネット広告企業などは、アップルやグーグルが提供するブラウザーの「クッキー」と呼ばれる仕組みを利用し、ユーザーの閲覧履歴などのデータを得て、個人それぞれに最適化された広告を出している。
だが、個人データ保護の高まりを受け、米グーグルは1月、同社が提供するブラウザー「クローム」で、ユーザーのネット閲覧履歴などを外部の企業が把握する仕組みを22年までに制限すると公表。アップルも提供するブラウザー「サファリ」で18年に広告向けのクッキー情報を外部企業が使えない措置を導入済みだ。
消費者にとってはプライバシー保護へ一歩進んだことになるが、外部の企業にとってはこれまで使えていたデータが減ることになる。日本でも、広告業界を含めた様々な企業がクッキー情報を使っており、打撃になる可能性もある。ネット広告を扱う企業からは「グーグルなどは自社のデータを使って広告を出すことができる。大手の寡占がさらに進む」との声も上がる。
米IT大手と競うヤフーや楽天など国内勢は、政府の規制に警戒感を強める。楽天の三木谷浩史会長兼社長が代表理事をつとめる新経済連盟は、「海外企業に十分な規制の適用・執行ができなければ、国内企業のみに弊害をもたらしうる」と訴える。政府関係者からは「規制を強めても対応できるのは余裕のある米IT大手だけ。国内企業の首を絞めかねない」との声も漏れる。
ただ、プライバシーやデータ保護を置きざりにした産業育成はもはやありえない。IT企業の独占による弊害を防ぎつつ、技術革新を生み出す「余白」を残す必要がある。政府は難しいかじ取りを求められる。
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