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美しい人 佐多稲子の昭和  佐久間文子  2025.4.20.

  2025.4.20.  美しい人 佐多稲子の昭和   著者  佐久間文子  1964 年大阪生まれ。文芸ジャーナリスト。朝日新聞記者をへて ('11 年退社 ) 、現在フリーランス。著書に『「文藝」戦後文学史』(河出書房新社)、『ツボちゃんの話』(新潮社)がある。   発行日            2024.11.20.  初版第 1 刷発行 発行所            芸術新聞社   本書は、芸術新聞社 WEB 連載『美しい人  佐多稲子の昭和 』 (‘13 年より、月 2 回、 2 年間 ) を加筆修正したもの     まえがき 佐多稲子の作家としての活動期間は長い 最初の作品は、窪川いね子名義の『キャラメル工場から』で、雑誌『プロレタリア芸術』に発表。 1928 年 23 歳の時。最後は随筆集『あとや先や』で 1993 年 88 歳で、戦争を挟んでコンスタントに発表してきた。若い頃の眉のあたりに煙るような憂いをたたえた美貌が、老年の眼鏡をかけて、きりっと口を引き結んだ凛とした美しさは、別人といっていいほどの隔たりがある。この変貌を遂げるまでに一体何があったのか 何度も躓き転んで、その都度立ち上がり、顔を上げて曲がりくねった道を歩き始める。転ぶたびに内省を深めて歩幅を確かめ、自分の傷を核にして作品を膨らませていった 作家になるに当たって、本郷のカフェの女給をしていた時に客として知り合った中野重治や堀辰雄、夫となる窪川鶴次郎ら雑誌「驢馬」の同人と偶然に出会ったことが大きい 長く第一線に立ち続けられたのはひとえに彼女自身の力、才能と運、たゆまぬ努力、逆境から立ち上がる強い精神力によるもの。自分で自分の顔を作り上げていった   第1章       彼女の東京地図 稲子が 11 歳の時、父親が三菱長崎造船を突然辞めて上京、三囲 ( みめぐり ) 神社近くの長屋に住む。同じ向島小学校...